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74.これは一体どうすればいい

上手く切る所が見つからず、今週も二話分位の話を一気に載せる結果となってしまいました。

すみません。

シーンと静まり返る庭園の中、ルシエルは身動き一つ出来ずにいた。


どう誤魔化そうとしても、ルシエルが魔法を使ったという事実は消えない。


地面に落ちている上級魔物の肉片が、あれは間違いなく目の前で起きた事なのだと、周りの者達に証明をしていた。


(どうすればいい・・。こんな事で、家族を失わなければならないのか?)


少々遊び過ぎてしまった事は認める。

しかしだからと言って、家族を捨てなければならない程の事をしたとは思えない。


(兎に角、国からルシエルの判定が出たら、ザガリルが引き取りを願い出て、それで・・)


ルシエルは、この状況を誤魔化す事は不可能であると判断した。


ここは素直に認めて、後はザガリルの傍若無人な俺様主義を使ってルシエルを手元に置くとするしかない。

しかしそうなると、二人が直接同じ空間にいなければならない時が出てくる。


(それはどうする?・・やはり、このままルシエルを軍の施設に連れていくべきか?)


焦れば焦るだけ、考えが纏まらなくなっていった。


「ルーシェ」


大好きな父様に名前を呼ばれただけなのに、ルシエルの心臓が大きな音を立てて飛び跳ね、肩が大きく上下した。

ダラダラと冷や汗が溢れ出る。


覚悟を決めたルシエルが後ろを振り返ろうとした、その時だった。


『失礼致します、師匠』

『・・ルーベンか?』

『はい』


ルシエルは返答を返しながら、ふと上空にルベレントの気配を感じ取った。

よほど焦っていたのだろう。

声を掛けられるまで、奴の存在に気が付かなかった。


『状況は分かりませんが、先程の力はルシエル様の体からの魔力だったと思います。そこにはファスター殿も居るようですが、誤魔化しは必要でしょうか』

『誤魔化せるなら誤魔化せ』

『承知致しました。私の話に、お合わせ下さい』


通信を終えたルベレントは、即座に地面へと降りて来た。

そして、ファスターの顔を見ると笑顔を見せる。


「ファスター殿」

「ルベレント伯爵!来て頂けたのですか?」

「ええ。ルシエル君が誘拐されたと聞き、急ぎ駆け付けました。ご無事で何よりです」

「は、はい・・」


無事には無事だったが、ルシエルが強力な魔法を使った事が、新たな問題だった。

地面に転がる魔物の肉片が視界に入る。


(この事を、ルベレント伯爵に相談した方が良いのだろうか・・)


チラリとルシエルを見たファスターは戸惑いを見せる。

しかし、信頼しているルベレント伯爵にならと、意を決して口を開こうとした。


だが、それを遮るかのように、ルベレントが先に口を開く。


「師匠の方も、ルシエル君の体の保護に間に合ったようで、安心致しました」

「えっ?ザガリル様がですか?」

「ええ。ルシエル君の身の安全を確保する事が優先でしたので、師匠の魂を一時的にルシエル君の体に飛ばさせて頂きました」


ニッコリと微笑んだルベレントは、背を向けて立ち続けるルシエルに声を掛ける。


「師匠。ルシエル君の体は、問題なさそうですか?」

「あ、ああ。急に俺が入ったから少し戸惑いを見せてはいるが、問題は無いようだ」


ルベレントの話の趣旨を理解したルシエルは、ようやくクルリと振り返った。


「ザガリル様だったのですか?私はてっきり、ルシエルが魔法を使ったのかと・・」

「ルシエルの潜在能力は高いが、まだ魔法を使えるまでにはなっていないな。俺の魂を移動させたと同時に魔物の姿を確認したから、つい俺の力を使って排除してしまった。驚かせて悪かったな」

「いいえ。お助け頂き、有り難うございました」


ファスターはザガリルの説明に納得すると頭を下げ、そしてホッと胸を撫で下ろした。

息子を国に渡さなくて済んだ事に、安堵の表情を浮かべている。


周りに立つ第四小隊も、話を聞いてそういう事だったのかと納得をした様だ。

まだ幼い子供が自分達よりも凄い魔法を使ったという現実離れした話より、最強の男であるザガリルの驚きの魔法であったと言う方が納得しやすかったのだろう。


「とは言え、あまり俺の魂がルシエルの中に入っているのはまずいようだ。俺の体を呼び寄せ、移動する」


目の前で移動させた方が良いだろうと、ザガリルは魔空間から身体を出して即座に移動した。

瞳を開いたザガリルの手には、意識の無いルシエルが抱かれている。


「ルシエルの体に、少し負荷が掛かってしまったか・・。だが、特に問題はない。今回は数時間眠れば目覚めるだろう」

「有難うございます、ザガリル様」


ファスターは愛しい息子の体を、大切そうにザガリルから受け取った。

怪我もなく無事に戻って来た事に安堵する。


(怖い思いをさせて悪かった、ルーシェ・・)


