EX-74 AF「誠くんの能力が予想以上にヤバい」
FWO第1エリア。
『リーネ総合オフィス』の会議室。
いるのは、『佐藤春香』アバターの私と、『上司』アバターの実くん、そして、『セイ』アバターの誠くん。
「では、これから10体のアバターが出現します。それらを見て、どう思ったか答えて下さい」
「はい!」
「では」
実くんの合図で、10体のアバターが出現する。ただ出現しただけでなく、それぞれ簡単な動作もしている。椅子に座ったり、壁に寄りかかったり、踊ったり。…おい、何調子ぶっこいてる、渡辺 凛。
「えっと…あなたが美里さんで、あなたが健人さん、座っている人が高橋さんで、踊っている人が渡辺さん。残りは…リーネだよね」
くはっ。
私が『佐藤春香』アバターでここにいるにも関わらず!
「見事ですね…。リーネがアバター同時接続可能を知っているからこそというのもありますが、メインを知っていればサブもわかるというのは、自我認証システム並の識別能力ということですね」
確かに、その通りだ。もちろん、私と渡辺 凛の自我は違うから、渡辺 凛が元佐藤春香であるとわかるわけではない。まあ、誠くんには『入れ替わり』のことを話してあるから、つまり、私が『リーネ・フェルンベル』であることを知っているから、知識としてはわかっているんだけれども。
「門番としての適正はもちろんですが、現実世界でも大変役立ちますね。もっとも、事前に一度会って認識しておかなければなりませんが」
つまり、誠くんという自我認証システムに、自我認証データを登録した人でないと、同一人物であると認識できないわけだ。だけど、一度でも誠くんに認識されれば登録されたことと同じ効果がある、というのは凄まじいものがある。
「つまり、『認識阻害』のない私のロールプレイが、誠くんには通用しないってことよね」
「仮想世界はもちろん、現実世界でもですね。『篠原あかね』は認識阻害を併用していますが、『リン』や『浅羽瑞乃』だった時は、そこに普通にリーネがいるものと認識されることになります」
まあ、それは別に問題ではない。私が私であると理解してくれる誠くんならではの能力だよ!
「問題があるとすれば、世界の諜報機関が、須藤くんの能力を狙ってくるかもしれないことでしょうか」
「え、ぼ、僕を!?」
「リーネのロールプレイが通用しない程です。演技や変装も通用しません。諜報機関が欲しがる能力のひとつですよ」
もうひとつは、認識阻害だ。こちらは、狙おうにも、その狙い自体が認識阻害されてしまうから、ある意味どうしようもない。
「そういうわけで、しばらくは秘密にしてね、誠くん」
「あ、ああ。日常生活では、役に立つのか立たないのか、さっぱりわからないけど」
「まあ、捜査当局への協力とかはできるかもしれませんね。資料による事前認識がどれだけ効果があるかわかりませんが」
だねー。刑務所の守衛さんになって、変装して脱獄しようとかするどこかのレオンとかいう怪盗とか。
◇
今日は!誠くんと!一日!デートである!わー!
公園にピクニックなので、お弁当を用意してみた。二人分。二人分だよ!いや、両親が仕事の日はやっぱり私が用意しているけどさ。
「は、春香、まさか、それって…!」
「え、あ、あの、お友達の分、だよ」
「お、お弁当を作ってあげるお友達と、お出かけってことかい!?」
むう、両親の察しがいい。まあ、当たり前か。
でもねえ、まだ教えられないのよ。相手が中学生ってこともあるけど、両親の認識阻害がどう影響するかわからないし。
誠くんの方の御両親には、ちゃんとお付き合いの了承を得ているだけに、ちょっと罪悪感が。もうちょっと待ってねー。
「と、とにかく、もう、行くね」
「春香…春香が、大人に…」
「まだだ…まだ、ダメだぞ…!」
何が大人で何がダメなのかは知らないけど、心配しないでほしいよ。どっちかというと、ほら、私が誠くんを…でへへへ。おっと、また表情が歪んだかも。いけないいけない。
◇
市内にある、広くて様々な設備やエリアがある公園。そのうちの、丘のようになっている芝生地帯で、誠くんと日向ぼっこ。
「いいお天気で良かったねー」
「そうだね」
FWOの草原エリアみたいで、私はこれでも満足というか幸せ…えへへへ、ああいや、そうなんだけど、誠くんは、退屈かな?なにしろ、中二まっさかりの中学2年生だし!何言ってんだ、私。
「なんか、FWOの草原エリアを思い出すね。あれほどだだっ広くないけど」
「そ、そうだね!誠くんは、草原エリアは行ったことあるの?」
「一度、愛と一緒にね。最初は円盤投げとかで遊んでいたんだけど、すぐに『飽きたー』って言ってログアウトしちゃったんだよ、あいつ」
誠くんも私と同じこと考えてた!きゃー!誠くんとなら、老後も充実したスローライフを送れそうだよ!あ、ツッコミなしでお願いね!
「…あー、そういうことかあ」
「え、どうしたの、誠くん?」
「ああいや、あの家族連れのお父さんと、向こうにいるカップルの女性、そして、寝っ転がっている男性」
「?」
「FWOで、見たことある」
…
……
………
…はい?
「学校や街中でも、よく見るんだよね。最初は、どういう意味かわからなかったんだけど。そっかー、リアルの本人ってことだったのかあ」
リアバレ能力キターーー!
うわあ、アバターとリアルで存在を分けたいって人の天敵だよ!私や鈴木姉弟、美樹あたりはもうどうでもいいけど!
実際、誠くんって、第1エリアの門番やってるから、全員ってわけではないけど、FWOアバターの多くを認識してるよね。うわあ。
「あ、あの女の子、FWOではカッコいい青年アバターだよ。リーネのケインみたいなね。それで、たくさんの少年型アバターといつもパーティ組んでて…」
やめてー!なんか生々しいからやめてー!!
須藤兄「そういえば、『なろう』もそうかも」
リーネ「『なろう』?」
須藤兄「うん。一連の作品とか見てるとね、リアルで作者名に結び付く人がわかったりとか」
作者「やめろー!」




