岡塚二郎の日常 2
今日の授業は全て終わり、放課後。二郎は小便に立った。用を済ませてトイレを出た瞬間、頭にうっすらともやがかかった。
(とりあえず、教室に戻るか。)
二郎は教室に戻り、席に着く。もやは徐々にひどくなり、二郎は保健室へ行こうかと考えていた頃、
(頭痛がするー。何なのこれー)
二郎の脳内に聞き覚えのある声が響いた。
(これってSFなんかに出てくるテレパスというヤツか?)
(テレパスって何よ?SFって何よ?)
二郎は冗談でテレパスと考えたが、これは噂に聞く幻聴というものかも知れないと恐れた。しかし、この声、聞き覚えがある。確か…
(ステテベス!)
(ステファニアよ!)
二郎のボケには冴えが無かった。自己評価、減点10。ただ今の総合得点40点である。
(しかし、同じ机といすがいっぱい。ここってどういう施設なの?)
(「学校」っていうんだ。キラッ)
(ふーん)
ボケを透かされてしまった。自己評価は面倒になったので止めた。
(ステファニア、見えるのか?)
(うん。あんたが見ているものはね。)
もやは慣れてきたのか徐々に回復に向かっている。考える余裕が出てきたところでハッと重大なことに気づいた。
(トイレから出たところでもやがかかってリンクしたんだよなぁ。それで視覚共有。もし、リンクが早かったら…)
(早かったら?)
二郎はゾッとした。もし、リンクが早かったら男の子の恥ずかしいところを女子にジーっと見つめられるところだったのである。
(何だか先を聞くのが怖くなってきた。イヤな予感がする。もうこの話はお仕舞い。)
(そ、そそ、それがいい。)
二郎は問題を先延ばしにした。リンクは毎日やって来るという話。リンク開始時間に何か規則性でもあるのか?1回目では何とも言えない。しかも慣れてくれば時間をどんどん長くするという話。
(これって、必ずその瞬間がやって来るということなのではないか?しかもお互い…)
(へ?何の話?)
(べ、別に。)
こうして迎えた初リンク。
(あの夢って本当の事だったんだぁ)
そして、学校を紹介すべく、動き回る二郎。
(へぇー。こんな巨大な建物ってあるんだ。)
(普通だろ?こんなの。)
(うちの国には無いよぉ。しかも勉強するため専用の施設でしょ?)
二郎をつけていたら不審に思うかもしれない。でも、そんな生徒は一人もいないのでセーフであった。
*
二郎は帰宅して、夕食も、風呂も、宿題も済ませており、明日の授業の教材類もカバンに詰め終わっている。いつもなら無線の時間なのだが、無線機に触る気配すらない。今日は久しぶりに無線はお休みである。
二郎は考えなくてはならないことがあった。
(ヤタ!ボッ・キュッ・ボンの女の子の裸を拝めるかも。しかも触覚も感じられるかもしれないしテンション上がるぅ~!♪)
(いや待てよ。あっちが見えるならこっちも見られる。恥ずかしッ!グロいとか言われたらどうしよう!)
あ、いや。でも。いや、でも。堂々巡りである。思春期男子というものは忙しい。しかもお付き合いも無しにあまり面識のない娘と触ったり触られたり…。
ひとしきり堂々巡りをすること1時間。本当に思春期男子というものは忙しい。すると、二郎は真剣な顔になって…
(これって、まったく隠し事のできない、互いに全部をさらけ出すということではないのか?)
この問題の根本というものにやっと気が付いた二郎であった。平々凡々と暮らしており、まぁまぁ人付き合いも普通にこなせる二郎であったが、やはり人間。嘘や隠し事もある。これはそれも含めて全てさらけ出すということに他ならないのだ。
「これから寝たら、初めての逆方向リンクかなぁ。これは真剣に話さないとなぁ。」
二郎は真剣な顔をして独り言を言うのであった。