EX-91 AF「佐藤春香の、ロールプレイをしていた者」
FWO第一エリア『リーネ総合オフィス』。ミッキー美樹と釣り師な実くん、ミリビリ姉弟と渡辺 凛、そして門番『セイ』の誠くんがいる。私はとりあえず佐藤春香アバターMk-IIのみである。
「翻訳機能の強化、ですか?」
「正確には、ちょっと違うけどね。テレパスの要素を含むから」
「て、テレパスって…超能力よね?」
「あたし達、そんな能力『現界』できないわよ?」
今回はそっちの方向での実現はしないよ。
「あ、私はできるよ!出ろ出ろ出ろ…」
「渡辺 凛、あなたはいつもそうやって『現界』能力を…?」
「ううん、特に決まってないよ。前は、こう、ポーズをとって…」
無視しよう。どうせあさってのものが現界されるだけだろう。長音と短音の組合せで全てのデータを表現する携帯端末とか。
「では、コンピュータシステムとしての実現ですか?自我認証システムのように」
「そうだね。実は既に試作してあって…」
「うん、わかってた」
ビリーくん、言い方が皮肉っぽいよ?
「じゃあ、試すね。『私の名前は春香。』はい、今のを繰り返して」
(他5人)「「「「「私の名前はリーネ。」」」」」
(渡辺凛)「Mein Name ist Haruka.」
「「「「「え?」」」」」
「あれ?」
よしよし、言語だけでなく名前も変換されているね。
「じゃあ、もう一度。『سعدت بلقاءك مجددا』はい、繰返して」
「「「「「また会えて嬉しいよ」」」」」
「Schoen, dich wieder zu sehen!」
「「「「「「…」」」」」」
ネタばらしのため、今の様子を『録画』した映像を見てもらう。
「という感じの変換を双方向でできるような機能を、アバター単位で組み込めたらなあと」
「いや、あの…凄すぎるんだけど」
「そうね。特に、名前まで各自が把握しているものに変換されるなんて!」
そこがこの仕組みのキモなのですよ。
「単に翻訳するだけじゃなくて、各自の記憶と照らし合わせて変換するようになってるんだ」
「はあ…」
「フルダイブしている仮想世界だからこそできるって話はあるね。こっちの現実世界に『マナ』はないし」
「「「「「「マナ?」」」」」」
ああ、元ネタの言語魔法について話してなかったね。かくかくしかじか。
…
……
………
「「「「「「…」」」」」」
「凄い!凄い凄い凄い!春香ちゃん、ドラゴンに乗って空飛んだの!?」
そこに食いつくか、渡辺 凛。
「「「「「「…」」」」」」
あれ?他のみんなが固まったままだ。どした?
「ねえねえ春香ちゃん!ドラゴン召喚して!ドラゴン!」
「却下」
ようやく落ち着いて暮らせるようになったんだよ?人類に何かしない限りは、しばらくそっとしておきたいのだ。少なくとも千年くらいは。
◇
転移型通信路を用いた、各国首脳とのVR会合。
「これは…!なかなか快適だな」
「本当だな。細かいニュアンスまで伝わってくる」
「太陽系連合の樹立も迅速に進められそうだな!」
というか、こういうのがないと連合政府の運営が煩雑になるよね。
「これも、あくまで手段です。ただ、先の『名前』の例のように、同じ言語で話していても、この仕組みは有効です」
「言葉による望まぬ誤解が減らせるわけか…。我々のような説明責任のある者にはありがたいよ」
そうだね。私も記者会見とかよくやるから、その気持ちよくわかるよ。
「では、FWOで普及させていきたいと思います。『Second Stage』では稼働開始時の標準機能ということで」
「素晴らしいな…。まず最初は日本サーバから?」
「ええ。といいますのも…」
これで、ようやく伝えることができる。誤解されることなく。
◇
FWO内『リーネ総合オフィス』。
両親を、招待している。
「そういえば、ここに来たのは初めてだな!それで、あらたまってなんの話だい?」
「そうね、えっと…言語モジュール?そのテストなの?」
「それもあるけど…じゃあ、入って」
私の合図で入ってきたのは、渡辺 凛と…
「こちらの方々は?」
「渡辺 凛の…そして『リーネ・フェルンベル』の、お父さんと、お母さん」
「「…え?」」
両親には、『私』の、と聞こえたはずだ。FWO内だから、認識阻害も影響しないだろう。
「え?春香ちゃんの…あれ?」
渡辺 凛にも伝わっているようだ。それだけに、混乱もしているが。
「いよいよなんだな、リーネ」
「…うん」
リーネの両親にうなずき、佐藤春香の両親と、渡辺 凛に向けて、話し出す。
「これまで隠していたことを、話すね。私は…私は『リーネ・フェルンベル』。そして―――」