天使、悪魔、人間
シラクが語りだしたのは、この世界にかつて起きた出来事。そして、自分が何者なのかという問いへの答えであった。
「今から何千年も昔、世界には三種類の知的生命体がいました。「天使」「悪魔」「人間」です。天使は空、悪魔は地下、人間は地上に住み、それぞれ不干渉を貫いていました。しかし、人間がその掟を破り、空や地下に進出し始めました。最初の内は、人間の数が他の二種族に比べて圧倒的に多かったことと、天使も悪魔も数が少なかったことが幸いして大事には至りませんでした。ですが、天使と悪魔が戦争を始めた時、その均衡は崩れ去りました」
「何で戦争なんか始めたんだ? その流れなら人間がどっちかの種族と戦争することになりそうなもんだけどな」
「二種族とも、人間を取り込もうと動き始めたからです」
「なに?」
「三種族とも、それぞれに特別な能力を持っていました。天使は飛行能力。悪魔は魔力と呼ばれる不可視の力。人間は適応能力と繁殖力。しかし、天使と悪魔は繁殖能力が低かったのですよ」
「それで、人間を取り込んで種族を繁栄させようとしたわけか」
「その戦争は天使の勝利に終わりました。そして、天使と人間の間に生まれた子こそが有翼人なのです」
「なら、無翼人は?」
「人間同士の子。もしくは人間の遺伝子が強かった場合は無翼人となります」
シラクは一呼吸おいて話を続ける。
「ここからはあなたにもかかわる話です」
「やっとか」
「戦争が始まると同時に人間を取り込み始めたのですから、当然、悪魔と人間の相の子もいるわけですが、現在はいません」
「何でだ?」
ツバサはあえて質問した。答えなんて分かっていたのだ。勝利した種族が、敗北した種族を奇異の目で見ることなんてよくある話なのだから。
「種族浄化が起きたからです」
シラクも複雑な表情で語る。
「悪魔、および人間と悪魔の混血者は皆殺しにされました。それから程なくして、純血の天使は存在しなくなり、この世界には天使との混血である有翼人と、純血の人間および、人間の遺伝子が強く出たものである無翼人が残りました」
「なるほど。で、それが俺に何の関係がある?」
「もう、気付いているのでしょう?」
シラクが冷たい目でツバサを見る。ツバサも気付いていた。暴走したときに自身が使ったという黒い霧の正体にも、自身が何者なのかにも。
「あなたは悪魔と人間の混血者の生き残りですよ」
シラクが言い放つ。
「それで、何で俺を殺すんだ?」
「言いませんでしたか? 種族浄化の過程で悪魔の血を引く者は皆殺しにされたと」
「言ってたが、昔の話だろ!?」
「いいえ、まだ続いているのですよ。つい何百年か前にも悪魔との混血者が見つかり、秘密裏に粛清されたそうです」
「……見逃しては、くれないんだな?」
「もちろん。元々天使教は悪魔を粛清し続ける為に作られた組織でもありますから」
話は終わったとばかりに、銃口が再びツバサに狙いを定める。




