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魔王国では時間割の組み立てが難しい。

 寮に置かれた伝達石板には、翌日の時間割スケジュールが表示されていた。必要な授業を選択しておけ、ということらしい。らしいのだが……

「どうなっているんだ、これは」

 授業の時間が一定ではない。20分程度の授業があるかと思えば、どうやら前日から続いていて、翌日にまで時間が割り振られている授業もある。魔族という存在の生活時間が一定でないが故の采配なのかもしれないが、残念ながら俺は人間なので20時間連続で起きているのが限界である。もしかしたらリズなら疲労を回復させて3日起きたままというのも可能なのかもしれないが。

 必修項目……15日間に必須で取らなければいけない授業がいくつかあり、それに加え項目1、項目2のうちからそれぞれ2種類以上ずつの授業を選択して、そちらもそれぞれ15日の間に、それぞれの授業に指定されている回数以上出席するように……最低でも合計で8種類の授業を履修する必要がある、というものらしい。

 最低出席回数は授業ごとに変わるが、必修はどれも3回ずつ割り振られている。

 何が言いたいかというと、いくつかの授業の取得が両立させられない、ということだ。どれかを諦めるか、あるいは睡眠時間を少し削ればどうにかなることなのかもしれないが、さすがにそれは難しい。

 教室が離れすぎていて遅刻するのではないか? と思ったが、魔術と科学の組み合わせた技術で、指定した場所にいどうできるポータル、こちらではトランスポーターと呼ばれている小部屋が寮にいくつか設置されていて、それがそれぞれの教室になる場所に配置されているようだ。部屋の番号で入力しても、あるいは授業項目で入力しても問題なく移動できる。事故は今のところ報告されていないらしい。

 報告できないまま行方不明になってるとかいう事態にはなっていないよな? あとで聞いておいたほうが良さそうだ。

 とりあえず時間割を考えるとして。

 必修は共通語学、数学、基礎魔術、基礎科学。この4つ同士は時間割が重ならないようになっている。基礎と言っても魔族が使うような理論だ。魔物や獣ですら魔法を使うこの世界、そう簡単なものではないだろう。

 人間の国やエルフ、ドワーフの国でも科学技術がそれほど進展しているわけではないが、魔族の国はどうだろうか。

 こういった学力レベルの水準は事前情報では掴みきれないので、楽しみでもあるし不安でもある。

 選択項目1にあるのは化学系、魔術系の発展理論と応用。

 選択項目2にあるのは、理論以外の座学や実技類のもの。


 それぞれをかち合わないようにいくつか選択していたが、街にいたときから持っていた違和感というか、そういったモノの正体について、なんとなく声に出してみる。

「生態系と、それに基づく文化が違い過ぎる」

 魔族の一部にとっては、夜行性だったり何日も活動を続けていたり、というのはまあできて当たり前だったりするのだろう。勿論、そうでない魔族もいたり、個体差も大きかったりするので必ずそうだという訳ではないのだろうけど。

 でも、そういった違いを魔族は『あたりまえ』の一つとして受け入れ、適材適所や自分の適性であったり、あるいはほかの種族の適性を知識として受け入れたり、そういった基盤ができているのだろう。恐らくは、昔の戦争の時からそうだったんじゃないだろうか。

 人間は、そういった『ブレ』を許容するのが難しい。魔族とは違い、ほぼすべての個体が朝に起きて夜に寝る。用事やら何やらで夜に起きていることは可能だが、ただ生きているだけならばそれは必須ではない。

 これから将来も交流を深くしていくようなら、この違いは重要なものになるだろう。楔にも足掛かりにもなる鍵だ。

 活動時間が変わってくるならば、それに基づいている経済活動なども結構変わってくるはずだ。

 外で見ていた露店や商店などが良い例だと思う。仕入れや魔族ごとの活動時間故に、基本的には1日中営業しているようだ。清掃や事務作業などを客の前で行っていても、特に文句が出たりはしないような様子でもある。こういったものは寛容さの違いか。

 複数の生活様式を許容できる社会になったほうが良いのだろう。

「そういえば……」

 戦争の一番最初のきっかけというのは何だったのだろうか。

 エルフはすべての資料が伝聞でしかなく、『記憶屋』という技能職業の人がいたらしいが、エルフとドワーフとの戦争の時に一度全滅したらしく、120年以上前の『記憶』は信憑性が低いものとして扱われている。記憶屋の技術そのものは失われていないらしく、100年前以降の出来事は記憶されているとか。

 人間、及びドワーフの方では紙というものが羊皮紙しかなく、貴重なものだった。紙面を削り落として使いまわしたりだとか、そういうことが横行していた上、戦時中はそういった命令書の類も再利用され、宣戦布告に使われた時の羊皮紙すら書面には残っていない。

 上映されている殆ど静止画の活動写真は、資料として云々、と言われているが再現画、しかも一方的な視線からしか描いていない。

 そもそも写真技術そのものが戦後に出来たものなのだ。戦時中あたりの記録は曖昧であるが、さすがに戦後30年もあとに出来たものによって作られたものを使って作られたものが、戦時中の様子を描写したもの、とは思う人もいないだろう。ああでも、そのあたりの情報を仕入れていない、あるいは言われたことをすぐ信じたり、あるいは都合のいい情報だけを仕入れたりするような人たちにとっては、あれは真実になってしまうのかもしれない。反魔族団体とかいう存在が面倒だ。

