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当て猫娘の出会い

 朝食が終わると、アリスタリフは仕事をするということで一度別れることになった。

 オリビアとしては仕事について行きたかったが、暇だからと話しかけてはアリスタリフの仕事にならない。なので一緒の空間にいても時間を潰せる本を書斎で借りさせてもらう事にした。

「凄い蔵書ね。個人用には思えないわ。まるで図書館ね」

「本当ですね。でも本を鎖につないでないので、やはり個人用なのでしょうね」


 本の独特な臭いに鼻をひくひくさせながら、オリビアは本を見て回る。オリビアが気になる本を取り出してみたが、その本はチェレスリーナが言う通り、鎖で繋がれてはいなかった。本というのはとても貴重なものだ。なので、もしも多くの人が出入りして読むならば、防犯として鎖で繋ぐのが普通だ。それをしていないということは個人的な所有物ということになる。

「……五年間外に出なかったから、沢山読んだのかしら」

「そうかもしれませんね。あの辺りには娯楽本もあるようですし」

 娯楽本は紙の質が落ちる代わりに低価格で、内容も冒険や恋愛、推理物などと、若者が暇をつぶす為に読む本だ。本棚にしまわれているこれらは、新品とは違い端がくたっとしてる。何度も読んだ証だ。

 それを手に取り、オリビアは少しだけだけ黙り込みながら、立ち読みする。そして数ページ読み進めたところでぱたんと本を閉じた。


「なら、私も色々読んで感想を言い合うのも楽しそうね。こういう本なら、私も何冊も読めそうだわ。これだけ沢山の蔵書をお持ちだもの。きっと本はお好きよね」

「お嬢様のその前向きさは素晴らしいですね」

「褒めてるのよね?」

 チェレスリーナの言葉に、オリビアは半眼の目で見つめる。

 それに対して彼女は肩をすくめた。

「勿論です。何でも同情して可哀想がる猫より、お嬢様のようになんでも楽しもうとする猫の方が私は好きですよ」

「ありがとう。くよくよしても仕方がないもの。折角異国の本を読んで、本好きの方と話せる機会があるなら、楽しまなくちゃ」

 オリビアはそう言って、どの本がいいか吟味する。

 娯楽本も蔵書数がかなりあったのでよりどりみどりだ。


 しばらく吟味した結果、海賊が冒険する話全三巻と推理小説と妖精などが出るファンタジー小説をそれぞれ一冊づつ手に取った。

「うーん。やっぱり男性だから恋愛もの系の話はないのね」

「まあ、そうでしょうね。逆に置いてあるなら、どこかに隠してあるのではないですかね?」

「なるほど。ベッドの下とかのアレね!」

「……お嬢様って、そういうネタお嬢様なのによく知ってますよね」

「だって、娯楽本に書いてあるもの」

 ニコニコ笑うオリビアに、チェレスリーナは若干呆れたようなため息をつく。

「……勝手にベッドの下探したりしては駄目ですよ」

「わかってるわ。やる時は、堂々とね」

「堂々とでも駄目です」

「冗談よ」

 しばらく雑談をしていると、書斎の扉が鳴らされた。


「オリビア様。赤玉公夫妻がお見えです。ご用意をお願いできますか?」

「分かりました。申し訳ないけれど、これらの本を預かっておいてくれないかしら」

「かしこまりました」

 使用人が中に入ってくると、オリビアはピシッと背筋を伸ばし、貴族令嬢らしい完璧な笑みを浮かべた。とても先ほどまで男性のベッドの下話をしていたようには見えない猫かぶりだ。

 その後ろでチェレスリーナも素知らぬ顔をする。


 案内された客室は一階で、初めてオリビアがアリスタリフと面会した部屋だった。

 使用人にドアが開けられたので、オリビアは中へ足を進める。

 向かい合わせで置かれたソファーは、片方にはアリスタリフが、もう片方には一組の男女が座っていた。赤玉公というので赤いイメージだったが、男性の髪色は紺色だ。その代り瞳は赤く、おでこのあたりから二本の角が生えている。隣に座る品の良さそうな女性もまた角が生えていたが、隣の彼よりは短い。髪色は若草色で、瞳は紺色だった。

(凄く龍種らしい外見の方ね)

 猫種も人種も髪色は、黒か茶色、もしくは白、金、銀程度しか存在しないが、龍種はとてもカラフルな色合いをしている事が多い。髪色は大抵が龍の姿の時の鱗の色だ。

 ちなみにオリビアの三毛髪も猫種独特のものだったりする。


「赤玉公、ご紹介します。彼女はオリビア。私の婚約者です。オリビア。彼は赤玉公で、その隣の女性が赤玉公夫人だ」

「初めまして、オリビアと申します」

 本当はまだ婚約予定者のはずだが、ここであえて否定しても面倒かと思い、オリビアはスカートのスカートをつまみ挨拶をする。

(まあ、婚約予定者とか何って感じだろうし。普通なら婚約をしないなら、祖国に帰るものだものね)

 アリスタリフの妻を見つけるために滞在しているのだが、いちいち説明するのも大変そうだ。彼女が滞在するには理由がいるが、彼女は国賓でもあるので使用人のように扱うわけにもいかない。

 未婚の男女なわけなので、婚約者としておいた方が、説明はしやすいはずだとオリビアは考えた。


「これは可愛らしい、猫種のお嬢さんだね。初めまして、私は赤玉公の位のドロフェイだ」

「私は彼の妻のアナスタシヤ・エドゥアルドヴナ・メドヴェージよ。よろしくね」

(名前が三つ? 姓名と後は何?)

