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人間の国における魔族の立ち回り

先日は投稿できず申し訳ございませんでした。

 賭場を荒らしていたのはまずかったかもしれない。少なくとも、俺かタマが止めておくべきだった。

 魔族が数人留学に来ているという情報は行き渡っていたようだし、寿命や成人の年齢が違う生物、エルフやドワーフが賭場入りすることのように問題ないはずだった。

 ……本来ならば。

 問題というのは、学生という身分であるのに賭場入りしたことらしい。感知できる人間はいくらか居たらしく、所謂『つけいる隙』になってしまう、と言われた。

 という事で、俺達5人は学園講師、担当受け持ちの……なんという名前だったか。たしか、蝶みたいな名前の講師から、食堂の片隅で説教をされていた。

「そちらとこちら、文化が違うのも知っています。でも、学生の在り方というのはそちらでも変わらないはずでしょう? ならば、金品を賭けるような場所に行くのは、正しくないはずです。あなた達のことを知らずに喧嘩を吹っ掛ける者もいるでしょう。知っていて凶行に及ぶ人もいるでしょう。あるいは、ただの度胸試し……そういう連中もいなくはないはずです。あなた達が怪我をしても、あるいは相手を怪我させても。外交問題になりかねないのです。そうなったら、また戦争の時代に戻ってしまう可能性だってあるのですよ?」


 言いたいことは分かる。そんな結果になるのは俺達としても非常によろしくない。俺としては暴力沙汰になることはなかったので気にすることはないという考えだったが……どうも軽率な判断だったようだ。


「なあ先生、1つ聞きたい事があるんだが。此方の学生は、普段どのような娯楽で遊んでいるのか知りたいんだ」


 俺が思うには、こっちの学生と俺達の方での学生とでは、おそらく娯楽が違うのだろう。学生が行くべきではない、と言われたということは、学生がやるような娯楽がなにかある、ということだ。


「ふむ、そちらにある娯楽の為に必要な物資がこちらにはないのですね。そういうことでしたか」

 少し違うのだが、それも事実ではあるので肯定しておく。

 こちらに来る前に、現地の娯楽を調べておくように、と言われていたのだ。言われているはずだ。


「1つ目はカードゲームでしょうか。いくつか種類はありますが、遊技人口が最も多いのは何かと聞かれたらそうなりますね。あなた達が賭場で遊んでいたものも一応当てはまります。が、学生同士がする場合は金品の賭け事なんてありえませんね」

 少し怒っているような口調ではあったが、一応は教えてくれた。


「次いで多いのは自作の魔道具と科学具の研究発表、でしょうか。これは学生だからこそ、というのがありますね。失敗作品であっても学園の方が下取りをしてくれます。成果の良いモノならば、それなりの金額が定期的に学生に行くことになることも、可能性としては十分にあります」

 それは娯楽というよりは見栄や競争心といったモノだろう。それで得た金を、学生がどこで使うかというのはやはり疑問だ。


「あとは、そうですねぇ。運動に精を出す子や、お菓子作りや楽器演奏……まあ、同好会を立ち上げる人もいますね。運動の方は魔術による身体強化を含む分野と、素の能力だけというジャンルもも関わってくるので魔境ですよ。あとは、友達とお話するためのお茶会を開いたりだとか、自作の道具の見せ合い……さっき言っていたものの、学校に出す前のものだったり、あるいは失敗品だったりの披露会ですかね。お互いで評価したり、あるいはそのまま提出せずに遊んでいたり」

 そのあたりは少しばかりデリケートそうだ。


「それから……そうですねぇ、道具制作で満足できなくなっている子たちは、条件付き……生活態度テストの突破と成績の維持を条件にして、遺跡探索の許可を与えていたりしますね。学園の私有地として3つほど遺跡があるので、探索と研究、それから危険生物の排除……これは結構な人気ですね。授業以外で遺跡探索の許可が下りているというのが優秀な人材である証なので、遺跡に行くことを目標として打ち立てている子もそれなりの数います。単純な授業成績だけであれば、学期、学年ごとの成績で165位以内、つまり上半分に入ることですね。そのあとに態度テストを含めて、1学年あたり最大で40人が遺跡の探索に向かいます。それよりも少ないこともありますけどね。事前の予約が必要で、探索開始から3日以内に戻るように、ということになっています」


「危険生物とはなんだろうか? 魔物や妖精の類ではなく?」

 俺は問いかける。俺の口調は正しいものではなかったらしく、レッドウィング=スターはちょっと嫌そうな顔をしていた。気を付けよう。


「どうなんでしょう。私はそちらに向かわないので、なんとも言えませんが。探索によく行く学生の話では、『モンスター』と呼ばれているようです。魔物や妖精、魔神とは違いますが、詳しい正体は分かっていないようで。他の学生たちに聞けば、教えてもらえる可能性は十分にあるのでは? もしかしたら遺跡探索の受付小屋に行けば、纏めてある資料があるかもしれません」


「3日以内に、と言っていたがその間の授業は?」

「探索許可が下りている学生は、遺跡探索申請時には出席免除されますね。ただし、遺跡に入っていることが確認できなかった場合は、出席免除の取り消しとなり、欠席扱いになりますね」

