22.ルシエルの計画
ルシエルが思い立って三日後の昼間。
ルシエルの家の前に、豪奢な一台の馬車が止まった。
降りて来たのはルベレント伯爵である。
手紙を受け取っていたファスターは、妻と共に笑顔でルベレントを出迎えた。
「ようこそ、ルベレント伯爵」
「こんにちは、ファスター殿。お久しぶりですね、リオール夫人」
「遠い所までようこそおいで下さいました、ルベレント伯爵。大したおもてなしは出来ませんが、どうぞお入り下さいませ」
二人に案内されながら客間へと入って行くルベレントを、ネルダル達が見届けルシエルの元へと戻って行く。
客間では、エミリアがお茶を用意する中、二人は雑談を交えて話をしていた。
「急な用事の為、ファスター殿に急遽時間を作って貰い申し訳ない」
「いいえ、とんでも御座いません。ルベレント伯爵のご用事ともあれば、いついかなる時でも時間を作ってみせます」
「それは嬉しい言葉ですね」
穏やかな笑みを見せるルベレントに、エミリアがお茶を出した。礼を告げたルベレントに頭を下げたエミリアは、挨拶を告げて部屋から出て行く。
それを見送ったファスターは口を開いた。
「それで、今回のお話と言うのは・・」
「今回、この屋敷に来たのは、伯爵としてではありません」
紅茶のカップを下に降ろしたルベレントから、穏やかな笑みが消えた。その顔は、普段ファスターに見せていた顔とは違う、真剣な表情である。
重大な頼み事だと瞬時に理解したファスターは姿勢を正した。
「ザガリル軍、第三小隊所属ルベレントが伝える。この地の領主であるファスター・ノーザン・リオール男爵に、この地での師匠ザガリル所有となる建物建設の許可を貰いたい」
ファスターは驚きから大きく目を見開いた。
あの伝説の英雄が、この領地に建物を建設したいと言うのだ。そんなの勿論、構わない。使い道の無い土地が、この領土には腐るほどあるのだ。
もっと無理難題な頼み事かと思っていたが、拒否する必要のない頼みである。
ファスターは即座に返事を返した。
「それは構いません。ご希望の場所があれば、お伺いしたく思います」
「それは後日、師匠が直々に視察をして決めるとの事。問題は?」
「何もございません」
「それなら、この話は了承という事で、師匠に伝えさせて頂く」
紅茶に手を伸ばして一口飲んだルベレントは、笑顔を取り戻した穏やかな顔付きでファスターに視線を戻した。
「驚かれましたよね。師匠から直々にご命令を受けた事で、軍隊員として伝えなければならなかったのです。もう、いつものルベレントとして対応して頂いて構いませんよ」
「は、はい」
軍隊員でも伯爵でも、ファスターのルベレントに対する態度は変わらないのだが、やはり軍隊員としてのルベレントには緊張をしてしまっていた様だ。
笑顔を見せたルベレントを見て、肩に入っていた力が抜けていく。
「私もまだ詳しくは聞いてはいないのですが、どうやら師匠はこの土地に軍隊員の保養所を作りたい様なのです」
「そんな素晴らしい施設を、こんな田舎にですか?」
「田舎だからこそ良いのですよ。この間の師匠のお金は、契約の手数料とお考え下さい」
「あれだけの大金を手数料として頂くわけには・・」
「いいえ。恐らくですが、あれが妥当な金額となるでしょう。いえ、もしかしたら足り無いかもしれません。師匠のお考えでは、作りたいのは保養所だけでは無い様なのです」
ルベレントは再び紅茶に口を付けた。
ここからが師匠の考えの本題なのである。
一呼吸置いたルベレントにファスターが尋ねる。
「保養所だけでは無いと言いますのは?」
「一つは軍隊員の訓練施設ですね。師匠がいない間に、軍隊員達の力が少々落ちてきてしまったのです。その為の施設と・・もう一つは、ルシエル君の面白い発想を叶える施設の建設の様です」
「ルシエルのですか?」
思いもよらない場所で出て来た自分の息子の名前に、ファスターは驚きを返す。
