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七番目の、十二人姉妹の蕨一家について。

CASE OF 1st. 李子いこ


 ☆☆高校二年の修学旅行。

 早朝、電車に揺られる事およそ二時間。

 そして新幹線に揺られる事、およそ一時間半。

 私たちが辿り着いたここは、京都。

 よく、「KYOTO」と「TOKYO」を間違えてしまいそうになるのは、どうしてなんでしょう。

 あ、あと「KOBAN」ですね。交番なのか小判なのか、はっきりしてほしいものです。

 え?

 関係ない?

 いえいえ、そんな事はありません。

 様々な共通点があるじゃあないではありませんか。

 え?

 共通点があるのか無いのかはっきりしろ、と?

 先程申しました通りではありませんか。

 え?

 YESかNOかはっきりしろと?

 ですから、

「おーい、ゆっくり歩いていると置いてくぞー」

 あらあら、遠くで水野真理絵さんが呼んでいます。

 それでは皆さん、ごきげんよう。


――――


 なんですか、この台本。まるで私が天然みたいではないですか。

「天然か、そうでないのか、はっきりしてほしいものです」

 からかわないで下さい。

「失礼しました、蕨会長。しかし台本は、私ども演劇部に一任すると仰いましたわよね。今更、それを撤回するとでも?」

 そんな事はありません。ただ、これでは私の品位に関わる問題です。

「あ、会長は猫被りなのですね」

 何故そうなるのですか。

「先程、口調を変えただけでイメージがすぐに崩れると仰ったではありませんか。本心から常に生活をしている人ならば、口調や性格を変えただけでは、その人の本質は変化いたしませんよ」

 本質が変わる変わらないの問題ではないのです。これは、私の印象に関わるものです。

「会長は、そんなに印象を大事になさりたいと」

 それはそうでしょう。何事も、印象があってこそですから。世の中に先入観を持たない人間など、存在しないのですよ。

「確かに、会長のその意見には同意いたします。ですが、先入観が人生において全てではないでしょう」

 ええ、それもそうです。

「でしたら。確かに、偏見によって人の意見が変わることはあります。ですが、真の人格者というものは、その歪んだ意見ですら変えることのできる人間を言うのではありませんでしょうか」

 意見が歪みすぎた人間はどうなさいます。修正が効かないほどに。あるいは、その曲がった意見が一般になったとしたら。

「会長は、ただ、そのようなことが恐い、と仰るのですか?」

 恐くなどありません。

「では、何故」

 それは、ただ生徒のためを思ったことです。悪い偏見を持ってしまった学校生活は、余り気持ちのいいものではなくなるでしょう。

「生徒のためを思っているのならば、反対に先入観がすべてではない事を示すべきではないでしょうか」

 まあ、どちらにしても、憶測の域を出ないことは確かですね。少々議論をしすぎました。これ以上の議論は不要と考えます。貴女の意見は良く分かりました。是非参考にさせていただきたいと思います。それと、煮干祭での生徒会公演には、ここにある通りで。

「そう、ですか。了承しました。ありがとうございます、会長。では、練習日程などについては、後日連絡させていただきます」

 そう。わかりました。

「では、また」

 ごくろうさま。


☆☆☆☆☆

CASE OF 2nd. 風子ふうこ


 私、☆☆中学二年、わらび風子。ただいま彼氏募(←拳)

 いえ、ただいま勉強中なのでした。

 とほほ。

 ちなみに、私に拳をくらわせたのは菅原妃代ひよ。可愛らしい名前だけど、性格は男の子っぽいと評判の、あの菅原妃代。

 でも、あれ、でもよ。菅原道真の子孫だって言うじゃない。小倉百人一首に出てくる、あの「まにまに」の詩よ。あれ詠った人。

 しかも、よ。私の先輩だって言うじゃない。

 なんで、あんなのが、私の、せんぱい、なのよーーー!

 以上回想終。

 勉強勉強勉強。勉強にいそしむ、私、蕨風子。ただいま彼氏募(←拳)

 いえ、ただいま勉強中なのでした。

 とほほ。

 もちろん、拳をくらわせたのは、私の先輩。

「真面目にやれ」

 先輩はそう言うと、手元の分厚い参考書を熟読し始める。なになに、えっと『線形代数学の基礎』???

