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EX-82 AF「私のいないパラレルワールドに転移しよう(須藤 誠編)」

いつもなら前後編に分ける長さなのですが、区切りが難しいのでひとつにしました。

 おじい様に聞いた伝承から、この間の転移門の暴走では、千年以上前にタイムスリップしたことがわかった。

 ならば、その情報を基に、もう一度あの人々に会えるかもしれない…とも思ったが、やめることにした。タイムパラドックスの発生が怖いからだ。それと知らずに現地で活動したのなら矛盾は起きないが、自らに連なる過去の世界と知って活動するのは矛盾が起きる。…というのが、今の私の仮説だ。残念だが、あきらめることにした。


 一方、パラレルワールドなら問題はない。この世界から既に分岐した世界だからだ。もちろん、私はあの世界の住人ではないが、言ってみれば、地球とは別の知的生命体が暮らす別の惑星を訪問するようなものだ。侵略行為とかでない限り、問題はないはずである。


 そんなことを、『ソル・インダストリーズ』の研究所でつらつらと考えていたら、突然、本当に、突然、重要なことに気がついた。


「あのパラレルワールドの誠くんは、どうなっているのよ!?」

「いや、普通に生活してるんじゃね?」

「そうね、リーネに捕食されることなく、普通にね」


 捕食とかいうな。特に、ほとんど健人くんを捕食しているかのような美里には言われたくない。

 せっかく、転移門の研究状況の視察のために連れてきたのに、これじゃあ『可能性変動』理論のなんたるかの理解にまで到達できないよ!


「あとはまあ、普通の彼女とか作ってたりな。もちろんメイド服なんか着ていない、ごくごく普通の」

「そうそう。あれだけ普通なら、別にリーネとくっつかなくたって」


 いやあああああ!


「先輩、他の世界のあいつまで独占する気かよ」


 私と!誠くんは!運命の!恋人同士!だから!


「だから!もしかすると、一生、彼女も作らず、結婚もせず」

「酷いな、おい」

「今から同情するわ、向こうの須藤くんに…」


 というわけで、向こうの世界の誠くんの様子を見るために、私はまた時空を超えることにした。


「そのメイド服姿のままでか…」

「『認識阻害』が使えるんだし、別にいいんじゃない?」


 では、特別仕様の転移門起動!



「春香様、よくお似合いでございます」

「美里も」

「御滞在中に参考にさせていただきます」


 こっちの美里は素直だね!


「それで、今回は春香さんの恋人の調査か」

「こっ…恋人といいますか、その…はい」

「春香さんあっての人間関係だからな、『可能性変動』の調査にはもってこいかもしれん」


 だよねだよね。鈴木のお爺様はよくわかってくれるよ!


「だが、春香さんが辛くないかの?こちらに干渉が可能とはいえ、春香さんはいずれ元の世界に戻るのだから」

「…望むところです」

「そうか…無理はせぬようにな。その姿を見ると、何か不安になる」


 元の世界でも、それを心配する人々がいる。…大丈夫、きっと。私はそれを乗り越えるためにも、この姿でいるのかもしれないのだから。



 平日の夕方。誠くんの学校から少し離れた場所から、校門を見つめて待つ。明らかにストーカー行為なので、『ここで見つめる私は普通』という認識阻害をかけている。


「メイドさんだ…」

「メイドさんよね…」

「でも、あたし達と同じくらいの年よね…」

「誰かを待っているようだけど、まあ、普通だな」

「そうね、超かわいいメイドさんだけど、普通だね」


 よしよし(作者注・)誰も私を(メイド姿で)見ても不思議に(目立っていることに)思っていない(気づいていない)ようだ(リーネ)


「あっ!誠くんだ…うぇ!?」


 校門から出てきた誠くんに、私は驚愕した。

 なに、あの女子生徒の群れ!?5〜6人…あ、もうひとり後ろから追加された。なんなの!?


「ねえ、誠くん、今日はカラオケ?バーガー?」

「あー、この人数だと、カラオケかなあ」

「あたし、アニソン歌っちゃう!」

「アンタも好きねえ。私は流行りの歌、知ってるよ!」

「私は…学校で習う、合唱曲くらいしか…」

「それでもいいんじゃないかな。一緒に歌おうよ」

「…うん」

「あー、誠っち、またなんか口説いてる!」

「く、口説いてなんか…」

「はいはい、天然天然」


 …

 ……

 ………


 ギャルゲの主人公!

