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EX-69 AF「やだもう、何言ってるのよ、姉さんったら!」

冒頭はEX-63からの丸写し…引用です。

 いやいやしかし、やはり来てみて良かったよ。普通に『佐藤春香』として訪ねていたら、こういう生の声は聞けなかったと思う。

 鈴木姉弟もそうだけど、美樹や実くんにも『認識阻害』をかけて同じことしてもらってもいいかもしれない。鈴木のお爺様や火星のおじい様にも提案してみよう。でも渡辺 凛、アンタはまだダメだ。両親に会わせた時の苦悩を思い出す。ロクな発想しか出さない。



「というわけで、美里と健人くんにも『認識阻害』をかけるね」

「お、おう」

「健人、緊張する必要はないわよ。あたし達は家のこと隠していたし、それみたいなものよね」

「ああ、かもしれないね」


 あと、ふたりとも、私のように、よくある氏名だ。もちろん、『佐藤春香』の方ね。『フェルンベル』は、今はおじい様しか使っていない。私の表向きの名前を『リーネ・フェルンペル』に移行するまで、どれくらいかかるかなあ。


「で、ウチのグループ会社の工場見学か。中学の頃を思い出すぜ」

「あたし達の高校、そういうのなかったよね。修学旅行はあったけど」

「修学、旅行…」

「あっ」


 うん、自由時間がたっぷりあって良かったよね。自由時間…ずっと、ひとり…。


「り、リーネ、『リーネ』の時はどうだったの?」

「…」

「こ、この話はやめましょ!さ、さあ、工場にれっつらごー!」

「美里、それ、死語」

「話を反らしてあげたのに!」



 『ソル・インダストリーズ』の工場のひとつを訪問。宇宙船に組み込む反重力装置を生産しているところだ。見学の申込みは既にしてあるので、まずは責任者の工場長に御挨拶。


「ほう、学校とは関係なく、自主的に希望したのかね」

「はい!中学生の私一人では心許ないので、大学生の姉と高校生の兄に引率をお願いしました」

「「おい」」


 その方がわかりやすいじゃん。

 そういうわけで、私は『鈴木春香』を名乗っている。よろしくね、美里姉さん、健人兄さん。


「はうっ、新鮮な響き…じゃない!(ひそひそ)リーネ、あんたプライドってもんがないの!?」

「プライド?やだもう、何言ってるのよ、姉さんったら!」

「既にロールプレイ始まってんのか…」


 ロールプレイってほどのものじゃないかな。ここにいる『鈴木春香』は、工場の様子に関心のある普通の中学生。その中学生としてふさわしい言動をしてるだけだよ。


「それが、ロールプレイなんじゃない…」

「先輩の『ロールプレイ』の定義って、かなり世間ズレしてるよな。手段と目的が逆っぽいというか」

「それ言うなら『攻略』と『スローライフ』もよ。一度、関係者でよく話し合った方がいいかもね」


 何話してんのー。いくよー。



「…ということは、反重力装置がなかった頃と同じように作られているんですね」

「完全に同じというわけではないがね。ただ、反重力装置があって当然のように作るのは危険ということだな」

「万が一の装置の故障を考えないといけませんものね。えっと…」


 うん、この工場長さんは、生産している製品のことをよく理解している。最新技術だから細かいことまでは難しくても、原理的なところの本質を抑えるのは重要だ。自分なりに学んでいるのだろう。