なんでザガリル様がルシエルの為にご用意下さるのか。自分ですら会った事の無い英雄とルシエルの交流に、ただ唖然とするばかりである。
「ええ。この間、我が家に来ていたルシエル君を、たまたま我が家に立ち寄った師匠が大変気に入りましてね。その時にルシエル君がポツリと言った発言を、師匠が面白がってしまいまして。その為の建物は俺が作ってやるから、後は自分でやってみろと言う事の様です」
「そ、それは一体・・」
「ザガリル博物館と言うものだそうです」
「ザガリル・・博物館・・」
博物館と言う聞いた事のない言葉に、ファスターは首を傾げる。
「それは一体どの様なものなのでしょうか」
「私もあまり詳しくは知らないのです。その辺の所は、ルシエル君に聞いてみてください」
「・・はい。あの、ルシエルがザガリル様に無理に頼んだとか・・」
「それはありません。師匠は頼まれたから動く。と言う方ではありませんので。師匠の判断は面白いと感じるか感じないかです。あの方が面白いと思ったのなら、それはその価値がある物です。あの方を満足させられるかどうかは、ルシエル君に掛かっておりますが」
このような言い方をしたが、ザガリル本人がやると言っているのだから、博物館の完成に満足しないわけは無い。ルベレントには、別の思惑があった。
「とは言え、ルシエル君はまだ幼い。ルシエル君から大体の構想を聞き、それを実現させるのは貴方となるでしょう。建物の提供は致しますが、その他の事について師匠は一切手を出しません。結果のみが求められているのです」
ファスターにとって物凄い重圧となる言葉である。
ルシエルが思い付いた博物館と言う物がどう言った物なのかも分からないまま、全責任を背負わされたのだ。額にかいた汗を腕で拭いながら、ファスターは俯いた。
「資金の援助は私の方でします。師匠からのご命令で、ほぼ無利息でお貸しできますので、ご安心下さい」
「は、はい・・」
「急な話で驚かれたとは思いますが、私もルシエル君の発想に驚かされました。上手くいけば、この領土の改革も早まるかもしれませんよ」
「そうなのですか?」
「ええ。ご家族でルシエル君の話を良く聞き、これからどうしていくのかを皆さんでお考え下さい。きっと上手くいく事でしょう。楽しみにしていますよ、ファスター殿」
「はい。必ずや結果を出してみせます」
ファスターは力強く返事を返した。
まだ何をやるのかハッキリとは分からないが、ルベレント伯爵が太鼓判を押してくれているのだ。
それを疑う必要はない。
あの英雄ザガリル様の為にも、絶対に成功させて見せると、決意するのであった。
ルベレントが帰り、夕食を食べた後の家族の時間が始まろうとしていた。
今か今かと、この時間になるのを待っていたファスターは、マギルス達がこの時間を使ってお風呂に入りに行った事を確認すると家族に向かって口を開いた。
「これから、とても大切な話がある。全員、よく聞いて欲しい」
いつもとは違う父の態度に、ロイド達は顔を強張らせた。固唾を飲んで見つめる家族達を見て、ファスターは再び口を開く。
「今日、ルベレント伯爵が我が家にいらっしゃった。そこで、英雄ザガリル様が、この地に軍隊員の保養所と訓練所を建設なさるとのお話を頂いた」
「えっ!あのザガリル様なのですか?」
「まあ!」
「凄い事ですね、お父様」
「そんな素晴らしいお話が、この領地に来たのですか?」
「ああ。とても名誉ある事だ。勿論、そのお話をお受けする事にした」
歓喜に震える家族達の中で、あまり驚いた様子もなくニコニコとしているルシエルに、ファスターは視線を移した。
「だがその時、それとは別にもう一つ他の提案があった。ルーシェ。お父様の膝においで」
差し出されたファスターの手に、ルシエルは喜んで向かって行った。膝の上に座らされたルシエルは、ご機嫌な笑顔を見せる。
そんなルシエルにファスターは尋ねた。
「ルシエルは、ザガリル様に会った事があるんだな」
「はい。この間、ルベレント伯爵のお家に行った時に会ったの」
