EX-8 AF「でも、このダンジョンの地図は僕達が作って…」(後編)※
※もしかするとR15かもしれません。Mがどうとか。今更かな…。
「死んでペナルティになった人、いつ頃戻ってくるの?」
「今日はもうだめかな…精神的にかなり疲れていたみたいだし。強制ログアウトってわけじゃないけど、急に場面転換すると酔うらしいんだ」
それだと、転移魔法陣の類は全滅じゃない。んー、現実世界のゲート形式の方がいいかなあ。死ぬと扉が現れて…なんだそりゃ。
「そっかー。じゃあ、今日は私が付き合うね!『紅のローブ』が欲しいんでしょ?」
「え、なんで知ってるの!?」
「そのペナルティになった人に、『ニールを助けて』って頼まれたから!私がいいよって言ったら、すぐにログアウトしちゃったけど」
「アイリーンが…」
女性アバターに『春香様!』と呼ばれるのは滅多にないからびっくりしたよ。あの分だと、中身も女性っぽいけど…。リア充かな?かな?
「こんな子に頼むなんてよっぽど…いや、ごめん。君は…リンは、FWOは長いのか?」
「そこそこね。何度かアバター作り直しちゃってるから、今も初期装備のナイフ使いレベル1だけど!」
「そうか、それでVR慣れしてるのか…。僕も、スキルレベルばかりに頼るのはやめようかな」
いやあ、人それぞれだと思うよ?あんまりプレイヤースキルにこだわると、ゲームと割り切れなくなるから。私が言うんだから間違いない。
と、いうことを、私がどうこうを隠して重騎士プレイヤー、ニールに伝える。
「そうか、そうだな。FWOではふたりで楽しく冒険しようっていって始めたんだっけ」
「そうなんだ。仲いいね!」
「ああ、まあ、そりゃあね。リアルでは親子なんだよ、僕達」
うお、それはすごい!とてもそうは見えなかったよ。
「母親が『せっかく年齢が変えられるんだから、恋人同士っぽくしましょ!』って言ってなあ」
なんというか…アグレッシブなお母様ですね。お父様はいいのかな?
「親父はレベルがすごいけと、雑魚討伐のパワーレベリング専用というか…」
えっと、それって、パーティのお父様が魔物狩りまくって、あなたとお母様がイチャイチャしながら楽々レベルアップってことですか?どういうことですか?涙が止まらないんですけど!?
「M気質というか…」
涙が、止まった。
◇
「あった!『紅のローブ』だ!」
「良かったね!」
ニールの地図データに沿って、最短最楽で目的の宝箱アイテムの場所に到達。もちろん、それなりの魔物を狩る必要はあった。プレイヤースキルで無双なんてしなかったよ!縛りプレイだね!
「ああ、親父もそういうプレイが好きだって」
ノーコメント。
「よし、これで…!?」
お約束の、残念3人組パーティ、颯爽登場!うん、カッコ良くないね。特に、リーダーの暗黒龍虎さん。装備がドラゴン模様なのかタイガー模様なのかわからないよ!
「それが、VIT20%増の装備か。おとなしく、それをよこしな」
「い、イヤだ!そ、それに、僕からこれを奪おうとしたら、PK判定食らうぞ!」
「ふん、この層にはまだあちこちに魔物がいる。あたしらがおびき寄せてこの場所で適当に戦ったら、さて、レベルが低いあんたたちはどうなるかねえ?」
そう言って、残念3人組は周囲の魔物への攻撃体制をとる。MPK脅迫ですか。ド定番ですね!
「いいんじゃない?やってみれば!」
「レベル1風情が!イキがるんじゃないよ!」
ふーん。レベル1がそんなにダメだと。ほほう。
よーし、ビリーくんの御期待に沿おうじゃないの!
◇
この世の全ての魔を、攻略する。
安寧なるスローライフを、この手に。
◇
「【ストレージアウト】全属性魔法陣!」
リンとニールの周囲から、レベル1の様々な魔法陣が飛び散る。リンのストレージ容量の都合で、数百枚しか入れてなかったけど。
「な、なんだ!?」
「ぶはっ!?」
この比較的狭い層のあらゆる場所に、魔法陣が飛び散り、
「【連鎖発動】!」
レベル1の様々な種類の攻撃魔法が、あちこちでたむろっていた魔物にかかる。レベル1だから大してHP削れないけど、でも。
「おい、この層の魔物が全部俺達に向かってくるぞ!」
「適当なんて言ってられねえ、さばき切れねえぞ!」
「ちょっと小娘!あたし達を巻き添えにして自爆するつもり!?これだってMPKよ!」
残念ながら、
「最初にあなた達の方が魔物に武器を構えたんだから、そうはならないよ!」
そして、自爆するつもりもない。
「【ストレージアウト】転移魔法陣!」
これはレベル1じゃないよ、結構高いやつだよ。レベルもお値段も!
