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19.カエルが家にやって来た

ルシエルがルベレントの屋敷から戻って、ひと月が経った。


最近の家族は、ルシエルを放置しない。

家族達に囲まれての生活が戻って来た事で、ルシエルはご満悦である。


今日のファスターは、領主としての仕事がなく、裏庭にある畑を耕していた。勿論良い子のルシエル君は、その横でお手伝いに精を出す。


ルシエルが屋敷に帰って来て暫くした頃、ルベレントからファスター宛に領地改革計画書なる物が送られて来た。

その計画書を読んだファスターの感想は、こんな手抜きで本当に大丈夫なのか?と言うものだった。

しかし、ルベレントの好意を無に出来ない。

ファスターは、その計画書通りに進める事にした。


この領土に安定して収入を得る事が出来る資源は皆無である。そこでファスターが考えていたのは、領土の一区画に住宅地を作り、人口を増やす事であった。


ルベレントはファスターの考えを読んでいた様で、住宅地造成及び交通事情の解消及び誘致の為の計画書をつくってくれてあった。

まず第一段階である住宅地造成の為の下準備を始めてみたが、これが驚く程順調に進んでいく。

自分と妻が一生懸命駆けずり回って伝手を作っていても、全く進まなかったのにも関わらずだ。


(流石、ルベレント伯爵だ! )


ファスターの中で、ルベレントの株はもう上が見えないほど急上昇しまくった。

軍隊員達がこの領地改革の基礎に手を加えている事は言うまでもないが、それを知らないファスターの中で、ルベレントへの尊敬や忠誠心は、今や国王をも抜く勢いだ。


キチンと家族の時間まで計画書には取られており、ルシエルが寂しい思いをする事はない。


今日もご機嫌なルシエルは、お手伝いで雑草をポチポチ抜いていく。

一生懸命抜いた草は、小さく山になっていた。

手を休め、一息ついたファスターは、しゃがみこんでいるルシエルを軽々と抱き上げた。


「さあ、ルーシェ。おやつの時間にしよう」

「はい、父様!」


笑顔を見せたルシエルは、ファスターの体にしがみ付く。

汚れなんて気にしない。

甘えられる時間を目一杯味わっていた。


ルシエルを抱き上げて歩き出したファスターは、庭に置いてあるテーブルへと足を運ぶ。

そこには穏やかな顔で二人を見つめる母エミリアの姿があった。


「まあ、二人共。泥だらけね」


クスクスと笑うエミリアは、二人に濡れたタオルを差し出した。

ルシエルを下に降ろしたファスターは、タオルを受け取ると、土で汚れた顔と手を拭く。


「父様のお手伝い、いっぱいしたんだよ」


笑顔を見せるルシエルの手を拭きながら、エミリアは愛情たっぷりの瞳でルシエルを見つめた。


「偉かったわね、ルーシェ。さあ、お腹が空いたでしょ?クッキーを用意しておきましたよ」


差し出されたクッキーは、エミリアの手作りクッキーである。素朴な味ではあるが、母の愛が隠し味となっている為、ルシエルの一番大好きなお菓子だ。


両親達は寄り添いあいながら、喜んでクッキーを頬張るルシエルを見つめ続けた。



そろそろ休憩も終わりと言う頃、紅茶を飲んでいたファスターの手がピタリと止まった。

玄関の方から、馬の嘶きが聞こえて来たのだ。

一頭や二頭ではない。

大きな馬車を所有している者で、この領地に来る者など殆どいない。


(まさか、ルベレント伯爵か?)


