一番目の、何でも知っている新聞部部長について。
☆☆高校の校舎の一角にある新聞部室。
そこで一人たたずむ青年がいた。
彼は今、窓の外を見ている。といっても、そこから何が見えるかといえば、田圃田圃家田圃なのだが。
遠くには薄水色の山が横たわっている。そして高速道路の緑色の壁が山の方に向かっていて、それに直交するように川が一本流れている。
開いている窓から暖かい風が流れ込んできた。それに合わせてテーブルの上に乱雑に並べられたノートが捲れる。
彼は一人、空を見上げた。
真青に透き通るような青。そこに白い雲がいくつも浮かんでいる。
左から右に流れるほど、どんどん形が変わる。時々その間を小鳥が飛んでいく。
廊下からは時々生徒の話し声が聞こえる。
時間は放課後。
コンコン
扉が叩かれ、開かれる。
「おはようございます、部長」
谷崎潤一、二年生。新聞部部員だ。
「おはよう、谷崎君」
そもそも、基本的には新聞部の活動は毎月の☆☆新聞の発行と、各種コンクール等のための準備だ。
☆☆新聞は、意外と人気が高い。
文芸部や写真部、パソコン部などと協力して、量・質ともに人気雑誌に勝るとも劣らない内容を誇っている。
学校行事や社会情勢、部活動の近況や入試情報、勉強方法、大学情報、占いや社説、小説、イベント情報などなど。色々ある。
それを作る新聞部は、基本的に部員は一学年に一人と決まっていた。
コンコンコン
またも扉が叩かれ、開かれる。
「おはようございますです」
青梅慰夢、一年生。新聞部部員だ。
セミロングの白い髪。大きな瞳は深い青を持つ。
「おはよう、青梅君」
「おはようございます、慰夢ちゃん」
手に持った書類を胸に抑えたまま、ぺこりと腰を折った慰夢。
腰を戻し首を傾げながらにっこりと微笑むと、髪がふさりと波打った。
「部長、資料作ってきましたです」
そして書類を、ノートの散らばる上に置いた。
「うむ、ありがとう」
部長はそう言って書類に手を伸ばした。
潤一は書棚の中から一冊のノート『99/9』を手にし、それを読んでいる。
慰夢はテーブルの側にある椅子に座り、ノートを端に寄せ、紙を広げて定規で線を引いている。
これが新聞部室の日常。
新聞発行の数日前から忙しくなるが、今は発行数週間前。
来客が無い限りこの日常が続く。
因みに、おはようございます、というのは社交辞令のようなものだ。
「良く出来ている」
部長は目を慰夢に向けて、そう言った。
慰夢は顔を上げ、目を輝かした。
「本当です?」
「勿論」
「やったのです」
潤一は顔を上げ、ガッツポーズをした慰夢に微笑みかけ、親指を立てた。
それに気付き、慰夢も微笑み返し親指を立てる。
「これは、日誌の『08/6』に貼っておいてくれたまえ」
「はいです」
書類を受け取った慰夢は、テーブルの上にあるノートの中から『08/6』を取り出し、真中辺りから始まる空白のページを見つけ、書類を貼り付け始めた。
風が部室を通り抜ける。
それに髪をなびかせ、部長はまた窓の外を見る。




