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EX-90 AF「異世界に召喚されてしまった」

EX-9〜10で廃棄したネタを再利用しました。意図はちょっと違うんですが。

 いつものように、大学の知り合いに食堂で抱きつかれながら定食を食べていたら、彼女が(リーネ)から離れた瞬間、異世界に召喚されてしまった。

 我ながら、何を言っているのかわからないが、状況証拠から、そう判断するべきだろう。今回は、転移門について作業していたわけではなく、HS-01は携帯回線を検知しない。


「おお…召喚に、成功したのか…!」


 召喚とやらの影響で発生していたと思われる霧が晴れていき、周囲が見えてくる。

 どこか湿った空気を感じる、石造りの壁で作られた地下室のような空間。私の周囲に展開された跡がある、広大な魔法陣の残照。その更に周囲を取り囲む、神官や魔導士のような格好をしている人々。


 そして。


「メイド…!?」

「メイドだと…!?」


 そうだよ、メイド服を来た私だよ。文句あっか。


「言葉は…通じるみたいですね」

「な、なんだと!?言語魔法をかける前に、我らの言葉を喋っただと…!?」

「え、そんな便利な魔法があるんですか!?教えて下さい!」

「ちょっと待て!ならば、なぜお主は会話が出来るのだ!?」

「え、私がいた世界に、似たような言葉を使っていた人々がいましたので」

「一体、どんな世界から来たのだ…?」


 いやまあ、ごく普通の、科学技術が発達した世界からですけど。


 とりあえず、召喚の指揮をとっていた神官のカール師と話を続ける。


「ところで、こちらの世界では、どうやって魔法を使うのですか?」

「そ、それは…大気に満ちているマナを吸収し、それを想像力で制御して…」

「なるほど、割と科学的ですね。神や悪魔と契約とかだったら、面倒でしたが」

「え?」


 自我を認識する。理論を定義する。現実の有り様を思い描く!


「リーネ・フェルンベルの名の下に現界せよ!探査魔法【インシデント】!!!」


 私が元の世界のコンピュータシステムで【運営No.00】として一気に不具合情報を収集する技能を、FWOの魔法スキルに見立てて『現界』させる。

 そして、この世界で起きている問題の概要を、そのマナとやらを介して一気に収集する!


「なるほど…暴走した古竜が、何体か存在しますね」

「なっ…なっ…」

「そして、その古竜を倒すために、勇者と聖女のふたりが必要。しかし、この世界には…聖女しかいない」


 だから、勇者が必要な時には、異世界より召喚するしかない…ということのようだ。


「わかりました。ではまず、その聖女に会わせていただけませんか?言語魔法は、古竜をなんとかした後にゆっくりと」

「え、あ、お主は、勇者なのか…?」

「おそらく。正確には、『勇者の役割を果たす(ロールプレイをする)者』となるかと思いますが」

「…?」



 召喚した国『デザイア』の王宮に連れて行かれ、国王ルーカス三世との謁見を兼ね、謁見の間で聖女が紹介された。


「わ、私が、聖女フローラ、です…。まだ、聖女として選ばれて、1週間ほどですが…」


 なんともかわいらしい、小柄なお嬢さんだった。え、小柄とかまだお前が言えた義理じゃない?そうだけどさ。

 イメージとしては、誠くんの妹の(めぐみ)ちゃんに近いだろうか。おそらく、年齢も12歳前後だろう。


「ああ、私はそろそろ20歳ですので」

「「「「えええっ!?」」」」


 いや、これでも精神的には結構サバ読んでるのよ。20歳くらい。そこまで言うと混乱するから黙ってるけど。


「でも、勇者は常に男性と聞きましたが…」

「たまたま、でしょうか。私に勇者の資質があることは、既に騎士団の方々に確認していただいていますので」

「そうなのですか!?」


 同席している騎士団団長のシュヴァルツさんが、こくこくっと思い切り首を縦に振る。うん、まあ、王宮に来る途中でお願いして、剣を借りて、ちょっと模擬戦をね。


「騎士団の精鋭部隊が瞬殺…剣筋どころか、姿そのものが追えなかった…メイド服のままで…」


 シュヴァルツさん、ガクガクしながらなんかつぶやいているけど、メイド服は関係ないと思うよ?