 ああいや、古いか。あのジャンルって、VR化したらヤバ過ぎて衰退したよね。あれ?でも、この世界にはVRがなくてARが発達しているわけだし、そういう捉え方も別にいいのか?ああ、なんかこんがらがってきた。


「あー!お兄ちゃん、また女の子侍らせてる!」

「め、(めぐみ)ちゃん、わざわざ中学に押しかけてまで…」

「いいの!お兄ちゃんは和美(かずみ)ちゃんと付き合うんだから!」

「おい、愛!ごめんね、和美ちゃん、愛が強引で」

「う、ううん、愛ちゃんも、誠さんと一緒にいたいから、私を…」

「ち、ちちち、違うよ!?違うんだからね!?」

「あら、和美、誠くんと知り合いだったの?」

「え、お姉ちゃんも!?確か、隣のクラスだって」


 …


 えーと、整理しよう。

 私(と渡辺 凛)がいない世界の誠くんは、激モテだった。妹の愛ちゃんまでブラコン気味なほどに。

 でもそれって、私と出会わなかったから、そうなったってわけじゃないよね?文化祭で、あの和美ちゃんのお姉さん、誠くんのこと存在さえ知らなかったし。


 とすると…FWOの門番プレイヤーをやっていないから?正確には、『門番』をやっていたことによる、スキルに見合った『現界』能力を私から身に付けなかったっていう…門番…門番…。


 ふと気づいて、誠くんを遠目ながらじっと見る。


 …

 ……

 ………


 うあああああっ、誠くん、とてつもなくイケメンだあああああっ!!!ケインとリアルでタメ張れるじゃん!つまり、健人くんなんて目じゃない!

 認識阻害っ!両親と同じく、無意識に認識阻害を発動しているんだ、あっちの誠くん!そりゃあ、門番がやたら目立つのは変かもしれないけどさあ。なんてこった。なんてこったあああ!


「ううう、私なんか(・・・)がいなければ、誠くんはこんな人生を送れたのに…。何が、運命よ。何が…」


 まさしくorzである。こっちの世界に来て、元の世界で私がやってしまったことをまざまざと見せつけられた気がする。渡辺 凛の人生にも似た…ああ、あいつは別にいい。とにかく、なんか、なんかとんでもないものを奪っていたような気分である。


 うん、元の世界に戻ったら、私が強制的に誠くんの認識阻害を解除しよう。それで、誠くんはすぐにこんな風にモテモテになって、それでそれで、私みたいな、わけわからんことやらかしてばかりいる年増なんて、見向きも…見向きも…


「ね、ねえ、君!どうしたの!?どこか痛いの!?」


 …いつの間にか、誠くんが、側にいた。とてもとても輝いている、誠くんが。

 ああ、やっぱりだ。雰囲気が『ケイン・フリューゲル』そっくりだ。若かりし頃のおじい様の写真を見て、私の理想として思い描いていたそれが、その存在が、目の前に、現実に…。


「うわあああ!ねえ、泣き止んでよ!ねえ!」



 中学の近くの、公園。その、ベンチのひとつ。

 私と誠くんのふたりが座っている。


「ご、ごめんなさい、せっかくの、お、お友達との、予定を…ぐすんっ」

「い、いや、なんか、僕に関係がありそうだったからさ。みんなも『アンタが知らなくても相手がよく知ってるのは珍しくない』とか、よくわかんないこと言ってたけど、でも、放ってはおけなくて」

「…優しいんだね」


 性格は、同じ。私がよく知る、優しくて思いやりのある、誠くんだ。

 でも、そんな誠くんだからこそ、あんな風に目立たずにいるのはおかしいんだ。誠くんは別に、私だけに優しいわけじゃない。私だけに…。


「そ、その、私が付き合っている人と、あなたが、とても似ていて…でも、私、あなたを見ていたら、その彼にずっと酷い事してたんだなって気づいて…だ、だから、あなたには関係ないことだから、気にしないでっていうか…御迷惑をおかけして、申し訳ありません…」

「そっか…その彼と、ケンカしたの?」

「まさか!…いつ、嫌われてもおかしくないなあとは、思っているけど…」


 でも、今回のことを話しても、誠くんは何事もないような反応をする、そんな気がする。『何か変わるわけじゃないよね』って、あっけらかんと言うだろう。言って、くれるだろう。


