82.心臓石の使い道
シルフィナの絶叫が響き渡る戦場では、目の前で起きた光景が未だ信じられない軍隊員達が、地へと落ちたザガリルを見つめていた。
ザガリルの身体は、完全に生命活動を停止している。
間違いなく死んでいると全員が認識したと同時に、シルフィナの近くで魔空間が開かれた。
「シルフィナ!!!」
「えっ?お、お父様?」
驚き過ぎて身動きの出来ないシルフィナの手を、ルベレントがしっかりと握る。
そして、シルフィナの肩に止まっている紅蓮へと視線を移した。
「紅蓮!今直ぐに、私とシルフィナを日本に連れて行ってくれ。早く!」
紅蓮は首を傾げながらシルフィナを見る。
しかしシルフィナは、驚き過ぎて茫然としている。
「早くしてくれ!師匠からの命令なんだ!」
「えっ?ザガリル様からの?お父様、それはどういう事なんですか?」
「さっき師匠から、もしもの時はシルフィナと共に日本に行けと命じられた。今がその時だ!」
ルベレントは語調を強めながら、紅蓮へと視線を戻した。
しかし紅蓮は、フルフルと首を振って拒否を示す。
「何故だ!師匠の命令だと言っているだろう」
ルベレントがいくら説得しても、紅蓮は時空間の移動をしようとはしなかった。
ザガリルの死を受けて、第一小隊がマギルスの側へと集まって来た。
少し前から目を覚ましてザガリルの戦いを見つめていたマギルスは、未だに地面に座ったままだった。
「マギルス様、私達の力を!」
慌てた顔でその手を差し出したディレイルとチカリダに、マギルスは首を左右に振る。
「もう遅い」
マギルスが見上げた空には、両手を見つめるアルガラムがいた。
「勝った・・。あのサジェンストをも倒した男に、我が勝った・・」
自分がした事ではあるが、何処か信じられなくなったアルガラムは、地上へと視線を移してみる。
そこには、間違いなくザガリルの遺体が横たわっていた。
そして、その横には、今までずっと一緒だったアルガムラが横たわっている。
自分の半身とも言える存在を失った事は、本当に辛かった。
結局、蘇生魔法を知る事は出来なかったが、死んだ時の遺体の一部があれば生き返らせる事が出来ると聞いた。
ならば、アルガムラとラグラスの遺体の一部を保管しておけば良い。
時間をかけて研究していけば、必ず技を取得する事ができる筈だからだ。
今はただ、一族の悲願達成を心の底から喜びたい。
口を開こうとするアルガラムと一緒に、マギルスもその口を開いた。
「この勝負・・」
「我こそが、新たな魔王としてこの世に君臨するのだぁ!!」
これからの未来を想像し歓喜していたアルガラムの体に、突如として衝撃が走った。
急に自分を襲った激しい痛みに加え、迫り上がってきた血液がゴボッと口から吐き出される。
アルガラムを見つめていたマギルスが、残念そうに言葉を続ける。
「ザガリルの勝ちだ」
今にも意識が飛びそうなアルガラムは、なんとか視線を下へと移していく。
そこには、金色の美しい髪をした、天使の様に可愛らしい小さな子供が、アルガラムの胸を貫いたままでいた。
「な・・なん・・」
アルガラムの困惑した声に、ルシエルが顔を上げる。
そして、とても美しい笑顔を向けた。
「勝利宣言は、まだ早かった様だな」
「ば、馬鹿な・・。お前は・・」
アルガラムは、もう一度地上へと視線を向けた。
そこには、アルガムラと一緒に死んでいるザガリルの姿がある。
しかし間違いない。
この目の前にいる天使の様に美しい子供は、奴に間違い無いのだ。
「何故、お前が生きている・・。それに、他人の体に入って、我でも気が付けないほどの早さで動ける筈が・・」
目の前で起きている事が、アルガラムにはどうしても理解出来なかった。
アルガラムは、常にアルガムラの体の中で生活をしていた。
その為、体の中に入る事については、誰よりも詳しい。
自分と全く同じ数値のアルガムラとでさえ、寸分狂いなく同化する事はかなり難しいのだ。