「では、そろそろ討伐しましょうか」

「え、これからすぐに向かうのですか!?」

「いいえ、違いますよ」


 パチン


 私が指を鳴らすと、聖女フローラを名乗っていた(・・・・・・)者の姿が変化していく!


「向かう必要が、ありませんから」


 あっと言う間に、数メートルのドラゴンの姿となった。しかしこれ、質量保存の法則はどうなっているんだろ。

 ちなみに、私とドラゴンを囲んだ『プロテクトキューブ』は無詠唱で展開済みだ。謁見の間が広くて良かったよ!


「ぬわあっ!?」

「きゃー!?」


 もちろん、大騒ぎだ。もっとも、こうして『本来の姿』を強制的に見せないと、話がややこしくなりそうだ。


<貴様…なぜわかった!?それに、どうやって我の姿を元に…!>

「その質問に答える前に教えて。本来の聖女は?教えないと…」


 私はドラゴンの体をたたたっと駆け上がり、スカートの中に隠していた短剣を、目の前に突き立てる。


<ま、待て!我の予見能力では、聖女発現まで、まだ数週間ある!だから、我が強力な封印魔法を見せて聖女のフリをして…>

「召喚された勇者を、先に抹殺しておこう、と。なるほど」


 召喚魔法は、今回の問題に対処できる者を、世界そのものに訴える術。この世界も、私がこれくらいのことができると踏んで召喚したのだろうか。


「あなた達古竜は、暴走などしていない。召喚される勇者を倒すための、芝居だった」

<その通りだ…。聖女発現の予見を利用して、生存環境を拡大したかった>


 と、いうことは。


「ならば、新しい生存環境を作り出せばいい。私が、手伝う」

<そんな、ことが…>

「ここから北方の、極寒の地域。火山をひとつ活性化させれば、暖かい地域となる」


 探索魔法を使った時に、この世界の問題点として引っかかったのよ。元の世界の、地球環境の改善のために『現界』した活性化技術が役に立つ。…実は、渡辺 凛が『火山の噴火ってカッコいいよね!』とかいって『現界』させたものを、とりあえず彼女をしばいてから実用化したものなのだが。


<本当か…?本当に、そんなことが…!>

「ならば、これから行こう。連れて行って、くれる?えっと…」

<フローラ、だ。この名前は本名だ>


 メスだったのか。


「では、フローラ、ここから北東に向かった先にある火山に、私を乗せて飛んで」

<わかった。…この姿で人間に名前を呼ばれたのは、初めてだ>


 名前、重要だよね。言葉の基本だよ。



「今回の召喚魔法の分析と応用で、私は再度、この世界に来ることができます。元の世界にいながら、こちらの情報を収集することもできるでしょう」

「<…>」

「ちなみに、私は時を超えることもできます」

「<…!?>」


 互いの生存地域を奪おうとしたら、私がすぐ飛んで来るってことだよ!時間軸全体をサーチしてね!

 まあ、なんとか共存の道を探ってほしい。能力とか素材とか、お互いに協力し合える要素はいくらでもあるんだしさ。


「言語魔法を教えていただき、ありがとうございました。私の世界は、言語が変化しやすい特徴があるようでして」


 ほーんと、どうなってるんだろうねえ、あの世界の言語環境。あれ、でも『バベルの塔』の伝説が本当なら、神がわざと…そういえば、私は割と数多くの言語を修得しやすくて…名前も複数あるし(春香とかリーネとか)…。よし、考えるのはよそう。ある意味、いまさらだ。


「では、また(・・)



「あれ?春香ちゃんの姿が、ブレたような…」

「…気のせい、だと思う」

「そうよね!春香ちゃんが定食を食べてる姿、相変わらずかわいいし!」


 そう言って、いつものように抱きついてくる、大学の知り合い。いい加減、そろそろ名前で呼ぶべきか…?

結局スピード解決しちまうリーネ(春香)っていう。

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