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EX-87 AF「今見た夢の話をすれば興味深く聞いてくれるだろうから」

高橋さんvs渡辺 凛の飽くなき戦い、と見せかけた渡辺 凛(元佐藤春香)の過去編、と見せかけたリーネ(現佐藤春香)の過去編となりました(前書きでぶっちゃける)。

 FWO内『リーネ総合オフィス』。


「もういや!あの渡辺 凛には付き合ってらんないよ!」

「美樹、落ち着いて。ああいや、気持ちは痛いほどわかるけど」

「すぐサボろうとするし、いつの間にか寝てるし、『現界』能力であさっての物を作り出すし!」


 あさってのブツの数々は、私がチェックして再利用してるけどね。小型核融合炉を臨界値の観点で改良して、月面や火星の僻地の発電設備にしたりとかね。そこそこに役立つから、むしろ腹立つっていうか。あのノリで、火星でとっ捕まえるまで、私はずっと振り回されていたんだよなあ…。


「それになにより!なにかって言うと、実さんの過去をネタにバカにするんだから!」

「ああ…」

「リーネが黙っててくれたことまでベラベラと喋って!実さんの女性遍歴なんてどうでもいいわよ!」


 どうでもいいなら、ケンカにならないよね。あれやこれやと比較されたか?


「だから、さっさと実くんと子供作れば…」

「そ、そこは、実さん次第というか…」

「私が言うと、また怒るからなあ…」


 いくら相応の年齢でも、男ならまだまだ大丈夫だよね?いや、私も耳年増スキルから言ってるだけだけど。ホントだよ?



 で、どんだけヒドいか確認するため、私も同席してみた。渡辺 凛と美樹の会話に。


「だからー、美樹ちゃんが(ぴー)な格好で(ぽー)なことすれば、実くんなんてイチコロよ?」

「それはもうやった!」

「じゃあ、やっぱり素材が…。私はもちろん、◯◯さんくらいの色気なら…」

「◯◯さんなんて知らないから!っていうか、素材とか言うな!」


 カオス。どうなってんだ。


「渡辺 凛、あなたまさか、実くんに未練があるとか?」

「まっさかー!私なら、もっと若い男の子と子供作るよ!」

「見た目はともかく、あなたも、いい年。真剣に考えているなら、結婚を前提とした、お付き合いを」

「えー、でも葛飾くんはちょっと頼りないしー、サリアちゃんは忙しいみたいだしー」


 おい、初めて聞いたぞ、その名前。人名スキルがリアルでMAXな私をなめるな。相変わらず男女混合なのはもうあきらめているけど。


「そういえば、須藤くん、ホントにカッコよかったんだねー!だから」

「やめてって言ってるでしょ!?誠くんに手を出したら、火星の海に叩き込んでやるから!」

「ひぃ!春香ちゃんが素のモードなのに、かわいくないよー!」

「リーネ!リーネ!押さえて!私が言うのもなんだけど!」


 カオスさが増した。もう、どうしてくれよう、こいつ。


「はあ、はあ…。んんっ。とにかく、あなたも、ちゃんとした人を、見つけて」

「自分が須藤くんとくっついたからって、えっらそーに…」

「きーっ!」

「リーネ!リーネ!?」


 ああ、ダメだ。誠くんをダシにされたら、私は正常でいられなくなる。


「ごめん、美樹。やっぱりあなたに頼む。渡辺 凛に、いい人見つけてやって」

「ええっ、そんな!?」

「だって、恋愛関係では、私はどうにも不利だから…」


 いいもん、私は誠くんさえいればいいんだから。ふんっ。



「パス。お手上げ」

「ダメか…」

「ていうか、なんなの、あれ…。精神的に子供ってだけじゃ説明できないわよ?」

「いやあ…両親や幼馴染に聞いた話だと、8歳の時点で相当のやり手だったみたいだから」

「それは前にも聞いたけど、8歳でそれってどうよ」


 いやまあ、やり手っていっても18禁的なものじゃないよ?人間関係に自由奔放というかなんというか。


「もしかすると、『入れ替わり』の前から何かあったのかな…」

「えー、またそれ?」

「いやいや、さすがに私絡み(現界関係)はないと思うけど」

「うーん…」


 こうなったら、無理矢理タイムスリップして調べてみるか?いや、ちょっと干渉しただけでパラドックスが発生してしまう。なら、『私と彼女が入れ替わらなかった世界』に行くか?でも、どうやって探す?可能性は無限である。それに、私が二重に存在できるかもわからない。『渡辺 凛はいて私だけがいない世界』も、そもそも存在するのかどうかさえ…。