静かに眠るルシエルの体を、ファスターはギュッと抱き締めた。


なんとか誤魔化す事に成功したザガリルは、心の中でホッと吐息を溢していた。

そして、ルベレントに視線を移す。


『まあ、今回のこの件に限っては、良くやったと褒めてやろう』

『ありがとうございます、師匠』


通信を使って褒めてやると、ルベレントは小さく頭を下げた。


咄嗟の判断でここまでの作り話ができると言うのは、コイツの貴族としての能力なのかもしれない。

父様以外の貴族と言うものは、やはり信用ならぬ相手なのだな、と思わずにはいられない。


身体を移動した事で、少々動き難くさを感じたザガリルは、両手を上にあげて伸びをする。

顔を上げて周囲を見渡し、スッと目を細めた。


『お前、なんであれを連れて来たんだ・・』


ザガリルの視線の先では、ガフォリクスと魔物が戦っている直ぐ横にマギルスが立っていた。

その顔はとても残念そうである。


辺りを見回してみても、もうその魔物しか残っていない。

だけどその魔物が、とても弱い。

チョンッと触っただけで死んでしまいそうなのしか居ない事が、とても不満な様だ。


『シルフィナからの手紙を見て、一緒に行くときかなかったのです』

『ん?シルフィナの手紙?』

『はい。どうやら、アシュア殿からお手紙を貰ってルシエル君の事を知ったらしく、紅蓮を使って私宛に手紙を送ってきたのです。師匠なら危険は無いとは思いましたが、念の為確認をしに参りました』


