休戦、そして方向転換
「な、なんだあれは……」
「怯むな! どんな姿になろうが、囲んで殺せ!」
動揺する兵士たちにタカメが喝を入れる。それを聞いた兵士たちはすぐに行動を開始する。
「よし、攻撃開始――」
隊長が合図しようとした時だった。
「グァアアア!」
ツバサが黒い雺を兵士たちの方にまで広げる。
「た、退避――」
隊長が慌てて告げるが、間に合わない。あるものは鋭く変形した黒い雺に貫かれ、またあるものは腕の様に変形した黒い雺に押し潰される。殺され方は様々だが、確かなのは、近づいた兵士は皆殺されるということだった。
「なんなの、こいつ……」
本陣の兵士が全滅し、後ろから見ていたおかげで唯一生き残ったタカメが呟くように言う。
「私は、こんなところで死ぬわけにはいかない!」
鉄の翼を起動させると、慌てて本陣から飛び出す。
「片翼じゃ飛べないだろうし、空に出てしまえばこっちのものーー」
その言葉は最後まで続かなかった。まるで四足で空を駆けるように飛んできたツバサに、頭を潰されたから。
確かに安定していない。鉄の翼のほうが安定した飛行ができていた。だが、滅茶苦茶でも、ちゃんと飛んでいる。黒い雺を纏った漆黒の片翼で大空を駆け、すれ違いざまに兵士の首を加速剣と変形させた黒い雺で切り飛ばしていく。その姿はまさしくーー。
「あ、悪魔だ……」
「みんな逃げろ! あんなのと戦ったら命がいくつあっても足りねえ!」
タカメを失った無翼人軍は瓦解し、蜘蛛の子を散らすようにバラバラに逃げる。同じなのは、皆必死ということだけだ。
「ツバサ、大丈夫かな……なんか無翼人側が騒がしいけど」
その頃、ミソラは中立地点で様子を窺っていた。すると、無翼人側から人がパニックになりながら流れてくる。
「何かあったんですか?」
普通、戦争相手の有翼人であるミソラは、見つかれば即殺されてもおかしくない。だが、動揺していた無翼人たちは一言ずつ情報を伝えながら一目散に逃げていく。
ミソラはその途切れ途切れの情報から何とか無翼人側で起きたことを推察する。
「つまり、「突然現れた無翼人の男が化け物になってタカメ他無数の無翼人を殺戮中」ってことか」
(タカメを殺したってことはツバサ? でも、ツバサには化け物になるような力はないし……)
「とりあえず、行ってみるか!」
ミソラはツバサの元へ飛び立った。
「な、何ですあれ……」
そこで見たのは、黒い雺に無翼人が追われ、殺される姿だった。無翼人も逃げているが、鉄の翼の燃料がなくなった端から殺されている。
「あの黒い雺の中心は……!」
慌てて最高速度で雺の中心へ向かう。そこには漆黒の片翼を称えた、虚ろな目のツバサがいた。
「ツバサ! 何やってるの⁉ この黒い雺はあなたが動かしてるの⁉」
ツバサは答えない。意識があるのかすらわからない。
(埒が明かない。こうなったら……!)
「いい加減――」
ミソラは一旦下がり、場所を見つける。ツバサまで直線、最短で辿り着ける場所を。
「目を――」
背中の翼をバサリと羽ばたかせ、一気にツバサに近づく。
「覚ませぇえええ‼」
ツバサの顔面に拳を撃ちこんだ。助走をつけた拳がツバサの顔面にめり込み、鼻からは血が噴き出る。
「痛ってぇえええ‼」
ツバサが言葉を発した。
「あれ? ここは……ミソラ?」
殆ど状況が理解できていないツバサを連れて、一旦地上に降りる。
「なるほど。そんなことが……」
お互いに知っていることを教え合い、情報の擦り合わせを行う。
「それでツバサ、これからどうするつもり?」
「とりあえず、これのことを調べねえと不味いだろ?」
そう言ってバサバサと漆黒の片翼を動かす。黒い雺はツバサの意識が戻ると同時に消えたが、漆黒の片翼が戻ることはなかった。
「でも、どこに聞きに行くの? ツバサ以上にツバサの身体に詳しい人なんているの?」
「う~ん……。とりあえず匿ってもらうか」
二人は再び天使教本堂へと向かう。