「そうか。その時の事をよく思い出して欲しいのだが、ザガリル様に博物館と言う物の話をしなかったか?」
「・・はい。した・・かも・・」
父につく初めての嘘は、少しだけ罪悪感が出てしまう。しかし、これは家族を救う為の嘘なのだからと、気持ちを切り替える。
少し答え難そうな顔をしたルシエルに、ファスターは優しい笑顔を向けた。
「怒っているわけでは無いんだよ。その博物館と言う物はどういうものなのか、父様に教えてくれないか?」
「えっと・・。この間、ザガリルが沢山の鎧とか剣とか見せてくれたの」
「ル、ルーシェ。ザガリル様と呼ばないといけないよ」
「でもね、父様。ザガリルが、俺の事はザガリルと呼べって言ったの。ルベレント伯爵が、そう言われたのなら様はつけちゃダメって」
自分の名前に様を付けて呼ぶのは何となく嫌である。ルベレントの名前を出せば、父様が黙る事は分かっている。
という事で、訂正はしないまま話を続けた。
「それでね。ルベレント伯爵が、これはとても珍しい物なんだって教えてくれたの。だからね、その鎧とかを父様達や皆んなにも見せてあげたいなぁって言ったの。そうしたら、そこにいた学者さんが、そう言うのを展示して見せる施設の事を博物館って言うんだよって教えてくれて・・。そうしたらザガリルが、その博物館という奴に自分の鎧とかを貸してやるから飾っていいって言ってた」
「なっ!」
ファスターは驚きで顎が外れるのでは無いかと言うくらいの衝撃を受ける。
あの伝説の英雄が所有している鎧や剣。
そんな価値の高い物を見させて頂けるなど、奇跡でしか無い。正直、自分も是非とも見せて頂きたいと願わずにはいられない。
その為なら、お金をいくら出しても構わない。
そう考えたファスターはハッとする。
この考えは、自分だけが思う事では無い。
この世界で生きる誰しもが思い願う事なのだ。
博物館と言うものさえあれば、見たい人が全国から押し寄せてくる。
そうなれば、この領土が潤う事は間違い無いのだ。
ルベレント伯爵の言っていた領地改革が早まるかもしれないと言うのは、この事だったのかと納得をする。
父の顔を見ていたルシエルは、ホッと胸を撫で下ろした。どうやら博物館の案はファスターに受け入れられた様である。
この世界には、博物館や美術館などの施設は無い。
価値のある物は大抵何処かの貴族の屋敷や城に飾ってある物だからだ。
自分も日本に行かなければ、そんな施設を作ろう等とは思わなかったであろう。
伝説の英雄扱いであるザガリルの所有物なら、見たい人間は沢山いるだろうし、いくらでも用意する事ができる。
しかも飾って置くだけなので、特に苦労する事もなく客がお金を運んで来てくれるのだ。
我ながらナイスアイディアだったと思う。
「お父様、その博物館と言う所に、ザガリル様の鎧とかがあるのですか?僕も一度見てみたいです」
「僕も見てみたいです。何処にあるのですか?」
父から英雄ザガリルの話を繰り返し聞かされて育ったロイドとマイロの瞳が輝いた。
「その博物館だが、今度この領土内に建設する事になった。そして、その博物館の維持や管理、運営の全ては、私に委ねられたのだ」
「「「ええっ!」」」
衝撃的な話である。
あのザガリル軍の保養所が出来るだけではなく、とても価値のある博物館の建設までこの領土になるのだ。
何も無い長閑な風景が広がるだけのこの領土に、そんな凄い物が出来るだなんて考えただけでもひっくり返りそうなくらいの驚きだった。
「ザガリル博物館については、全て私達家族で考え、話し合って作るようにと言われている。この領地に訪れた、とても幸運で有難いお話だ。必ず成功させなければならない」
父の言葉に、力強く頷きを落とした子供達の横では、エミリアが口に手を当て涙を流しながら俯く。
そんなエミリアを見て、ファスターはルシエルを下に降ろすと、エミリアの側へと歩み寄って行った。
エミリアの横に座っていたアシュアは、サッとソファーから立ち上がるとその場を父に譲る。