それでタイミング良く、コイツが巣籠もり訓練から出て来たのかと納得をした。

お陰で先程の人生最大の危機を回避出来たので、姉とシルフィナには感謝である。


恐らくマギルスは、俺が遊んでいると思って見に来たのだろう。

あわよくば、その遊びに参加したかったのだろうが、今回の遊びはアイツが遊べるような物ではない。


しかも、ガフォリクスと戦っている魔物がチラチラとマギルスを見ている。


横に立つ男から伝わる自分との力の差に、戦意喪失で及び腰になっていた。

既に自分しかいないこの状況で、どうしたら良いのか分からず、時間稼ぎにガフォリクスを攻撃している状態だ。


「見苦しい・・」


眉間にシワを寄せ不機嫌さを出したザガリルの言葉に、ルベレントが静かに移動し始めた。


「マギルス様、これは必要ですか?」


マギルスはチラリと魔物を見る。

必要かと聞かれると、弱いから必要ない。

マギルスはフルフルと首を振ると、ザガリルの元へと歩き出した。


それを見送ったルベレントは、スッと右手を魔物に向けた。


「爆!」


ドオーンという爆発音と共に、魔物が消え失せる。

やれやれといった表情をしたルベレントは、ガフォリクスを一瞥すると顔を背け、ザガリルの元に戻って行った。


ガフォリクスは剣を仕舞い、部下達の元へと向かう。

なんとか生き延びたダグマイトの側に歩み寄ると、膝をついた。


「大丈夫か?」

「はい・・とは言い難いですね。これからは、貴方のお役に立てそうにありません」

「諦めるのは早いだろう。まだ右手がある」


苦笑したダグマイトは身体を起こした。

剣を持って戦う事だけなら出来る。

しかし、ガフォリクスと肩を並べて戦うには、片手だけでは力不足となる。


第四小隊隊長の副官としての任務継続が難しくなった今、彼は決断する。

立ち上がった彼は姿勢を正し、深々と頭を下げた。


「今まで、ありがとうございました」


揺らぐ事はないだろう男の決断に、ガフォリクスは静かに瞳を閉じた。


顔を上げたダグマイトは、ゾロゾロと集まって来た部下達を見回した。

全員が酷い怪我を負っており、魔力は殆ど残っていない。

十数人に及ぶ死者達も次々と運ばれて来た。


ずっと共に全力で戦った者達を前に、目頭が熱くなる。


「お前達にも、散々世話を掛けたな。感謝している」

「ダグマイトさん・・」

「なんとか、残って頂く事は出来ませんか?」

「そうですよ。俺達はずっとダグマイトさんと一緒だったからやってこれたんです」


なんとか引き留めようとする部下達に、ダグマイトは首を振って拒否を示した。

彼の気持ちが変わる事がない事を悟った部下達は、力なく地面へと膝をついていった。

ダラダラと流れる血を拭う事すら出来ないくらい茫然としており、そしてゆっくりと項垂れていく。


少し離れた場所からそれをみていたファスターは、その手に抱く息子の顔を見た。


(この子を救う為に、あれだけの人を失い、そしてあれだけの人が怪我をしている。私の判断が甘かった所為で・・)


本来なら、彼らに感謝を伝えながら、力の限り回復魔法を掛けて回りたかった。

しかし、魔力のないファスターにはそれが出来ない。

自身に魔力がない事が、こんなにも悔しく思った事はない。


顔色悪く今にも倒れそうな第四小隊の人達を前に、ファスターの顔が歪んだ。


「ファスター殿、どうかしましたか?」


ファスターの表情に気が付いたルベレントが歩み寄った。


「あっ。はい。あそこに居る方達が怪我をなさっていらっしゃるので・・」

「えっ?ああ、本当ですね」


ルベレントの返答に、ファスターは驚きをみせた。

道に石が落ちていると聞いた時のような、全く興味が無いと分かる軽い口調だったからだ。


「私には魔力が無く、あの方達のお力になれない事がとても悔しく思います」

「そんな事を気にする必要はありませんよ。貴方には素晴らしい剣術の腕があるのですから」

「ご評価頂きありがとうございます。ただ・・その・・あの方達は酷い怪我をしておりますので・・」


彼らの方に顔を向けたファスターと一緒に、ルベレントも視線を向ける。

そして頷きを落とした。


「そうですね。確かに、酷い怪我をしている者が多いですね」


返事を返したルベレントは、興味なさげに彼らから視線を戻してしまう。

彼は第四小隊の様子に気がついても、特に何もする気がなく、動こうともしない。

ファスターには、ルベレントの行動が理解出来なかった。


何故、第四小隊の回復を手伝ってあげないのだろうか。

同じ仲間の筈なのに・・。


彼の力があれば、少なくとも地面に倒れたままの瀕死の方達を救う事くらいは出来るのではないだろうか。

とは言え、ルベレント伯爵に向かって男爵の自分が、彼らを回復をしてあげて欲しいなどと発言する訳にはいかない。

悩むファスターに、今度はザガリルが歩み寄った。


「どうかしたのか?」


顔を向けたファスターは、軍の最高責任者に伝えてみる事にした。


「第四小隊の方達が、とても酷いお怪我をなさっていらっしゃいます。私は魔力を有してはおらず、お役に立つ事が出来ません。大変申し訳ございません」

「ああ、そんな事か。それは気にする必要はない。ルシエルから聞いたが、貴方の剣術の腕はこの国でも五本の指に入るそうじゃないか。それは誇るべき事だと俺は思う」

「そうですよ、ファスター殿。例え魔力が使えなくても、貴方は魔物と対等に戦える術をお持ちなのですから」


二人の言葉に、ファスターは俯いてしまう。

そういう事が言いたいのではないのだが、どう伝えればいいのかが分からない。


二人は自分に対してとても優しく気遣ってくれる。

それなのに何故、第四小隊の方達はあのまま放置されているのだろうか。


悩むファスターの横で、ザガリルはふと感じとった気配に顔を向ける。

庭の植え込みの影にある、人の気配。

あれは先程バルコニーから庭に落としたカエル君である。


(あんな所に隠れていたのか・・)