ファスターは慌てて立ち上がると妻を見た。


「エミリア。大きな馬車が来た。もしかしたらルベレント伯爵かもしれん」

「まあ、大変。貴方、急いで下さい」


ルシエルの手を引きながら、両親は急いで玄関の方へと向かって行った。

玄関前まで来ると、もう既に馬車は止まっており、マギルスが客の相手をしている所であった。


「だから、この家の主人を呼んで来いと言っているのだ!なんなんだ、お前は!」


苛立ちを見せる男は、マギルスの態度が気に入らないようである。

ガマガエルのような横に長い大きな顔を真っ赤にさせ、地団駄を踏んでいる。

服装はどう見ても成金。ごちゃごちゃと宝石を散りばめた重そうな服を着ている。


苛立つ男を見たファスターは、慌てて声を掛けた。


「クレーグ殿!如何なさいましたか」

「ん?やっと来たのか。それよりも、この男はなんなんだ!この俺様に無礼を働いたぞ。さっさと処分しろ!」

「大変申し訳ございません。この者には後でキツく注意をしておきますので、どうかお許し下さい」


ファスターが頭を下げたのを見ても、クレーグの機嫌は治らない。

怒鳴り散らそうと大きく口を開けた時、ファスターの後ろにエミリアがいる事に気が付き、頬を緩めた。


「これはこれは、エミリア殿。お久しぶりですな。貴女は相変わらず、お美しい」


周囲に悟られぬ様に少し引き攣った顔を見せたエミリアは、静かにペコリと頭を下げる。


「クレーグ様。我が家の使用人が、大変ご無礼を致しました。お許し下さい」

「まあ、貴女に免じて許して差し上げましょう。貴女に頭を下げられて許さぬ者などおりませんからな」


ハッハッハッと笑いながら、クレーグは脂の乗ってそうな丸々とした手で、エミリアの手を取った。

反対の手も乗せてネットリとした手付きで何度も摩りながら、品定めするようにエミリアの体を上から下へと何度も視線を向けている。


「よく分かりませんが、このカエルが旦那様にご用事があるそうです」


空気の読めない男、マギルスが状況を話す。


「マ、マギト!」

「なっ。なんだとぉ!!」


慌ててファスターが止めようとしたが時既に遅し。


クレーグにはしっかりとマギルスの言葉が届いていた。

再び真っ赤な顔でマギルスを睨んだが、その手は離していない。


そこにすかさず、しゃがみこんでいたルシエルが立ち上がった。

その小さな手に持っていた物を、エミリアの手をガッチリ掴んで離さないクレーグの手の甲に置く。


「はい。お友達だよ」


自身の手にネチョッとした感覚を覚えたクレーグは視線を移した。


「ん?」

「ゲロゲロ」


青々としたテカリのある体をした可愛らしいアマガエルが返事を返す。

クレーグは目を見開いて一瞬固まり、次の瞬間大声で叫んだ。


「ギャアー!」


クレーグはエミリアの手を離して、その手に乗るカエルを急いで振り落とした。

ピョーンと跳ねて着地したカエルは、何事もなかったかのように草むらへと姿を消す。

しかしクレーグは、未だ手をパタパタさせながら身悶えしている。


「ああ!折角カエルさん捕まえたのに・・」

「何が折角だ!この俺様は、カエルなんて大嫌・・い・・なんだ・・」


クレーグの声は尻窄みになっていく。

その瞳に、何とも可愛らしい天使のようなルシエルの姿を捉えたからだ。

初めて見たファスター家の三男坊から目が離せない。


昔、エミリアが女児を産んだらしいと聞いて、いそいそと見に来た事があった。

しかし、そこにいたのは、性別を間違えているのでは無いかと言うくらい活発な男の子の様な32歳(外見年齢6歳)の少女だった。


そして二人の息子も、殆どエミリアには似ていなかった為、それからは子供への興味を完全に失っていたのだ。


クレーグはルシエルに向けていた視線を、隣に立つエミリアへと向ける。

そして直ぐにルシエルへと視線を戻した。


(こんな可愛い子供がいたのか!エミリアと一緒に、この子を我が家に迎えれば・・)


