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EX-66 IF「時間が巻き戻ってしまった」

展開とオチのせいでIFなのですが、実質的には過去回ですね。リーネとしてどれだけモテてたかっていう。その部分だけはある意味ギャグですが(謎)。

「しかも、『入れ替わる』前の中学生の頃に…」


 神社の伝説のことを、重力理論の時空関係と併せてあらためて考察したら、うっかり『現界』してこのザマである。誠くんとのことを考えていたのも影響したのかな。ううう、もう誠くんに会えないよ。生まれてさえいないし。ぐっすん。


 『渡辺家』の自室で目が覚めた私は、枕元の電波時計で日時を確認する。中学生の頃なのは部屋にかかっていた制服でわかっていたけど…ああ、1年生か。ってことは、実くんにも告白されてない頃だな。


「あ、今日、平日だ。学校行かないと。身だしなみ整えて、制服着て…」


 さっさっ

 ふわっ

 んしょっと


 …

 ……

 ………


「いやあああああ!こんなの恥ずかしすぎるー!つーか、やっぱり犯罪ちっくだー!」


 制服セーラーを着た自分を鏡で見た私は、取りも直さず絶叫した。

 なに、このばいんばいんな胸。身長とかも中学生としては成長し過ぎているから、まるっきりアレな映像ソフトで出てくるあーんな女優やこーんな女優のそれである。いや、たまたまパッケージの写真とか見てしまっただけだよ!ホントだよ!たぶん。

 トドメは、顔は年相応に童顔であること。なんだよ、この世に生まれてくる前の私は、こんなん『現界』させたかったんかい。まだ仮説の段階だけど!


「前の私は、なぜこれで平気だったの…。野郎共の視線がどうにかなるに決まってんじゃない。鈍感にも程があるよ…」


 まあ、大学時代や『佐藤春香』の頃の記憶を踏まえた感想だ、耳年増スキル絶好調という話もある。


「と、とにかく、朝食食べて学校行こう…」


 お手伝いさんが家に来るのは昼間だ。朝食はひとりで作って、ひとりで食べる。


「お父さん、お母さん…」


 真っ先に『佐藤春香』の両親を思い出してしまったのは許してほしい。もちろん、もともとの両親も次に思い出したよ。この時期は…もう、二人共別々の仕事でヨーロッパとアラビア半島だったっけ。

 いずれにしても、寂しい…ぐっすん。



「行ってきまーす…」


 閉めた扉に鍵をかけて、歩き出す。

 あ、隣の神社にお参りしてこっと。


「神様…もし私が神様とやらだったら…あああ、別にバカにしているわけじゃなくてですね…」


 グダグダ感満載のお参りをした後、あらためて学校に向けて歩き出す。


 とぼとぼ。


 周りには同じ中学の制服を着た生徒が結構歩いている。でも、やたら距離を置かれている、気がする。自意識過剰ってことにしておこう。決して、こんな場違いな容姿から避けられているなんてことは…ぐっすん。

 なんというか、ちんちくりんの『佐藤春香』の頃の方がまだ気楽だったなあ。コンプレックスはあったけど、どうせ子供に見られるだけと割り切れた。こっちは、そう簡単に割り切れないよ…。しかし極端だな、どっちの私の容姿も。普通がいいんだよ、普通が。



 徒歩十数分で学校に到着。

 同じような雰囲気に包まれながら校門を抜け、下駄箱のある生徒入口で上履きに履き替え、教室に向かう。歩いている間、通学カバンをずっと両手で抱えていた。胸の前に。ちょっと苦しい…。


「お、おはよう、ございます…」


 教室に入り、誰とはなしにあいさつをする。あいさつは基本だ。たとえ友達とかじゃなくても。友達じゃなくても…ぐっすん。


「お、おはよう、リーネさん」

「リーネさん、おはよう」

「おはようございますですわ!」

「おはよう!」


 うん、あの頃と同じ反応だ。『フェルンベル』は日本語じゃ長いってんで、普段はファーストネームで呼ばれていたんだよね。でも、原語の『Fernbell』は2音節で長いとは感じない。それが日本語では5拍にも…いや、研究脳を今発揮してどうする。


