二番目の、何でもやりこなす日高春見について。
『煮干祭』一日目のオープニングセレモニー。
文化祭実行委員長、日高春見はステージに上がった。
「おはようございます。委員長の日高春見です。よっろしくー。私、これからコンクールがあるので、これが終わったら消えます。悪しからずー。中夜祭と後夜祭にはいまっすよー」
一歩前に出る春見。
「そしてついに、遂に今日から文化祭がはっじまっりまぁーす。一週間以上の、準備、準ー備、準ーー備。皆さん、よーく頑張りました。実行委員のみーんなも、おっつかっれ様ーっでしたっ。でも、でもでも、これかっらが本番でーす。そっれじゃー二日間、頑張りましょー。いじょー終わりっ」
春見は颯爽とステージを下りた。
「ふぎょふぎょ」
そんな事を喋りながら。
ステージを下りた春見は下駄箱に走り、外に出た。
思考回路を切り替える。
高校から近くの駅まで、歩いて十三分。数箇所ある信号が青であれば、走って五分で着くことが可能だ。
そこを春見は走る。
微妙に上り坂になっている道路は、意外と疲れるものだ。
だが春見は息を全く切らしていない。
一定のペースで駅に着いた。所要時間七分。
ホームに入り、電車を待つ。
他の吹奏楽部員はと言うと、既に会場に到着しているはずだ。
春見は手帳を取り出す。
自由帳のように罫線が引かれていない手帳には、小さな字が所狭しと書き連ねてある。
それを読む春見は、いつもとは雰囲気が違った。
「まもなく、二番線に。急行、×××行きが。十両編成で、まいります。黄色い線まで、下がってお待ち下さい」
というアナウンスが二回流れると、電車がホームにやってきた。
会場の最寄の##駅は、ここから数駅の所だ。
春見はその空いた電車に乗り込み、端の席に座った。
その間、視線はずっと手帳を見ていた。
二十秒ほどの間隔でページを捲る。
時々、何かを思いついたのか、手帳に付いている小型のシャープペンシルで書き加えている。
「まもなく、##。##に、到着致します。お出口は、左側です」
電車が減速する。
それに揺られる事の無い春見は、手帳を閉じ、それを鞄に入れて立ち上がる。
そのまま扉に向かうとタイミング良く自動ドアが開き、春見は減速することなくホームに下りた。
駅から会場である##市民会館まで、歩いて十分程度。
一定の歩調と歩幅を保ったまま会場に着いた春見は、楽器を置く部屋に行く。
思考回路を切り替える。
中は程よい涼しさだった。
沢山の人と楽器の中から、☆☆高校のものを探す。
右端奥にいた。
「おっはよー」
春見はいつものように声をかけた。




