ステファニアの日常 2
ラメリアは高をくくっていた。どうせ掃き出し窓の魔法は、今のステファニアには使えないと。すぐに出来ない魔法を教え、宿題にも出して、魔法は難しいんだぞ。根気よく練習してやっと物にできるものなのだと。でも、ラメリアはこうも思っている。掃き出し窓は逃げ出すのに都合が良く、もし、何かの都合で領地が襲われた時、生存確率を上げる、言わば保険みたいなものだ。なので、今できなくとも、数年後、十数年後に出来るようになっていればいいと。ステファニアはもう15才。もうそろそろ家庭教師の任も終わる。最後にできないものを課して、自分が傍に居なくとも、自分で調べ、独学で何でも好きなものを吸収して、応用もできる人物になって欲しいと。その気持ちで無理な課題を少し長くやって貰ったのである。
もうすぐステファニアの部屋に着く。慰めたらいいのか、叱咤したらいいのか、それは会って、表情や態度を見てからである。
「おはようございます」
「おはようございます」
「ステファニアさん、宿題はやってきましたか?」
「はい。それでは中庭に行きましょう」
「中庭へ?」
ラメリアは疑問に思う。何故中庭に行くのだろうと。出来ないならステファニアの自室で報告だけ貰えばいいと思っていたラメリアは色々考えていた。出来ないなりに工夫して、何か別の便利魔法をやってくれるのか、はたまた…
(中庭へ着いてしまいましたね)
考えがまとまらないうちに中庭へ着いてしまった。この娘は何を見せてくれるのだろ。興味半分、恐れ半分の胸中で、とりあえず、自由にやらせてみようと思った。
「それでは、心の準備が整ったら始めて下さい」
「それではやってみます」
ステファニアの前の空間がくにゃりと曲がり、人が1人通れる闇の空間が出現して、その空間にステファニアが入り、中庭の別の場所から出てきた。完璧である。完璧にステファニアは掃き出し窓を習得していた。
(………)
「どうですか?」
ラメリアは信じられなかった。長い家庭教師人生に於いて、掃き出し窓魔法の宿題をこなした者などいなかったからだ。信じられなかった。ちょっと頭が追いつかず、固まってしまった。
「よ、よく出来ました。完璧です」
「やった!♪」
ラメリアは言葉を絞り出した。まだ少し頭の中のパニックは残っている。
「それでは部屋に戻りましょうか」
「はい♪」
そして部屋に戻った二人。ラメリアは正直に出来ない課題をわざと出した事を話し始めるのであった。
「出来ないはずの課題だったのですか」
「ええ。研鑽を積みなさい。これからも努力なさいと言うつもりでね…
でも、出来たのなら、そんな憂いもありません。これから、努力し、研鑽を積むことを忘れなければ貴女は何だってできる。私の鼻も高いというものですよ。」
ラメリアは安心した。ステファニアはもう一人前になったと言ってもいいだろう。
「それでは、これからは魔法実習の時間は他の、まだ未習得の科目に振り替えます。残り時間も少ないですし、ビシバシ行きますよ!」
「えぇ~」
「えぇーじゃありません!」
残りわずかな時間、この娘には知識を詰め込むだけ詰め込んでやろうと。そして、もうすぐ来る別れを憂うラメリアであった。