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EX-85 SS「じゃあ…美樹も試してみる?『ロールプレイ』」

 『認識阻害』は大変恐ろしい能力である。なにしろ、範囲が本人の周囲のみとはいえ、誤った認識をさせ続けるのだから。短時間ならば、マスメディア経由でもそれが可能だ。

 ではなぜ、その能力を駆使できる『佐藤春香』あらため『リーネ・フェルンベル』が、恐れられないのか?


「そんなの、『認識阻害は恐くないよー』って認識阻害をかけているからに決まってるじゃない」

「身もフタもないわね…」


 『佐藤春香』としても働き始めた喫茶店で、美樹がそんな素朴な疑問を投げかけるから、さっさと答えた。なんなのよ、いきなり。


「いやだって、恐いじゃない!ああうん、リーネのことをよく知ってるからこそ、そういう疑問が出たのはわかっているんだけれども」

「そっかなー」

「だってよ?たとえば、あのSOEの諜報員がそんな能力が使えたらどう思う?」

「あの、『ワタシハフツウノミンカンジンデス』とかいう雑な装置とか?」

「じゃなくて!リーネほどじゃなくても、御両親とか、須藤くんとか、そのくらいのものでも!」


 ああ、そういうことね。


「確かにそれは脅威だけど、それはありえないから」

「なんで?」

「なぜ、私が誠くんの認識阻害を解除できたと思う?」

「…なるほど」


 この世に存在する『現界』能力のオリジナルは、他ならぬ私である。私と共に歩みたい、私が共に歩みたい、そんな人にしか発現しない。強制的に歩んでしまった、渡辺 凛を例外として。


「そっか、だから、古参のFWOプレイヤーだからといって、必ずしも発現するとは限らないのか」

「ボス攻略で一緒していたプレイヤーは結構いたけど、いろいろあって、結局離脱しちゃうのよね。ミリーを除いて」

「そりゃあ、リーネひとりでボスを瞬殺しちゃうし…」


 そういう意味では、ミリーはよく続いているよなと思う。まあ、後衛の魔法職としてスカウトしたのが私自身だったというのが大きいかもしれない。あとは、参加を希望してきたプレイヤーばかりだったから。


「じゃあ、『認識阻害』は心配ないわけか…」

「そういう意味では、むしろ『ロールプレイ戦術班』の方がやっかいかもしれないね。浅羽瑞乃嬢の時とか」

「リーネには通用しなくても、他の人には通用するからね…」


 ただ、あれは『認識阻害』とかとは全く異なる種類のものだ。存在しない者、もしくは、名前でしか知らない者に、なりすます。既に本人を良く知っている者に成り代わることはできない。


 でもまあ、そっか。


「じゃあ…美樹も試してみる?『ロールプレイ』」

「え?」



 ある、鉄道駅の、構内。


「こ、これは…すごく、勇気がいるわね」

「そんなことないよ、お姉ちゃん(・・・・・)!」

「ま、マキ(・・)はそうかも、しれないけど…」


 元気でハツラツとした妹のマキに、大人しくてたどたどしいタイプの姉。これが、今の美樹と私の役割(ロール)だ。この役割で、ある駅から電車に乗り、別の駅で降りる、ということを試そうというのだ。

 ちなみに、さすがに私達は見た目が知られてしまっているので、『佐藤春香と高橋美樹ではないよー』という認識阻害をかけている。あと、『メイド服は変じゃないよー』も。パラレルワールドの時、これ忘れてたのよね。


「じゃあ、あたし(・・・)、ふたり分の切符を買ってくるね!」

「ふたりともIC乗車券があるけど…ま、いっか、今回は」


 この『ロールプレイ』のポイントは、あくまで役割をこなすということである。話している内容はどうでもよくて、役割を示す様々なことを表現しているかということである。

 普段は『私』でも、美里のように『あたし』という第一人称を使うのが妹のマキなのだとしたら、そのように表現するべきである。


「買ってきたよ、お姉ちゃん!」

「ど、どれどれ…もうっ、いくらマキでも、子供料金じゃ乗れないわよ!」

「てへっ」

「あー、もう!私が買い直してくるわ。窓口で…」


 という感じで進んでいく。美樹、慣れてきたじゃない。


「じゃあ、改札を通って…」

「あ、お姉ちゃん、電車来るよ!」

「ま、待って!」


 たったったっ


「ふー…ま、間に合って、良かった…」

「ホントだよ!お姉ちゃんはもっと体力をつけるべきだよ!」

「そ、それは…そうね。毎朝、ランニングでもするべきかしら?」

「それがいいかもね!」


 ガタン…ガタン…


『電車がまいります、白線の…』


「あ、ほら、マキ、気を付けて」

「あっ…。ありがとう、お姉ちゃん!」


 ぷしゅー

 だっだっだっ


『ドアが閉まります…』


 ぷしゅー


 ガタンゴトン、ガタンゴトン


「わー、いい眺め!」

「ま、マキ、もっと行儀よく、乗らないと…」

「…ごめんなさーい」


 ガタンゴトン、ガタンゴトン


『次はー、◯◯ー』


「あ、お姉ちゃん、次だよ!」

「そ、そうね。そろそろ、席を立ってよっか」

「ん!」


 ガタンゴトン…


 ぷしゅー


「到着!っと」

「ま、まだよ、改札を、出るまで、だから」

「むー」


 しゅっ

 しゃっ


「紙の切符も、ひさしぶり、かな」

「そだねー」


 ガヤガヤ


「駅の外に出たよ!」

「じゃ、じゃあ、ここまでね。お疲れ様、マキ」

「お姉ちゃんも!」


 …

 ……

 ………


「ねえ、リーネ?」

「なに?」

「私が妹って、無理がない?」

「そう?」


 そんなこと、なかったよね?

だから、映像化できないっつってんだろ。

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