EX-84 AF「この私が!須藤 誠くんの、彼女だよ!」
FWO魚屋本店。給仕の始まりだ!
「いらっしゃいませ!御予約のお客様、3名様です!」
「いらっしゃいませ。どうぞこちらへ」
リーネ(メイド服仕様佐藤春香アバター)としての私が入口で案内し、ケイン(執事服仕様)としての私が席に誘導して注文を確認する。続けて来客がなければ、リーネとしての私が給仕を進める。
「メイドと執事がまた…凄いな」
「どちらも春香様なんだろ?リーネ様の方は、現実のメイド姿に合わせたんだな」
そうだよー。
「お客様、今週は特別メニューとして、クリームシチューがございますが、いかがいたしましょう」
「クリームシチュー?…って、もしかして、あの喫茶店の…え?リーネ…リーネ嬢…は、春香様!?」
「いかが、いたしましょう?」
『喫茶店で働く中学生リーネ・フェルンベル』の認識阻害は、本日をもって、あらゆるメディアで解除した。『佐藤春香』は『リーネ・フェルンベル』と同一人物である、その認識の世間一般向け公表が、ここから始まる。
そして!
「え、ちょ、ちょっと待って!確か『リーネ嬢』って、お付き合いしている男子中学生が…え、えええ、えええええ!」
そうだよ!
私が、『佐藤春香』でもある、この私が!須藤 誠くんの、彼女だよ!
◇
「テレビ、テレビ!今日の『佐藤春香』情報っと…」
『り、臨時ニュースをお伝えします!最近、メイド服を常に着用するなどして、更に話題沸騰である佐藤春香様ですが、なんと…』
ぽろっ
「お姉ちゃん、どうしたの?おせんべい、こぼしてるよ?」
「あ、ああ、あああ、ああああああああっ!?」
「どうしたの、お姉ちゃん!?」
「か、和美!あんたが!あんたが一緒に文化祭に来ていた、あの娘!あんたの友達のお兄さんの、彼女!」
「リーネさん?」
「そのリーネって娘!その娘!いや、その人!!いやいや、そのお方!!!」
ビシッ
「佐藤、春香様!」
「…ああっ!」
◇
ちゅんちゅん
「いやー、お兄ちゃん、大変なことになったねえ」
「…いや、まあ、いつかはこうなると…」
「へー、バレる前に振られると思ってたんだけど!」
「そ、そんなことは…」
「まあ、今日の学校は大変よねー、お兄ちゃん!」
「…どうなるか、想像できないかな…」
ピンポーン
「あれ、朝から誰だろ」
たったったっ
「はーい」
「おはよう、愛ちゃん!」
「り、リーネさん!?…あ、『春香さん』って呼ばないと」
「ううん、リーネでいいよ。そっちが私の本来の名前だから!」
「えっ、どういう…」
たったったっ
「り、リーネ!?なんで?」
「おはよう、誠くん!車で学校に送っていくよ!」
「え、でも、歩いて15分くらいだし…」
「いいからいいから!あ、そうだ、愛ちゃん!」
パチン
「え、なんですか?」
「愛ちゃん、今の誠くんのこと、どう思う?」
「今の、お兄ちゃん?…うぇ!?」
「おい、兄に向かって『うぇ』はないだろ?」
「あ、や、あっ…えええっ…!?」
とてとてとて
「愛ちゃん、そろそろ登校時刻だよー。…あっ!リーネさん…さ、佐藤春香さん!おはようございます!」
「おはよう、和美ちゃん!」
「…ふわああ、ほ、本当に、あの、春香さんだあ…!」
「あ、そうそう、和美ちゃんも」
パチン
「…え?」
「さ、行きましょ、誠くん!」
「あ、ああ…」
バタン
ブロロロロロロ…
「…」
「…」
「…愛ちゃん」
「…なに、和美ちゃん」
「春香さんとお兄さん、お似合いだね…」
「そう、ね…そう、だね…」
◇
「おい、準備はいいか?」
「おう、任せろ。今日こそは須藤の奴を吐かせる!」
「春香様だぞ、春香様!何をどうすればこんなことが起きるのか、さっぱりわからん!」
「ホントよ!でも、文化祭のこと、校門でのこと、全部スッキリした!あの歌声!あの容姿!」
「んでもって、今はメイド服…おい、まさかとは思うが」
「ああ、まさか、奴の趣味とかじゃ…!」
ブロロロロロロ…
キッ
「到着!さ、誠くん!」
「あ、ああ、ありがとう、リーネ…」
ガヤガヤガヤ
「うわあ…ホントに…ホントの…えええええ…」
「文化祭の時、なぜ気がつかなかったんだ…?」
「バカね、ニュースで『認識阻害』使ってたって言ってたじゃない」
「そ、それにしたって…なんで…えーっと…」
「2-Bの須藤…なんてったっけ?」
「と、とにかく!いくらまだ学生で、私達と同じくらいの年齢に見えるからって、あの…!」
「わからねえ…なんで…なんで、須藤なんかが…!」
ワイワイガヤガヤ
「り、リーネ、校門に人が集まり過ぎているよ…!」
「んー、そろそろいいかなー」
パチン
「リーネ、それ、さっきも家でやってたけど、やっぱり、何も…」
ガヤガヤ…
「う、うそ…な、なんで、今まで…!」
「あ、す、須藤、だよな?…え?」
「(ごしごし)…!?」
シーン
「みなさん、おはようございます!」
「「「「「お、おはようございます…」」」」」
「私、『佐藤春香』は、ここにいる、須藤 誠くんと、お付き合いしています!」
「「「「「…!」」」」」
「だから!」
「だから、彼に、何かしたら、私が、承知、しない」
「「「「「…!?」」」」」
「それじゃあ、これからもよろしくお願いします!誠くん、またね!」
「あ、ああ…」
ブロロロロロロ…
「えっと、あの…!?」
ペタン
ガクガクブルブル
「歓喜と…困惑…」
「称賛と…恐怖…」
「この世の全ての魔を、攻略する…」
「あ、あれが…あれこそが、『佐藤春香』…!」
「『リーネ』…『フェルンベル』…!!」
「あれ…?」
◇
「また、大人げないことを…」
「いいの!あれくらい、やっとかないと」
「『威圧』スキルは『リーネ・フリューゲル』のスキルのひとつだったわねー」
うん、まあ、やり過ぎたかもだけど。
ただ!あれくらい印象付けとかないと、いつ誠くんを取られちゃうかわからないからね!なにしろ、これからの誠くんは、あのパラレルワールドの『須藤くん』と同じ存在となるのだ。そうしたら、そうしたら…私みたいな…怪しい人外なんか…すぐ…。
「彼を守るためじゃなかったんですか…」
「まあ、結果オーライなんじゃない?『フェルンベル』のイメージも順次植え付けることができるみたいだし」
喫茶店の『リーネ嬢』とやらの本名は『リーネ・フェルンベル』である。それを少しずつ認識阻害で刷り込ませていく。各国首脳の方々のように個別対応できる場合は直接伝えるが、世間一般向けには薄く広くの戦略・戦術も必要だ。
「さて、魚屋本店対応を再開しますか!」
「ねえ、この際、ケインアバターは須藤くんに動かしてもらったら?」
「んー、でも、彼、門番アバターが好きだから!」
「そう…」
あ、でも、少しずつ、すこーしずつ、ケインの造形を誠くんに近づけてみようかなあ。そしていつか、サブアバターとしてプレゼントしたりして!きゃー、ぴったりー!
「なら、巫女ハルカは渡辺 凛に?」
「それだけはやめて下さいお願いします」
そんなオチですかい。