 夫人の名前が長かったために、オリビアは首をかしげることになった。言語は統一言語だが、文化が違うとやはり、名づけ方などの習慣も違うので分かりにくい。

「あの、どうお呼びすればよろしいでしょうか?」

「ああ。そういえば、オリビアさんは父称のない国からいらしていたんでしたね。普通にアナスタシヤ……そうね、ナースチャと呼んでちょうだい。ちなみに赤玉公になると、名前のみで、父称も家名も名乗らなくなるの。アーリャのようにね」

 親切にアナスタシヤが説明すると、オリビアはギョッとした顔でアリスタリフの顔を見た。

(そういえば、名乗られなかったわ。というか、つまり彼は公爵位と同等の立場なの? ああ、外国の爵位って分かりにくい!!)

 元々三光家という考え方もオリビアにはまだ理解しきれていないものだったので、余計に混乱する。王家に連なるような立場ということだったので、身分は高いとは思っていたけれど。


「何だ、まだ説明していなかったのか」

「……説明する前に、あなた方が訪問を申し込まれたのでしょうが。彼女は昨日の夕方こちらに来たばかりなのです」

「だって、早く会わないと、会う前にに婚約破棄されてしまうかもしれないもの。それに私たちの息子がお願いして異国からわざわざ来ていただいた方でしょう? 不自由ある生活をさせられていたらいけないと思ったのよ。衣服は足りているかしら? 装飾品のことでも食べ物のことでも、困ったことがあれば何でも言ってちょうだい」

「ちゃんとそれは私が—―」

「男と女では必要だと感じる物も違うのよ!」

 どうやら母親よりも年上だとアリスタリフが言ったことは間違っていないようで、彼はアナスタシアの言葉に押されてタジタジしている。


「お気遣いありがとうございます。でも大丈夫です。アーリャには、とてもよくしていただいておりますので」

「あら、あら、あら。えっ。嘘。アーリャ、良かったじゃないの! とうとうアーリャを怖がらない素敵な婚約者ができたのね!」

「何ということだ。神よっ!!」

 可愛らしくはしゃぐアナスタシアの横で、赤玉公も手を組み神に感謝を始めた。

「ちょっと待って下さい!!」

 オリビアが勝手に解釈された事に対して、どう反論しようかと考えていると、それより前にアリスタリフが大声で二人を止めた。

 多少苛立ちが混じったせいか、牙を見せている。その様子に、今まで全く動じなかったオリビアもビクッと体を揺らし、尻尾が足の間に入ってしまう。


 オリビアの様子が目に入ったのだろう。アリスタリフはすぐに牙をしまい、シュンとした。

「すまない、怖がらせてしまって」

「いえ。気にしないで下さい。そのうち慣れると思いますし、私に対して苛立ったわけではないと理解してますから」

「ごめんなさいね。決してからかおうと思ったわけではないの」

「私もすまなかった」

 アリスタリフが謝れば、三人が三人とも彼を慰める方にまわった。苛立ったことで一番傷ついているのは彼だと皆分かっているからだ。


「説明を省いた俺が悪いんです。今はオリビアとは、一応婚約者としていますが、お互い婚約の準備期間としているので、私達の気持ちが定まるまではそっとしてもらえないでしょうか」

 アリスタリフが頭を下げると、赤玉公たちは顔を見合わせた。そして二人共苦笑する。

「分かったわ。もちろん貴方達が上手くいくことを私たちは願っているけれど、それを押し付けたりしないわ。龍種の血にかけてね」

「私も龍種の血にかけて誓おう」

 手を握り左胸の上に置くと、彼らは誓いを立てた。龍種は約束する時に血にかけるという言葉を使うのは世界共通だ。そのためオリビアは少々大袈裟だなと思いつつも、ありがたくその誓約を受け入れる。


「でもいつもなら来るなの一点張りなのに、今回は珍しく早朝に聞きたい事があると通心で連絡が来たから、もしかしてと少し期待してしまったのよ。気を悪くしないでね」

 すまなそうにするアナスタシアにオリビアは慌てて頭を振った。

「あの、大丈夫です。実はその聞きたい事は、私が発案したことでもあるので」

「あら、そうなの? 何を聞きたいの?」

 オリビアがアリスタリフをチラリとみれば、彼は話してくれと首を縦に動かした。

「実は、龍種の持つ【威圧】をアーリャは常時発動状態ではないかと思いまして。できたら【威圧】の止め方を教えていただけたらと思ったんです」

「えっと……どういう事かしら?」

 こういう質問が飛んで来るとは思わなかったらしいアナスタシアはパチパチと目を瞬かせるのだった。

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