EX-86 AF「まっこーとくーん、ドライブにいこー!」
おかしい、普通に日帰りまったり二人旅を書いていたのに、またやってしまった…。
ある週末の日の朝、誠くんのお家に突撃!
「まっこーとくーん、ドライブにいこー!」
「ご、御機嫌だね、リーネ」
「おっきな仕事がひとつ、うまく片づいたからね!」
「ああ、妹と一緒にTVで見たよ。あれはすごいね」
「でしょでしょ!」
パラレルワールドで収集したデータを基に、地震が発生する『可能性変動』を検知する仕組みを開発したら、これがまー、大当たり!大規模な地震ほど当たりやすいから、画期的と言わざるをえない。
昨日、ちょうどその大きい変動を検知したから場所を特定して、そこに住む人々を避難させたら、全員ギリギリセーフ!キズひとつ負わなかったよ。家とか潰れちゃったのはしかたがないけど、私の口座残高を少し減らして復興する予定だよ!
「それで、今日はどこに?」
「日帰りだから、遠くまでは無理かな。別荘地として有名なところまで行ってみよう!」
「途中のSAや道の駅も楽しみだよ。車で遠くまで移動することは少ないから」
まあ、この辺からだと電車で向かうのが普通だからね。
「…」
「愛ちゃん、お土産買ってくるから!」
「う、うん…」
ここで甘い顔をして『一緒に行こっか?』と言ってはいけない。愛ちゃんの『お兄ちゃん』を見る目が明らかに変わってるからね!ヤバイよ!
◇
ブロロロロロロ
「そういえば、『Second Stage』の開発も順調なんだって?」
「うん、渡辺 凛をこき使ってるから」
「あははは…。『コアハート』への『コアワールド』の融合は、あの人が適任なんだっけか」
「そう!それなりの期間、私が整えた仮想空間に一緒にいたからね。あと、それを『自分でやった』と思っているし。技術的な知識を含めてね」
転移型通信路を火星に敷設した時点でそれは考えていた。『リーネ総合オフィス』でキリキリ働いてもらっているよ!
今日は、魚屋ミッキーな美樹が監督している。でも、実はあのふたり、なーんか仲悪いんだよなあ。実くん絡みかな?いやまあ、私もいろいろと思うところがあるから、渡辺 凛にはキツくあたっているけど。
「じゃあ、僕が受付を多く担当しようか?」
「ううん、彼女の抜けた分はNPCを試してみるから。『篠原あかね』ね」
「現実の『篠原あかね』は、まだリーネであるとは公表してないもんね。アリバイ作り?」
「そゆこと」
NPCだけどNPCではないフリをしてもらってね。『VR研諜報員の篠原あかね』のアバターという体裁だ。
…という感じで、誠くんと楽しくお喋りしながら車は進んでいく。
そう、進んでいくのだ、私の思うままに!こないだのひとり旅とは違って、今はHS-01があるからね!フリーハンドだよ!車をアバター扱いしてるけど、安全運転だよ!
◇
2時間ほど高速を走らせて、SAに入る。
「コーヒーでも飲もっか」
「そうだね」
フードコードエリアに入り、券売機で券を買う。今回もちゃんと現金を用意したよ!じゃらじゃら。
「メイドさんだ…」
「メイドさんだよね…」
あ、しまった、『メイド服は普通だよー』な認識阻害忘れてた。誠くんも一気に有名になったから、『佐藤春香とかリーネとか須藤 誠くんとかじゃないよー』はかけてたんだけど。
…うん、まあ、いっか!
「おまたせー」
「ありがとう」
なにより、誠くんが気にしていない!だから、いいのだ!
「あの…写真撮ってもいいですか?」
「ごめんなさい、ダメなんです」
「えっと、男の子の方だけでも」
「もっとダメです」
テーブルの隣の家族連れの人がそんなことを尋ねてきたけど、静止画への『認識阻害』は効かないことがあるから却下。ていうか、誠くん撮っちゃダメ!今まで、あちこちに写るようなことがなかったみたいだから良かったよ。
「そういえば、修学旅行とかでも、あんまり写らなかったな」
「写真を撮らないようにしようっていう『認識阻害』もあったのかな?写ったら写ったで目立つしね」
「んー、そうかも。集合写真は頻繁にあったけど、小さくてよくわからないからね」
誠くんには、『門番として目立たないようにする認識阻害がリアルでも発生していたよ、だから消したよ!』と伝えてある。決して、決してイケメンがどうとか言ってないからね!
