EX-73 AF「リンのFWO初心者支援」
ひさしぶりのVRMMOですが、実は設定増強回です。あーあ、ついに彼も…。
FWO第1エリアの、ある街角。
「おい、タツ、まだパーティメンバー見つけられないのかよ!」
「しかたないだろ、シュー。俺達、まだまだ初心者なんだし。誰も相手にしてくれない…」
「けどさ、リポップでも一度はエリアボス倒しとかないと、その初心者を抜け出せないぞ」
「装備も乏しい盾使いと魔導士の俺達だけじゃ、とても倒せないし…」
そんなことないよー。
「私が、付き合おうか?」
「え、君もしかして、パーティに入ってくれるのか!?」
「FWO内で1週間くらいならね。ナイフ使いだけど、いい?」
「いいよいいよ!助かる!」
「3人ならなんとかなるな!早速第1エリアのボスを倒しに行こう!途中の魔物討伐にも時間がかかるし」
んー、このまま行くのはなあ。
「準備は必要だよ?せめて、ポーションは揃えないと」
「う…いや、今、持ち合わせがなくて」
「エリアボスに負けまくって、デスペナが酷くて…」
「魔物がドロップした素材は売らないの?」
「その、売り方がよくわからなくて…」
そこからかあ。
「じゃあ、ついてきて。露店地域で売る方法を教えるよ!」
「助かる!」
「売る相手もプレイヤーだからか、交渉とかどうしてもうまくいかなくて…」
なるほど。初心者向け専用の商人NPCが必要かもしれないね。なんでもかんでも『職を提供』すればいいわけではなさそうだ。
「あ、私はリン!しばらくよろしくね!」
「俺は、シューだ」
「タツって呼んでくれ。本当はタツヤだけど」
では、露店地域にごー。
◇
「ケイン、おひさー」
「ひさしぶりだね。今日は何かな?」
「このふたりに、素材の売り方を…あれ、いない?」
さっきまで近くにいたのに、いつの間にか露店地域の入口まで戻ってるし。
「もー、どうしたの?」
「無理!無理無理無理無理無理!いきなり、あのケインと交渉なんて!」
「なんで?ケインは、初心者にも優しいよ」
「し、知ってるけど、聞いているけど!」
「なら、問題ないでしょー?ほらほら!」
後からふたりをぐいぐい押して、ようやくケインの前に移動させる。
「やあ、よろしく」
「よよよよ、よろし…」
「おおお、お願いい…」
「そんなに緊張しないで。まずは、素材を…」
アレヤコレヤ
ウンタラカンタラ
「な、なるほど、win-winとは聞くけど、それ自体は簡単なんだな」
「困ったことに、儲けとかに関係なく勝ち負けにこだわる人も多くてね」
「その場はいいけど、すぐに信用を失うってことか…」
ということで、適正価格で素材を買い取るケイン。解説付きで。
「さて、今度はポーションの購入だよね。ビリー、任せた」
「任された!いろんな種類、いろんなレベルのものがあるけど、攻略や備蓄の予定をまず考えようぜ!」
「アドバイスありがとうございます、ビリーさん!」
「エリア開発がんばって下さい、ビリーさん!」
あら、ビリーくんにはえらくスムーズだこと。ケインの装飾、きらびやかにし過ぎなのかなあ。
「ポーション揃ったけど、おかげでお金が余ったな!」
「なあ、タツ、お前の装備、もう少し強化しておかないか?」
「そうだなあ。ビリーさん、今の装備売って、もっと良いものって手に入りますか?」
「おう!あるぜあるぜ!いやあ、お前達は商売しがいがあるぜ!」
ごめんねー。レベル1アイテム狂に初期装備オンリー派のアバターばかりでー。
「予想以上に揃ったな!早速行こうぜ!」
「ああ、ちょっと待って。シューくんだっけ、君の魔法スキルはどのくらいかな?」
「…どれも、レベル1です」
「『ファイアボール』くらいは上げておいた方がいいと思うよ?」
「だな!よし、姉貴を紹介…あ、ダメだ、今、VR学習システムで苦しんでる」
「そっか、なら…」
ハルカだね!
◇
街の郊外に移動。前にミリーが、剣で攻める時の表情と叫びじゃない特訓をした場所だ。なついな。
「ほう、お主らがケインから聞いた…ああいや、すまん。あくまでロールプレイでな。その流れで進ませてくれ」
「き、聞いています!よろしくお願いします!」
「はー、本当に、雰囲気から何から…すげえな」
うふふふ、こっちもだよー。
「さて、まずはお主の『ファイアボール』を見せてくれぬか?その上で、アドバイスをしよう」
「え、魔法のレベルアップって、繰り返し使えばいいだけなんじゃ?」
「そこがFWOの面白いところでの。魔法現象には発動時の脳内イメージも反映させているのだよ。一度レベルアップしてしまえば関係なくなるがな」
「…!じゃあ、うまくイメージできれば、ショートカットできるってこと!?」
「そういうことだ。さあ、やってみせよ!」
ぶおっ
ココハ、コウイメージ、スルガヨイ
ごうっ
「あっ、レベルアップした!すげえ!」
「こんなにあっさり…いや、イメージを直接教えて貰わなければ無理か」
「それは、盾スキルも同じじゃな。どうだ、今度はお主が妾と…いや、日本刀との相性は良くないか」
ということは!
