かけら
目が、合った。
その瞬間、わたしは悟った。あれは、わたしだ。
「家蜘蛛を殺してはいけない」
そう言った祖母は随分前に他界した。
家蜘蛛は益虫だというが、人の掌より大きい蜘蛛を有難がる人間は極少数だろう。
だというのに、わたしは大蜘蛛を見かけてもただ見つめるだけしかできなかった。
複雑怪奇に絡まり合い動けない、わたし。
ほろりはらりと零れ落ちていく、わたし。
淡々と過ぎ去る時間に取り残される、わたし。
目が、合った。
あれは、わたしだ。
浴槽から立ち上る湯煙に隠れながら、一片であるわたし、を観察している。
耐え難かった。
考える暇もなく、桶に汲んだ湯を打ち掛けた。
何度も、何度も、執拗に。
湯から逃れようと右往左往していたそれは、気が付けばひっそりとわたしを見ていた。
黒々とした目が、まっすぐにわたしを射抜く。
わたしは桶を置き、いつも通りに髪を洗い、体を洗った。
それはわたしを見続けている。
動かぬ体に埋め込まれた眼球が、わたしの欠片を、映し、続ける。