EX-71 IF「時間が巻き戻ってしまった(春香高校生パターン)」
EX-66とほぼ同じ流れです。二番煎じ限りなく。
「佐藤春香としての高校の入学式か…。まあ、何十年も巻き戻るとかよりはマシか」
桜が咲き誇る季節の、高校の校門前。
他の学年の春かな?とも思ったのだが。
「入学おめでとう、春香!」
「おめでとう!」
ということだった。
「お父さん、お母さん、高校の入学式に保護者同伴なんて…」
「何を言う!周りを見ろ、ほとんどの親御さんが来てるじゃないか!」
「そうよ!それに、春香みたいなかわいい子が最初から一人なんて、心配だわ!」
わからん。
ああいや、過去?未来?とにかく元の時間軸の記憶を持つ身としては、かわいいがどうとかいうのはわかっている。ぬいぐるみか何かを抱くような…そういえば、肉体も小学生スタイルに戻っちまった。今度は、この時期から『現界』能力による無意識な成長停止を解除できるだろうから、卒業の頃にはきっとナイスなバディに…うふふふ。
「どうしたの、春香。顔が普通じゃないわよ?」
「ダメだぞ春香!彼氏なんてまだまだだぞ!!」
しまった、両親の認識阻害もこの頃からあったんだ。なんという。
◇
最初のHR終了。
さて、さっさと帰ろ。以前もそうだったよね。
「あたし、鈴木美里!これから3年間よろしくね!」
うぇ!?美里がこんなに早く声をかけてきた!な、なんで!?
「さ、佐藤、春香、です。よろしく、お願いします、鈴木さん」
「『美里』でいいよ!ああ、でも春香って本当にかわいいわね!」
いきなり下の名前で…は、美里のデフォか。
それにしても、いきなり『かわいい』とか…不安しかないんだけど。
「おい、鈴木とかいう女子!何いきなり佐藤さんに声をかけてんだよ!」
「そうよそうよ!せっかく『不可侵条約』を結んでたのに!」
あれ、この人達…。
「なに、あんた達?あたしが誰に声をかけようと関係ないでしょ?」
「そ、それは…」
「そう、だけど…」
「三橋くんに、七瀬さん?いきなり、どうしたの?」
うん、同中の生徒だよ。
「…ええっ!?さ、さ、佐藤さん、俺達のこと、知ってるの!?」
「同じ、中学、だよね?3組の、三橋完治くんに、5組の、七瀬桃香さん」
「俺達の、フルネームを…!?」
「う、うそ…」
え?だって、同じ学校だったし。
「ウチの学校、1学年に150人以上はいたよ!?」
「う、うん。だから、3学年で、450人、くらい?」
「全校生徒の名前を覚えてたの!?」
そういうことになるかなあ。まあ、私が1年だった時の3年生の名前は…数人はあいまいかも。あははは、私の記憶力もたいしたことないなあ。
「…そ、そんな…なんで…?」
「なんで…って、それ、は、その…」
「春香?」
「だって、何かの、用件で、声をかける時、名前知らないのは、失礼かなって。あと、万が一、声をかけられたり、した時とかも…」
だよね。リーネの時も、ずっとそうしていた。
まあ…。
「…声をかけられる、ことは、ほとんど、なかったけど。あはは…」
「「…」」
はあ…。今更ながらに、私の人付き合いの悪さが露呈してしまった。まあ、みんな私の責任だよね。『佐藤春香』のロールプレイってことで、積極的に声をかけなかったのは私なんだから。無意識だったとしても。高校では…どうしようかな。
「…あんた達。さっき、『不可侵条約』とかほざいてたわよね?」
「うっ…!」
「だ、だって、佐藤さんが、私達のことを、こんなに見てくれていたなんて、全然…」
「やかましい!」
「「ひぃ!?」」
え、どしたの、美里。そんなに怒るなんて、健人くんが浮気でもしたの?あれ、でも今の段階では、まだ姉弟として接してたよね?健人くんもまだ中学生だし。
「あんた達…この後、体育館に同中の生徒を集めて。先輩も含めて」
「え、でも」
