EX-88 IF「佐藤春香さん、僕とお付き合いして下さい!」
ここまでが第7シーズンとなる予定です。奇数シーズン最後にIFが入っている感じかなあ。
「佐藤春香さん、僕とお付き合いして下さい!」
「…はい!」
高校に入学した私は、ある男の子とクラスメートになった。
その男の子の名前は、須藤誠くん。とっても穏やかで、とっても優しくて。
最初は接点がなかったけど、話すきっかけができたらすぐに仲良くなって…好きに、なっていた。
「(ひそひそ)春香が、登校初日から朝早く来て教室の花瓶の水を代えていたなんて…」
「(ひそひそ)須藤くんも、家が遠いからってむしろ早く登校していたみたい」
入学して1週間で、告白されるとは思わなかった。だって彼、すっごくカッコいいんだもん!
絶対にモテる!クラスですぐにリア充グループの頂点に君臨する!絶対に女の子を侍らせる!
下世話だけど、それだけ輝いている。教室の隅の席でひとり携帯端末をいじってるような私とは違う。
「(ひそひそ)ふたりが面と向かって話をしたら絶対にくっつくと思っていたけど…」
「(ひそひそ)どちらのファンクラブも、早々に解散かよ…」
「(ひそひそ)これからは、温かい目で見守りましょう。美少女&美少年のカップルとして」
だから…嬉しかった。こうして、お付き合いできることになって。
◇
「ま、誠くん、お昼、一緒に食べない?」
「う、うん。じゃあ、混む前に学食に…」
「あの、私、お弁当、作ってきたの。ま、誠くんの、分も」
「え、春香が!?」
「うん。私、いつも、お弁当だから」
というか、毎日学食でお昼食べられるほどのお金がないというか…。でも、それはしかたがない。両親も一生懸命、働いている。その結果の経済状況なんだから。
お弁当なら、中学まで2人分だったのを3人分にするだけでいい。そして、更に4人分にしただけだ。材料費と手間はそれほど変わらない。
「…おいしい。おいしいよ、この唐揚げ!」
「そ、そう?レシピを探して、作ってみたんだけど」
「え、春香が自分で作ったの!?冷凍とかじゃなくて?」
「う、うん」
これまでは、簡単に作れるものだけでお弁当を用意してきた。卵焼きとか、ウィンナーとか。
でも、育ち盛りの男子高校生はそれじゃ満足しないよね!ということで、頑張ってみた。
胸鶏肉なら安いし、前の晩に下ごしらえしておけばいい。朝のランニングの後でも手早く用意できる。
「よ、喜んでもらえて、良かったよ!」
「…!」
「…な、なに?」
「い、いや…いつも、笑顔が素敵だなって…」
…気絶しかけた。そんな言葉を、そんな甘いルックスで言われたら…!
ううん、嬉しがっているばかりじゃダメだよね!
「誠くんも…か、カッコ良いよ!」
「そ、そう…?あ、ありがとう」
「こ、こちらこそ…」
「…」
「…」
なんというか、高校生とは思えないほどにウブでぎこちない反応をしてしまった。小学生カップルだってここまで酷くないよね。
でも、しかたがないじゃない!男の子と付き合うなんて初めてだもん!しかも、しかもその初めてが、こんなに優しくてカッコいい、誠くんなんだもん!
「(ひそひそ)砂、吐きそう…」
「(ひそひそ)吐きそうじゃなくて、既にたっぷり吐いた」
「(ひそひそ)はー、俺も彼女作ろうかな」
「(ひそひそ)ホントよねえ。どこかにイイ男転がってないかしら」
「(ひそひそ)そういえば、こないだ街で美里と会った時に」
「(ひそひそ)健人はやらないわよ!?」
◇
「春香、週末にデートしよう!映画のチケット予約したんだ!」
「ふえっ!?あ、う、とっても、嬉しいけど、で、でも、突然、どうしたの?」
「えっと…ここ数週間、春香にお弁当作ってもらっていたら、その…お小遣いが余って」
誠くんは、親御さんから昼食代込みでお小遣いをもらっていたそうだ。
え、でもそれって、
「誠くんが、チケット代、2人分払ったの!?」
「前から、お弁当代を払おうと思っていたんだけど、お金を直接ってよりもいいかなあって」
「気にしなくて、良かったのに…」
「春香と、一緒に観たい映画なんだ。いいだろ?」
「…うんっ」
家が結構離れているので、映画館の最寄駅の前で待合せをした。
「誠くん、おまたせ」
「…え?制服?」
「えっ…」
だいしっぱーい!何やってんの、私!
