EX-83 AF「その前にどうしてもクリアしなきゃいけないことが」
ひさびさのFWO魚屋本店。
「というわけで、ケインは執事服にしてみました!」
「よろしく。どうかな?」
「そう来たかー!?」
ミッキーな美樹が包丁振り回しながら何か叫んでるけど、気に入ってくれたってことかな?
「こ、これは…!健人、あんたも着てみなさい!現実で!」
「い、いや、ウチの秘書は執事じゃないから…」
「あたしが買ったげるわよ!…うえへへへ」
なるほど、ケインって一応、健人くんにも似てるよね。…美里は執事フェチ、と。
「実くんは似合わないよねえ。『上司』アバターも現実もイケメン親父なのに」
「リーネに親父とか言われたくないです。それはともかく、壮観ですね…」
執事のケインにメイドの私。こうして並ぶといい感じだよね。兄妹でお世話しますよ!
「いやまあ、ケインはもともとそういうキャラだったけど、でも、なんというか…」
「なによ、気に入ったんじゃないの?」
「リーネのそれと同じよ。似合い過ぎて困るっていうか」
似合うのに困るって何よ。
「というわけで、私達ふたりでしばらくこの店の給仕するね!」
「何が『というわけで』よ!そんなの営業妨害…ううん、これまで以上に人が来ようとして…あああ、やっぱり営業妨害になるわよ!」
「いいじゃない、1週間限定ってことにしてさ。予約で埋まってるんでしょ?」
なら、問題ないはずだ。
「それは、そうだけど…」
「なるほど、FWO版『リーネ嬢』か」
「クリームシチュー作ろっか?」
「『リーネ嬢』が『佐藤春香』ってことバレるわよ」
「あ、そっか」
うーん、なかなか複雑だ。
「ふむ…。この際、バラしませんか?」
「えっ!?でも、誠くんが…ああ、そうか!」
「バラしてから彼の認識阻害を全面解除、ですね」
「『佐藤春香』に彼氏ができるか。しかも中学生」
「メイド服以上に大騒ぎね、世間は」
あ、でも…。
「でもその前に、どうしてもクリアしなきゃいけないことがあるなあ」
「なんですか?…って、ああ」
「御両親ね。『佐藤春香』の」
そゆこと。
どうすればいいかずっと考えてたけど…もう、当たって砕けろだ!
◇
週末の、自宅アパート。
「お父さん、お母さん、彼が、須藤 誠くん」
「す、須藤 誠です」
「私、誠くんと、お付き合いしてるの。もちろん、彼は中学生だから、その…ぷ、プラトニックな、それで…」
よし、言うことは全部言った!
さあ、どうだ!
「…いいわね」
「…いいな」
お?
「春香、カッコいい子ね!」
「そう…だな。頼もしそうだ」
おおっ?
「それに、中学生なら、これからよね」
「そうだな、まだまだこれからだな!」
おおおっ!
「誠くん、だったか。春香と仲良くな」
「一度、誠くんの御両親に会いに行くわ」
やったー!わー!パチパチパチパチ!
「よ、良かった…」
「ああ…」
ちなみに、誠くんの認識阻害は、両親に対して事前に解除済である。もっとも、もしかすると、アパートに来れば、両親の認識阻害によって自動的に解除されていたのかもしれない。まあ、結果オーライだ。
「えっと、クリームシチュー、作るね。誠くんも、食べていって」
「あ、手伝うよ」
「そ、そう、ありがとう、誠くん」
◇
誠くんとふたりで、自宅の台所で料理。うわー、夢がひとつ叶ったよ!
「いいわあ…ケインくんが家に来たみたいで」
「そうだな。穏やかそうな、いい子だ」
うひょー、両親の評価が高い高い!話して良かったあー!
「と、ところで、リーネ。御両親とリーネのことだけど…」
「…ああ、うん。難しいんだよね、『入れ替わり』のことを話すのは。たぶん、大丈夫だと思うんだけど、『渡辺 凛』本人の問題もあってね」
「『佐藤春香のロールプレイ』か…。確かに、難しいね」
ホントだよ。どうするのが正解なのかな。
「世間一般への公表に合わせようとは思ってるんだけど、ただ、もしかすると、『あの親子』には、ずっと話さない可能性もあるんだ」
「ああ、うん、それはわかる。渡辺さんはもう、渡辺さんでしかない。だとすると、今更…ということになるね」
さすが、『本質を見抜く力』。そこまでわかるのか。
「僕が気になっているのはさ…リーネが、素のリーネを、御両親に見せられないことなんだよね」
「…それも、時間をかけて、なんとかする。『リーネ・フェルンベル』と、『佐藤春香』は、同一人物だから」
「今の、『佐藤春香のロールプレイ』?」
「わかる?」
「わかるよ。でも、どちらもリーネだよ。そうだろ?」
「…うん」
良かった。誠くんと、出会えて。誠くんと、お付き合いできて。誠くんと…共に歩むことができて。
「…なんか、いい雰囲気ね」
「春香、まだ、ぷ、ぷらとにっく、だぞ?」
そうだよ!
『まだ』ね!