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8.伝説のザガリル軍

夕食を終え、兄姉達と母親と共にリビングで寛いでいたルシエルは、ようやく姿を見せた父ファスターに笑顔を見せる。


侵入者を受け取りに来ていた兵士達が引き上げて行くのを見送ってから、ルベレントに手紙を書き、それからリビングに姿を見せたので遅くなったのだ。


(さて、裏庭のゴミは片付いた。これからは僕の時間だ!)


ルシエルは早速、父の膝の上に座りに行く。


「父様。あの人達は僕を狙ってきた人達なの?」

「そうだな。でも、マギトが倒してくれたから、もう大丈夫だ」

「でも僕怖い。今日は一緒に寝てもいい?」

「仕方ないな。今日だけだぞ」

「うん!」


ルシエルは大きく頷いた。

あの侵入者の事を使えば、暫くは目一杯甘えられる。全く恐怖心は無いが、怖がるフリは続けていこう。

ルシエルは、父の肩で隠した口角をニヤリと上げた。


ソファーに座ったまま、何か言いたげにジッと自分を見つめているマギルスが鬱陶しい。

邪魔をするなと言う合図を送り、両親に目一杯甘え始めた。


フウッと吐息を落としたマギルスに、恐る恐るロイドが尋ねる。


「そう言えば、マギトって火属性の魔法が使えるんだね。他にも使えるの?」

「全属性使えますね」


あっけらかんとして答えるマギルスに、家族が驚く。


(あれ?全属性使えるのって普通じゃないの?)


家族の驚きようにルシエルが驚きを返した。

ザガリルであった時は、周りにいる者達は全て全属性が使えていた。


(あれって特別な事だったっけ?よく覚えてないなぁ・・)


ザガリル自体、あまり他人に興味が無かった所為で、そう言う知識には疎いのだ。


(そう言えば、第三小隊は最初は物凄く弱かった気がする。もしかしたら、あれが一般人の基準なのかもしれないな)


ルシエルは、役に立たないと言う認識の第三小隊を思い出してみる。

ザガリルの軍には、第一小隊から第四小隊まである。


第一小隊は、ザガリルがそこそこ認めている強さを持つ者達五人で構成されている。


第二小隊は、ザガリルにとっては荷物持ち程度の者達十人の集まりである。


第三小隊は、ザガリルが国に頼まれて嫌々引き取った者達の集まりで、役立たず二十人の集団である。

ちなみにルベレントはここに入る。


第四小隊は、正確にはザガリルの軍の者ではない。

勝手に集まって来た者達で、彼らには特権階級すら与えられていないのだ。

彼らがザガリルの目に触れる事はないが、三百人以上いるらしい。名前や顔すら認識していないので、戦いの最中に視界に入ったら敵と間違えて瞬殺してしまう為、もっぱら後方支援である。