ザガリルの冷たい視線に、ルベレントが気が付き、その目線を追う。


「誰か、あそこにおりますね。捕まえますか?」

「捕まえるのは一向に構わんが・・。お前が、この責任をどう取るつもりなのかにもよるな・・」

「えっ?責任・・ですか?」


発言の意味が理解出来ず、ルベレントはキョトンとする。

歩き出したザガリルの背中を見つめていたルベレントは、慌てて後を追い始めた。


植え込みに隠れる気配の側まで歩いて来たザガリルは、パチンと指を鳴らす。

すると植え込みから、ジタバタと暴れるクレーグが浮かび上がってきた。

その顔を見たルベレントは、あれ?っという表情をする。


何処かで見た覚えのあるカエルである。

何処でだったっけ?と記憶を呼び起こしていたルベレントは、ようやくリオール家にお金を貸していたクレーグの存在を思い出した。


「・・何故これがここに居るのでしょうか。確か、これは死刑と決まっていたのですが、温情が与えられ無期懲役と言う判決に変わったと聞いていたのですが・・」

「さあな。ただ、今回ルシエルの誘拐を指揮したのはコイツだ」

「そうだったのですか。ならば、この件は国王に責任を・・」


ここまで発言をしたルベレントは、あれ?っと首を傾げた。

ザガリルの先程の発言を思い出したからだ。


クレーグが外に出ていると言う事は、城の管理の責任であって、ルベレントの責任ではない筈だ。

それなのに何故、ザガリルはルベレントに責任を求めたのか・・。


「あの・・師匠」

「このカエルは、随分とチカリダと仲が良いらしいな」

「えっ・・」


ルベレントの血の気がひいていく。

チカリダとクレーグの関係がザガリルにバレている。

そうなると、ルベレントがバレないように手を回した事も知られている可能性が高い。


あれはリオール家が危機を迎えるきっかけとなった事件である。

ザガリルが大切にしているあの家の事となると、許して貰えるとは思えなかった。


ガタガタと震えを起こしたルベレントに、ザガリルが仕方無しに口を開く。


「やはり、そういう事なんだな・・。まあいい。お前は先程の件との相殺で、帳消しにしてやる」

「あ、ありがとうございます、師匠!!」


ルベレントの顔に笑顔が戻った。

シルフィナから手紙を貰った時、面倒臭いとか思いながらも、嬉々として暴れ回る死神の相手よりはマシかと思って、こちらに向かって来た。

しかし、そのお陰で師匠の危機を救い、そしてこうやって温情を与えて貰える事に繋がったのだ。

なんと言う幸運なのだろうか。


歓喜に満ち溢れるルベレントに、クレーグを地面に落としたザガリルが伝える。


あのバカ(チカリダ)を呼べ」

「承知致しました」


今回の件が自分にはもう関係ない事となったルベレントは、気楽に返事を返してチカリダへと通信を送った。


『師匠が呼んでいます』とチカリダに伝えると『直ぐに向かう』と返事があった。

ご愁傷様です、と心の中で呟きながらクレーグを捕縛、歩き出したザガリルの後ろを歩き出した。



ファスターは、ザガリル達が自分の側から離れていった後、第四小隊の人達の側に移動していた。

ルシエルを片手に抱きながら、応急処置を手伝っていく。


ズルッと落ちそうになったルシエルの体を、横から伸びてきたマギルスの手が支える。


「ありがとう、マギト。ん?怪我をしているのか?」


ファスターは、マギルスの服についている血を見て心配そうな顔を向ける。

しかしこれは、巣篭もり訓練をしている時の、第一か第二の返り血である。

マギルスはフルフルと首を振る。


「怪我は無い・・んだな?それならよかった」


ルシエルを抱き直したファスターは立ち上がり、辺りを見回した。

状況は時が経つにつれて悪化しているように見える。


「ルシエルを救う為に、こんなにも酷い怪我を負ってしまった彼らに、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。せめて、回復出来る者がいれば違うのに・・」