「(ひそひそ)かわいいカップルねー」
「(ひそひそ)女の子がメイドだけど、かわいいよねー」
「(ひそひそ)団体旅行中なのかな?親御さんとかいないみたいだし」
「(ひそひそ)なんかのイベント?でも…見たことないよね?」
私達の方を見てひそひそ言ってる人達もいるけど、騒がれないということは、私達の素性がバレてないってことだ。しかし、素性がバレたら騒がれるって、ホント落ち着かないよね。芸能人とかならそれもお仕事なんだろうけど、私はもうやめてるし、ましてや、誠くんはもともとそんなんじゃないからね!
「あれ、TVでニュースやってる。災害地の様子かな」
「あー、私、バッチリ映ってるなあ」
公民館などの残っていた施設を借りて、クリームシチューを大量に作って配ってる様子がつらつらと映ってる。金バラ撒けばいいってわけじゃないからね、支援するんだって気持ちを明確にするのも重要だよ!
「『認識阻害』ってすごいよね。僕が言えることじゃないのかもだけど」
「美樹も言ってたなあ。使える方としては便利だけど、悪用を疑われてもしかたないか」
「リーネはそんなことしないだろ?それは、みんなわかってると思うよ」
「そ、そう?『認識阻害』の二重がけする必要、なかったかなあ」
まあ、念のためだ。このままでいこう。
「さて、そろそろ行こっか」
「うん。…あれ、これ、愛が好きなやつだ」
「買っていこうか?車に乗せておけばいいんだし」
「んー、まだいいや。御当地物とはいえ、近所のスーパーでも売ってるしね」
今からお土産を増やすのも変か。帰りにまた寄ろう。あ、でも、上りと下りは違うよね。うーん。
「よし、私が買うよ!誠くんが要らなくなったら、ウチのお土産にするから」
「そ、そう?じゃあ、お言葉に甘えて…」
いいよいいよ、どんどん甘えて!
◇
「目的地にとうちゃーく!」
「緑が豊かなところだね」
森や林に囲まれている町だ。いや、村かな?小さい教会とかもある。
ちなみに、相応に有名な場所だけあって、少し離れたところには市街地があり、新幹線駅もある。ついでに言えば、広いショッピングモールまである。近隣住民にとってはそちらの方が主目的になるから、こちらは割と閑散としている。その方が私達としては都合がいいけどね!
「あ、あの家、かわいい!パリの郊外でも見たなあ」
「リーネは、世界中…いや、他の惑星とかにもよく行くんだよね。うらやましいなあ」
「そういう所にも誠くんと行きたいけど、デートのために転移門とか使うのはちょっとね。ごめんね」
「わかってるよ。いつか一緒に行けたらいいな。あ、宇宙船で月面都市が先かな?」
「かもねー」
といった話をしながら、町を散策する。
「メイドさんだ…」
「メイドさんだよね…」
うん、もう慣れた。私はメイドだよ!今は誠くん限定だけどね!
「あ、ここでお昼食べない?外の景色を眺めながら食べられそう!」
「いいね。…うん、僕にも出せるな」
やだなー、私がおごるよー!
…とは、言えない。車の移動はともかく、食事くらいは自分で出すよって言うからね。思えば、初めて会った時からだなあ。
「パンがおいしーよー!焼きたて!」
「スープも美味しいよ。この店独自のかな?」
誠くんと一緒に喫茶店で食事。幸せだよー!
やっぱり、誠くんと会うなら、バイト店員としてでなく一緒に食事がいいよね!当たり前だよ!
「(ひそひそ)メイドさん、かわいい…」
「(ひそひそ)でも、この店の人じゃないよね?なんで着てるんだろ?」
「(ひそひそ)他の店の人が食事してるのかな?でも、一緒に食べてる男の子も…」
「(ひそひそ)あのふたりが給仕してくれる店があるのかな?」
む、周囲の誠くんを見る目がなんか怪しい。特に、女性。
私の彼氏ですよ!逆ナン厳禁!
◇
お昼の後に再び町を散策。
「ここは特に森林が多いね」
「そうだねー、落ち着くよー」
なんというか、ケインが普段住んでいるようなイメージだな。小さいけど、しっかり作られたロッジで過ごしながら、魔法陣やらポーションやらを生成して、少し離れた町に売りに行って…。
ちらっ
うん、やっぱり、誠くんのイメージぴったりだよ!ちょっと幼い感じはするけど、そんなこと言ったら私なんか未だにお子ちゃまっぽいし、そういう意味では、私達…。
「…なに?」
「え、えっと、その…」
よーし、思い切って、言っちゃえ言っちゃえ!