 意味不明。

 まあともかく、だ。私は先輩の言う事を聞く事にする。

 これ以上殴られたら、たまったもんじゃない。

 ええと。

 円すいの、側面積?

 側面積、どこよ。

 ていうよりさ、母線aって何?

 っていうか、二つしか数字が分からないじゃない。

 なんか良く分からない母線っていうものの長さと、底面の半径r。

 どうやって求めるのよ。

 知るか、ボケ。

 円だから、円周率3.14でも使うのか?

 3.14arとか?

「正解」

 いつの間にか私の解答を見ていた先輩は、そう嬉しい事を言った。

「本当ですか?」

「確かに、解答は正解している。だが、導出過程が必要だ。だから不正解になる」

「がくっ」

 どうやって求めりゃ良いのか分からないから適当に書いてるんでしょ。

 っていうかあんた、教えなさいよ。

 かてきょ、でしょーが。


☆☆☆☆☆

CASE OF 3rd. 魅子みこ


 キョロキョロ

 誰もいませんね。うん。

 ヒョコヒョコ

 音は出てませんね。鶯張りじゃないし。

 テクテク


☆☆☆☆☆

CASE OF 4th. 陽子ようこ


 『私の癖』

 私の癖。それは真似をする事。

 人の真似をする事は勿論、小説やドラマに出てくる人の中で気に入った動作や口癖があれば、それが自然と身に付いてしまっている。

 いつ頃からこの癖が始まったのかは分からないが、一番初めに真似たのは、魅子お姉ちゃんの癖だったと思う。ペンギンの真似をするように手足を動かしながら、左右をキョロキョロする。

 もしかしたら、この


 また、手が止まってしまったな。

 一度止まるとなかなか思いつかないんだよな。

 うん、思いが伝わらないの。

 そういえば、奈々子ちゃんが告白したって言ってたな。

 告白か。

 白を告げる。

 白状しろー!

 何てね。

 刑事ドラマ的な展開、期待。

 気体。液体。固体。

 物質の三態か。水だけが例外なんだよな。

 プラズマが物質の第四態とか言うらしい。

 そういえば、火の玉の一部は、プラズマ現象で説明できるみたいなんだった。

 心霊現象とか超常現象とかか。

 斗子ちゃんが好きそう。

 なんか、逸子ちゃんのお友達がそんな超常現象に遭遇したらしいんだ。

 名前は。

 高羽、実君、だったかな。

 高い羽が実態と化す。

 高い羽。

 今携帯で変換したら、他界はね、って出てきた。

 他界することがはねられちゃうんだ。

 困った困った。

 例えば、この企画をはねるって言ったら、却下するっていう意味だったと思うけど、これを適応すると、他界は却下。つまり、他界できないの。

 大変大変。

 右見て、左見て、深呼吸。


☆☆☆☆☆

CASE OF 5th. 逸子いつこ


 私の周りには、自分も含めて、変なのが多い。

 顕著なのは私の姉妹だ。奈々子は例外だが。

 全員年子で全員女。しかも名前が上から、李子、風子、魅子、陽子、逸子、睦子、奈々子、谷津子、紅子、斗子、伊麗子、永久子、となっているのだ。

 絶対、狙ったとしか思えない。

 しかもこの姉妹、それぞれ性格が濃いのだ。

 もう嫌になる。どうすればこんな姉妹が出来たのだか。

 親の顔が見てみたいとは、まさにこう言う状況を言うのだろう。

 まあ、まだ父上や母上は他界していないので、見ようと思えば見ることは出来るがな。


☆☆☆☆☆

CASE OF 6th. 睦子むつこ


 ランーランラランーランーララーーン♪(←チャイコフスキー交響曲第六番『悲愴』第三楽章)

 うん、この曲がいいな。

 ちょっと弾いてみよう。

 タンータンタタンータンータターーン♪

 うん。ここを、こんな感じにリズムを変えて、これをサビにすれば。

 なんとも言いがたく出来るはず。

 曲を作る依頼を請けた時は慌てたけど、大丈夫だったわ。

 よし、私が『キャッピキ』を作って魅せる。

 自惚れろ、私!