苦渋な表情を浮かべるファスターに、マギルスが首を傾げ気味にする。


「回復?」

「ああ・・。あっ、マギトは回復も出来るのだろうか。もし出来るのなら、第四小隊の方達を助けてやってはくれないか」


リオール家で一緒に住んでいるマギルス相手なら、ザガリルやルベレントよりも頼みやすかった。

マギルスも、ファスターに直接頼まれた事で、素直にコクリと頷きを落とす。


二人の会話を聞いていた第四小隊の者達が、驚き顔を向ける。

死神と言われた男が、どうやら自分達を治してくれるらしい。

ザガリルの命令しか聞かないと言われている男の素直な頷きが不気味にすら感じる。


そんな空気の中、マギルスの魔力が一瞬にして彼らを包み込んだ。

そして、一気に回復魔法が展開される。


驚くべきはその威力であった。

重傷者の怪我は勿論、死者と思われていた人達も肉体が回復し息を吹き返す。

そして、欠損者であったダグマイトの手が、強く発光したかと思うと、左手が再び姿を現した。


まさかこれほどの回復になるとは思っていなかったファスターは、ポカーンと口を開けたまま立ち尽くしていた。


驚きすぎて、ルシエルを抱く手の力が抜けてしまい、ずり落ちそうになった事で我に返る。

慌ててルシエルを抱き締め直したファスターは、マギルスを見た。


「ありがとう、マギト。とても助かったよ」


コクリと頷きを返したマギルスは、戻って来たザガリルに視線を移した。


ザガリルは歩み寄りながら、ずり落ちそうになったルシエルの頭から地面に落ちたウサギの帽子を拾う。


どうやら帽子にかけられていた魔力は、ザガリルが力を使った時に掻き消されてしまっていたようだ。

ウサギの帽子を片手に辺りを見回したザガリルは、マギルスに尋ねた。


「治してやったのか?」


コクリと頷くマギルスに、なんで?っと不思議そうな顔を向ける。


「私がマギト・・マギルス様にお頼み致しました。申し訳ございません」


慌てて謝罪するファスターに、ザガリルが顔を向けた。


「ああ、ファスター殿が頼んだのか。自発的にやるような奴ではないから少し驚いただけだ。気にしないでくれ」

「マギルス様の力を勝手に使ってしまい、本当に申し訳ございません」

「いや。別にこの程度の魔力なら、マギルスにはどうって事はない。遠慮する必要はないから使ってくれて結構だ。コイツが嫌だと思ったのなら、命じてもやらん筈だからな」


第四小隊を放置しているザガリルであったが、勝手に治してしまった事で機嫌を損ねる事にはならなかったようだ。

ファスターは安堵した表情を見せる。


そんな彼らのもとに、ガフォリクスとダグマイトが歩み寄った。

ザガリルに向かって頭を下げる。


「部下達を回復して下さり、ありがとうございました」

「俺じゃねえよ。やったのはマギルスだ。だが、礼ならファスター殿に言えよ。お前らが頼んでも、マギルスは動かなかっただろうしな」


ザガリルは、ケラケラと笑う。

こんな事はいつもの事と、気にするそぶりを見せないガフォリクスは、ファスターに頭を下げた。


「ファスター殿、ありがとうございました。お陰で大切な部下達を失わずに済みました」

「こちらこそ、ルシエルを救い出す為にご尽力下さいました事、とても感謝しております。本当にありがとうございました」


顔を上げたガフォリクスは、深々と頭を下げたファスターの腕で眠るルシエルに、視線を止めた。


(確か、この子はザガリル様だった筈だが・・)


目の前にいるザガリルと、眠っているルシエル。

これがどう言う事なのか理解は出来ないが、口を開かない方が良いと判断する。


再び、副官としての任務に戻れる事になったダグマイトと共に、その場から離れると後処理に入った。



ふとザガリルが空に意識を移すと、チカリダが真っ直ぐにこちらに向かって来ていた。


ザガリルの気を目指して飛んで来たチカリダは、柵が張り巡らされている庭園を見て、少々顔を顰めた。


(此処は確か、下級魔物が欲しいとか言っていたカエルみたいな顔の奴の家じゃなかったか?)


魔物が欲しいと言われたら、数匹捕まえて此処の檻に入れに来るか、拘束具をして引き渡していた。

ここに直接入れにくれば、拘束具分のお金が浮く為、チカリダはよく放り込みにだけ来ていたのだ。


(何か嫌な予感がする・・)


ザガリルから少し距離をとった場所へと降り立つと、頭を下げる第四小隊の中を歩き出した。

歩きながら周囲の様子を伺い続ける。


(師匠の近くに魔物の死体一体か・・。彼方には中級魔物の死体が二つ。ん?)


チカリダは、ザガリル達の近くにある木に視線を移した。

ルベレントの力でグルグル巻きにされて吊るされている者がいる。


何処かで見た事のあるカエルが、逆さまで吊るされていた。

これが本当のひっくり(返る)だな・・とか思いながらも、チカリダは普通に歩いて行く。


しかし、ザガリルの側に立つファスターを見た事で、ようやくあの時の事を思い出した。


(まさか・・あれがバレたのか?)