「『佐藤春香のこと』で周知すればすぐでしょ!さっさと動く!」
「「了解!!」」
あれ、みんな、戦争VRのプレイヤーだったの?なんか、すごく似合ってたんだけど。
「春香、あたしに任せて。春香をずっとぼっちにさせた奴らを制裁するから」
「ぼ、ぼっち…」
ああ、はっきり言われた。そうだよ、私はぼっちだったよ…。
「でも!明日からはそんなことないわ!安心なさい!」
「え、で、でも…」
私が『佐藤春香』のロールプレイを続ける限り、無理じゃないかなあ。『リーネ・フェルンベル』の記憶を取り戻して、ようやく…ああ、それでもそんなに多くないか。
いいもん、この時間軸でもなんとか誠くんと出会って、それで…あれ?ひーふーみー…誠くん、まだ小学生真っ盛りだよ!しばらく待つしかないか…ううう。
「じゃあ、またね、春香!ほら、あんた達はちゃっちゃと歩く!」
「「了解です、姉御!」」
「姉御とか呼ぶな!」
え、『姉御』って、美里がFWOで呼ばれてた愛称だよね?えーと、ヘイト班だっけ?未だによくわからないけど、でも、FWOが稼働するのは再来年だよね?
頭の中にたくさんの『???』を浮かべつつ、高校生活初日が終わった。なんか、前と全然違うなあ。なんでこうなったんだろ?
◇
そういえば、この頃には既に美樹と知り合いだったよね。ただの小娘と電器店店員ってだけだけど…。ああ、こんなこと前の美樹に聞かれたら『小娘とか…ぷっ』とか言われそう。そうだよ、中身は相変わらずアラフォーだよ。ん?今の年齢なら、まだギリギリアラサーか?いやいや、中身って言ってんだろ、私。
「ちょっと、ちょっとだけ、会いにいこう…かな」
とぼとぼと、最寄りの電器店に向かう。
「いらっしゃいませ!…あら、お客様、高校生になったんですね!おめでとうございます!」
「あ、ありがとう、ございます、高橋さん」
「あら、私の名前、覚えてくれたの?嬉しいな、あなたみたいにかわいい子に、覚えてもらえるなんて!」
かわいい…『美樹』と呼べるまでの道のりは遠そうだ。ぐっすん。
「…ねえ、あなたのこと、『春香ちゃん』って、呼んでいい?」
「ふぇ!?あ、も、もちろん!もちろん、いいです!」
「そう!じゃあ、これからもよろしくね、春香ちゃん!あなたとVR技術のこと話すの、楽しいから!」
…うん、少しずつ、少しずつ、進めよう。だから、いつか『美樹』って呼ばせてね、高橋さん。
◇
翌日の学校。
「春香、おはよ!」
「み、美里…さん、おはよう」
「呼び捨てでいいわよ!ああでも、春香って本当に」
「ちょっと待ったあ!誰も、姉御に独占権を渡したわけじゃないぞ!」
「ねえねえ、佐藤さん、私は『春香ちゃん』って呼んでいい?」
「あ、抜けがけ禁止!」
「僕は『春香様』がいいなあ」
「旧ファンクラブ急進派は悔い改めろ!」
わいわいがやがや
「あ、あの、私のことは、好きに呼んで、いいから」
「春香…優しい」
「おい、急進派、放課後に追加の花壇水やりな」
「姉御、御慈悲の指示を!」
「お前らに慈悲はない」
「「「ごふっ」」」
えーと、なにがなんだか。
あ、そうだ。
「か、花壇の水やりは、私が、やりたいんだけど」
FWO稼働はまだまだ先だけど、今からケインのスローライフを再研究しておいてもいいよね。植物系のスキルが充実してなかったし。転移魔法陣がもてはやされるようになったのがまずかったなあ。
「よし、今日の放課後に全校集会ね。教職員も交えて、花壇水やりサポートチームを決めるわよ」
「でもそれだと、校長が特権を振りかざして、特別顧問とかぬかして関わろうとするんじゃ…」
「ちっ、あの古狸め、まさか中学との交流会で既に春香に目を付けていたとは…。じゃあ、生徒総会に切り替えて。職員室には近づかないようにね!」
「「「らじゃー!」」」
わけわかめ。
えっと、それで、私は水やりができるの?できないの?