私服はそれなりにあるけど、どれも子供っぽいから…制服だと、そんなことないと思って…。
「うわあああ、似合う!似合うから!制服だから当たり前だけど、とっても似合うから!」
「ありがとう…ぐすっ」
涙目になりながら、誠くんと映画館に入る。
「えぐっ…ぐすっ…ううっ…」
映画を観終わった私は、涙目を通り越して号泣していた。
「ごめん、まさか、こんなに悲しいエンディングだったとは…」
最初は、ワクワクドキドキのSFラブロマンス超大作って感じだったのに!普通の女子大生がいろんな事件に巻き込まれて、でも次々と異能が発現して、敵を爽快に薙ぎ払っていって!
でも、ようやく恋人が出来たと思ったら、実は彼女は神様の生まれ変わりで、全人類を救うために力を使い切って、彼氏の腕の中で消滅してしまうなんて…そのまま泣き崩れる彼氏のシーンで終わるなんて…酷すぎるよ!
「は、ハンバーガー食べよう!僕がおごるよ!」
「ぐすっ…わ、私も出すから…だから…」
そうして食べたハンバーガーは、とってもしょっぱかった。
はあ…これが、初デートの味かあ…。
◇
「え、バイト?」
「う、うん。自分のお小遣いくらい、自分で稼ごうかなあと」
「もしかして、有料の携帯端末アプリか何か?春香って、VRやARに興味もってたよね」
「ま、まあ、そんなところ」
なーんて。実は、お昼のお弁当のおかずを少し充実させようかなあって。唐揚げだけじゃなくて、たまにはハンバーグとかも入れたいなあって。あと、少しお高いアスパラガスとか、ブロッコリーとか。
でも、それ言うと、また誠くん、気を遣うよね。だから、こんな感じでごまかした。ちなみに、バイト先の都合で学校の許可が必要になったので、申請する時に担任の先生には理由を正直に話した。号泣された。なぜに。
「いらっしゃいませ!こちらでしばらくお待ち下さい!」
「テーブル席注文入りました!ミックス3、ハンバーグ1、サラダ2です!」
「ドリンクバー、グラス補充終わりました!次、ボトル入れ替えます!」
ちなみに、バイト先はファミレスだ。いつもはおどおどした感じの私だけど、お金を稼ぐんだからね、お客様や他の店員さんにわかりやすいよう、ハキハキと対応するよ!
「佐藤さん、本部の研修所に行ってくれないか?もちろん、講師として!」
「ごめんなさい、時間が取れなくて。それに、私のせいだけじゃ…」
1か月かそこらで急にお客さんが増えたらしく、それが私のおかげだと店長は思ったらしい。そんなことないと思うんだけどな。店長さんも店員さんも、みんな明るくて優しいし。雰囲気が重要だよね!
「(ひそひそ)かわいい、かわいい」
「(ひそひそ)物凄く働くよね。休日だけだけど、一番忙しい時間帯でもきっちりこなして」
「(ひそひそ)彼氏、いるのかなあ…」
「(ひそひそ)いるんじゃない?当然」
カランカラン
「いらっしゃいま…あっ」
「やあ」
「い、いらっしゃいませ!こ、こ、こちらへ、どうぞ!」
ひゃー、誠くんが来てくれたよ!な、なんか、恥ずかしいな、恥ずかしいな!
「ランチメニューと、ドリンクバーを」
「か、かしこまりました!ご、御注文を繰り返します…」
うう、緊張した…。
「佐藤さん、あの男の子って、もしかして!」
「は、はい…その、お、お付き合いしています…」
「きゃー!カッコいい彼氏じゃない!お似合いよー!」
「あ、ありがとう、ございます…」
お似合い、か。…えへへへ。
◇
「春香、誕生日おめでとう!これ、プレゼント!」
「…あ、ありがとう!とっても、嬉しい…とっても…」
ボロボロ
「え!?あ、ええ!?」
「ご、ごめんなさい、両親以外から誕生日プレゼントもらうの、初めてで…」
でも、初めてもらったのが、誠くんからで良かった。良かった…。
「あ、や、僕も、こうして渡すのは、妹以外では初めてで…」
そっか。そうなんだ。
そういえば、誠くん、妹さんがいるんだよね。どんな娘かなあ。
「(ひそひそ)だって、恐れ多くて…」
「(ひそひそ)だから、『不可侵条約』とかやめようって…」
「(ひそひそ)いまさらそんなこと…」
誠くんの誕生日は数週間後だよね。ちゃんと忘れないようにしよう!そして、すごいプレゼントを送るんだ!