それなのに、明らかに違う人物の身体の中に入った筈のザガリルの速度は、本人と見紛う程であった。
こんな事は、絶対に起こらない事だ。
死を前にしたアルガラムに、ルシエルがその可愛らしい顔でクスリと笑った。
「確かに、他人の体ならそうだっただろうな。だが、この身体は俺の身体でもある。俺の魂が俺の身体に移動したに過ぎず、不具合など起こる事はない」
「この子供の身体が・・お前の身体だと?」
「養殖のお前とは違って、俺は様々な経験をして生きてきたからな。これが人生経験の差という奴だ」
ルシエルは、アルガラムの体を貫いている自分の腕を引き抜いた。
ガッチリと掴んでいるのは奴の心臓。
アルガラムの体から流れ落ちる魔力が、その心臓へと集まっていく。
キラキラと発光したアルガラムの心臓は、白色の石へと変化した。
「これは貰っておいてやる。あっ、そうだ!!これは博物館にでも展示しよっと」
ガクッと落下していくアルガラムを他所に、ルシエルは太陽に石を掲げ、にこやか笑顔を見せた。
町をもっと大きくする計画で、リオール家の借金が増えてしまった。
悲観的な借金ではないにしろ、借金と言うものはさっさと返してしまうべき物である。
リオール家の町は、未だ大盛況を見せているが、それでもまだまだ返済に充てられる収入は少ない。
その為、なんとしてでも、金蔓達をあの町に招き寄せなければならないのだ。
今回、ザガリルの魔王候補撃退と言う新たな宣伝材料とその証拠と言う展示物が手に入った事はラッキーだった。
今あるザガリル博物館とは別に、もう一つ博物館を建てて、そちらに展示。
別料金を取る様にすれば、稼ぎが二倍になるからだ。
見て回る所を増やせば、それだけ客を呼び込める為、目玉となる展示物は多い方が良い。
「アイツが、こんな置土産を用意してくれていたとはな・・。たまには良い事をするじゃ無いか」
ルシエルはクスクスと笑う。
サジェンストが用意していたおもちゃは、ザガリルのおもちゃとして活用された。
素晴らしきリサイクルである。
ルシエルが地上へと視線を向けると、地へと落ちたアルガラムの遺体を、ラファレイドが引き摺って行く。
彼の向かう先は、アルガムラとザガリルの遺体の側だ。
遺体の側には、魔空間から出て来たタナウスとネルダルも合流している。
ルシエルが魔空間から出て行くのを見て、追い掛けてきた様だ。
ルシエルは、スゥッと地上へと降りて行った。
「「「お疲れ様です。師匠!!!」」」
軍隊員達が頭を下げてルシエルを迎え入れた。
その時、小さく「えっ?」と言う声が聞こえる。
ルシエルが顔を向けると、目元を真っ赤にしたシルフィナが驚き顔を向けていた。
状況を知らないレインフォリアとナディア、そしてサジェリナ達も、不思議そうな顔を向けている。
それに気が付いたルベレントが、即座にフォローに入った。
「今、ルシエル君の身体の中に、師匠の魂が入っているんだよ。ルシエル君と師匠の相性はとても良くてね。だから、こういう事もできるんだ」
「それでは、ザガリル様とルシエル君は・・」
「二人とも無事だ。師匠の魂は、損傷が激しい自身の身体を捨てて、ルシエル君の身体に間借りさせて貰っている状態なんだよ」
「・・よ、よかったぁ!」
再び泣き出したシルフィナを、ルベレントが優しく抱き締めた。
娘に説明をするふりをしながら、ナディア達にも聞かせて納得させる事に成功したルベレントは、心の中でホッと吐息を溢す。
ルベレントの説明を一緒に聞いていたルシエルも、心の中で安堵していた。
いつかは鮎子にもこの体の事を知らせる時が来るとは思うが、それは今では無い。
せめてシルフィナと身長差がなくなってから話したいと願う。
今回も問題無く誤魔化す事が出来たルシエルは、地に倒れている自身の体へと視線を向けた。
随分と派手に穴を開けてくれてある。
此処までの損傷は、サジェンストとの戦い以来である。
(とは言え、今回はわざと貫かせたんだけどな・・)