◇
「春香!今日は、あたしとこの3人でお昼を食べるわよ!学食に行きましょ!」
「え、で、でも美里、私、お弁当…」
中学までは給食、大学では学食だったけど、高校ではずっとお弁当だったからね。学食は高くつくんだよ。ウチ、あんまりお金ないし。
「しまったあー!なぜかその可能性を考えていなかったあっ!ちょ、ちょっと待って、購買でパン買ってくるから!」
「おいおい姉御、あきらめが肝心じゃね?」
「ぐっ…!」
「次のローテーションを待ちましょ。ねえ、あ・ね・ご♪」
「あんたらあっ…!」
なんか、美里が血涙を流しているし。あ、そうか、美里と健人くんって、使途目的を明確にしないとお小遣いもらえないんだよね。あのお爺様なら、買い食いできないようにするはずだ。最低限のお金しかないのだろうな。
◇
「それでは、ここを…佐藤さん」
「はい。月の裏側にも資源が豊富であることから、暫定政府より権限が移譲され、各国関係企業が開発を進めています」
「パーフェクトです!すごいですね、佐藤さん!」
「春香、すっごーい。あたし、全然わかんなかった!」
おいおい、『ソル・インダストリーズ』御令嬢様。まあ、月の裏側は『アサバ産業』の方が頑張ってるか。いやでも、把握しとけよ、御令嬢様。
「おい、あの先公、春香さんに媚び売ってねえか?」
「他の教師共もだよ…。姉御よお、あいつら、一度シメた方が良くねえか?」
「ヘイト班としても見過ごせないけど、暴力に訴えると、後々ね…。任せて、大人相手の対抗手段はあるから。お爺様に…」
ん?お爺様?内緒なんじゃないの、美里?
◇
放課後。
「…♪」
よかったよかった、水やりできたよ。
あー、植物系っていうか、お花絡みが弱かったなあ、前の私。青年アバターとかって偏見持っちゃダメだよね。反省反省。
「でも、校庭に誰もいない…。校舎にも、人影が見えないような…」
ま、いっか。部活はやる予定ないし。存在しない園芸部の部員ってことにしておこう。酷いな、私。
◇
「さてと、FWOが稼働するまで、あらためて世界中のVRシステムをまわっておこうかな。『放浪者リーネ』とか呼ばれていたらしいから、それを踏まえて…」
…ん?
「そ、そうか!今のうちに渡辺 凛をとっ捕まえて、再教育しとけばいいんだ!まだ犯罪者扱いされていないけど、この頃既に暗躍していたよね。【運営No.00】の権限はないけど、今の私は、アバター同時接続や『現界』能力をフルスペックで発動できるから…!」
よーし、がんばっちゃうぞー!
◇
約2年半後。
FWOの正式稼働日。
「すごいな…。リアル時間で半日も経ってないのに、もうエリアボスを倒すなんて…」
「ねえ、あなたが『セイ』くん?」
「え、なんで僕のアバター名を!?FWOは今日始まったばかりなのに…」
ようやく、ようやく私は、彼に、伝えることができる。
「私は、リーネ。『リーネ・フェルンベル』」
「えっ、『フェルンベル』って…!それに、リーネってもしかして、さっきの全体メッセージの?」
「念のため言っておくけど、この名前、今の私の本名だよ。ゆっくり、教えてあげるよ。私が…」
私が、あなたと共に歩みたい、その理由を。