クレーグの頭の中では瞬時に未来への構想が浮かび上がる。

気を取り直すと、ファスターに視線を移した。


「今日ここに来たのは、この件についてだ」


クレーグは一枚の紙を出して見せた。

それはリオール家の借金の借用書である。


「その件でと申されますと・・」


毎月キチンと返済はしている。

しかも最近はルベレントからのお金がある為、返済額を少し増やしていたのだ。

特に問題は無い筈だとファスターは首を傾げる。


「この借金だが、今月中に全額返済をして貰う事になった」

「なっ。何故なのですか!私は毎月キチンと返済している筈です」

「少し金が入り用になってな。早急に返済の手続きに入って貰おう」

「そんな。話が違います」

「だったら他の者から借りればいいだろう。まあ、どうしても出来ないと言うのなら・・」


クレーグはチラリとその瞳をエミリアに移した。

美しい。何度見てもエミリアは美しい。

こんな貧乏男爵の妻にしておくには惜しい程に、エミリアは美しいのだ。

それに、エミリアの横にいる子供。

この子はエミリアの美しさを受け継いでいる。

クレーグは美しいものに目がないのだ。

二人揃って引き取り、自分の妻と子供にしたい。

それならば一億ちょっとの金など惜しいとは思わない。


クレーグの視線の意味を瞬時に理解したファスターの顔は青褪める。


当初は違う数件の金貸しにお金を借りていた。

しかし、いつのまにかクレーグに借用書が渡ってしまい一本化されたのだ。

利息は前の金貸しよりも高い。

そして運が悪い事に、その時期にこの地を干ばつが襲った。

領民達を守る為、返済金をそちらに回してしまい、支払う事が出来なかった時期があったのだ。


干ばつを救う為の追加資金と、払えなかった時期の利息と制裁金が合わさり、新たに結ばれた契約での借金は一億レインを越してしまった。

元々の借金と追加資金を合わせても5千万程しか無い筈なのにだ。


新しい借金の契約になってからは、一度だって返済が遅れた事は無い。

金額には納得していないが、それでもきちんと毎月返済していたのに、この仕打ちである。


悔しさからグッと拳を握ったファスターは、妻とルシエルを見る。


クレーグは昔からエミリアを狙っていた。

借金の返済ができなくなれば、きっとエミリアを差し出せと言ってくる事は分かっていた。

加えて、今回からはルシエルまで狙われるようになってしまったのだ。


しかし、一億以上の金を返済する力は無い。

この領地の改革は、順調に進み始めている。

何とかあと数年待って貰わなければならないのだ。


「そのお話は中でお茶でも飲みながら・・」

「冗談じゃない。こんな汚い屋敷になど入ったら、この俺様の素晴らしい服が汚れるだろう!期間は一か月。それ以上は待たん」


クレーグの言葉に、ルシエルの眉間にシワが寄った。大好きなルシエルの家を侮辱した発言。

これは許されるべきものではない。

ルシエルと言う存在を守りながら、このカエルをどうやって消そうかを考えていた、その時だった。


「どうかしたのですか?」


両手で大きな紙袋を抱えた二人の男が帰って来た。

男達は、ルシエルの眉間にシワが寄っている事をすぐ様確認すると、見慣れない目の前にいる男に瞳を移した。


「ネル、タナー。帰ったのか。荷物はキッチンにでも運んでおいてくれ」


ファスターの言葉に、二人は頷きを落としたが、その場から動こうとしない。


名前を少し短くしてあるが、彼らは第二小隊のネルダルとタナウスである。

ザガリルがルシエルの体から離れた時に、ルシエルの体を保護及び護衛させる為に連れて帰って来たのだ。

ルベレントから、またあと二人そちらで雇っておいて貰いたいと頼まれたファスターは、勿論快く引き受けていた。


大きな体をしたタナーと魔法が得意なネルはマギトとは違い、会話をきちんとする分とても接しやすい。

今日は、隣町にお買い物に行って貰っていたのだが、もう帰って来た様である。


「ファスター殿、こちらは?」

「クレーグ殿だ。二人共、失礼の無いようにな」


ファスターから釘を刺されたが、二人はそんな事を気にしている余裕はない。

この屋敷に来てからは、ルシエルの機嫌がすこぶる良い感じであったのに、少しそばを離れていただけで、急激に悪くなってしまっている。