「…よし。強行手段に訴える」

「どうするの?犯罪はやめてよね」

「まあ、犯罪といえば犯罪だけど…」

「ちょ」

「いやほら、彼女が開発した『詐欺手法』を使ってさ」

「え、私がSOE諜報員にやられたアレ?」

「そう」


 よし、善は急げだ!善なのか?



 ちゅんちゅん


「んん…あれ?」


 私は、アパートの自室で目が覚めた。朝が来たようだ。


「あれえ…。夢、だったのかな?」


 部屋のスタンドミラーで、自分自身を見る。


「あー、昔の春香ちゃんだー。…あれ?私は、佐藤春香、8歳。私は、佐藤春香、8歳…」


 そんな気分が、頭の中で次第に大きくなっていく。


「私は…本当は、佐藤春香、で…小学校、に、通う…」


 何か、どんどん馴染んでいく『設定』。いや、設定とかよりも…なつかしい想いすらも…。


「…そっかあ、夢かあ。残念」


 夢の中の私は、世界を股にかけた活躍をしていた。いろんな人達と仲良く(・・・)なって、いろいろと楽しい、面白いことをたくさんやって…。でも、小さな女の子が、立ち塞がって…。


「…立ち塞がって?なんか、そうでもなかったような…。まあ、夢ってこんなもんだよね!」


 珍しく起こされずに目が覚めた私は、早速、


「もう一度寝ようっと!夢の続きが見られるといいなあ」


 ガラッ


「春香、そろそろ起きないと、登校時間に遅刻するわよ?」

「ぶー…」


 今日も、学校だ。退屈で、つまらない、学校。


「ほら、朝ごはん食べちゃいなさい」

「お母さん、せめて食パンは焼いてよ。クラスの娘の家では、いつも焼いてるって言ってるよ?」

「そ、そう?でも、もう、時間がないから」

「もういい!どうせ美味しくないから!食べないで行く!」


 お母さんやお父さんの用意する食事は、あまり美味しくない。忙しい忙しいって、慌ただしくするだけ。朝も、夜も、休日のお昼も。


 つまんない。ほんっとーに、つまんない!



「…ねえ、佐藤家って、食パンは焼かないの?」

「そういえば、そうだったような…いつの間にか、朝食のほとんどは私が用意するようになっていたから」

「そうだったような…って、じゃあ、さっきの会話は?」

「ああうん、渡辺 凛の反応に合わせて『ロールプレイ』をしているから」

「『ほとんどの人物がNPCのフリをしたリーネ』の世界、の再来ね…」


 しょうがないじゃない、そうしないと、細かい対応ができないんだから。


「でも、早速見えてきたわね、原因が」

「…私としては、その全てを、お父さんやお母さんのせいにしたくないんだけど」

「リーネって、あの御両親のこと、本当に好きなんだね」

「いつも、いてくれたから…」


 だからって、元の両親が嫌いというわけではないけど。

 私は、そういうものだと思っていたけど、彼女は…。



「おはようございます、春香様!」

「おはよう!佐藤さん!」

「おはよ。ねえ、宿題やってきた?見せて!」

「…」

「…」

「…まさか、こないだみたいに、できてないとか…」

「ぼ、僕は、全然、できなかった…」

「あ、あたしは、半分だけ…」


 もう、いつも使えないんだから!