アルガムラにとどめを刺した時にザガリルが口角を上げたのは、とどめを刺せたからではない。
自分の後ろから迫るアルガラムの気配を察知したからだ。
ザガリルの不安定な魔力の暴走は、自分でも止められない所にまで来ていた。
その為、敵の攻撃をわざと受けて、全ての機能を完全に停止させる事にしたのだ。
アルガラムに荊棘縛波を放ったのは、奴を一時的に捕縛して、先にアルガムラを始末すると言う目的と、ルシエルとなったザガリルが無理なく倒せるレベルにまで弱らせると言う目的があった。
そしてその目的の全てが、ザガリルの計算通りに進んだ事を、後方から迫るアルガラムの気配から察知した事で、思わずニヤけてしまったのだった。
だが、例え魔力の暴走を鎮める為だったとは言え、自身の身体をぶち抜かれた事には少々イラつかされた。
アルガラムの身体を同じ様にぶち抜いてやったのは、ご愛嬌という物である。
ちなみに、ザガリルは双子を見分けてはいなかった。
その為、技を掛けたのは適当で、どちらが生き残ったのかは知らないままである。
(・・それにしても、ここまで身体が損傷しているとなると、完全回復させるには時間と手間がかかりそうだな)
自身の魔力による破壊と敵の一撃を受けたザガリルの身体は、かなり酷く傷付いている。
蘇生魔法を練り込んだ回復となりそうだが、ルシエルの体に負担が出ない程度にしなくてはならない。
(色々と面倒だが、やるしか無いか・・)
溜め息をついたルシエルの横では、チカリダがアルガムラの心臓を取り出していた。
白い石へと変化させ、その石をルシエルへと差し出した。
「もう一体の心臓石になります」
「ああ・・。お前が持っていろ。この二つの石は、リオール家の博物館に展示する」
「承知致しました」
チカリダは、ルシエルからアルガラムの心臓石を受け取ると、チラリと他の第一小隊の者達に視線を送る。
視線を受けたフォガントとディレイルが、即座に動き出した。
「師匠!此方の遺体は、処分してもよろしいでしょうか」
「ん?ああ、それは展示しないから好きにしろ」
ルシエルは興味なさそうに応えると、再び自分の身体の状態確認と、その修復方法へと意識を向けた。
本当は集客の為に、魔王候補の二体を心臓石と一緒に並べて展示したかったのだが、それはやらない事にした。
家族愛に溢れたリオール家所有の博物館に、遺体を展示したくなかったからだ。
辛気臭くなりそうだし、遺体の腐敗処理など、余計な手間が掛かりそうだと言う懸念もある。
いかにリオール家に負担を掛けずに、博物館を繁盛させるかが何よりも大事なのである。
ザガリルが遺体に興味を向けなかった事で、これ幸いだと、フォガントとディレイルがアルガムラ達の遺体を処分し始めた。
ハウリルラとヌディカリル、そしてラファレイドとタナウスとネルダルが、ラグラスを含む五人の護衛達の遺体を処分しに飛び立った。
肉片一つ残らぬ様に高温で焼却処分されていく遺体を、マギルスが不満そうな表情で見つめ続けている。
石を持ちながらマギルスの近くに立つチカリダは、それを見て見ないふりをした。
第一小隊にとって恐ろしい事は、ザガリルとマギルスがもう一回戦いたいと言い出す事だった。
ザガリルは蘇生魔法が使える。
マギルスを見ても分かる様に、少し時間が経つと殺してしまったのは勿体無かったかな?等と余計な事を考え始めるのだ。
その為、気が変わる前にサッサと処分しなければならなかった。
自分達よりも強い敵との戦いが終わった後は、生き残った軍隊員達で迅速に遺体を処分する様にと、第二と第三にも徹底して指導してある。
前回の魔王戦の時も、倒され落下してきた魔王の体を即座に処分した。
ザガリルが気まぐれを起こし、魔王を生き返らせる可能性が高かったからだ。
心臓石からは蘇生は出来ない。
その為、倒した証拠を手元に残したまま、サッサと遺体の処分をしたのだった。