ルベレントに視線を移すが、あからさまにスイッと瞳を逸らされた。

これは間違い無いと、チカリダは確信する。


偉そうに踏ん反り返りながら第四小隊の間を歩いていたチカリダの足は、急速に重くなっていく。

ダラダラと汗をかきながら、ザガリルの前へと立った。


「師匠・・。チカリダ、ただ今到着を致しました」


思わず声が上擦ってしまう。


「やっと来たのか。喜べ、チカリダ。お前の大切なお友達を捕獲しておいてやったぞ」


口角を上げてその目に闇を映す、魔王よりも魔王らしい師匠の顔に、チカリダは死を意識した。


「わ、私は別に・・仲が良いわけでは・・」

「随分冷たいじゃないか。魔道具を作ってやったり、魔物を捕まえてあげたりしていたのだろう?」


なんでそんな事まで知られているのか。

これはとっとと片付けて、死人に口無し状態を作るべきであると判断する。


「これ以上、お見苦しい物を師匠の視界に入れる気はございません。処分致します」

「まあ、待て」


即座に排除しようとしたチカリダをザガリルが止める。

口封じに失敗したチカリダは、どうする事も出来ずに俯いた。


その時、二人の会話を聞いていたファスターが、ようやく木にぶら下がっているクレーグの存在に気が付いた。

あれ?っという顔で歩み寄る。


「クレーグ殿?」

「お、おお!ファスター」


蓑虫のように木からぶら下げられているクレーグは、動いた事でクルクルと回り始める。

しかし自分の命がかかっている為、そのまま回りながらファスターに必死に頼み始めた。


「頼む、助けてくれ。このままでは、私が殺されてしまう。お前の息子は、私とザガリル様の仲を取り持ってくれると約束してくれたのだぞ!」

「ルシエルが・・ですか?」

「そうだ。だから早く、その子を起こしてくれ」


回転を続けるクレーグを、ファスターの手が止めた。

目が回り始めているクレーグは、焦点が定まらない。

逆さまに吊るされている事で、頭に血が上っていて、少々意識の混濁が見え始めていた。


「ファスター殿。それの発言を聞く必要はない。今回、ルシエルを誘拐させたのはそいつだ。ルシエルとエミリアを手に入れる為の行動だったらしい」

「それで、このような事を起こしたのですか・・」


ファスターは、腕で眠るルシエルの顔を見つめた。


安心し切った顔で眠るルシエル。

しかし、助けが来るまで、とても心細く怖い思いを沢山したであろう。

もし、こうやって見つける事が出来なかったのなら、この子とはもう一生会えなかったかもしれない。


そして、マギルスがいなかったら、第四小隊の人達から沢山の死傷者が出ていた。

自分の大切な息子と、それを助けるために必死に戦ってくれた第四小隊の人達。

彼らを思うと、心の底から怒りが湧き上がってくる。


クレーグを支えていた手を離し、剣の柄を意識したファスターに、ザガリルが気が付いた。


「好きにして構わんぞ。この程度の事ならなんとでもなる。我が名、ザガリルの名において、ファスター・ノーザン・リオール男爵に、その者の処罰を一任、全ての行動を許可する」


ファスターに静かに歩み寄ったルベレントが、眠っているルシエルをファスターの腕から受け取った。


グッと唇を噛んだファスターは、ゆっくりと剣を抜く。

その姿を見たクレーグの顔が蒼褪めた。


「待ってくれ、ファスター。もう二度と、ルシエルとエミリアに手を出したりはしない。頼む、私とお前の仲じゃないか!」


剣を両手で握り締めたファスターが、ひと呼吸おいてその剣を振るった。

ヒッと息を飲んだクレーグは、重力に引かれ地面に落下する。

弱々しく顔を上げて確認すると、ファスターによって木からぶら下げられていた魔法の縄のような物が、切断されていた。

クレーグは涙の浮かぶ瞳で、ファスターに視線を移した。


「ファスター。やはりお前は、私を助けてくれるのだな。感謝する」

「勘違いをしないで下さい、クレーグ殿。私がすべき事は、ザガリル様の名を使って私的な怒りを晴らす事ではありません。国に従事する者として、貴方を国に引き渡します」


ファスターは、ザガリルに頭を下げる。


「今回の件、本当にありがとうございました。どのような理由で、彼が外に出ているのかは分かりませんが、ルシエルの誘拐の件も含めて、国王へと報告させて頂きます」

「・・分かった」


頭を下げるファスターに、ザガリルはなんとも言えない気持ちを持った。


あの時、ルシエルを抱いていた父から、激しい怒りとハッキリとした殺意を確かに感じ取った。

しかし誠実な父は、自分の怒りを即座に抑え、貴族としての判断をした。


それは決して、生半可な気持ちで抑えられた物ではない。

今でもギュッと強く握られ続けている拳が、それを示している。


気に入らなければ遠慮なく処分して来た過去の自分。

強さこそが全てであり、それが出来る事こそが最強なのだと思っていた。


それが今、目の前にいる父の生き様(背中)を見て、最強を誇る自分よりも強い男の姿を見た気がする。


(やっぱり、子供は親の背中を見て育つものなんだね)