その原因はどう考えても、この目の前にいる男であろう。自身の身の安全を確保する為にも、この男を排除せねばならぬのだ。


「お帰りですか?それなら出口はあちらです」


ネルダルは、屋敷の外を指差した。

その態度に、クレーグはフンッと鼻を鳴らす。


「まあ、いいだろう。要件は済んだからな。残りの金額を今月中に用意しろ。いいな!」


クレーグは広げた借用書の紙をヒラヒラさせて見せる。それを見ていたタナウスがスッとその借用書を取り上げた。


「ふーん。借用書かぁ・・」


呟きを落としたタナウスは、そのまま借用書をネルダルに渡す。

受け取ったネルダルはチラリと中を見ると、手に炎を出して借用書を燃やしてしまった。


「これで用事は済んだようだな。どうぞ、お帰りを」


唖然とした顔で見つめていたクレーグは、我に返ると高笑いを返した。


「馬鹿め。あの借用書は写しだ。本物は隠して置いてある。あんな写しを燃やしたからと言って、借金は消えないからな」


クレーグの言葉に、タナウスとネルダルの額に青筋が立った。


「誰に向かって言葉を吐いている。我らはザガリル軍、第二小隊の者であるぞ。この場から、とっとと消え失せろ」


怒りを露わにするタナウスにクレーグが後退りをする。


まさかこんな田舎に、ザガリル軍の第二小隊の者達がいるとは思ってもいなかったのだ。

しかし、自分にはとっておきの切り札がある。

この二人など恐れるに足りぬ。


「まあ良い。これ以上、ここに用はないからな。おい、帰るぞ」


クレーグは、少し後ろに離れていたお付きの従者二人に声をかける。

歩き出した三人を見ていたネルダルが「アッ」と小さく声を上げた。


外に止まっている馬車は、六頭引きの豪華さを極めた、なかなか美しい馬車である。

このリオール家には小さな馬車しかない。

これからは自分達が側にいる為、少し大きめな馬車が欲しいと思っていた所であった。


「なかなか良い馬車じゃないか。よし。これは我らがこのまま受け取っておこう」

「少し品がないが、仕方がない。我慢してやる」


ネルダルとタナウスの言葉に、コイツらは何を言っているのかとクレーグが視線を向けた。

それを見たネルダルは、笑顔でタナウスを見る。


「確かさっき、魔道馬車の停留所があっちの方にあったよな?送ってやれよ、タナー」

「そうだな。俺は優しいから送ってやるとするか」


紙袋をネルダルへと渡したタナウスは、クレーグへと歩み寄ると、襟元をグッと掴んで持ち上げた。


「なっ。何を・・」

「確か、この方角だったな」


よく覚えていないが、多分こっちだったと思う。

距離にして二キロ位であろう。

タナウスはビキッと腕に筋を走らせると、掴んでいたクレーグを思いっきり投げ飛ばした。


「おお!よく飛んだな。流石、カエルだな」


両手に持った紙袋の隙間から、遠くを見つめたネルダルがケタケタと笑う。

そんなネルダルをタナウスが不思議そうな顔で見た。


「カエルって空を飛ぶのか?」

「ジャンプしたのと同じだろ?着地くらい出来るさ」


ふと足元を見ると、一匹の小さなアマガエルが、石の上からジャンプをして地面へと華麗に着地をした。


「成る程な。さて次は・・」


その場に取り残された従者にタナウスが視線を向けると、二人は慌てて走り出した。

それを見ていた馬の手綱を握っていた男も、馬車から転がり落ちるように降りて彼らの後を追う。

彼らが去って行くのを見つめていたネルダルが、溜息を落とした。


「ちゃんと敷地内に馬車を入れて行って貰いたかったな・・。タナウス、出来るか?」

「ああ。俺が入れておこう」


タナウスが馬車へと向かっていくのを見送ったネルダルは、茫然としているファスターへと視線を移した。


「ファスター殿。どうかしましたか?」


心底、不思議そうな顔で尋ねるネルダルに、色々な事が頭を駆け巡っているファスターは上手く言葉が出てこない。


まず、目の前からクレーグは消え去ったが、借金は残ったままである。

そして延長は認められず、クレーグは一ヶ月後にどんな事をしてでも借金の回収に来るであろう。

なんとかして資金を集めなければ大切な妻と子供を奪われる事になる。


暗い表情で俯くファスターに、ネルダルが歩み寄る。

