深夜
上空が暗闇に満ちる。
人工的な光が世になかったとき、世界は数時間後の朝が訪れるまでこの闇と共にあった。
怖かっただろう。
しかしそんな中でも闇にだって良いところはたくさんある。
真っ暗な中で歩を進めてみれば、季節を知らせる虫の声が音楽となり、肌を撫ぜる風が空気中で踊っているのを感じ、踏み付ける地面が私を優しく包み込んでくれる。そして上を見上げれば瞬く光がどこにいても私を見守ってくれるのだから。
様々なものが発達した今の世の中で、この暗闇を満喫することは出来ないだろう。怖くはなくなったが、人は闇と離れた。
けれどもそれでも、離れた闇にも良いところはある。
人がまばらになった道を進めば、それでも虫は季節を知らせ続けていることが分かるし、吹く風はステージこそ狭くなってもずっと変わらず楽しそうに踊り、ほとんどコンクリートになった地面は私を転ばせないように支えてくれている。瞬く光は都会ではもう見えにくくなってしまったけれど、時折聞こえてくる銀河鉄道の音に、物語からくる光が聞こえる。
霞かかる朝から、明るい昼に移り、妖しい夕方になったと思えば、すぐに世界は夜になり、そうして深い闇の時間へと誘われ、世界が変わる夜明けを待つ。
季節ごとに夜明けは変わる。
もうこの現代で、静かな時間はこの暗闇が満ちる時だけだろう。
ほどんどの人が眠ってしまって見ることも、聞くことも、感じることも少ないけれど。
でも、それでも、人は暗闇と一緒にいる。
忘れないで欲しい、暗闇よ。
誰もあなたを拒絶したことなど一度もない。きっと、ただ落ちてしまいそうな闇が怖かっただけなのだ。
なぁ暗闇よ。あなたから見る世界はいつも暗いけれど、それでも世の中はどう見える?
朝はきっと「騒がしくなった」と苦笑するだろう。
昼はきっと「変わらない」と気にしていないかもしれない。
夕方はきっと「自分を恐れなくなった」と嬉しがっているかもしれない。
夜はきっと「忙しなくなった」と困惑しているかもしれない。
ならば暗闇よ、暗闇たる深夜よ。
あなたと、あなたから連なる夜明けは、この世の中をどう見ているのだろうか?
叙景詩なのか叙情詩なのかはあんまり分かってません。
楽しんで頂けたなら幸いです。