EX-79 AF「え?誠くんは似合うって言ったじゃない」
第7シーズン開始です。『エキストラ』最終話とかじゃありません。あくまで、シーズン開始です。
バイト先の喫茶店。シチューの給仕はだいたい終わったかなー、という頃。
カランカラン
「いらっしゃいませー!あ、誠くん!」
「やあ、リー…」
あれ?誠くんが私を見て固まった。どうしたのー!
「ま、誠くん、どうしたの!?誠くん!」
「…え、あ、り、リーネ、その格好は?」
え?ああ、これか。
「似合う?」
「…似合う。シャレにならないくらい…」
…!
「あ、ありがとう…」
「…い、いや、変な言い方してごめん…」
「そ、そんなこと…ないから…」
「…」
おおっと、まだお仕事中だった!
「ご、御注文は?シチューでいい?」
「あ、ああ。それと、ブレンドを」
うひょひょー、誠くんに似合うって言われたよー。思い切ってマスターに提案して良かったよー。がんばって給仕するよー!
◇
「あ、高橋さんに、田中さん」
「こんばんわー、須藤くん。今日はひとりなの?」
「ええ。妹も両親も、友達や知人の家で食べるからって」
「そうですか。ところで…リーネのあの服、どう思いますか?」
「…似合いますね。不思議なほど」
「エロいよね!」
「それは偏見では…」
「でも、本来のデザインはもっと地味なはずよ?」
「それは知ってますけど、だからって…」
「え、知ってるんですか?」
「…しまった」
「ねえ、もしかして、あれって須藤くんの趣味?」
「え、や、その…」
「そうなんだ…。さすがというかなんというか」
「さ、さすがって?」
「いやあ、ねえ」
「「メイド服は奉仕のための装備でしょ?」」
「ほ、奉仕?」
◇
いやあ、記憶を失っていた間のHS-01の記録を整理していたら、なぜか着たくなっちゃったのよね、メイド服。なんでだろ。
とりあえず、FWOの『佐藤春香』アバターの服飾として作って設定したら、まー、落ち着く落ち着く。
だから、ネットで現実の私の寸法に合うよう注文して、届いてすぐに家で着てみた。エプロン着けるだけよりも、家の仕事がはかどったよ!気のせいかもしれないけど!両親がなんか愕然としていたけど!
タイプとしては、ロングスカートなクラシカル。ミニスカだの露出が多いのは論外だよ!もっとも、いわゆるヴィクトリアンと呼ばれる、昔本当に着てお仕事をしていたといわれるものよりは派手なのかな。肩のフリルとか、胸のブローチとか、頭のホワイトブリムとか。まあ、日本のメイド服のお約束だ。
「お待たせいたしました。本日のクリームシチューと、ブレンドです」
「あ、ああ、ありがとう」
「それでは、ごゆっくり」
トレイを胸にかかえ、片手だけだけどスカートを少し持ち上げてお辞儀をする。それっぽく見えたかな?うふふふ。
パタパタパタ
◇
「…」
「どうしたの?」
「…リーネ、今の、お客の誰にでもしているんですか…?」
「いえ、今、初めて見ましたけど」
「そ、そうですか…」
「あー!ヤキモチ?嫉妬?独占欲?須藤くん、そういうのないと思ってたけど!」
「えええ、ああいや、その…。い、いただきます!」
「微笑ましいですね…これなら、問題はないでしょうかね」
「そうだねー。自宅と喫茶店で済むなら、それほど…」
◇
パリンッ!
ガッシャーン!
ダダダダダダ!
「な、なに!?」
喫茶店のガラスをぶち破り、戦闘服を着込んだ男達が、銃をもって外からなだれ込んできた!
「我らは、SOE『悠久ガーデン』!田中 実、高橋美樹、天誅!」
「『ソル・インダストリーズ』他、裏切者達と手を組んでの地球をないがしろにした…ごふっ」
「かはっ」
ひとりの男が口上を述べ終わる前に、手刀スキルでふたりほど倒して床を舐めてもらう。いや、最後まで聞いてやる必要はないし。
「お客様、御来店には扉を御利用下さい」
「な、なんだ貴様!?」
「当店のメイドでございます」
「違うよ!バイト店員だよ!」
いやまあ、そうなんだけどさ。ノリだよノリ。まあ、美樹にツッコミを入れてもらわないと収まりがつかないという話はある。
「邪魔をするというなら、貴様も容赦しない!」
カチャッ
「撃て…!?ど、どこに行っ…かはっ」
「げふっ」
携帯用の転移装置で戦闘員達の後ろにまわり、同じく手刀でふたりほど床を以下略。
え?どこに転移装置を持ってたかって?胸のブローチの中だよ!
