EX-70 SS「文化祭、友達と行くことになったよ」
文化祭編EX-53〜56の別キャラ視点…の名を借りたホラー回です。いやこれ、ホラーでしょ。
「お姉ちゃんの学校の文化祭、友達と行くことになったよ」
「そうなの?入場券は大丈夫?」
「うん、その娘もお兄さんが同じ中学なんだって」
今週末にある、私の中学の文化祭。例年それなりに賑わいのある、御近所では有名な催しだ。有名な理由はいろいろあるが、最も特徴的なのは、出店だろう。校門から玄関までの屋台の数は割と充実している。
私のクラスは焼きそば屋だ。定番の人気メニューだから、重複を避けるためにクラス代表がクジに臨み、めでたく勝ち取って出店できることとなった。準備がいろいろと大変だったが、器材や食材の手配、当日のシフト決めを含め、かなり楽しかった。
「じゃあ、少し早いけど、これ、和美の分の入場券」
「ありがとう」
今年も、小6になる妹の和美が来てくれることになった。両親も来る予定だけど、午後かららしい。御近所の方にも入場券をお願いされたけど、家族の分でほとんど使い切ってしまった。まあ、ノルマが果たせて良かったよ。
◇
文化祭当日の朝。
「じゃあ、私は先に行くね」
「あ、お姉ちゃん。私、友達の他に、もうひとりの人と一緒に行くことになったから」
「お友達が増えたの?」
「ううん、友達のお兄さんのお友達…だったっけ?」
「え、もしかして、他の中学の子?」
「そうみたい。話しか聞いてないから、よくわからないけど」
ウチの男子の友達…まさか、ナンパ目的で別の中学の男子が無理矢理!?なら、気をつけないと。中学とはいえ、おかしなことを考える奴はいる。友達といっても、高校生や大学生、社会人の可能性だってある。
「わかった。もし、その人が変な人だったら、すぐ言ってね。焼きそばの屋台がウチのクラスだから!」
「う、うん。でも、大丈夫だと、思う。その友達、その人と行けることになって、すっごく喜んでたから」
「じゃあ、女子なのかしら?あ、ホントにもう出ないと!」
まあ、気をつけるだけ気をつけよう。
◇
「いらっしゃいませー!」
私は午前後半のシフトとなった。例年、午前よりも午後の方がお客さんが多いから、気楽に対応できるだろう。妹も、いつもその頃に来るからちょうどいい。
………
ん?校門の方が妙に静かになった。なんだろ?いくらお客さんが少ないといっても、ここまでざわめきが少なくなるなんて。
「なんか…変ね?誰か、有名人でも来たのかな」
「それなら、むしろ騒がしくならないか?」
「だよね。なんなんだろ?」
なんとも奇妙な雰囲気が近づいてくるような、そんな感じに囚われていた時、
「お姉ちゃーん!」
「いらっしゃい…ああ、和美、来たのね」
「うん、お友達と…」
以前、家に遊びに来ていた時に見かけた娘だ。愛ちゃんだっけ?その娘と…
…え?
「お友達のお兄さんのお友達、だっけ?」
な、なんで!?なんでこの人が、こんな中学の文化祭なんかに…!あの、あの…
…
……
………
誰、だっけ?
えーと…うん、初対面だ。少なくとも、知り合いではない。TVとかでも見たことないし、FWOとかの有名どころのVRゲームでも聞いたことがない。あれ?私、なんで『この人が』とか思っちゃったんだろ?
「あたしのお兄ちゃんの彼女です!」
ウチの学校の男子の…彼女!?
いやいやいや、あり得ない!天と地がひっくり返ったって、この人が…この人…この…。
「もー、リーネさん、何照れてるのー?」
…うわあ。
うわあ、うわあ、うわああああ!