正規のザガリル軍の小隊第一から第三は、人数が増える事はない。

死んだら補充すると言う決まりなのだ。

ちなみに軍の脱退は死を意味する。

そうじゃないと、増やせないからね。

ほら、死んだら補充するって決まりだし、決まりはきちんと守らないといけないんだよ。


ちなみに、ルベレントが兼任で伯爵をやっているとは知らなかった時の、良く生きているな。と言うルシエルの発言は、正確に言うと、よく殺されなかったなと言う意味である。

実力のある脱退者の処分は、戦闘狂が集まる軍の中で一番の人気を誇る仕事だからだ。


そんな事を考えているルシエルの横では、ロイドがマギルスに再び質問をぶつける。


「全属性が使えるなんて凄いね!それじゃあ、一番得意な属性って何?」

「取り立てて得意というものはありません。全て同じくらいですね」

「全属性、上級魔法が使えるって事?」

「はぁ・・」


これはもう驚きでしかない。

ファスターは、マギルスが軍の関係者だという事は分かってはいたが、それでも驚いた。


あの軍に所属している者達は、そんなにも強くなければならなかったのか。

それほど強い者達でも苦戦した魔王軍との戦いは、どれ程の死闘であったのだろうか。


考えれば考えるだけ、彼らがいなければ間違いなく人間の世界は滅んでいたと言う結論しか出ない。英雄ザガリルという存在が人間にいた事に感謝しかない。


「ロイド様、マイロ様。昼間の件ですが、ルシエル様より言葉が足りないと言われましたので、付け加えさせて頂きます」

「えっ?昼間の事?」


ロイドとマイロは、一瞬何の事か分からなかったが、直ぐに剣術の稽古をして欲しいと言った事を言っているのだと気が付いた。

姿勢を正し、マギルスを見つめる。


「剣術の相手をするのは、私には無理なのです。相手の力量に合わせて戦う事は出来ますが、それでも、その相手にある程度の力量が無いと一瞬で終わってしまいます。お断りをしたのは、その所為です」


マギルスは決して、教えたくない訳では無い。

しかし、マギルスの相手は、第三小隊の者でも対処出来るかどうかなのだ。まだ子供であるロイド達では、絶対に無理なのである。


「あのね、マギトの剣術は人に教える様な剣術じゃないんだって。マギトは今まで培って来た戦闘で得た感覚で戦っているから、それを人に教える事が出来ない。剣術の相手をしたとしても、父様くらいの腕前がないと一撃で瞬殺しちゃうから、したくても出来ない。本人は手加減しているんだけど、普通の人からしたら手加減になってない・・」


ルシエルはマギルスの説明の補足をしていてハッとする。これは可愛いルシエル君が持っているような知識では無かった。

気付いた事で、慌てて修正を付け加える。


「って、ルベレント伯爵が言っていたのを聞いたよ。そうなの?父様」

「そうだな。教えて欲しいと言うお前達の気持ちも分かるが、力量が違い過ぎる。あまり困らせるような事を言っては駄目だぞ」

「はい。分かりました」

「ごめんね、マギト。マギトに相手をして貰えるように、もっともっと強くなってみせるからね」


コクリと頷いたマギルスを見た二人に笑顔が溢れる。

弱すぎると言われて少し落ち込んでいたのだが、そういう理由だったのなら仕方がない事だったのだと思い直した。

いつかマギトに相手をして貰えるくらい強くなってやると、心の中で誓う。


「マギトって僕達が考えられないほど凄い人なんだね。まるで数千年超みたいだ」

「そうだよね。そういえばマギトって何歳なの?」

「二千二百十二歳です」

「「「えっ?」」」


サラリと答えたマギルスに、またしても家族が唖然とした表情をする。

マギルスの外見は、まだ若々しい。どう考えても、成長が止まっているようにしか思えない。

特質した力を持つ二、三千年生きる者達は、成長が遅くなるのが特徴である。

しかし二千年を超えていても、まだこれだけの若さを保っているのなら、ここから後数千年は生きられる事は確実である。

そこから考えると、マギトは自身が数千年超、しかも普通の数千年超では無いと言ったも同然となってしまうのだ。


「マギト!それ以上は答える必要はない。お前達、あまりマギトを詮索しないようにしなさい!」


ファスターは慌てて二人を窘めた。

まさかマギトが素直に言うとは思ってもいなかった。


ルベレント伯爵は、マギトの存在を隠したいようであった。その為、マギトも自身の情報は偽りか隠してくれると思っていたので、油断してしまっていたのだ。


数億人に一人いるかどうかの数少ない数千年超。

ただでさえ、こんな田舎に二千年以上生きている者など居ないのだ。これが外部の者に知られでもしたら、マギトが目立ってしまう。


ファスターは頭を抱え込んだ。

これはマズイかもしれない。

とても良くしてくれているルベレント伯爵に、ご迷惑をお掛けしてしまう事になりかねないのだ。


取り敢えず、マギトに自身の情報を周りに話さないようにと口止めをする。

そして家族にも絶対に周りに話さないようにとキツく口止めをした。


先程、侵入者の件でルベレント伯爵に手紙を出したばかりではあったが、これも伝えなければならない。


ファスターは、ヨロヨロとしながら自身の部屋へと戻って行った。



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