案の定、戦いの興奮状態が落ち着いて来ると、ザガリルが魔王を倒してしまった事に後悔を見せていた。
その姿を見た弟子達は、自分達の行動は間違っていなかったのだと心の底から安堵した過去がある。
という事で、今回もサッサと処分する方向に動いたのだった。
自分の体の破損状態を観察していたルシエルに、サジェリナが歩み寄った。
「貴方、ザガリルなのよね?」
「ん?」と顔を向けたルシエルは、面倒臭そうな顔を見せる。
「そうだが、何か用か?」
「最後にもう一度だけお願いするわ。ザガリル、私と結婚して魔王になって欲しいの」
最後の願いを口にしたサジェリナに、ルシエルはキッパリと告げた。
「断る!」
「・・どうしても、駄目なの?」
「魔王という地位に興味はない。俺が興味を持つのは、魔王と言う地位についた奴だけだ」
「そう・・」
俯いたサジェリナだったが、直ぐにパッとその顔を上げた。
そして、吹っ切れた様なスッキリとした表情を見せる。
「それじゃあ、私が魔王になるわ!」
「ああ?その弱さでか?随分、興味をそそられない魔王だな」
「これから強くなって見せるわ。父様を倒した男を倒せる位にね!」
キョトンとした顔でサジェリナと見つめ合ったルシエルは、クスリと笑みを溢した。
「期待はしていないが、まあやってみるんだな。せめてお前の父親くらいには、なって来い」
「ええ、そのつもりよ」
フワリと空へと浮かんだサジェリナは、ガルージ達と共に魔城の森を目指して飛び立った。
「サジェリナ様、よろしかったのですか?」
「ザガリルは魔王にはならないって言ってるのよ。仕方が無いわ」
少し前の自分だったら、それでもザガリルを魔王にしようと奮闘したであろう。
しかし、父の本当の気持ちを知った今は、何故か素直にそれが受け入れられた。
父の名に恥じない魔王になる。
これこそが、彼の娘である自分が本当に目指す道である。
(それに私が魔王になったら、ザガリルが興味を持ってくれるって言ってたものね)
伊達にずっと想いを寄せてきた訳では無い。
彼を手に入れられるのなら、魔王になると言う条件だって乗り越えてみせる。
「さあ。早く城に戻って、アルガムラが制御していた魔城の森の結界を発動し直すわよ!」
「「「はい!」」」
魔王候補として現れたアルガムラに、長年サジェリナが担って来た魔城の森に張ってある結界の電池役を奪われてしまっていた。
そのアルガムラが倒されてしまった今、魔城の森の結界は消え去ってしまっているだろう。
力のあるアルガムラとは違い、他の者が電池役を担うとなると、それなりの準備期間が必要となる。
その間、森は無結界となってしまう為、高魔族達を纏め、人間達からの襲撃に備えなくてはならない。
(見ていて下さい、父様。私は、貴方の様な立派な魔王になってみせます)
サジェリナは、胸元に光る父親の心臓石のペンダントに、固く誓うのだった。
◇◆◇◆◇
「ああ!!!」
空を見上げたルシエルが、突如として大きな声を上げた。
「如何なさいましたか、師匠」
シルフィナと共に側へと歩み寄ったルベレントが声を掛けた。
「あの女に渡したペンダントを、回収するのを忘れた!!!」
自身が思い描く博物館の第二の目玉ブースには、今回の魔王候補の石が展示される予定となっている。
しかし、よくよく考えてみたら、所詮は魔王候補。
だったら、長年魔王として君臨していたサジェンストの方が価値があるし、知名度も高い。
それなのに、その娘とやらに無償提供してしまったのだ。
「クソッ!親の形見になど渡さなければよかった!」
心の底から悔しがるルシエルに、シルフィナが歩み寄った。
「・・た、たかちゃん・・なのよね?」
「ああ、そうだ。今はまだ体に戻る事は出来ないから、ルシエルに体を借りている」
「それじゃあ、ルシエル君も無事だったのね」
「ルシエルには、タナウスとネルダルを護衛につけておいたんだ。強敵の気配を察知したあの二人が、ルシエルを別空間の中に避難させてあった」