☆☆☆☆☆

CASE OF 7th. 奈々ななこ


 幸せを噛み締める。

 こうやって、原琉君と一緒にいるのが、一番大好き。

 勿論、丹波三沙子ちゃんの事は忘れてはいない。

 彼女とは入学時にクラスが同じで趣味もよく似ていた事から仲良くなった。図書委員も一緒にやっていた。

 だけど何ヶ月も前の事件で殺されてしまった。

 その時は悲しかった。

 それを紛らわすかのように沢山の本を読んだ。小説だけでなく随筆や専門書も。あの一ヶ月で図書室にある本の内、百冊は読んだろう。

 そして七月の始め。図書室で高橋原琉君に出会った。確かあの日は『申し分、なし』を読んでいたと思う。

 一目惚れだった。

 ちょっと無愛想な感じがしたけど、目を合わせると胸がドキドキした。

 その日から申し合わせたかのように私たちは放課後に図書室にいた。始めの内は挨拶程度だったけど、時々は普通に話をしたりもした。

 九月に入って穴の開いた図書室に行くと、矢張り原琉君はそこにいた。

 確か告白されたのは煮干祭の前だった気がする。

 皆が教室で色々な作業をしている時に、暇潰しに図書室に行った。

 そこにはもう原琉君はいて、それで告白された。

 好きだ、って。

 あの時は、本当に嬉しかった。

 それで大分、三沙子ちゃんが亡くなった悲しみを乗り越えられたんだ。


☆☆☆☆☆

CASE OF 8th. 谷津子やつこ


 ・・・。

 ・・・・・。

 ・。


☆☆☆☆☆

CASE OF 9th. 紅子くこ


「台本通りにやれば、大丈夫。……ねえ紅子、いっつも何考えてるの?」

「なにも」

「何も考えてないの?」

 コクリ

「でもさ、そう答えているっていう事はさ、何も考えていないっていう事を考えている、っていう事になるでしょ」

 コクリ

「てことはさ、何か考えているんじゃあないの?」

「そう。私は何も考えていないという事を考えているだけだから。さっき、そう答えた」

「はー。そうだったんだ。……紅子の秘密が一つ分かった」


☆☆☆☆☆

CASE OF 10th. 斗子とうこ


 占い、超常現象、念力(PK)、超感覚(ESP)、幽霊、お化け、妖怪、ゾンビ、ドラキュラ、魔法、魔術、地球外生命体、異世界、未来人、時間移動、太古の超技術、SF、天国と地獄、神、未確認飛行物体(UFO)、未確認生物、魔科学、などなど。

 現代科学では証明する事が難しいから無いんだ、なんて言うのはナンセンス。扇子が無いぞ。

 おっと、陽子お姉ちゃんみたいになっちゃった。

 まあとにかく。

 有るか無いか分からないんだったら、いっそのこと有ると思おうバイ斗子。


☆☆☆☆☆

CASE OF 11th. 伊麗子いれこ


 うちの名前が一番変やと思うんよ。

 知っての通り、いれこ、っちゅうねんけど、微妙やな。

 おっかあに由来を聞いた事があるんやけど、英語で十一をイレブンっちゅうから『イレ』子らしゅうてな。

 適当すぎやー。

 妹は十二がトゥウェルブっちゅうから『トワ』子ゆうてな。ええなー。

 そんでもって、うちが何で訛ってるかっちゅうと、K大学に通ってるからや。

 どっちかっちゅーと微妙に地域が違うんやけどな。


☆☆☆☆☆

CASE OF 12th. 永久子とわこ


 にゃ〜。

 にぃゃ〜。

 にゃいゃ〜。

 にゃぃやゃ〜。

 ぬゃいーゅや〜。

 にゃぃいゃやぃ〜。

 なゃいゃーにゃゃ〜。

 なぬぃょーさゃぃい〜。

「ねえ永久子、猫の声の担当だよね。後半、変になってるよ」

「ほゎ???」

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