困った人を見捨てられない性格
しかし優季と別れ、冷静になって考えてみた。
あの茶坊主のメガネを取ったところでオレに何かがあるというワケでもない。
元々はあのクソジジイが名前をちゃんとチェックしなかったのが原因だ。
それにあの茶坊主と一緒に銭湯に行こう、だなんて誘うのもアホらしい。
となると、初期設定の徳を積む事で元に戻るしかないのか…
徳を積むったって、どうやれば徳を積む事が出来るんだ?
人間なんて、表と裏の顔があり、天使と悪魔が住み着き、聖人君子のようにはなれない。
要は聖人君子にはなれないが、それに近づくよう努力をすればいいって事なのだろうか?
…知らね。
とにかく徳を積むしか元には戻れないのなら、徳を積んで積んで積み重ねてやるしかない。
とは言うものの、毎朝ポメ夫に起こされ散歩に出掛けるのはいいが、ポメ夫には決まった散歩ルートが無い。
フツー犬の散歩と言えば、大体は決まったコースを歩くのだが、ポメ夫の場合、行きたいとこに気の向くまま歩く。
ただ不思議なのは、ポメ夫の歩くコースには、誰かしら何かで困っている事に出くわす。
この前は重そうに持っていたお婆さんの荷物を持って信号を渡り、財布を落としてオロオロしているOLに出くわし、一緒に探し見つけ出したりと、これもポメ夫の予知能力なのだろうか?
「おい、くそ犬。テメーわざと困ってる人達の方へ行きたがるが、これも徳を積む事になるのか?」
そんな事を聞くと、ポメ夫は愛くるしい顔で頷いた。
「私の行く所、常に困っている人がいるポメ。
それを手助けするのが徳を積む事になるポメ」
身なりは完全に犬だが、ジジイや茶坊主よりはまともな方だ。
さすが統括部長という肩書きはダテじゃない。
このポメ夫のおかげで朝夕の散歩に連れていくと、必ず誰かが困っている。
ドブ川に落ちた幼稚園児を救出したり、ヤンキーにからまれているヤツの間に入り、代わりにオレがボコボコにされたりと、徳を積んでるのか、悲惨な目に遭ってるのか分からないぐらいだ。
だが、オレの中でも徐々に変化が表れ、困った人を見捨てられない性格になってしまった。