◇
そして、リンである私とニールのふたりは、
「うおっ…あれ?ここは…!」
第43エリアのポータルポイントに転移する。エリアの中心地区に設置されているものだ。オーナーががんばって稼いで設置したらしい。
本当にがんばっていて、中心地区はかなりの賑わいだ。各種店舗や露店地区だけでなく、大型スクリーンも設置して、エリア内の主要攻略場所の中継なんかもやっている。あくまでプレイヤー権限でやっているので、FWO外への中継はしていないけど。
「春…リンさん、全て観ていました。ここにいるプレイヤー達も証人となるでしょう。あとは、任せて下さい」
「よろしくね!」
ポータルポイントで待機していたエリアオーナーによろしくする。さっきのダンジョンに向かう前に連絡をとって、魚屋で流している映像をこちらの大型スクリーンにも流していたのだ。
「録画もしたので、言い逃れはできないでしょう。御迷惑をおかけしました。いえ、ありがとうございました。今後のエリア運営の参考にします」
「あなたもプレイヤーのひとりなんだから、無理はしないようにね!」
エリアオーナーになったからといって、別に運営から給料をもらっているわけではない。あくまで、ゲームを楽しむ範囲で対応するべきだろう。
そう考えると、エリアオーナーの権限を拡大するのも問題ということになる。ただ、エリアオーナーに志願するプレイヤーって、将来『FWOエンターテインメント』に就職したいって人が結構いるらしい。そう考えると…まあ、これも運営に任せるか。今回の経緯とコメントは送っておこう。
「あのダンジョンで死ぬと、ここに戻るんだよね。あの人達と鉢合わせると面倒だから、あとはオーナーさんに任せて帰りましょ!」
「あ、ああ。…ん?アイリーンとユリウスがログインしたらしい。場所は…ええええ、魚屋本店!?」
「?そんなにびっくりすることなの?」
「魚屋本店っていったら、向こう何か月も予約が埋まっている超人気店じゃないか!」
え、そうなの!?何か月も…って、ああ、FWO内の加速時間でか。って、それでも一週間以上だよ!
でも、私はいつでも食事できてるよねえ。常連さんもいるし。
「え、いつも!?リン、君いったい何者?あそこでいつも食事できるといったら、エリアオーナーでもあるVR研の高橋代表と懇意にしている人達ばかりだよ!」
あ、このパターンは。
「ミリー&ビリーの姉弟のような古参のプレイヤー仲間とか、FWO創設者で旦那さんの田中氏とか。あとは、もちろん…」
と、レベル1ナイフ使いのリンである私をまじまじと見る、重騎士プレイヤーのニール。
「そ、そう言えば…FWOではいくつもアバターが作れて…同時操作が可能だって…。ま、まさか…!」
よし、問答無用で魚屋本店に転移だ!
◇
「え、春香、そんなことも知らないで、ここでお刺身とかお寿司食べてたの?」
「そもそも魚屋自体、リーネやケインとしての先輩がよく来ていたから人気になったのであって」
「もちろん、田中さんやあたし達が1号店からの常連だからってのもあるわね!」
うーん、よくわからん。
いや、こういうことがあるとこうなっていくなあってパターンは知ってるよ?でも、なぜなのかがわからない。
あれかなあ、私が普段掲示板とかTVとかほとんど見ないからかなあ。『◯◯で有名です!』っての、たいがいマスメディアだよね。しょっちゅう記者会見開いている私が言うのも変だけど。
「春香様、握手して下さい!」
「春香様、サイン下さい!この『紅のローブ』に!」
「春香様、ハグして下さい!」
ハグは丁重にお断りした。お母様なアイリーンさんとはいえ、恥ずかしい。
ちなみに、『紅のローブ』は、お父様であるユリウスさんのために入手したらしい。
「この、血塗れな感じがゾクゾクして…!」
イイハナシカナー?