ファスターは穏やかな笑みをアシュアに向けた後、エミリアの横に座って肩を抱いた。
「今まで、君にはずっと苦労をかけ続けてきた。本当に済まなかったと思っている」
「いいえ。そんな事はございません。貴方と四人の可愛い子供達に囲まれて、苦労に思う事なんてありませんでした」
「エミリア・・」
「今回のこの幸運は、貴方の沢山の努力が実ったからだと思っております。貴方だったからこそ、この様な幸運に恵まれたのです。私は、貴方の妻である事を誇りに思います」
「ありがとう、エミリア。私も君と言う素晴らしい妻と大切な子供達に囲まれながら、家族として共に生きられる事を誇りとしている。これから先の長き生の中、いつまでも一緒に歩んで行って欲しい」
「勿論です。あなた」
子供達を気にする事なく、ラブラブな空気を出す両親に、なんとなく居た堪れない気持ちになる。
それでもやっぱり、両親が仲良くしている姿を見るのは子供として嬉しいものである。
少し照れくさい様な笑顔を見せた兄達と姉は、対面のソファーに座るルシエルの横に座り直した。
「ルーシェは、ザガリル様に会ったんだね。どんな方だった?」
「いいなぁ。俺もお会いしたかったな。きっと素晴らしいお方なのだろうな」
「私もお会いしたかった。ねえ。ルベレント伯爵のお家でって言う事は、シルフィナさんのお家でしょ?ザガリル様がお見えになるなんて、やっぱりお父様が軍隊員をなさっていらっしゃるからなのね。凄いわぁ」
アシュアからシルフィナの名前が出て来た事で、ルシエルはふと思い出した。
「アシュアちゃんとシルフィナさんはお友達なの?」
「うん。そうよ。シルフィナさんはとても素晴らしいお方なの。あれだけ高貴なお家柄なのに、その事を鼻にかける事なく誰にでも優しいんだから。本当に天女みたいな女性なのよ」
「ふぅーん。そうなんだ」
「ただ・・。ここ最近、学校をお休みしているから心配しているの。ルーシェがシルフィナさんのお家にいた時、どこか具合が悪そうだった?あの次の日からお休みしているのよね。手紙を頂いたんだけど、学校を休む理由などには触れていなくて・・」
「えっ?えっと・・僕、分からない」
ルシエルは慌てて左右に頭を振る。
原因なら心当たりがある。ありすぎる。
あれが原因で一ヶ月以上も学校にも行けなくなってしまっているのかと思うと罪悪感が増す。
まあ、これ以上自分が関わってもろくな事にはならなそうなので、その件はルベレントに任せる事にした。
「そっか・・」と小さく呟いた姉は、まだ気にしているようではあるが、その件を引っ込めた。
「それにしても、ザガリル様の博物館を家族で経営するなんて、夢のような話だよな」
「うん。あの伝説の英雄の鎧や剣をお預かり出来るなんて本当に夢のような話だよ」
ロイドとマイロはいまだに信じられないと、互いの頬っぺたをつねりあう。頬の痛みに顔を顰めたが、その痛みは幸運の証である。
再び二人で笑い合った。
「それと言うのも、ザガリル様にお伺いを立ててくれたルーシェのお陰だ。この幸運を逃す事なく、家族で助け合い、必ずや成功させなければならない。どんな風にしていくのか、みんなで意見を出し合って欲しい」
真剣な顔に戻したファスターは、子供達に向き合った。ひと呼吸置いたアシュアが顔を上げる。
「展示した物の前に、その物の由来やザガリル様のご活躍のお話を書くのはどうかしら」
「それは良い案だ。他にも、そう言う意見を出してみてくれ」
家族達は、うーんと唸ったまま黙り込んでしまった。まず博物館という物を見た事がない為、どの様な物になるのか想像が出来ない。
展示物の名前や由来を書く以外の案は思い浮かばなかった。
そんな家族達を見て、ルーシェも考え込む。
そう言う案が欲しいわけでは無いのだ。
博物館なんてものは、鎧等を適当に展示しておけば良いだけだからだ。
そう言うのじゃなくて、もっと大きな案が欲しい。
しかし、自分が意見を出してしまうのは、年齢的にマズイだろうか。