 いろいろとややこしい事情が多いようだ。


 ここで、少し考える。

 運動や文化的活動はともかくとして、道具制作や遺跡探索などは娯楽と言えるのだろうか。実力や才能のステータスにはなるかもしれないが、それは娯楽ではないように感じる。

 まあ、難しいことを考えるのは俺の仕事ではない。するべきは、交渉。


「先生、教えて欲しいことがある。俺達と入れ替わって俺達の国に向かった5人は、結構優秀な人達だと認識しているが、それは正しいよな?」

 今は口調を正さない。

「ええ、そうですね。5人とも、成績は上位を保っています」

「なら、入れ替わりでやってきた俺達が、彼らの成績の位置に割り込むという形にならないだろうか?」

「……つまり、今の話を聞いて遺跡探索の方に参加したい、と。そういう事ですね?」

「その通り。先生は察しが良くて助かる」

「交渉はしてみます、が。全員は無理だと思っていてください。交換留学。本分を忘れないように……学習を、という事ではなく交流を、という事ですが」

 確認することができれば大丈夫だろう。だれか1人でも行けるならば問題はない。


「大丈夫だ、先生。両方任せておいてくれ」

 別に、スパイと言うほどの物騒なものではない。市場調査、といえばいいだろう。

 どんな指示を出されたかは思い出せていない……指示の内容が記憶にないわけではないが、指示を受けたときの記憶が抜けている。恐らく王か学長の顔を公開しないようにする仕組みでもあったのだろう。

 だが、指示そのものが記憶から消えうせたわけではない。

 人間の国や、そこにいる人達が欲しいものを調査しろ、と。

 ならば、『人気の商品』を調べるのも正しい判断だろう。




===******===



 この人は、嘘をついている。

 (おれ)はそう判断した。(おれ)たちに説教をしている時、あるいは娯楽について説明している時はしっかり手を組みこちらを見ていたが、遺跡の探索について聞いた時は右手の親指で、左手の指を撫でて、視線を少しだけだが俯かせていた。

 吸血種としての判断、間違ってはいないだろう……もっとも、どの部分がウソか、までは分からないが。(おれ)はまだまだ実力不足。女の子を口説くくらいならば全然問題はないのだが。

 話し合いを終えて先生の連絡を待つ間にそのことを伝えておく。

「遺跡探索の方には、私かリンのどちらかが良いだろう。ツブサは道具制作の方に。レッドウィング=スターとドットブックは同好会に入って……ああいや、2人の判断に任せたほうが良いか」

 タマが服の袖を弄り指先で揺らしながら呟く。視線は窓の外に向き、雲の流れを追っている。

「適材適所だな。もし遺跡に誰も入れなかった場合は、リンとタマは外に出て調査……大人の人間が欲しがるようなものは何か、と、それから物価だな」

 ドットブックが追加の判断を付け加える。右手にはドワーフアル銀貨を1枚持ち、裏表にするように手の内で転がしている。

「良くない音」

「行動事態は悪くないけど、その先の先……帰った後に起こることは良くなさそう」

 リンとツブサは、行動に関する意見は積極的には出さない。

「こっちの国では、龍魔石の価値が高すぎる。人間と魔族の国際交流がもっと大きくなる前に、魔王国の硬貨は他の国のものと同じように変えておくほうが良い、と思う」

「というと?」

 私の問いかけに、ツブサは続ける。

「こっちで大判、結構な価値になったね? それと同じ金額で、私たちの国で、何枚の大判になるか……それを、繰り返したらどうなるか……」

 硬貨の価値はさまざまな要因で決まる。硬貨そのものの価値だったり、あるいは国の強さだったり。

 私たちの国における龍魔石の価値が、他国が認識する価値よりもかなり低い、という事が問題か。

「どうする?」

「それは私達(われら)の仕事ではないだろう。偉そうな奴らに伝えるべき内容だとは思うが、伝えて終わり、でいいんだよ。こちらの、我々の目的は調査。だな」

「それもそうだ、と言いたいところではあるけれども……身分こそ学生だが、そっちは一応お偉いさんに意見を出せるくらいなんじゃないのか? タマ」

「出せなくはないし出来ないわけじゃないけど、頭を代わりに使ってやれる余裕はなくてね」

 タマの返事は嘘くさいものだったが、嘘というより方便……疲れている時の狸寝入りと同じだろう。あえて突っかかるというのも野暮でしかあるまい。

 そういった話をしていると、ようやくというべきか、早くもというべきか、先生が戻ってきた。


 遺跡の探索許可は、1人だけ認可され、ほかの4人は通常通りに授業に出席することと伝えられた。

「私は……少し気になることがある。リン、探索に出てくれるか?」

「わかった」


 話している間に夕食時間が近づいて来たらしく、人間の学生たちが続々と集まってきた。

 秘密の話はできないだろうが……女の子たちから話を聞くのは得意だ。

 本領発揮、といかせてもらおうじゃないか。


 話を聞こうとしている最中、違和感にたどり着く。

 札遊びが流行っている、と言える状況になりえないくらいに、薄い紙というものが流通していない。一部の金持ちの道楽、あるいは賭場の道具という面の方が強いらしい。

 判断した嘘と本当の内容、どうも逆だったようだ。

 


絡み合い、結び付き。

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