表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
96/101

EX-89 AF「どうって…『共に生きる大切な人々』だよ」

なんと、初・田中さん視点!作品としては本編含めて、春香リーネと同じくらい古い登場人物なのに…。

 マンションの自宅で、美樹さんがつぶやくように()に話しかけた。


「実さん、私、もうリーネと付き合えない…」

「…まるで、男女のお付き合いのような表現ですね。なにかあったんですか?」

「なにかあったというか、時々あったというか…。ケンカしているわけじゃ、ないんだけど」


 ぼそぼそとつぶやいていくあたり、心当たりはある。


「リーネが時々あっけらかんと言う昔の出来事が、不憫すぎて泣けてきますか?」

「…わかる?」

「それは、まあ。リーネの方はある程度実体験で、『春香さん』としての方は…御両親絡みですかね」


 リーネの『世話好き』が、ある時にはとても極端なものとして現れることがある。FWOで言えば、『リーネがケインのために攻略し続けてきた』ことだろうか。私達はどちらも本人であることを知っていたため、ずっと微笑ましいものと捉えていた。しかし、アバター同時接続を公表するまで、世間一般の人々はそうは思っておらず、そして、彼女自身は、そんな世間一般の人々の反応を不思議がっていた。ケインの役割(ロール)は、彼女にとっての御両親のような捉え方だっただけなのだ。


「でも、一方で、周囲からはとても大切に扱われてきたみたいなのよね。空回りしていたようだけど」

「普通、逆ですよね…」


 いつの間にか、彼女に尽くされていた。ずっと、気づかなかった。彼女の今の御両親のように、ほとんど気づかないままということすらある。

 気づかないはずである。彼女にとって、人々に尽くすのは当然であるから、苦しんだり、嘆いたりしない。なぜするのかすら、わからないのだろう。なにしろ、彼女は有能で、万能で、神の如き力すら振るえるのだから。人々に尽くしても、自分自身の面倒もほぼ完全なのである。

 もちろん、例外はある。タイムスリップしたという、過去の『フェルンベル』の村だろうか。それと、スーパーの特売で買い出しに行った時に、一度風邪をひいていた。いずれも、すぐに回復しているのだが。


「…それが、気になるのよね。実は、人知れず大変なことになっていて、でも、私達の前に現れる時は、回復していて」

「そうなんですよね…。また、彼女には強制的に休んでもらいましょうかね。須藤くんが一緒なら、なおいいでしょう」

「でも、その須藤くんとのドライブでさえ、アレだったんでしょ?」

「アレでしたねえ…」


 『現界能力の任意発動』は、彼女にかなりの負担がかかっているのではないだろうか。須藤くんが一度、そのようなことを聞いてきた。

 しかし、私達にはわからない。わかるのは、おそらく渡辺女史だけだろう。しかし、彼女は体系的に物事を捉えている様子があまり見られず、感覚だけで対処しているように思える。リーネや美樹さんが苦労している理由のひとつだろう。


「リーネのあの性格が能力に依存しているのなら…一度、調べてみない?」

「何をですか?」

「『現界』能力の、素性。あれは、なんなのか」

「そういえば…」


 そういえば、そこに思い至ったことがこれまでなかった。


「御両親の認識阻害と…もしかすると、リーネが意図的に認識阻害をかけているのかも」

「こうして、事情を深く考察することで、認識阻害が解除された…ということですか?」

「うん。つまり…」


 リーネは、『現界』能力の素性を知っている。

 そして、それを隠している。


「『リーネ・フェルンベル』であることを、あそこまで隠していたくらいだからね。さっきの話じゃないけど、なんでもないような顔をして、実は頑固に秘匿している可能性はあるよ」

「『世界の創造』や『魂の入れ替わり』以上の、何かがあるかもしれないというのですか…」


 まだ他にあっても、もう驚かない。そんな心境ではあるが。


「そうですね、リーネに黙って、調べてみましょうか。ただ…」

「うん。須藤くんにも、付き合ってもらおうよ」


 彼の『本質を見抜く力』をアテにしているというよりも、彼も巻き込んだ方がいいだろう。なにしろ、リーネの幸せに直結しているのだから。

 もっとも、だからこそ、リーネに知られてはいけない。触らぬ神に祟りなしである。神のような存在だけに。



 須藤くんと共に、美樹さんの運転する車に乗って、私の実家がある町に向かう。


「…実は、その『何か』を僕も感じています。ただ、それが具体的に何かということまでは…」

「それはしかたがありません。須藤くんのその力は、言わば概念を捉えるものでしょうから」

「概念と名称があらかじめ頭の中で結びついていれば認識できる、ということだもんね」


 相変わらず、美樹さんは私よりも理解力がある。大学で哲学的なことを少し学んだというのは間違いないようだ。


「実さんの実家には一度行ったことがあるけど、他に何かあったっけ?」

「あの時は、渡辺女史がリーネであると思っていましたから、寄らなかったんですけどね」

「ああ…『巫女ハルカ』の元ネタね」


 そう、渡辺家の神社だ。


「…あれ?どこから行けばいいの?」

「おや、変ですね。どんなルートだったか…」


 …そうか!