 ガラガラッ


「はい、みなさん、授業を始めますよ」


 うっ、もう先生がやってきた。しーらないっと。


「宿題をやってこなかった人が、こんなにも…。昨日の授業をよく聞いていたら、すぐ解ける問題ばかりでしたよ」

「はい、せんせー」

「なに?佐藤さん」

「できない人がこんなにいる宿題を出す先生が悪いと思いまーす」

「…っ!あ、そ、そうね。でも、できている人もこんなにいるんだから…」

「こないだなんて、半分もやってこなかったと思いまーす」

「…と、とにかく、授業を始めます。今日出す宿題はちゃんと出すように」


 自分が悪いくせに、ごまかすんだから!ほんっと、学校の先生ってヒドいよね!



「…春香様、解説を」

「春香様とか言わないで。美樹に言われると背筋がゾクゾクする」

「悪かったわよ。で?」


 かくかくしかじか


「え、ひとりの先生がとんでもなかった?」

「いや、その先生、産休で不在の先生の代わりで、数週間ほど慣れていなくてね」

「でも、それを理由に、担任の先生の科目とかでも宿題をサボる人が多かったと」

「あの時はよくわからなかったけど、彼女が先頭切ってサボってたわけか…」

「なんというか…世渡り上手ね。完全に悪い意味で」


 ああうん、渡辺 凛らしくなってきた。


「ちなみに、リーネとしてはどうしてたの?」

「いや、普通に宿題提出していたら、クラスのみんなが聞きに来て、放課後よく自主勉強会するようになったよ」

「…リーネってその頃、友達がいなかったんじゃなかったの?」

「え、一緒に勉強会しただけだよ?私が教える一方だったし、友達というほどでは」

「…こっちはこっちで、相変わらずおかしかったのね」


 なによ、こっちはって。



「ほら!私にはシチューを山盛り!」

「あ、う、うん…」


 給食もあんまり美味しくないけど、ウチのよりはマシだからね!


「佐藤さん、ちゃんと同じ量にしてもらいなさい」

「…ふんっ」


 もう、もらっちゃったもんね!このまま食べちゃうから!


 ガツガツ


「あ、アンタこれ食べないの?もーらいっと」

「あっ…!」

「なによ?」

「…なんでも、ない」


 グズグズしてるのが悪いんだからね!



「…酷すぎる。いくら、小学生だからって」

「なるほど…そういうことだったか…」

「なに?」


 かくかくしかじか


「それで、分けてあげたら、むせび泣いて喜ばれたことがあった、と」

「その男の子、運動会の時のお弁当なんて、日の丸だったんだよ?育ち盛りなのに」

「…いや、それって普通なのでは」

「そう?私は自分で作ってたからよくわかんないけど、でも、あれはないわあ」


 というか、運動会の時はいつも両親ふたりとも来てくれて、ものすごく嬉しかった。なぜそんなに嬉しかったかわからなかったんだけど…『入れ替わり』の前の想いが残っていたのかなあ。


