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翼の価値  作者: 八月十五
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産声を上げるモノ

戦争というものについて、二つだけ確かなことがある。

一つは「科学技術が著しく発展する」こと。戦争で兵器として使用された薬品、技術が、後に大勢の命を救った。なんて話もよく聞くように、戦争に参加した国家の科学技術は、非参加国家に比べて一気に上がる。

二つ目は「多大な死者が出る」ということだ。

戦争は言葉を変えれば殺し合いだ。当然のことながら大勢の死者が出る。だが、人間は「愛」の深い動物だ。そして、私は「愛」と「憎」は表裏一体だと考えている。戦争で死んだ者の家族や愛人は、決して殺した者を許さないだろう。憎しみが戦争を悪化させる。

収穫のない戦争はないが、犠牲のない戦争もまたない。

「くっ、首が飛んだ⁉」

「何者だ⁉」

「怯むな! 敵は一人だ! 囲め!」

ツバサは上へ下へ、右へ左へと縦横無尽に駆け回る。もしここが地上ならば、ツバサは簡単に囲まれていただろう。だが、ここは上空。そして、無翼人である彼らは、一部を除き、殆どが空を飛んだことがない。三次元の動きにまだ対応しきれていない。そのうえ、鉄の翼を使うことを前提としたこの戦闘では、ツバサには一日の長がある。加えて、追いつかれそうになっても、加速剣の引き金を引いて逃げ切れる。残りの燃料が気になるが、手加減できる状況ではない。

(今のところは問題ない。あくまでも今のところは……)

有翼人が介入してくれば、状況は一変する。ツバサも空中で有翼人相手に勝てると考えるほど思い上がってはいなかった。

無翼人の首を落して百回を迎えたころ、無翼人の本陣が見えてきた。

(タカメは無翼人の長だ。戦場にいるとは考えにくい。いるとすれば、本陣‼)

加速剣の引き金を引き、一気に加速して護衛の兵士を無視し、本陣に飛び込む。

そこには、タカメがいた。いつぞやの様に優雅に茶を飲んでいる。

(この距離! タカメは俺に反応できてない、いける‼)

ツバサがさらに加速剣の引き金を引き、一気にタカメの首を獲ろうとしたときだった。

ドガァン!

横からの凄まじい衝撃に、身体が吹っ飛び、バランスが崩れる。慌てて体勢を立て直すと。ツバサは何人もの兵士に囲まれていた。

(いったい、何が起きた……?)

状況が呑み込めないツバサを他所に、時間は進み続ける。兵士は武器を振り上げ、ツバサを切り捨てる準備を始めた。

(やばいっ……動かないと死ぬ‼)

慌てて加速剣の引き金を引き、その場から離れる。

「来ると思ってたわよ、ツバサ」

「ああ、殺しに来たぜ……タカメ!」

ツバサは剣を構える。だが、その時になって初めて気づいた。自身の左腕が、肩からなくなっていることに。

「あ? あ、あっあああああああ‼」

途端に血が噴き出し、床を朱く染める。

(あのときだっ! 何かがぶつかってきたときにっ……!)

動揺するツバサにタカメが言う。

「我らが独自に研究、開発した超高速弾です。狙いがズレるのと、燃費の悪さが欠点ですがね」

銃弾を撃つ以上、頭を狙われていたはずだ。だが、当たった場所は腕。これだけのズレがあれば、誤差というレベルではない。少なくとも、普通なら実用は考えない。

「我らに捉えられない高速で動くあなたを殺すには、これしかないと思ってね。わざわざ持ってきたのよ」

ニヤニヤした笑みを浮かべながら激痛にもがき、床をのたうち回るツバサを見る。

「少し勿体無いけれど、そろそろ終わりにしましょう」

そう言って手を挙げる。あれは「構え」の合図。タカメが手を下に振り下せば、無数の弾丸がツバサを貫くだろう。

(終わるのか? ここで……?)

失血して上手く回らない頭でボンヤリと考える。

(そもそも何でこんなことになった? 俺はただ、空が飛びたかっただけなのに……)

虚ろな目で目の前の高笑いしているタカメを見る。

(そうだ、こいつのせいだ……こいつが俺の夢をくだらないことに利用しやがったからだっ……!)

そこからは憎しみがツバサの心を支配した。

(殺そう。お前は生きてちゃいけないんだ。俺がこの手で殺ってやろう)

その瞬間だった。黒い雺がツバサの体を包んだ。

「なに? まだこんなものを隠していたの?」

「……ろす」

「え?」

「……殺す。殺す殺す殺す! ぶっ殺す‼」

雺は傷口に集まると、歪ながらに形を成していく。

「……なんなの、これ……」

そこにいる誰もが口をポカンと開けたまま固まった。

色は黒を何重にも塗り固めたような漆黒。形はまるで、水が自然に氷になり形を成したように規則性がなく、武格好だが、それが何なのかはかろうじて分かる。

「黒い……片翼……」

抉り取られた肩も黒い雺が塞ぎ、まるで魔法の様に完治していた。

「ウグ、アグァガアアアアアアア‼」

もはや言葉すらも発せず、自我があるのかどうかすら定かではないが、ツバサだったナニかは漆黒の片翼を広げ、高らかに咆哮した。

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