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生徒たちの遭遇

4のつく日の投稿を目指します。インフレももう少し投稿したいです。

 魔族の国と人間の国の移動は双方向共に徒歩で向かうことはできない。遠見の魔法や望遠鏡などで見ればどこにあるか分かるにもかかわらず、だ。

 間に汚染された地域があるとか、山や崖に阻まれているとか、そういうものはない。

『なぜか』徒歩に限り必ず道に迷い戻ってきてしまう。どこにあるか、見えてさえいるのに。


 たどり着く方法といえば簡単で、馬なり荷車なり、何かに乗っていればたどり着ける。あるいは、飛行魔法などで移動してもいい。


 魔族や人間、エルフ、ドワーフなど、大地が『知恵のある存在』だと認識した者たちのみ、徒歩で向かうことができない。どういう理屈かは分からず、大地の呪いだとか、あるいは戦除けの祝福だとか、いろいろ言われている。

 突飛な説では、次元が歪んでいるだとか、じつは違う世界だが視界が騙されているとか。

 停戦後に研究がされたが、現代文明では解析不能との結果にたどり着くしかなかった。


 そんな曰く付きである一帯を空中で通り越し、少しだけ魔王国領域に近い場所で、生徒たちが初めて顔を合わせる。


「うぉー、ついに! 俺たちは! 魔王の国に訪れるのだ! しかも、これはかつてあったような戦争のためではなく! 友好のために! 未来のために! 人類の発展のために! それを俺たちが最初に! 俺たちの名前が歴史に残らなくても! これは歴史に残る偉業だ!」

 他の誰かが喋る前に、誰もが口を挟めずにいる状態でも大きな声で話しているのは、『ソート・エルトリンデ』。魔族や魔王国のワイバーンシップに驚くこともなく、非常に楽しそうで嬉しそうである。


 人間も魔族も彼に圧倒されているのか、あるいは呆れているのか全員が彼の方を見ている。ただ、その様子は同時に緊張もほぐしてくれていたようだ。


「王子、皆呆れているぞ。少しは『らしく』ふるまってみたらどうだ?」

 ようやく口を開いたのは『セレス・ルート』。王子の右後ろに立ち告げるが、彼女は彼女でワイバーンシップから眼を離せなくなっている。木の板を下敷きにした紙の上に、ペンでワイバーンの絵を描いているようだが、その全貌はうまく掴めていないようで、どうにもうまくいかないようだ。


「人間たちは怯えているものだとばかり思っていたけれども、そうでもないみたいですねぇ? ほら、あの声の大きな声の男の子。恐れよりも期待と楽しみの方が上回っていて、わたしたちの方にも期待の視線しか向けていませんよ?」

 そう呟くように言ったのは妖狐の『タマ』。今まで人間達からは恐れや畏怖、恨み怒りや敵意といった良くない感情ばかり向けられてきた彼女にとっては、そういった感覚は新鮮かつ心地のいいものであるようだ。緩やかに尻尾を振り、叫ぶ彼ほどではないが期待や楽しみを主張している。


「けれどやっぱり不安ですねぇ。お互いに文化が違う。無自覚に失礼なことをしてしまわなければいいのですが」

 次に口を開いたのは『ドットブック』。体格や精神年齢はともかくとして、実年齢に関して言えば人間側の学生たちと1番近い年齢の彼。戦後年代の孫であるために人間への敵愾心はかなり薄い、というか無いに等しい。彼が気にするのはお互いの文化的障害が原因で暴力沙汰にならないかどうかといったところだ。


 人間側の1人が、魔族側の生徒の方に軽くお辞儀をする。『ガート・メディテラ』だ。言葉には出さないが、王子が騒いでいることを少し申し訳ない、と思っているような表情だと伺える。だが残念なことに、魔族にとって彼の表情はほとんど動かず読み取りにくいものだったので、魔族側からも1人が礼を返すだけだった。


 礼を返したのは『レッドウィング=スター』。吸血鬼という種族は、個体によっては人里に紛れて生活する。伝承で扱われるような眷属にするような能力を彼/彼女はまだ手に入れていないし、そもそも人間の生活圏に吸血鬼が向かうことはほぼなくなったのでそういった技術は日の目を見ることはなかった。

『人間の文化にありがちな行動を真似する』という吸血鬼の文化、といえばわかりやすいだろうか。魔王城が観光用公開される少し前には、教育職務を受け持った吸血鬼が城にいたらしい。


 魔族側、無言でその様子を見るのは『リン』と『ツブサ』。ラミアであるツブサは吸血鬼とは違う吸血種ではあるものの、必須ではないが故にそういった技術模倣の文化を持っていない。ラミアの生活は動物型の魔物の畜産であり、家畜の育成のための農業である。商取引を行うもの以外は、集落内での簡単なやり取りに留まる。

 リンは付喪神で、ただの道具であった最中の記憶もある程度残っている。だが、付喪神になるような環境にいる道具が覚えている知識は、ある程度偏ったものであり、楽器を扱う時の作法が挨拶に役立たないと認識していた。


「前途多難かもなぁ」

 リンはそう呟いたが、それは彼女自身の耳にも届かないほどの小さな声であった。

 人間側の『リズ・ジム』が少しばかり怯えているというか警戒しているというか。その様子を目にしての言葉だったが、気遣うためにする行動は吸血鬼に任せればいいか、とも考えていたために何もできていなかった。