鷹矢がポツリと呟いた。

お前の記憶の所為で、こんな事を感じたり考えたりする自分になってしまったのだと、少々苛立つ自分がいる。

でもそれが、さほど嫌に感じていない自分がいる事も確かである。

なんとも不思議な感覚であった。


ファスターは、ルシエルを抱くルベレントの元へと歩き出した。


それを見送ったザガリルは、自分の横に立つ顔色の悪いチカリダへと視線を移した。


その過程はどうあれ、リオール家の町は上手くいっている。

此処は父を見習って、グッと我慢をしてみる事にした。


「・・チカリダ」

「は、はい!」

「今回の事だけは、大目に見てやる。ファスターに感謝しろよ」

「は、はい!ありがとうございます、師匠」


嬉しそうに満面の笑顔で頭を下げたチカリダを見ていたら、やっぱりイラッとさせられた。

自分はまだまだ父の様にはなれないようだ。


ザガリルはふと、自分の手を見た。

そしてにっこりと微笑みを見せる。


「そうそう。お前に素晴らしい物をやろう」

「えっ?」

「お前の強欲な部分を浄化してくれる、とても素晴らしいアイテムだ。無くさないように、俺が特別に術を施してやろう」


ザガリルは、その手に持つウサギさんの帽子に拡大魔法を展開する。

そして大人サイズにした帽子を、チカリダに被らせた。


深緑色の短髪でお坊さんの姿をしているおっさんが、可愛いウサギさんの帽子を被っているという、とてもシュールな格好が出来上がった。


不審者として、職務質問されるレベルである。


「ふむ。なかなか似合っているぞ、チカリダ。嬉しいだろ?」

「は、はい・・」


自分の姿がイマイチ確認出来ないチカリダは、曖昧な返事を返した。


しかし、後始末をしていた第四小隊が、驚愕の眼差しをチカリダに向けた事から、大体の想像が出来た。

チカリダの視線が自分達に向けられていると気が付いた彼らは、急いで何事も無かったかのように後始末に精を出す。


(師匠のいない所で外すとするか・・)


ため息をついたチカリダは、ふと横からの視線に気が付き顔を向けた。

そこには、ジッとウサギさんの帽子を見つめるマギルスが立っている。


「この帽子が欲しいのですか?」


チカリダが尋ねると、マギルスはコクリと頷いた。

例えザガリルに貰った物だとはいえ、副官のマギルスが欲しがっているのだから、チカリダの立場からすると渡さない訳にはいかない。


(これは天の助けだ!)


チカリダは被っている帽子を取ろうとする。

しかし、帽子はうんともすんともしない。

よくよく見てみると、帽子が取れないように、ザガリルの粘着魔法が展開されているようだ。


(嘘だろ!!!)


無理矢理引っ張ってみたが、やはり外す事は叶わなかった。

そんなチカリダに、ザガリルがニヤニヤとした嫌な笑みを向ける。


「無くさないように、しっかりとくっつけておいてやった。お前はこれから一生、可愛いウサギさんでいられるな」


ケラケラと笑うザガリルと、欲しいのに貰えないと言う不満顔を見せるマギルスを前に、チカリダは絶望する。


師匠の掛けた魔法の解除が自分に出来るのだろうか。

下手したら本当に一生被っていないとならなくなる。


ネットリとした妬みを含んだマギルスの視線も、これから一生味わい続けなければならないのだろうか。


(これは一体どうしたらいいんだ・・)


チカリダの苦悩(ザガリルの嫌がらせ)は暫くの間続くのであった。


※沢山の評価やブックマーク、ありがとうございます。


最近忙しくて週一の更新になってしまっています。

本当にすみません。

一応確認してはいますが、間違い等ありましたら、教えて下さい。


もう暫く忙しい時期が続きますが、空いた時間を使って書き続けますので、これからもよろしくお願い致します!



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