「ねえ、ちなみに、その運動会の時のお弁当、御両親のも作ったの?」

「え、当然じゃない。他に誰が作るの?」

「…そう」


 ああ、そうそう、思い出した。ある年の運動会に作っていった唐揚げが物凄くウケて、クラスのみんなが『おいしい、おいしい』って食べてくれたなあ。あれは嬉しかった。


「念のために聞くけど、その時の自分の分の唐揚げは?」

「え?家でいくらでも食べられるでしょ?まあ、その晩は両親が喜んで食べてくれたけど」

「…」


 あれ、なんか美樹が黙りこくっちゃった。

 まあいいや、次いこう、次。



 パンッ


 たったったっ…


 ひょいっ


「あっ!」

「へっへー、私が一等!」


 ふらふら


「春香様、ヒドい…」

「ちょこちょこ走ってるのが悪いんでしょ!」


 ほんっと、トロい奴らばっかりなんだから。



「体育のかけっこで足を引っ掛けて転ばせて、自分が一位…」

「なんだかなあ。そんなことせずに、普通に走ればいいのに」

「…一応、聞こうかな。リーネになってからはどうしてたの?」


 かくかくしかじか


「いい、もういい!聞きたくない!」

「聞かせろっていうから、話したのに…」

「だって…夜遅くまで、練習に付き合って…自分は、大会とか出ずに…」

「まあほら、大会ったって、しょせんは小学校対抗だしさ。いいじゃん、賞状もらってすごく嬉しそうな顔してたよ、その子」

「…」


 また黙りこくっちゃったよ。

 もう、勝手に進めるねー。



「アンタが部下Cね!私は、司令官!」

「ええ…いえ、なんでもないです」

「部下は司令官の荷物を運ぶ!ほらほら!」


 どさっ


「ちょっと重いかもしれないけど、我慢するのも部下の務め!」

「このランドセル、何が入ってるの…?」

「持ち帰るの忘れていた粘土!数が多いから気をつけてね」


 ふらふら


「よし!じゃあ、他のみんなは、私と一緒にゲームで遊ぶよ!」

「え、それって…」

「もちろん、あんたん家よ!大きくて広くて、みんなでワイワイやれるでしょ!」


 あーあ、ウチもあれだけ大きい家ならいいのになあ。

 ダメか、あの両親の『おきゅうりょう』じゃあ…。



「なるほど、広ければいいってわけじゃなかったのか」

「…」

「どうしたの?美樹」

「いや、気になることはいくつかあるけど、それを聞いたらおしまいかなって」


 なにそれ。言いたいことがあったらはっきり言えば?美樹らしくないよ。


「じゃあ、聞くけど…リーネとしては、その、他の子の家には…」

「ああうん、何度か行ったことあるよ?もちろん、さすがに男の子の部屋は…」

「…!そ、そう!そうなんだ!」


 あれ、なんか美樹の顔が、ぱああっと明るくなった。わからん。


「でも、あの娘の家は酷かったなー。物は散らかってるわホコリは溜まってるわ。だから」

「やめて。その先は言わないで」


 また、ずーんと暗くなった。わけわかめ。



「ねえ、たまには、外食しようよー。今日行った家の子は、今日の御飯はファミレスだって」

「今からだと、遅くなっちゃうわよ。この辺、ファミレスないし」

「ねえ、なんでウチは車ないの?」

「必要なかったからなあ。免許もないし」


 必要じゃん!スーパーまでだって、歩いて30分はかかるし!

 そうして買ってきたものだって、プラスチックに入った冷たいおかず…電子レンジもないなんて、信じられない!


「店頭で操作を試してみたけど、難しくてなあ」

「そうねえ。こう、頭に何かかぶって考えるだけで何かしてくれるもの、ないかしら?」

「ないよ!せいぜい、あの博物館の…」


 …博物館、の?

 なんだろう、なにか、思い出しそうな…。


「そうそう、今日は春香の誕生日だったわね!はい、これ!」

「…要らない」

「欲しがってなかったか?このバトン」

「それは、去年見ていたアニメのだよ!今やってる『マジカルクイーンあかね』みたいな、女王様みたいになれるのがいいの!」


 もう、いや!

 こんな家…こんな、生活…!


「春香!?」

「春香、風呂はいいのか?」


 もう、寝よう。

 そしたら、朝起きる前に見ていたような、夢の続きが…!



「はっ。…あれ?」

「ん、凛、ログアウトしたのか?」

「え、あれ?…おじい、様?」


 えっと…。

 ここは、火星の、私が滞在する家の、そのリビングで…。 


「あ、そっか。FWO日本サーバにフルダイブしていて、『リーネ総合オフィス』で寝こけていたんだっけ」

「凛…。また、リーネ…春香さんに怒られるぞ」

「いいもーん、今見た夢の話をすれば、きっと興味深く聞いてくれるだろうから!」


 『可能性変動』だっけ?それに近いものを感じたからね。よーし、ひさしぶりに私が主導権を握るよ!なにしろ、実際の春香ちゃんは、あんな地味な生活じゃないし!可愛くて強くて頭も良くて、いろいろ活躍してきた私よりもはるかに有名で、世界どころか宇宙を股にかけて、最近はカッコイイ彼氏も作って…!

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