ステファニアの日常 1
「ひどい名前だな」
「完全に同意するわ」
ステファニアは貴族なので、どこかに学びに行くということもなく、家庭教師を雇って、実家である領主邸で勉学に勤しんでいる。その家庭教師のラメリア・オーガストという女性はとても杓子定規な人のようで、何と、この世界では珍しく、時間割によって勉強内容が決まっていた。で、今日の魔法実践の授業内で課題の魔法が習得できずに宿題となり、放課後、その宿題の魔法を練習中に二郎とリンクがつながったのだが…
「「何でどこにでも行ける便利な魔法が”掃き出し窓の魔法”っていうひどい名前を付けられるかな」」
掃き出し窓というのは、開口が床と同じ高さであり、乗り越えなくても外へ楽々と出られる大きめの窓である。由来は、昔、掃除機が無かった頃に、箒を使って掃除をして、ごみを掃き出し窓から外に掃き出していたことに由来する。
「じゃぁ、普通に”ドア”とかで良かったんじゃないの?」
「そうよね…(汗)」
他の空間へは”土のう袋の魔法”で慣れているので空間を開けられるのだが、想像した同じ次元の別の場所に開けるということが難しいらしい。今は領主邸内の中庭で練習しているのだが、
「この中庭のどこかに繋がったら成功なんだけどね」
「どこかでなく、ある一点を強くイメージすれば?」
魔法が無い世界から来たという二郎からアドバイスの言葉が出るとは思っていなかったステファニアはびっくりした。でも、魔法は無くても、魔法の世界を妄想する。その妄想駄々洩れな作品が、出版や映像化され、売り買いされている国が、二郎の国の日本というところなのである。
「やってみる」
ステファニアは二郎からアドバイス通りに中庭のある一点を強くイメージし、空間を開けるようイメージしてみた。すると、ステファニアの指先の空間が歪な円状の空間が出現し、二郎の目には、もう一つ、同じ形状のくにゃっとした空間が空いているのが見えた。二郎の目とは言ったが、ステファニアの目を借りているので視界は共用となっているのだが、ステファニアは魔法に集中しているため気づいていないようだ。
(空間は繋がった。あと少し。それを広げるだけ…)
「くっ… くぅーーー!」
やがて、その歪な円は歪な楕円となり、やっと人が通れるくらいの大きさに広がった。
「と、通ってみるわね」
ステファニアはそぉっとその楕円の中に入り、中庭の、別の場所から姿を現した。
「せ、成功なの?」
その後、ステファニアは3回同じことを試してみた。あっちからこっちへ。こっちからあっちへ。3回ともに成功であった。
「やた!宿題終わった!」
ステファニアは喜んでいた。これで後は明日、ラメリアに見せるだけだ。そこで、ステファニアはふと疑問に思った。
(何で二郎はそんな的確なアドバイスが出来たの?あなたの国、魔法、無いんでしょ?)
(まぁ、僕の国を案内していったら自然と… 分かるんじゃ… ないかな?(汗))
(ん?)
日本人の想像力の勝利であった。
*
二人は、一息ついた後、二郎は寝る前の起こりうる事象についてステファニアに話した。
(二郎に裸を見られるの!? 触られるの!? ヤダ!)
ステファニアは自分の右手で自分の頬を引っ叩いた。二郎は引っ叩かれた。でも、ステファニアの顔であるため、自分も共に痛かった。
(それもあるけど自分の裏の顔。みんなには隠しておきたい秘密中の秘密まで、みんな二人で共用… ってところが問題なんだよ)
(思わず裏の顔の誰にも突かれたくない部分を指摘されたら…)
「「SAN値だだ下がりだよなぁー」」
二人の言葉はハモったのだった。
7話目投稿。
これで、普通の作家さんの3話目くらいでしょうか?
手軽に空き時間にパパッと読めるよう、短めに区切っているのですが、それにしても短すぎるかも…(汗)
その辺のさじ加減も今後の課題です。