 リズの方は未知の土地に向かうという緊張で目を回し、混乱の極みにいた。

『メグ・ライト』が気遣う様に声をかけたが、それにすら大袈裟と言えるくらいに驚いていた。魔族からしてみれば、研究者が他人を気遣うとはという印象を持たれたかもしれないが、人間社会においても他人を気遣う研究者はあんまりいないのだった。研究者というのは自分の研究以外は二の次になるのが基本である。

 彼女の場合は研究者である前に学生なので、そのあたりの凝り固まったような思考ではなかったのかもしれない。


 彼らの対面から数十分、ようやくお互いが挨拶を交わすこととなった。自己紹介の時には王子は声が大きくテンションも非常に高いままだったし、タマは楽し気に笑っていた。ドットブックとメディテラはお互いの筋肉質な身体を見比べているようにも感じたし、混乱していた子も、挨拶に悩んでいた子もお互いのことを話し始めた。

 皆学生という身分、何かしら通じ合えるものがあったのだろう。数時間も話しあう時間があれば打ち解けるだろう。

 移動の疲労も考えて、今夜はここで合同食事会のようなものをする。



===******===



「キャンプか! いいな! 友情を育むには食卓を共に囲めばいい! 食事は気分がよくなるものだからな!」


王子ことソートはいつまでもテンションが高い。もしかしてこの人は大きな声しか出せないんじゃないだろうかと思うくらいに。

 だが、そんな彼の様子は場を和ませる。強引な感じはしないし、必要以上の気配りもしない。積極的に話そうとしない子達には、聞いてくれるだけでも嬉しい、と告げたりしている。


「これは何の肉だ?」


「これは豚兵(オーク)だな。家畜ではなく野生の、筋肉質だが柔らかい個体を選んで捕獲したものだ」


「オークっていうのは武器や防具も使うイメージがあったが、魔物なんだな」


 ドットブックからしてみれば、魔族と魔物の区分は説明が必要なものだとばかり思いこんでいた。だが、予習をしていたり、生態をある程度認識していたり。この男はただのムードメーカーなだけではなく、しっかりと頭も回るようだ、という結論にたどり着いた。


「あいつらはな、魔族としてみるには粗暴すぎる。人側の知識で例えるなら……そうだな。猿どもが武器の知識を得た程度のものだ。暴力性は脅威ではあるし、知能もそれなりにあるだろうが、言葉は通じないし通じさせるつもりもない、技能も振り回す以上のものはない。賢い個体ならばその限りではないだろうが、どんなに賢くても猿は人間にならない。それと同じ。オークはどんなに賢くてもオークの範囲にしか収まらないんだよ」


「なるほど、分かりやすい解説だ。助かるよ。そういえば、そちらの年齢は結構幅が広いようだが、俺達と年齢が近かったりもする。そのあたりはどうなんだ?」


「魔族っていうのはな、人でいうところの一族によって寿命が変わってくる。まあもっとも、タマの姉さんとかは魔王国のなかでもかなり高齢に分類されるんだけれども。妖狐と龍は寿命の桁が2つくらい違う」


 いつの間にかソートのテンションはそれほど高いものではなくなっている。興味をなくしたとかそういうわけではなく、むしろ真剣に聞き入っているようだ。ドットブックも気づいているようだったが、話をやめる様子はない。お互いに気に入っているのだといいが。


「寿命が違うっていうことは、身体や精神が成熟するまでの年齢もまちまちだ。ドレイクは曲がりなりにも龍に分類されるから寿命は長いが、精神的な成長っていうのは人間とそんなに変わらない。レッドウィングやツブサも吸血種。人に擬態したり、あるいは労働が必要となるから、精神面での成長が早い。付喪神は神なんて言われるが実際に神の奇跡が起こせるような存在じゃなくて……ほぼ固定の外見と精神で『産まれなおす』んだ。たまに『憑かず』と呼ばれる、道具が変異した魔物がいるんだが……このあたりは専門じゃないからよくわからん。本人に聞いてくれ」


「いや、サシで話し合えるほどに仲良くなった魔族はドットブック、君が最初だよ。あの子と仲良くなるのはもう少し時間がかかりそうだが、残念ながら俺達……僕達は、日が明けてからお互いの国に向かうことになる」

 

「はは、確かに。お互い寝不足にはならないようにしないとな」


「大丈夫だ、ここ数日は飛行船での移動が快適でな。しばらくは寝なくても何とかなりそうだ」


「そりゃ羨ましい。ワイバーンシップの方は揺れがひどくてな。あんまり長い時間乗りたいものではない」


「わお、脅してくれるねぇ」


 2人は10年来の友人であるかのように笑いあう。お互いに相手の文化をどれだけ知っているか、あるいは知らないことは何か。腹を探るようなものではなく、話し合って確認しているような感じだった。


 二人はおそらく思い至っただろう。留学中にお互いのメンバーのうちの誰かが問題を起こした場合は、きっと周りの誰かに何かされた時だろう、と。


 夜は更けていく。囲炉裏の炎を囲み、魔物や獣の襲撃もあるはずがなく、二人の会話を空の星々が見守っていた。




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