「須藤くん、わかりますか?」

「…はい、『認識阻害』がかけられています。間違いなく、リーネのですね」

「そこまでして…?」


 もっとも、こうして『認識阻害』を明確に認識できてしまえば、阻害されないよう進むことができる。



「ここか…。普通の、神社ね」

「そうですね。今も、地元の行事で使われているはずですから」


 地元の行事で使う以外は、認識されない。ずいぶんと凝った『認識阻害』である。


「…須藤くん?どうしました?」

「…」

「須藤くん!?」

「…高橋さん、田中さん。リーネが隠したかった理由が、よくわかる気がします」


 気が、する?


「どういうことですか?」

「人が触れてはいけないものを、この神社全体から感じるんです。でも…」

「でも?」

「その感じるものが、リーネそのものなんです」

「「…!」」


 ある意味、私達が、いや、人類全体がこれまでリーネに感じてきたことと、変わらない。

 言わば、『裏付け』が取れてしまったようなものだ。科学的根拠は、まるでないが。


「『神の如き力』じゃなくて、『神』そのものだったというの…?」

「そうとしか…感じられないんです」

「なんというか…納得できてしまうのが恐ろしいですね」


 これは、確かに言えない。たとえ、本人だったとしても。


「リーネは、どう思っているのかしら…自分自身のこと」

「神にもいろいろありますが、リーネは『無償の愛(アガペー)』をもたらす存在、でしょうね」

「別名は『犠牲の愛』よね…」


 いろいろなことがはっきりしてしまった気分である。相変わらず、科学的根拠がないが。


「リーネは…僕にも、そんな存在として接しているんでしょうか…」

「どうかな?中身が神様だったとしても肉体は人間だからね。文字通り、人並みの男女愛(エロス)はあると思うよ?」

「それを見事射止めたという意味で、須藤くんは偉大な存在ですね」

「そうそう!神様を恋人にできたんだから!」

「からかわないで下さいよ…」


 偶然もあっただろうが、結果オーライである。


「じゃあ、須藤くんにはこれからも頑張ってもらわないと!リーネが神様気分で暴走しないよう、存分に誘惑して!」

「えええ…」

「美樹さんは、いいんですか?」

「もちろん、私もだよ!リーネには、たっぷりと女の友情を注ぎ込むから!隣人愛(フィリア)ってやつね!」


 美樹さんが、いつもの調子に戻ってきた。リーネの最後の秘密には驚愕したが、この様子が見られただけでも、私には良かったと思える。



 VR研会議室。


「ほらほらリーネ、ひさしぶりのリアルお刺身だよ!はい、あーん」

「どうしたのよ、美樹…大学の知り合いと同じようなことして」

「む、他にもいるのか!まあ、美里ちゃんもそうだったよね!でも、たまには私もしたいから!」


 美樹さん、その行為は『誘惑』のそれに近いのでは…。


「実くん、美樹ってばどうしちゃったのよ?実くんがちゃんと相手してないからおかしくなった?」

「人聞きの悪いこと言わないで下さい。美樹さんも、リーネとこれまで以上に仲良くしたいということですよ」

「ふーん…?」


 さて、私は何をリーネに求め、また、与えたいのだろう。

 リーネには幸せになってほしい。それは、今も昔も変わらない。しかし、美樹さんや須藤くんの求めるそれとは、少し違う気がする。

 昔のリーネには憧れがあった。そして、『佐藤春香』にも同じ想いを抱いた。それは、彼女が紛うことなき神だったからなのかもしれない。


「ねえねえリーネ?リーネってさ、『コアワールド』のオリジナルを作った時、NPCもたくさん作ったんだよね?そのNPCについてはどう思ってる?」

「どうって…『共に生きる大切な人々』だよ。記憶を取り戻したからよくわかるんだ、私と何百年も過ごしてきたんだからね」

「そっか…そっか!」


 とはいえ、『神様気分で暴走しないように』というのは、言い得て妙だろう。ならば、ひとりの人間として普通に接していくのも、その目的に叶うのかもしれない。リーネの言う『共に生きる大切な人々』のひとりとして―――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