魔王国の交換留学
書きたいけれども煮詰まらず思い浮かばないジレンマに嵌っています。
魔物と魔族の違いとはなにか。
細かい分類などそんなものは一切なく『付き添いや事前の調教なしに、一定以上の質疑応答に応えられる』ことである。ある程度の知能がないとそもそも魔族とは分類されず、1世代限りの変異種を除いて扱いが家畜や愛玩動物と変わらなくなる。
トロールは基本的に魔物扱いされるが、エルダートロールやジャイアントは魔族に分類される。ゴブリンシャーマンやメイジ、ゴブリンアサシンなどは、言語や魔術、技能を理解しても、身内以外のあらゆる生物を小馬鹿にしている言動を取り、会話が成立しない。そう言った連中は、人間の国で言うところの軍用犬や農奴隷を超える扱いにはならない。
ただし例外として、ミノタウロスとケンタウロスは、彼ら自身の希望で魔物の区分となっている。理由は聞いても意図的に濁した言動をされたので、答えるつもりはないだろう。視察隊によれば、別にテロを企てているわけではなさそうだ、とのこと。
魔物も魔族も世代が変わらなければ進化など起こりようもないので、何かかなり特殊な要因がなければ、1種族の魔物認定、魔族認定は変更されない。それこそ、数世代単位でだ。猿が人に替わるまでに比べればはるかに短いというのはあるが。
なので、と言って良いかはわからないが。人間の国側が提示してきた条件の、入学試験を通過できるだけの学力、というのは余程の戦闘狂か落ちこぼれではない限り達成できるものだ。向こう側から提示してきた学力テストは、国立第2学校の高等部入学の写し。
魔王国統一校の学長に言わせれば、第7クラスの学力が見合うだろう、とのこと。留学希望者を呼びかければ、50人ほど集まり、彼らのうちから5人を選ぶということに。全員が人化できるので、そちらの方は問題ではないとされた。あとはまあ、心理テストで魔王国に対するある程度の帰属意識と、それから自制心。
完全に移住を考えてしまうというようなことがないように、でもすべてが魔王国のものより劣ったものだとは考えないように。それから、挑発的な物言いをされた場合にも暴力に訴えない程度の抑える気力がある、ということだ。
学長に言わせるならば、血気盛んな連中の鼻を折っておきたいと言われたが、暴力沙汰からの戦争なんて避けたい。和平をアピールするという表向きの目的もあるので、そちらの方も忘れないでいただきたい。
まあ、さすがに短期留学で問題を起こすようなことは無いとは思うが。
試験と面談の結果、選ばれた5人の魔族の個人情報カードを確認する。
1人目。妖狐の『タマ』。性別は女、年齢は1300。人型に化けたときの外見年齢は15~18といったところか。身長は155センチ、体重は20キロ。幻惑と暗示の魔術……否、妖術が得意。人型に化けるというのは正しくなく、人型がそこにあると五感に勘違いさせているらしい。すべての認知において勘違いが発生するのならば、それはもう実在するのと変わらないのでは? という話だが、魔力や妖力による探知ではたまにごまかしきれないとの主張。
人化時の外見は、金色の長髪、赤色の瞳。白い巫女服を着た状態に見せることを好んでいる。
2人目。吸血鬼の『レッドウィング=スター』。年齢は84、性別と外見は自在。血の供給が続く限りは変化が自由に続く……本人の曰く、家畜の生肉を粉砕したものでも血液だと認識できるらしい。食費の方がすこしばかり嵩む可能性あり、ということ。寄生虫などは心配しなくても体内魔力で殺せるらしい。
人化時の外見は固定されていないが、赤い髪のショートヘアーであることを好んでいる。顔つきも肌色髪色も自在であるため、あまりアテになる情報ではないが。
3人目。人龍の『ドットブック』。年齢は12、性別は男。親の爪と自分自身が生まれた卵を使って鋳造した籠手が、大気からエネルギーを吸い魔力に変換している。詳細は違うが、結果としては偽造鬼門と同じようになる。大地干渉の魔術と光学魔法を得意としているが、自身の体内で変換した魔力を水や炎に変換し吐き出すことができるらしい。
人化時の姿は2メートル近い大男で、髪も瞳も肌も漆黒色をしている。ガタイも良く、威圧感も感じられるだろうか。
4人目。付喪神の『リン』。年齢は7+100、性別はなし。化けたときの外見年齢は12~15くらい、外見性別は女性……女性だよな? 楽器の付喪神らしく、可聴域の音が認識範囲内にあるときに変身が維持できるとのこと。変身中ならば自分で音を立てることもできるので、実質無制限のようなものだ。
人化時の姿は『青い』と印象を受ける服装や髪で、肌の色は陶器のように白い。人間から見れば不健康さすら感じさせるかもしれないが、アンデッドなどもいるこの国ではそれほど目立たない。
5人目。ラミアの『ツブサ』。年齢は22、性別は女。ラミアの性別が女型しかいないので、そもそも男性型への変異ができない。睡眠中は変異が自動的に溶けてしまうため厳密には条件を満たせているわけではないが、確認したところそのあたりは問題ないとのこと。
人化時の姿は異様に長い髪と、茶色を思わせるような肌の色。鱗のいろがそのまま肌の色に変わっているような外見。こちらは不健康というよりも、日焼けをしすぎているような印象か。