「話していることはなんとなくわかるけど…やっぱりムズいな」

「でも、普段のリーネように、小難しい用語を使いまくったりしてないよね」

「これくらいは関係者として理解しろってことか…」


 そうだよー。わかってきたじゃない。



「じゃあ、次は本社営業部の見学ね。連絡入れたらおっけーが出たから」

「すげえな、ウチの会社。あの工場もそうだけど、普通、中学生がいきなり見学申し込んですぐ受けるか?」

「あたし達だって、しょせんはタダの高校生と大学生なのに…」


 まあ、対応人員が厳しいらしくて、ごめんなさいされたところもあったけどね。


「よし、断ったところはお爺様にチクろう」

「健人くん。もし本当に人員が厳しいなら、それは会社経営の問題だよ?現場で勝手に人増やしたり仕事減らしたりできるわけじゃないんだから」

「…はい」

「…いつものパターンだ」


 まあ、現場判断で対応できる職場もあるにはある。ケースバイケースではあるだろう。


「なあ、先輩?『認識阻害』を使うのって、相手の本性を見るためだけでなく、俺達自身のためでもあるのか?『普通』の視点で物事を見ようっていう」

「…健人くん、100点満点!」

「なるほどねえ…」


 私だって、旅行最終日に素性を明かした後は、世間一般で言われている『佐藤春香』としての対応に追われるしかなかったし、そういう立場で臨むしかなかった。それは、やっぱり残念なのだ。最初から台本があるような、そんなやりとりだけになってしまうから。


「でも、なにが普通かは人それぞれだからね。そこは気をつけないと」

「リーネが言うと説得力あるわね。あれ?むしろ説得力なし?」

「俺、後者に一票」


 健人くん、30点減点。



「なあ、あれって親父じゃね?」

「あ、ホントだ。…ってことは」

「『認識阻害』は効かないねー」


 認識阻害のことを知っている人間には認識阻害が効かないのだ。


「…ん?美里に、健人か?」

「あ、ああ」

「こんにちは、お父さん」


 という感じだ。


「しゃ、社長の娘さんに息子さんですか!」

「もしかして、見学の付き添いというのは、おふたりですか!?」

「どうやら、そうみたいだな。ふたりとも、この娘を紹介してくれないか?」


 …

 ……

 ………


 ぽんっ


「初めまして!美里さんと健人さんに紹介していただきました、鈴木(・・)春香といいます。今日はよろしくお願いします!」

「ああ、ウチは見学はいつでも歓迎だよ。なんだふたりとも、こんな利発そうな娘と知り合いだったのか」

「「…?」」


 ちょいちょい


「(ひそひそ)私、ふたりのお父さんとは、初対面」

「「…あっ!」」


 そうだったのだ。ちなみに、母親にも会っていない。鈴木邸にいたことはいたのだろうけど、そういえば、最初からお爺様にばかり面会していた。あの家、広すぎるんだもん。遠目には見られていたのかもだけど。


「まあいい。せっかくだ、ふたりも一緒に付いてきなさい。『彼女』の特訓の成果を見せてもらうぞ?」

「げっ」

「立場が逆転した…」


 がんばれー。



「ふむ、なかなかやるじゃないか。相当、鍛えられたようだな」

「ああ。ぶっちゃけ、お爺様の数倍はキツいからな、『彼女』は」

「そうね、何回血反吐を吐いたかわからないわ、『彼女』に」


 をい。


 まあでも、割と良かったけどね。経済戦略まわりとかの説明は特に。95点?マイナス5点は、キツいがどうとか血反吐がどうとかの分だ。


「そうか…。一度ちゃんと会いたいと思っているのだが、なかなかタイミングが合わなくてな」

「いやあ、今回はバッチリだったよ!」

「そうね、ぴったり合ったわね!」


 えっ、もしかして…。


「ほらほら、春香(・・)、解除して!」

「そうだそうだ、このまま撤退はなしだぞ!」

「むう…」

「?」


 パチン


「なにが…っ!ああ…なるほど、なるほどな、そうか、そうだったか!はっはっは!」

「申し訳ありません、見学の間、ずっと嘘を」

「いやいや、むしろ感謝するよ!うん、ふたりのことはこれからも頼むよ!」

「げっ」

「やぶへびだった…」


 結果おーらい、かな?


「ところで春香さん(・・・・)、もう少し、我が社を回ってくれないだろうか?そして、あらためて社員全員に…」

「鈴木社長、もしかして、『御老公』がお好きですか?」

「ん?まあ、そうだな。君もかい?」

「…見ている分には」

「そうかそうか!」


 うーん、これは鈴木社長にも私の素性を伝えた方が良さそうだ。


「お母さんには、絶対秘匿ね」

「ああ、まさしく四面楚歌になっちまう」


 手遅れに一票。

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