来世に飛び立つ者
ミソラはポカンと口を開けたまま固まった。何故自分がツバサを殺さなければならないのか。
「ちょっと! どういうことよ!?」
「……分かるだろ?」
ツバサは世界規模で悪だと見なされている。どこにいても必死に捜索されるだろうし、問答無用で殺される。だが、ミソラはまだ悪だとはみなされていない。今、大衆の面前でツバサを殺せば、疑いが晴れるどころが、英雄として扱われるだろう。
それはミソラも分かっている。だが、一辺たりとも考えたりはしなかった。
「……でも……そんな……」
「俺が生きてると都合が悪い連中もいるし、今まで殺した奴の家族も俺を許さないだろう。どうせ殺されるなら、お前がいいし、お前には生き残ってほしい」
ミソラは考えた。数秒が何十時間にも思えるほどに思考を加速させ、二人で生き残る道を模索した。結果はーーそんなものはない。
「~~! 分がっだ……」
鼻声で発せられたそれは、今のミソラの精一杯の返答だった。
「じゃあ、俺が暴れてるところにお前が来て、加速剣を奪って俺を刺せ。最初からお前が加速剣を持ってると怪しまれるからな」
「……」
ミソラはうつむいたまま、コクりと頷く。見れば肩が震えている。ツバサはミソラの手にポケットから出したシワクチャのハンカチを握らせると、窓から飛び立つ。
「~ぅうわあぁぁああ"あ"!!」
ミソラはツバサのハンカチを顔に押し当てて泣きじゃくった。鼻にツンとくる金臭さは製鉄中に手を拭いたからだろう。でも、そんなもの気にもならなかった。
自分で愛する人を手にかけるのは辛い。だが、どうせ殺されるならミソラがいいとツバサは言った。言葉通り一生に一度の、最後の願いだ。これを聞き届けなければ、ミソラはツバサがいなくなってからも後悔し続ける。ミソラはその後も生き続けなければならないのだから。
「……分かりました。せめて私の手で、幕引きにしましょう」
その目にはもう涙はなく、そこにあったのは確かな決意だった。