日常生活の間に変異が解除されないならば問題ないとのこと。四六時中変異しているのは負担にもなりかねない、と伝えたところで承認された。人間でも24時間以上通して何かしらの魔法や技術を使い続けることが負担になるのと同様である。
人間側からの方の留学生も5人。15歳か16歳の男女。男が2、女が3。男のうち1人のみが16歳だ。
名前は、男の方が『ソート・エルトリンデ』。ブロンドの短髪で、肌は健康的な白さ。瞳は新緑色をしている……で、重要なのが、第4皇子である。継承順位は低いとはいえ、正気でできるようなこととは思えないが、向こうはやってしまった。
男の方、2人目が『ガート・メディテラ』。髪色は皇子とそれほど変わらないが少しだけ長めで、肌は傷が多く荒れている。身長は170センチ程度だがかなり筋肉質で、ドットブックとは違った威圧感があるだろう。
女の方1人目が、『セレス・ルート』。法務官長の娘で、飛び級制度を利用すれば既に親の部下として十二分に腕を振るっているだろう、とされる逸材。だが、本人は学生であることを望み……今回の交換留学に関して、学内発表より先に立候補したそうだ。何者だろう。三つ編にした赤い髪がかなり目立つ。
2人目が、『メグ・ライト』。錬金術と科学の成績がかなり良いらしいが、家系ではなく自身の才能らしい。茶髪に、ほんの少しだけ日焼け……否、火焼けした色の肌。錬成盤電卓を開発し、特許で大きな収入を得たらしい。
3人目は『リズ・ジム』。光、闇、風、水、炎の五属性の回復魔法を扱える、所謂治療魔術使い。肉体的なモノや精神的なモノ、薬毒や呪いなどの対応ができるらしい。ただ、霊魂魔法の才能が無いらしく、蘇生に関しては一切出来ないらしい。死ななければどうにでもできるというのも異様な話ではあるが。
これ、かなり重要な人物ばかり送られてきていないか? 正直、こちらからは一般的な才能しか持っていない魔族ばかりなので、何か文句を言われることも覚悟しておこう。
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ワルド国王は苦悩していた。和平のための交換留学。それが表向きの事情であることは確かだろう。学生たちを人質にして何らかの要求を求めるのか、あるいは学生と称した破壊者を送ってくるのか、と。何かあった時のために、彼ら自身くらいは脱出できるように、と実力がそれなりにある者たちを用意した。
向こうから送られてくるという予定の学生は、何かすれば国がめちゃくちゃにされてしまってもおかしくないような者たちだった。
まず妖狐。その年齢はこの国が、議会制から王族統率に替わった後の倍くらいの数字がある。向こうの龍魔王がたしか400歳だったはずなので、それの3倍でもある。五感などに訴える幻覚とは、つまり騙されていることに気付けない。問題しかない。
次に吸血鬼。人から吸血しなくてもいい、とのことだが、それは吸血できない、という話ではない。気が付いたら学園中全員吸血鬼になっていました、という可能性もあり得る。
ドレイク、ラミア、付喪神は情報が少ないため何をしてくるかは分からないが……学園どころか国すら簡単に制圧できそうな魔族たちについてくるような存在だ。危険に違いない。
だが条件付けや取引などをしてしまった結果である。もう今からなかったことにします、は通らない段階にきている。和平のための、という名目を取りやめるには遅すぎるくらいの。
国王は相談できず苦悩していたが、完全に杞憂であった。しかしもし魔王国の誰かが伝えたとしても信用しなかっただろうし、部下たちが先走って馬鹿をやる可能性も考えれば、うかつに苦悩を漏らすこともできない。
国王は頭髪と神経を擦り減らし、どうにか打開策はないものかと思案していた。
王の頭髪に明日はない。
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魔王国と人間の国ワルドは、馬車であるならば1か月はかかったであろう。だが、技術の発展により、人間の国では高速飛行船が、魔王国側ではワイバーンスカイボートが、それぞれ開発されていた。ただ、それらがお互いの国に直接入るのは情報管理のとか、あるいは混乱を招くとかそういう事情があるので中間地点の、かつて魔物集落があったり人間の小国があったり、あるいは戦争の中心地になった場所で、現在は緩衝地帯--300年後まで双方が権利主張しない土地‐-で、お互いに乗り換えをして国に戻る、という形になるらしい。
飛行船運転手兼整備員である俺には詳しい話は分からんが、俺は長く生きても50年なので、開戦しない限りはあまり関係ない話である。航空社のほかの運転手達は、ワイバーンに襲われるに違いないと言って怖がっていたが、そんなものは気にしなくていいのだ。飼育された動物が襲い掛かってくるとは思えない。勿論魔族どもが襲い掛かってくるように指示を出しているなら別だが、よっぽど好戦的な連中でもない限りそういったことにはならないだろう。
ある意味楽観視とも言えるが、俺の知り合いの占術士に、行った方が得るものが大きいと言われたのもある。
何が得られるかは分からないが、ただ怖がって何も得られないよりはいい結果になるだろう。もう間もなく到着の時間だ。生徒たちにも放送で連絡しておかなければ。