 俺の曽祖父世代まで遡ってみても、戦争を体験した世代は存在しないのだが。

 延命や反魂、蘇生などの技術はあるのだが、あいつらのことを調べてもそういったものに関わった形跡はない。

あいつ(ドットブック)らが心配だな……」

 手を出されてしまうという意味でも、手を出してしまうという意味でも。

 帰るときにリンチに遭ってた、なんてことがあったらもうどうすることもできない。戦争が再開してしまう。

 帰った時に問題が起きていなかったら、個人指名した上で異端認定を出すように仕向けるか。


 でも、紙がだれでも安価に利用できるこの国でならば、歴史を知るのにはいい手立てかも知れない。

「まあでも、偏見が混ざってる可能性は否定できないか……」

 その当時に使われていた言語が今と同じものだとは限らないし、同じだとしても資料が残っているか、閲覧可能かどうかも分からない。

 他の種族の国よりは調べやすいだろう程度の感覚で、あまり期待していないほうが良いだろう。


「歴史、か……」

 授業の選択項目は、それぞれから最低2科目取得せよ、というだけであってそれ以上習得するのは別にとがめられない。大量に予約した結果半数以上に出席できない、という事になったらさすがに次の選択項目に制限がかかることもあるとか。

 自己管理は十分にしておけという事だろう。必須項目も併せて10の授業を履修することに決めた。

 必修の共通語学、数学、基礎魔術、基礎科学。

 それに加えて項目1から、錬金理論、魔術史、科学による魔術の再現。

 3つ目の項目名は長いが、そう書いてあるので仕方ない。

 項目2の方からは、国内史、国際史、それから幻想理論。

 幻想理論は祖国ではまだ受講できる学年ではないが、こういった機会に受けておくのも良いだろう。

「魔神と妖精の扱い方ね……」

 魔神というものが魔族の国でどういう扱いになっているかというのも気になる。気になるものはできるだけ履修予約しておくのが良いだろう。

 古代語学や生物学、操義体(ゴーレム)学、霊干渉学も履修しておきたかったがこれらは時間が合わなかった。

 操義体術と霊干渉術を習得できれば……いや、今回は歴史を学ぶと決めたのだ。その2つは祖国に戻ってからも学ぶ機会がある。何なら家庭教師をつけることもできるくらいの立場だし、現に理論の方ならば習得しているではないか。


「授業の内容を自由に選択できるというのは、案外に難しいものなのだな」

 ため息を吐いて俺は呟いた。

 他のメンバーはどんな授業を受講する予定だろうか。あとで聞いておいたほうが良いか?

 もうすぐ夕飯時であるし、声掛けがてらに聞いてみよう。




===******===




 夕方の食事の席で、人間の学生たちが話し合いをしている。授業の履修の話をしているようだが、なにか暗号である可能性はないだろうか?

 ふふふ、ワタシはあいつらの正体を知っているのだぞ? 人間の国から来たスパイなのだ。この国の情報を持ち帰り、人間の国で大量生産を可能にするべく派遣された経済的侵略者なのだ。武力による介入などもう今の時代にはありえない。これから先の世の中はモノとカネが力となり権力になり財力になるのだ……!

 ルームメイトにそれを告げた結果、やれやれという態度を取られた挙句に、いつもの発作なら一人で勝手にやれだとか言われてしまった。私はいつの日だって真剣で真実を見ているのだぞ? この『猫の目(キャッツアイ)』がそう言っているのだから真実なのだ!

 ……? 人間がこちらを見ているな。しかも雌の眼鏡かけたやつが手招きをしている。ハッこれはもしかしてすべてを見通す私の目のことがバレて消すか取り込もうとしているかのどちらかなのでは? だとしたらこのまま立っている訳にはいかないすぐに逃げ出し皆に知らせなけれ「いい加減にしておけよ」ぐはぁ!?

「すまんな、私のルームメイトが迷惑をかけた」

 おい頭を下げるなもしやもうお前はそいつらの「黙れという意味で言ったのだがお前の猫耳(キャッツイヤー)は飾りか? 目ばかり自慢しているから耳は無くてもいいのか?」

「痛い痛いごめんなさい許してでもなんで人間達にばれて」

「お前が! 大声で! 全部垂れ流しているからだ!」

「ああいや、俺達は気にしていないぞ! 俺もこういった時期は昔あったからな! 大声は今でも癖のようなものだ!」

「人間の雄よ、お前という敵に気を遣われていることぐらいはわかるぞ」

「あいつらをどうするか考える前にこっちでの誤解を解くほうが先だったか」

「アナタ、猫人(ケットシー)よね?」

「失礼な! ワタシは儀を経て獣の力を獲得した獣人(ライカンスロープ)だぞ! 産まれつきの性質を持っていた彼らとは違ぁ痛い!」

「程々にしておけよニーニャ=ロンズ。……すまんな留学生の皆……いや、本当にすまん」

「ああ、大丈夫だ……うん、大丈夫。どうせならついでだし自己紹介しておかないか?」

「捕虜となった私には拒否権などないのだぐぬぬ」

「私はシルト=スクエア。こいつと同郷の獣人で、獲得獣は狼だ」

「私の名前は……」



 そのまま時間は過ぎていき、なんとなくでいろいろ話してしまったし、話せなかったこともある。

 それでも、こっちに来て授業の前に話しやすい相手を見つけることができたのは僥倖だろう。

いろいろな歴史記録が消失しているのは、タマが自分の記録を消そうとした結果です。故に失われた資料が復元されることは二度とありません。

猫の目とか猫耳とか言ってますが、そういうスキルがあるわけではありません。中二病未遂的なやつです。

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