その気配に、ファスターは顔を上げた。


ネルとタナーが、自分達は第二小隊だと言っていたのをファスターも聞いていた。

第二小隊と言えば、第三小隊であるルベレント伯爵よりも地位が高い方達である。


そんな凄い方達が目の前に、しかも自分の家にいらっしゃると言う事に戸惑いもあるが、ルベレント伯爵からお二方を頼まれたのだから、何か理由があるのであろう。

ここは気が付かなかったフリをして、普段通りに接するのが良いと判断した。


もう既にマギトと言う軍隊員が家で生活をしていた事もあり、なんとかその驚くべき事柄を飲み込む事が出来たファスターであったが、その顔はやはり暗い。


「ルベレントに相談してみては?」


今までネルダル達は、ルベレント伯爵と呼びながら敬語を使っていたのだが、それは止めたようである。


そんな立場の高いネルダルの言葉でも、ファスターは素直に頷きを落とす事は出来なかった。

借金は一億以上ある。

いくらなんでも、そんな大金をなんとかして欲しいなどと、ルベレント伯爵に頼めないのだ。


苦悩を見せるファスターを、ネルダルはジッと見つめていた。


うんと言って貰わないと困るのだ。

あのカエルが来ると、師匠の機嫌が悪くなる。

そうなると八つ当たりをされるのは、どう考えても自分達だ。

たかが一億程度の金で死にたくない。

これが本音である。


フゥッと吐息を落としたネルダルは、ファスターに告げる。


「貴方が一番守りたい物はなんですか?」

「一番守りたい物・・」

「ええ。貴方の思考やプライドですか?それとも、この家にいる家族や領民達ですか?」


その答えは決まっている。

ファスターが一番守りたいものは家族や領民達なのだから。


「その答えは勿論、家族と領民達です」

「だったら、貴方がすべき事は決まっているでしょう。他に方法があるのですか?」


他に方法などは無い。

担保の無い潰れかけの貧乏男爵家に、一億以上のお金を貸してくれる所など、絶対に見つからないのだ。

ネルダルの言う通り、他に道はない。


分かってはいるが、これだけ自分達に良くしてくれているルベレント伯爵に頼まなければならない事が悔しいのだ。

まるで恩を仇で返す気分である。


「貴方は、もう少しずる賢くなるべきだと思いますね。領主として、清廉潔白過ぎる。困ったものですが、それが貴方の良い所なのかもしれませんね」


ネルダルがチラリとエミリアに視線を向けると、少し困った様な表情をしたエミリアが小さく頭を下げる。

もう少し領主として・・と思いながらも、そんな彼だからこそ心の底から愛しているのだと、女の苦悩とも言える、なんとも言えない表情であった。


「もし貴方から言い難いのであるならば、私からルベレントに告げてもいいですよ」


ネルダルの言葉に、ファスターが慌てて顔を上げた。


「いいえ。これは私の問題です。私の口から、ルベレント伯爵にお願いをしてみます」

「そうですか。それなら、お任せ致します。あまり深く考え込む必要はありませんよ。ルベレントなら、この程度の問題はなんとでもなる簡単なものですから」

「はい・・」

「私達がここに来て、まだひと月程でしょうか。しかし、ここの土地を私もタナーも愛しています。常に戦闘ばかりを押し付けられる私達のような戦闘員には、こう言う穏やかな場所が必要なのです。大変だとは思いますが、頑張って下さいね。ファスター殿」

「はい。分かりました」


ファスターは、今度は力強く返事を返した。

自分も生まれた時から育ったこの土地を愛している。

あるのは自然ばかりで、なんの収益にもならない土地ではあるが、何処よりも美しい土地だと思っている。


それをあのザガリル軍に所属している方、しかも第二小隊の方に認めて頂けるなど、これ以上幸福な事はない。


絶対にこの土地を守ってみせる。


ファスターは、力強い眼差しで遠くの山々を見つめるのであった。





女の子向けでは有りますが、違うジャンルの物語も書いています。

もし良かったら、読んでみてください。

(恋愛モノが少し苦手なので四苦八苦してます)



こちらの話も、あちらの話も、ブックマーク及び評価等、お待ちしてます。

どうぞ、よろしく!

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