「くっ…!」
チャッ
他の戦闘員達が既に床を舐めているのに、最後のひとりが撃とうとしている。なんだかなあ。
「【ストレージアウト】神剣フリューゲル」
HS-01が反応し、自宅から剣を転移させる。
え?HS-01を付けてたのかって?カチューシャ型のホワイトブリムと良く合うんだよ!
「ひぃ…!」
剣先を、最後のひとりの喉元に突きつける。しょせんは模擬剣だが、突いたら痛いどころじゃないよね。
「ば、バカな…!ここにいたのは、中学生の小娘じゃなかったのか…!?」
一応は意識が残っている面々のひとりが、そうつぶやく。
あ、やべ。このままだと、『リーネ嬢』とやらのイメージがおかしくなる。
パチン
「交替していて、良かった」
「…!?さ、さ、さ…」
がくっ
よし、とりあえず私を『佐藤春香』と認識してから気絶してくれた。
「リーネ!」
「へっ!?あ、ま、誠くん!大丈夫だった?ガラスの破片とかで、ケガしてない?」
「してないよ!君こそ、ケガはない!?」
「え、あ、うん。だ、大丈夫、だったよ…」
ああ、誠くんの前で本格的な戦闘したの、これが初めてだわ。最初会った日の『荒くれ者』の時は、しょせんは素人相手に剣で小突いただけだったし。
でも…。
「そっか、良かった…」
…誠くんが、私を、心配してくれた?
『佐藤春香』であることを、知っていても。
「…心配して、くれるの?」
「当たり前じゃないか!君だって、女の子なんだから!」
…
……
………
「り、リーネ!?やっぱり、どっか痛いの!?」
「…え?」
…やってしまった。また、気付かず、涙を流していた。
で、でも、嬉しいなあ。嬉しいよう。
驚愕されたり感謝されたりすることはあっても、こんな風に、すぐに心配してくれるなんて…。
し、しかも、誠くんに…大好きな、大好きな誠くんに…!
ボロボロ
「リーネ!?ホントに大丈夫なの!?」
◇
「はー、これはこれは…」
「ほんっとーに、良かったわあ。須藤くんとリーネが出会えて、そして、こうしてお付き合いできて」
「我々も彼女を心配することはありますが、なんというか、あそこまで素直にはできませんね」
「そりゃあ、頭ではリーネも女の子だってわかっていても、あんな圧倒的な戦闘を見たら、普通はねえ」
「ですね。でも、『レッドドラゴン』の時に彼がいたら、私達は今頃どうなっていたでしょうかね」
「あの時は、私も剣を投げるだけで精一杯で、美里ちゃんもびっくりして泣きじゃくるだけだったし」
「『本質を見抜く力』ですか。もしかすると、リーネのためだけに、発現したのかもしれませんね」
「もともと、リーネがオリジナルだしね。リーネを始めとしたFWOアバターを、ずっとずっと見続けて」
「現実世界で、偶然出会って、そして…」
◇
VR研の会議室。
「というわけで、私、この格好でいるね!」
「『いるね!』…じゃないわよ!何考えてんのよ、リーネ!?」
「そうですよ…。大学や記者会見でも、そのメイド服を着ているつもりですか?」
「うん!」
うん、そうだよ!
「そんな、さわやかな顔をしたって、ダメに決まってるでしょ!TPOを考えなさいよ!」
「えー、じゃあもう私、記者会見やんない。もともと、ふたりがやるべきものの方が多いし」
「うっ…」
いやもう、ホントに落ち着くのよ、これ。
特にほら、『現界』能力活用してお役に立ったり、SOEの連中をぶちのめしてお役に立ったり、各国首脳と会談してお役に立ったり。
「もしかして、太陽系連合の初代総裁となっても、その格好でいようっていうの…?」
「人類初の統一国家の代表が、メイド服…」
えー、いいじゃん、別に。
もし私が本当に総裁をやるなら、人類全体のお世話をすることになるんだから!ピッタリじゃない!みんなとゆったりした生活を送れるよう、がんばるよ、私!
「あああ、三つ子の魂百まで!」
「須藤くん!誰か、須藤くんを呼んで!説得させるから!」
え?誠くんは似合うって言ったじゃない。その『本質を見抜く力』でね!
マジかよ、おい。