「良かった!二人が無事で本当によかったぁ!!」
泣き出したシルフィナの肩を、ルベレントが優しく抱き寄せ、頭を優しく撫でる。
それを見たルシエルのコメカミに青筋が立った。
シルフィナが泣いているのに、慰めてやる事ができない。
しかもルベレントごときに、その役を取られた事が気に入らないのだ。
しかしルシエルの体では、背伸びをしてもシルフィナの頭に手が届かない。
イラッとしたルシエルだったが、改めてルベレントの存在を認識した事で、ふと思い出した。
「そう言えば、なんでお前が此処にいるんだ。俺は、もしもの時まであそこにいろと命じた筈だが?」
「えっ?」
突然のルシエルの発言に、ルベレントが驚きを返した。
イヤイヤ、ちょっと待って欲しいと、弁論し始める。
「御言葉ですが、あの時の師匠の体は、完全に生命活動を停止しておりましたし、もしもの時であると私は判断致しました」
「はあ?お前は馬鹿なのか?あそこから俺の戦いを見ていたんだから、俺が敵の攻撃を誘い、それをわざと受けた事くらい分かっただろうが!」
戦っている当事者が気が付かなかったのは理解出来るが、外から見ていたルベレントは良く見えていた筈だ。
しかし、ルシエルの言葉にタラタラと汗をかき始めた姿を見ても、どうやら全く気が付かなかったらしい。
ふとシルフィナの方を見ると、紅蓮が大きく頷きを落としている。
どうやら、俺はちゃんと気が付いていたけどね!と言いたい様だ。
「だから第三小隊はいつまで経っても駄目なんだよ!他の奴らを見てみろ。お前以外は皆んな気が付いていたんだぞ」
「えっ?」
ルベレントは思わず声を上げてしまう。
(あれ?第一小隊の人達も、慌ててマギルス様に力を渡そうとしていなかったっけ?)
チラリと顔を向けてみると、彼らは視線を彷徨わせ、明らかに挙動不審になっている。
マギルス以外の軍隊員で、気が付いていた者はいなかった様だ。
これは滅多な事を言わない方が良さそうである。
「未熟な為、師匠の御意向に沿う事が出来ず、大変申し訳ございませんでした。日々精進していく所存です」
深々と頭を下げたルベレントは、顔を上げてハッとした。
ルシエルが目を細め、可愛いお顔が無表情に変わっている。
今のやり取りで、他の軍隊員達も気が付いていなかった事がバレてしまったようである。
「そうか・・。ルーベン、お前の気持ちは、よぉーく分かった。そうだよな。普段、偉そうにしておきながらも、一撃で死ぬ様な馬鹿達と、複数の敵を前にしても、何も出来ずにただ立っているだけの役立たず達に囲まれていては、お前もさぞ不満であっただろう」
「えっ?そんな事、言ってな・・」
「いやいや、みなまで言うな。確かに、あの程度の敵を前にして、全く役に立たなかったと言う事実は否めない。個々の能力は違くても、全員が役立たずである事に変わりは無かったな。この際、小隊を一つに纏めてしまっても良いかもしれん」
うんうんと頷くルシエルに、ルベレントの全身の血の気が引いていった。
チラリと瞳だけを動かして見た第一小隊及び、第二小隊の四人の顔が恐ろしい事になっている。
師匠の言葉がルベレントの言葉では無いと気が付いているのに、八つ当たりの攻撃目標に定められてしまっている。
死ぬ・・。
このまま此処で話を終えられては、数秒後の自分は、再び蘇生魔法が必要な状態になる事は確実である。
「し、師匠・・。私は何かお気に触る事でも致しましたでしょうか・・」
何故私に嫌がらせをしてくるのか。
何が気に入らなかったのかは知らないが、普段からとても適切なフォローをしてあげているのに酷過ぎる。
「別に。何も無いけどな!」
プイッと顔を背けた態度を見ても、明らかに何か不満に思う事があった様だ。
だからって、その嫌がらせに第一小隊や第二小隊を使わないで欲しい。
彼らは洒落にならん怒気を向けて来ているのだから。
自分の横に立つ可愛い娘はキョトンとしており、彼女からのフォローは期待出来ない。