嘘、ホントに照れてる!あの、あのリーネ…
「リーネ…?」
「あ、はい。えっと、父がドイツ系のハーフなもので。こんな見た目ですが」
…そう。そうなの。リーネ、リーネさんか。…それだけよね?はて、私、さっきから、なに変なことを…。
「そう…」
でも、すっごく綺麗な娘だ。整った顔立ち、凛とした佇まい。どこをどう見ても私達と同じくらい…いや、むしろ少し幼く見えるほどだけど、ここにいる誰よりも存在感がある。そしてなにより、とってもかわいくて…。
…はっ。なんか、見とれてしまった。いや、一瞬、呆けてしまったような。えーとえーと、愛ちゃんのお兄さんの彼女、って言ってたよね。
「彼氏さんの名前は?」
「かっ…えっと、2-Bの、須藤 誠くん、です」
ちょっと戸惑ったような、はにかむような様子を見せながら、そう、答える、リーネという娘。
信じられないものをまざまざと見せつけられている、そんな気持ちが続いている。こうして存在していることに驚き、それと同時に、儚げにも見える。誰の目から見ても美少女と思えるほどの娘だけど…。
「須藤くん…そんな男子、いたかしら。同じ学年なんだけど」
そして、その彼氏の名前を聞いても、その不可思議な感覚は消えなかった。むしろ、聞いてもわからない程の男子の彼女であることに、更なる困惑を覚えていた。
その娘、リーネさんが、ちょっと残念そうな顔をしながら、3人分の焼きそばを注文する。
「それじゃあ、やきそば3つ、下さい」
「はい、合計で600円です」
「千円札で、お釣りあるかな?」
「はい、400円のお返しと…」
そう言って、お釣りを渡そうとした時に、唐突に起きた、緊張感。
なぜ?私はなぜ、この娘にお釣りを渡すだけで、こんなに緊張するの!?まるで、部活で好成績をとった時に、校長先生に直接表彰された時の、その数倍、数十倍もの緊張感のような…!?
「…焼きそば3つです。ありがとうございました」
心の中ではガクガク震え、しかし、そんな気分になる理由はどこにもないと言い聞かせながら、お釣りと、焼きそばを、その娘に渡す。
「リーネさん、これ、200円」
「あ、あたしも」
「後でまとめて精算しましょ。とりあえずは私が出しておくから」
「あ、ありがとうございます」
「ありがとうございます!」
あ、リーネさん、精算しない気まんまんだ。愛ちゃんはそれがわかってるっぽい。和美は…気づいてないようだ。しかし、数百円とはいえ、気前がいいなー。これからの模擬店とかでも同じようにするのかな。
そんな様子を見て、先ほどのおかしな緊張感がなくなる。ほんわかな気持ちにさえなって眺めていると…
「ん、ちょっと焦げ臭い…」
「あたしの、水っぽい…」
「え、そう?私のは当たりかな」
…
……
………
はっ、焼きそばを食べているリーネさんに、うっとりしてしまった。『おいしい、おいしい』って幸せそうに食べている、彼女に。
なんか、どうでもよくなった。さっきまでの、驚きらや緊張感やらが。彼女を、リーネさんを、こうして見られただけで、すっごく満足した。満足してしまった。
◇
その後、屋台で一緒にいたクラスメートと話して、やはり私と同じような感覚に囚われていたことを聞いた。そして、リーネさんと直接話をした私は、大変羨ましがられた。まあ、いい気分ではある。あんな美少女と話をしたり、見つめたりすることができたのだから。
いやあ、私が女の子に、こんな気持ちにさせられるなんてねえ。そのケがあったのかな、私?でも、他の娘も似たような感想だったから、私がどうということではないのだろう。どこ中なのかなあ。もう一度、会ってみたいよ。
しかし、それだけに、気になる。
リーネさんの、彼氏。
彼氏だよ、彼氏!
あの不思議な感覚に関係なく、とても、とっても気になるのだ。あれだけの娘が惚れ込んでいるという、その『須藤 誠』って男子が。
「え、文化祭、一緒に回ってた!?」
「そうなのよ!2-Bの出展で合流して、喫茶店で一緒に食事して、他の模擬店を回って、そして…そして…」
「そして?」
「…」
「え、なに、どうしたのよ!?」
それまで話していたクラスメートが、突然、呆けるような体勢で固まった。しばらく戻りそうにない。なにごと!?
「ああそうか、お前は屋台と一階の出展クラスにしか顔出さなかったからな」
「模擬店で何かあったの?」
「あったってもんじゃなかったぜ!いやあ、あの…」
「あの?」
「…」
「ちょっと、アンタまで固まらないでよ!」
なに!?なにがあったのよー!?
◇
「でね、愛ちゃん、『世界のお金持ちランキングでリーネさんの名前見た』って。なんのことなのかな?」
「さあ…?」
でもまあ、焼きそばの100や200くらいはおごれそうだよね。なにしろ、あの…。
「…あの、なに?まだ私、何かおかしい?」
「あ、お姉ちゃん、そろそろTVで『佐藤春香情報』の番組が始まるよ?」
「なんですって!?私としたことが、一時でも春香様のことを忘れるなんて!しかも、ひさびさにFWOでのエリアボス討伐の話題じゃない!文化祭準備で中継見られなかったのよ!」
「お姉ちゃん、佐藤春香さんのこと、本当に好きなんだねえ…」