「信じられないなあ。君みたいなかわいい娘を、嫌ったりするなんて」

「かっ…いやその、私、意外と、嫉妬深くて。その彼が、他の娘と話をしていただけで、不安になっちゃって」


 他の娘と話をしているところは見たことなかったけど、今回、こっちの誠くんを見て、よくわかった。そんなところをもし見ていたら、私は誠くんが遠い遠い、手の届かない世界の住人と思ってしまうのだろう。そして、手が届かないゆえに、何もできずに私の前から消えてしまっても不思議ではない、そんな風に…。


「そっか、彼氏がいるんだ。もしフリーなら、お付き合いを申し込んでたかな」

「ふえっ!?」

「ウソウソ。会ったばかりの君に、そんなこと言わないよ。最初は友達だよね」


 友達…。


「あの…。実は私、家は遠く離れた場所にあって、こちらには数週間しか滞在しないの。だから…」

「うん、いいよ。君さえよければ、友達になるよ」

「あ、ありがとう!」


 うん、まあ、あの女の子達の中のひとりってところだよね。ハーレム要員のひとりかあ。実くんの時は、それはイヤって感じだったけど、ま、誠くんなら、それも、いい、かな?あはは、なんでだろ。


「(ひそひそ)何話してるかわからないけど…」

「(ひそひそ)なんか、いい雰囲気よね…」

「(ひそひそ)どうする?ファンクラブで報告?」

「(ひそひそ)してもいいけどさあ…今回ばかりは」

「(ひそひそ)お似合いだよね…メイドだけど」

「(ひそひそ)メイドだけどね…」


 なんか、少し離れた草むらからメイドがどうとか声が聞こえてくるけど、なんだろ?



 そして、あっという間に数週間が過ぎる。

 今回の調査はあっさり終わったので、滞在中のほとんどは鈴木のお爺様のお手伝いをした。あと、美里と健人くんの再教育とか。


「え、佐藤さん(・・・・)の滞在先って、あの郊外にある豪邸なの!?」

「うん。そこで、まあ、メイドのようなお仕事をね」


 嘘ではない。お手伝いをしているのは確かだしね。

 いやあ、しかし誠くんに『佐藤さん』と呼ばれるのは新鮮だなあ。誠くんとは最初から『リーネ』だったものね。現実でも、FWOでも。しかしまあ、おかげで、元の世界の誠くんと区別を付けやすいかもしれない。こっちの美里や健人くんは『春香様』って呼んでるしね。


「それじゃあ、私は元の世…家に帰るね。携帯端末がつながりにくいところだから、何かあったら、鈴木家に」

「ああ、元気で」

「うん、須藤くん(・・・・)も」


 またね、こちらの世界の、誠くん。



 元の世界の、『ソル・インダストリーズ』研究所。


「それで、どうするの?」

「…考え中」


 ニヤニヤx4


 鈴木姉弟に加えて、美樹と実くんもやってきて、話を聞いてもらったんだけど…失敗したか?


「…私、こんなに独占欲があるとは思わなかった…」

「さしあたり、私達5人にだけは認識阻害が効かないようにできますか?」

「できるけど…美樹と美里、誠くんを取らないでよ?」

「ほんっとーに、ベタ惚れなのね…」


 ふんだ、認識阻害を解除した誠くんを見て、腰を抜かすなよ!ふたりがもともとケインのファンだったこと、しっかり覚えてるんだからね!



 バイト先の喫茶店に全員集合。もちろん、誠くんも。


 パチン


「…どう?」

「僕は、別に…僕の『現界』能力の不具合を調整したんだよね?リーネ達を見る限り、特には…リーネ?どうしたの?」

「な、なんでもないよ?うん、異常がないなら、それで…」


 うわっはー!あっちの世界で見慣れたと思っていたけど、眩しいよー!よくもまあ、これほどの輝きを今まで…。美男美女は3日で飽きるっていうけど、誠くんに限っては嘘だね!


「…ねえ、リーネ?」

「なに、美里?誠くん、取らないでよ?」

「それは健人で我慢するから。須藤くんさあ…執事服、似合わない?」


 おおう…。


「あ、確かに!私、用意しようか?」


 ああ、あのコスプレ専門店ね。

 いや!誠くん、まだ中学生だよ!ダメダメ!

カオス。

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