チラリと視線を上げると、ファスターと目があった。
「ルーシェ。何か良い案があったのかな?」
ファスターは、ソファーに座るルシエルを抱き上げて自分の膝に座らせた。
このまま家族達に任せていても、全く話が進まなそうである。なんとか気付いて貰いたいとザガリルの存在を使ってみる。
「あのね。ザガリルが、目の前の小さな物では無く、周りの大きな物に目を向けろって言ってたよ」
「周りの大きな物?ザガリル様がそう言っていたのか?」
「うん。博物館はあくまで目の前の小さな物だって。それがある事によって必要となるものは、変わってくるんだって」
「博物館だけではなく、その他の事にも目を向けろと言う事か。そうなると、やはり領土内の道路の整備を進めなくてはならないな」
博物館の場所さえ決まったのなら、そこに行くまでの道の整備を優先的にしなくてはならない。
ファスターは、領土の地図を取ると、その地図をテーブルに広げた。
家族達が、どの様に道路を広げていくかを考えている横で、ルシエルはガックリと肩を落とす。
そんな物は、軍の奴らにやらせておけばいいだけの話である。
ルシエルが言いたいのは、博物館に来た客にいかに金を落とさせるかを考えて欲しいと言う事だった。
遠回しの言い方では、金儲けを考えた事のない父達から案が出る事はなさそうである。
時間の無駄になると判断したルシエルは、仕方なしに口を開いた。
「道路とかはザガリルが勝手に作ると思うよ。そうじゃなくて、どうやったら沢山のお金をこの領土内で稼ぐ事が出来るかを考えろって事だって言ってたよ」
「お金を得る方法?」
「僕は、みんなが泊まれる宿泊所がいいと思うって言ったらザガリルに褒められた」
ルシエルの言葉に、ファスターは再びハッとした。
この田舎に遠くから来た人達が日帰りで帰る事は無いだろう。この領地に泊まる所がなければ、魔導馬車で隣の村や町に行ってそこで泊まる事になる。
しかし、この領土に宿泊所があれば、そこに泊まるのは間違いない。
過疎化が進むこの領土に、働き口が出来れば、民も増えるのだ。
「そうか。確かに宿泊施設の建設は必要だな。そうなれば、そこからの収入も出来る事で、この領土も潤う」
「凄いよ、ルーシェ。僕達はそこまで思い浮かばなかった。僕より領主にあってるかもしれないな」
ロイドは小さな天使に微笑みかける。
先行き不安でしか無かったこの領土の経営は、これを機に好転するであろう。
次期領主として未来の為に案を出さなければならないのに、弟の様な柔軟さが無かった事が少し悔しい。
少し落ち込みを見せたロイドをファスターが見つめる。
「ルーシェの案を聞かなければ、そんな事にも気付けない私も、まだまだの様だな。しかし、宿泊施設と聞いて、少し考えがまとまった。宿泊施設だけではなく、飲食の出来る店なども作ろう。ゆくゆくは、小さな町の様にしたいと思う」
「「「わぁー」」」
小さな町の様な物を作る。
それは、村はあるが町は無いこの領土に、是非欲しいと願ってやまない物である。
未来を背負っていく子供達の瞳には、明るい希望が見える。
ルシエルはホッとした。
ようやく自分が願っていた通りの展開になったのだ。あとは、ザガリルを使って、無いと不便だからとか言う理由で建物を建ててしまい、経営よろしく〜と傍若無人に押し付けて仕舞えば、何とかなりそうである。
ニッコリと微笑んだルシエルは、父の顔を見る。「ん?」と微笑みを返したファスターに、ルシエルは告げる。
「あのね。ザガリルが、貴族と市民が見られる日や施設を分けて、貴族からはがっぽり取れって言ってたよ」
それを聞いたファスターは目を白黒させる。
無邪気な息子は天使の笑顔で物凄い事を言う。
しかし、それは難しい事では無い。
グレードを変えるなどすれば、貴族は文句なく高い方を選ぶからだ。
(経営と言うのは、こう言うものだったな)
苦笑いを落としたファスターは、その日から様々な意見を取り入れた小さな町建設の計画に取り掛かったのであった。