「あ、えっと、空けていい?」
「う、うん…」
そこに入っていたのは…。
「…!仮想空間サービスの、スターターパッケージ!?ずっと、欲しかったの!」
「良かった…喜んでくれて。何にしようか、迷ったんだけど」
「しかも、英語と、フランス語と、スペイン語の、3言語対応版…高かったんじゃ?」
「春香の1か月分のお弁当代くらいだよ。日頃の感謝を込めてね」
…!もしかして、誠くん、気づいてた!?バイト代の、使い途。
なんか、嬉しい…嬉しいよう…。
「(ひそひそ)もしかして、『不可侵条約』を結んでおいて良かったんじゃないのか?」
「(ひそひそ)俺達には、到底思いつかねえ…」
「(ひそひそ)そういえば、須藤くんもそこそこだけど、佐藤さんは成績トップクラスよね…」
「(ひそひそ)須藤くん、佐藤さんのこと、よく見てるし、理解してるよね…」
◇
初めての、誠くんの家!
「…負けた」
「おい、愛、なんだよいきなり」
「ううん、お兄ちゃんに彼女だなんて、天地がひっくり返るかと思っただけ」
「失礼だな!」
わー、誠くんの妹さんだけあって、かわいー!
「…春香さん、お兄ちゃんのこと、よろしくお願いします」
「う、うん、こちらこそ」
「飽きたら、いつでも振っていいよ?」
「おい!」
んー、お兄ちゃんを取られちゃった、って感じかなあ。
ごめんね、愛ちゃん。私も誠くん、大好きなんだ。
「と、とりあえず、僕の部屋に…」
「あー!早速エッチなことするんだ!」
「ち、違う!」
え、ええ、えええええっ!
「えっと、入って…」
「うん、ありがとう…」
そ、そういえば、男の子の部屋って、初めてだよね!どうすれば…どうすれば、いいんだろう?
うなれ、私の耳年増スキル!え、そんなスキルは中学時代にVRで修得してない?なんてことなのー!
「じゅ、ジュースを…」
「あ、ありがとう…」
床のクッションの上に座っている私と、ベッドの上に座っている誠くん。べ、べっど…はうはう。
「げ、ゲームでもする?ARで面白いのがあるんだ。ひとつの端末で一緒にできるやつ」
「う、うん、いいよ。どんなの?」
「ひとりが剣士、もうひとりが錬金術師の恰好になってね…」
私が、剣士。誠くんが、錬金術師。
わー、誠くん、似合う!めちゃくちゃ似合う!
「錬金術師の僕がドラゴンを魔方陣で束縛して…」
「剣士の、私が…斬る!」
くぎゃー!
「すごい!ランキングサイトでいきなり上位だよ!」
「息ぴったり、だったから!」
がばっ
「「あっ…」」
つ、つい、誠くんと抱き合っちゃったよ!
「…」
「…」
離れようとして…離れられなく、なっている。
「誠、くん…。私、誠くんのこと、大好き、だよ…」
「僕も、好きだよ、春香…」
そして、そのまま、顔を近づけて…。
「お兄ちゃん、春香さん、果物もってきたよー!」
ばっ
「あーっ、やっぱりエッチなことしようとしていた!」
「ち、違う!」
「あ、そのゲーム、私も混ぜて!面白いよね!」
も、もうちょっと、だったんだけど、なあ…。
まあ、いいか。
これからだよね、これからも、誠くんと…。
当初は『現実で攻略とスローライフの両方を手に入れる方法』というサブタイトルで、
渡辺「見つけたわ!ARサイトは盲点だった!」
春香「やめて!『コアワールド』全体をARシステム経由で『現界』なんてさせたら…!」
須藤「春香っ!?春香ー!!」
春香「私…守ったよ…誠くん、の…世界…(消滅)」
須藤「春香ーーー!」
っていう感じのオチを考えたんですが、作者が脳内で号泣してしまったので全面廃棄して、映画のオチにしました。ただ、上記サブタイトルは再利用するかもしれません。AFだとすると…。