(これはどうしたら良いんだ・・)
ダラダラと冷や汗をかくルベレントの後ろから、静かにナディアが歩み寄った。
「ザガリル。ルベレントに意地悪をしないで」
「して無い!」
「もう!いっつもそうやってルベレントを困らせるんだから」
そっぽを向き続けるザガリルに溜息を一つ落としたナディアは、今度は第一、第二小隊達に視線を移した。
「貴方達もよ。今のはルベレントじゃなくて、ザガリルが言った事だって分かっているでしょ?その怒りは、ザガリルに向けなさい」
ナディアの言葉に、軍隊員達はバツが悪そうな表情をしながら顔を逸らした。
軍隊員達を嗜めてくれたナディアに、ルベレントは感謝の瞳を向ける。
ナディアはこうやって、立場の低い自分や第三小隊を守ってくれる。
個人的にも親しいナディアの存在は、ルベレントにとっては神々しい女神の様である。
この世界の女神リルネシアの再来だと、その瞳を輝かせた。
顔を戻したルシエルは、天使の顔に似合わない意地の悪そうな表情を軍隊員達に向けた。
「へえ・・。俺の発言に、怒りがあるのか?それは驚きだな。俺は真実しか口にしていなかったつもりだが、どの辺に不満を感じたのか、是非教えて欲しい物だがな」
天使の様な外見で、魔王よりも魔王らしい笑みを溢すという器用な芸当を見せるルシエルに、軍隊員達は益々萎縮していく。
その姿を見ていたナディアは、ルシエルの姿をジックリと見つめた。
「本当にザガリルなのね。その姿だと、いまいちピンとこないわ」
ザガリルが気に入っているルシエルと言う名の男の子がいる事は知っていたが、その姿はとても可愛らしい天使の様な男の子である。
そんなルシエルの体の中に、誰もが認める魔王よりも魔王らしいザガリルが入っていると言う奇妙な状態が上手く処理出来ない。
チラリと向けたナディアの視線を受けたシルフィナは、コクリと頷きを返した。
「私もです。なんだか、とても可愛らしいですよね」
顔を見合わせたナディアとシルフィナは、クスクスと笑い合った。
笑われたルシエルは、苛立ちをみせる。
(だから、この姿で会いたくなかったってのに・・)
女は直ぐに可愛いとか言う。
男が可愛いと言われて嬉しい訳がない。
ザガリルである事をアピールする為に、わざと口調を変えないで対応しているのに、結局こうなってしまうのだ。
ムスッとしたザガリルは、軍隊員達に視線を移した。
「壊された施設は、残ったお前達でなんとかしておけ。ルーベン。ナディーとシルフィナを送り届けろ」
「はい、承知致しました」
明らかにふて腐った顔をしているルシエルに、ナディアが慌てて声を掛ける。
「ザガリルは何処に行くの?」
「この体の修復だ!」
パチンッと指を弾いたルシエルは、ザガリルの身体を宙に浮かせた。
地上での修復よりも、秘密の間の水晶に入れて回復させた方が早いと判断したのだ。
一刻も早く修復してやると、闘志を燃やす。
フウッと溜息をついたマギルスは、よっこらしょっと立ち上がった。
どうやら一緒についてくるらしい。
「たかちゃん、ちょっと待って!」
「あぁーとぉーでぇー!!!!」
呼び止めたシルフィナは、鷹矢のふて腐った時の返事で返された。
そしてルシエルとマギルスは、ザガリルの身体と共にこの場からパッと消え去ってしまう。
「そんなに怒らなくても良いじゃ無い・・」
空を見上げたシルフィナは、寂しげな顔で大きな吐息を溢すのであった。
◇◆◇◆◇
ザガリルの体の修復は、それから一週間と言う時間が掛かった。
蘇生魔法をブレンドした回復をかけ、ある程度まで修復した後に水晶へと入れる。
ルシエルとして生活をしながら待ち続け、完全回復とまではいかないが、ある程度の修復が完了したと同時に、シルフィナに会いに行った。
抱き付いて来たシルフィナをその腕に抱き止め、ザガリルは男としてのプライドを取り戻したのであった。
活動報告を更新しました。
一読、よろしくお願い致します。