「呼んだ?」
「うわっ!?」
「あ、ああ、り、リーネ…さ、佐藤…!!」
佐藤春香は先程からおりますが。まあ、高校時代とはいえリアル造形だしな。
「じゃあ、早速、盾を構えて」
「あれ、挨拶抜きだ」
「くどいと、思われるかなって…」
「あああ、そんなことは!は、はい、構えました!」
「じゃあ、何度か攻撃する。盾装備の反応を、感じて」
きんっ
かんっ
…ウデノ、ウゴキヲ、コウシテ…
たんっ
かんっ、きんきんっ
「レベルアップ!レベルアップしたよ!」
「はー、こんな短時間に…」
「経験者から学ぶことは、多い。これからも、仲間を増やして」
「「はい!」」
よしよし。
では、いよいよエリアボス攻略!
◇
「はああっ!」
「くっ…!」
「『ファイアボール』!」
ぐぎゃー…!
あぁぁ………
【個別メッセージ:プレイヤー『タツヤ』率いるパーティが第1エリアのボスを討伐しました】
「やったー、倒せた!」
「本当に、俺達で…」
「強化したとはいえ、こんなにあっさりと…」
攻略に計画と準備は必須ということだね!
「『急がば回れ』ってことか…。仕事にも言えるのかもな」
「俺達の営業成績、横ばいだけど、ただ飛び込めばいいってわけじゃないんだよな」
あら、会社の同僚さんでしたか。お仕事もがんばれー。
「あの『佐藤春香』さんも、似たようなコメントしてたよな」
「当たり前だろ?同一人物だし」
「あ、そっか」
うおっ、『ソル・インダストリーズ』本社営業部の方々でしたか!世の中、狭いなあ。
「よし、討伐報酬でリンに何かおごるよ!」
「えー、いいよ。私にも報酬は入ってるんだし」
「遠慮するなよ!食べながらでも聞かせてくれないか、ケインと仲良くなったきっかけとかさ!」
ええっと…どうしよっかな。
「とにかく、街に戻ろうぜ!」
「おう!」
◇
FWO第1エリアの出入口。
「はい、どうぞ。…宿ですか?それなら…」
誠くん…セイくんだー!今が門番シフトなんだ!
「…門番、大変だよな。俺には無理かも」
「ああ。前は何の気なしに通っていたけど」
おや?どうたんだろ、しみじみと。
「どうしたの?」
「ああいや、こないだ、入口付近で違反プレイヤーにダミー入場をさせられそうになってなあ」
「一緒にエリアに入らないとPKするぞと脅されて…」
まだいるのか、そんなプレイヤー。通報機能や判定機能、もっと強化するよう提言しようかな?
「あの門番のところに駆け込んだら、かなり接戦になって」
「『門番とか存在価値がない』とか罵詈雑言浴びせてたなあ、あの違反プレイヤー」
「なのに、あの門番、最低限の実力行使で取り押さえて。運営によるログアウト後は、また元の場所に戻って」
「あまりの冷静さに、NPCかと思ったら、プレイヤーってんだからなあ」
きゃー!
カッコいい!カッコいいよ、誠くん!セイくん!キャーキャーキャー!
ああもう、FWO内でファンクラブ作っちゃおうかな!かな!
「でも、地味だよな」
「地味だな。あんなことがあっても、アバター名すら知らないし」
ぐっすん。
…よし!
「はい、次の人…。はい、『リン』さんですね。問題ありません。お通り下さい」
「あ、あの…!『セイ』さん、お仕事がんばって下さい!私、いつも見てますから!」
「あ、ありがとう!そう言ってくれると、僕も…ん?」
「…どうかしましたか?」
じっ
「(ひそひそ)もしかして…リーネ?」
「…え、ええ、えええええ!?」
「あ、やっぱり?」
な、なんで…!?
「なんで、わかったの!?」
「いや…なんとなく?」
「は、初めてだよ…気がついた、プレイヤー…」
「そ、そうなの?」
…はっ、もしかして、誠くんにも、何かの『現界』能力が身に付いたとか?FWO稼働初日から門番職やってるし。特に込み入った会話とかしてこなかったけど、簡単なやりとりは私ともそれこそ無数にしていたし!
そ、それとも…わ、私だから、私だけは、どんなアバターでも気づいてくれるとか!?とか!?やーん、愛の力ってやつ?キャー!!!
「あれ、おふたりは…あの後、大丈夫でしたか?」
「え、な、なんで!?このアバター、サブなのに!」
「あのプレイヤーにまた会ったらヤバいと思って、メインも始めたばかりだから切り替えたのに…え!?」
…
……
………
おい、中身アラフォー女。年甲斐もなく何が『やーん、愛の力』だよ。アンタはな、誠くんという、とってもとっても素晴らしい人を彼氏にできただけで、大満足なんでしょ?変な独占欲っぽい発想はやめようよ。いろんな人に分相応って言っておいて、なによそれ。…はうっ。
「あ、あれ、リー…リンさん?どうしましたか?」
「ううん、なんでもない…です。お仕事、がんばって下さい…」
「…はい!ありがとうございます!」
…うん、ちょっと元気が出た。
またねー、セイくん、誠くん。
「リンって、あの門番プレイヤーと知り合いなのか?」
「う、うん。セイさんだよ!」
「そっか。うん、覚えておこう。セイくんか」
「あれって『看破』スキルってやつかな?それとも、運営の情報が参照できるとか?」
「か、かもしれないねー」
私も似たような能力が発動できるけど…もしかして、『認識阻害』も効かないとか?あ、でも、リアルで初めて会った時に『佐藤春香ではない』ってのは効いてたよね。
そうすると…『本質を見抜く』ってやつかな?魔眼系というか。うわっ、なんかカッコいい!そ、それに、もしそうなら、私の『本質』を見抜いてくれたってことに!?キャー!…もういいよ、私。
「じゃあ、リンは何が食べたい?」
「え?えーと…あ、そうだ、クルーズ船エリア行かない?これからタコさん攻略だよ!」
「「ええっ!?」」
まだまだサポートするよ!
そして、お刺身食べよ!お寿司も待ってるから!