「ま、誠くん!手、手を、手をつなご!」
「えっ…!あ、ああ、うん、いい、よ?」
ぎゅっ
きゃー!
きゃーきゃーきゃー!
誠くんの手、誠くんの、手だー!きゃー!
「あ、あそこに、史跡があるよ。行こう」
「う、うん」
くいっ
きゃー!
ま、ま、誠くんが、私の手を引いて、手を引いてー!
…いかん、気を失いかけた。
彼氏どころか、男の子の手をこんな風に握るのも初めてだなあ。佐藤春香としても、リーネ・フェルンベルとしても。なんかわからないけど、学校行事でのフォークダンスとかに限って、私の周囲には女子しかいなかったからなあ。ほんとに、なんだったんだろ。
「(ひそひそ)かわいい、かわいい」
「(ひそひそ)なんか、お人形さんが本当に生きて動いているような、綺麗なカップルねえ」
「(ひそひそ)しゃ、写真取っちゃおうかな…」
きっ!
写真とか聞こえたよ!ダメだからね!
「ひいっ…!」
「ど、どうしたの!?」
「な、なんか、物凄い威圧が…!?」
おっと、うっかりスキル全開しちゃった。これ、あんまりやると素性バレちゃうよね。『認識阻害』をかけていても。
「どうしたの、リーネ?」
「ううん、なんでもなーい」
ぱっ
ぎゅっ
「り、リーネ!?」
「うふふふ、初めてじゃないでしょ、腕組むの!」
「そ、そうだけど、あの時は…」
「…嫌?」
「そ、そんなこと、ないよ…」
照れてる照れてる!
私、聞いたことあるよー。男の子って、手をつなぐより、こうして腕を組んだ方が喜ぶって!なぜなら、こう、腕に…腕に…。くそう、まだまだかっ!
◇
ブロロロロロロ…
「じゃあ、帰りはこっちの道の駅に寄るね」
「うん、お願い」
びゅー
「む、あんなにスピード出して、追い越して!」
「リーネ、ま、まさか…」
「ん?更に追い越そうとしたりはしないよ。ただ、危ないなあって…」
キキキキキッ
「あっ、あの車!?」
私の予感は本当によく当たる!横転しかけてるよ!
「くっ…!!」
◇
私は、リーネ・フェルンベル。
安寧なるスローライフのため、この世の全てを攻略する者―――
◇
「【連鎖発動】転移魔法陣!」
胸のブローチの携帯用転移装置が発動し、
しゅんっ
運転席から、今にも横転しようとしている車の真後ろに、転移して、
「リーネ・フェルンベルの名の下に現界せよ!重力子【グラヴィトン】!!!」
『現界』した重力子を介して、車にかかる重力を無効化する!
ふわっ
「おっと…よし」
今は、月が青い空に浮かんでいる。地球の重力を無効化し続けると、月に向けて飛んでいってしまう。その辺を意識してうまく制御をしながら、横転しかけた車を、ゆっくりと地面に降ろす。運転手は既にアクセルを踏んでいなかったようで、そのまま地面の上で静止する。
しゅんっ
運転席に戻る、私。転移して戻ってくるまで、十数秒ってところ。もちろんその間も、HS-01経由で車を運転していた。横転しかけた車の横を通り過ぎていったよ!
「うまくいったよー。さ、ドライブの続き!」
「あ、ああ…」
ごめん、誠くん。さすがに、驚かせすぎちゃったかな?
「…リーネって、すごいよね」
「そう?誠くんも覚えてみる?『現界』能力の任意発動」
「ま、まだ、いいかな…」
そうだね。少しずつ、ゆっくりね。
◇
「あ、ありがとうございます、リーネさん!」
「ごめん、リーネ。結局、ふたつとも愛へのお土産にしちゃって」
「ううん、いいんだよ!」
はー、楽しかったよー、誠くんとのドライブと散策!
今度時間がとれたら、どこに行こうかなあ。
「そういえば、ふたりが行ったのって◯◯町だよね?」
「あれ、話したっけ?」
「ニュースでやってた」
「ニュースで!?」
え、『認識阻害』効いてなかった!?
「あ、そうじゃなくて」
・某SAでメイドさん出没
・某町でメイドさん出没
・某所でメイドさん出没
「わかる人にはわかると思うよー」
おうふ。
今度は『メイド服は普通だよー』な認識阻害もちゃんとかけよう…。
そろそろジャンルをロー・ファンタジーに変えるべきだろうか。