 友達でもない私にあいさつを返してくれたクラスメート達に少し微笑んで、自分の席に向かう。…うん、覚えてる覚えてる。


「(ひそひそ)きゃー!リーネ様が笑ってくれた!この私に、この私に!」

「(ひそひそ)なに言ってんの、あたしに微笑んだのよ!」

「(ひそひそ)あら、このわたくしに決まってますわよ!」

「(ひそひそ)へっ、勘違い共が何か言ってるぜ。俺に決まってんだろ!」

「「「「(ひそひそ)勘違いはアンタよ!身の程を知れ!」」」」


 うーん、この周囲でひそひそ話をしているのも変わらずだなあ。



 朝のHRが滞りなく終了。


「リーネさm…ごめんなさい、フェルンベルさん、今日のアンケート回収お願いね」

「先生、『リーネ』でいいですよ。呼びにくいでしょう?」

「そ、それじゃリーネさm…さん、放課後のHRまでにお願いね」

「はい!」


 なんかよくわからないけど、私はよくクラスの提出物回収を担任の先生に頼まれていた。クラス委員がいたんだけど、私の方がいいとかなんとか。クラス委員の娘も喜んでいたし、別にいいんだけどね。この程度でお役に立って喜んでもらえるなら、私も嬉しい。


「(ひそひそ)あのクソ担任、リーネ様を雑用係にするなど…死すべし」

「(ひそひそ)しかたないでしょ。あたし達だってリーネ様にお願いされるからこそ、がんばって書類書くんじゃない」

「(ひそひそ)こないだうっかり忘れた時の、リーネ様のあの悲しそうな顔…俺はもう過ちを犯さない」

「(ひそひそ)そーね、死ぬのはアンタの方よ。つーか死ね」

「(ひそひそ)わたくし、もう書き上げましたわ!リーネ様に一番に提出できる栄誉はわたくしのものですわ!」

「(ひそひそ)あ、ずりー!」


 クラスの中でも人気者のグループのひとりが、私のところにやってくる。そういえば、前は気にしなかったけど、このグループってスクールカースト頂点のリア充集団ってやつだよね。高校の頃の美里とその友達とかと同じで。私は、今も昔もカースト最下位のぼっち。いいけどね、その方が気楽で。これで、あの変な視線さえなければ…無理か。私の方に問題があるんだよね。反省反省。


「リーネさm…さん、アンケート書きましたわ!」

「ありがとう、早速出してくれて。助かるよ」

「…!な、なんでもないですわ、これくらい!」


 ああ、この人、浅羽瑞乃(あさばみずの)嬢に似てるなあ。確か、やっぱりどこかのお嬢様だったよね。…え、もしかして、瑞乃嬢のお母さんとか!?今から約20年後の15歳、この人が20歳頃に瑞乃嬢を産むとしたら…あり得る…。


「どうかなさいましたの?」

「う、ううん、なんでもないよ。本当にありがとう」

「そ、それじゃあ、わたくしはこれで!」


 たったったっとリア充グループに戻っていくお嬢様。良い子だよね、この娘も。


「(ひそひそ)ちょっとちょっとプチお嬢様、リーネ様と何話し込んでたのよ!?」

「(ひそひそ)それはもう、優雅な会話でしたわ!朝からラッキーでしたの!」

「(ひそひそ)くそう、間に合わねえ!リーネ様!リーネさまー!」

「「「「(ひそひそ)うっさい!リーネ様の御名をみだりに唱えるな!」」」」



 英語の授業。

 あー、簡単過ぎ…。当時も既に両親の仕事の都合で、ドイツ語と英語とアラビア語とあの国の言葉と…まあ、関係する言葉を小学生までに学んでいたけど、未来の…未来なのかな?その記憶がある私にとっては更にね。んー、伊藤先生は大学の先生になったばかりの頃かな?


「では、この英文を…リーネさm…さん、和訳して下さい」

「はい。えっと…『はい、なので私も昼食に連れていって下さい』」

「正解です!直訳的でもなく自然な表現でいいですね!」

「は、はい、ありがとうございます」


 とはいえまあ、褒められれば嬉しいものだ。


「(ひそひそ)え、これって『いいえ、私も昼食に連れていって』じゃダメなのか?」

「(ひそひそ)バカね、否定の問いかけなんだから日本語と逆なのよ」

「(ひそひそ)わからん…」

「(ひそひそ)リーネ様の爪の垢を煎じて飲みなさい。来世では賢くなりますわよ」

「(ひそひそ)今世は絶望的ってことかよ!?」


 ん?来世?今世?ま、まさか、私のことが…そんなわけないか。でも、じゃあなんだろ?


「そこ、静かにしなさい!リーネさm…さんが困っていますよ!」

「「「「すみません!」」」」


 いや、私のことはどうでもいいから。もう答えたんだし。



 ぴっ


 たったったっ…

 ひょいっ

 すとん


「はい、リーネさm…さん、オールクリアです!」


 ぱちぱちぱち


 ふー、棒高跳びもひさしぶりだ。まあ、『篠原あかね』として跳びまくってたからかな、魂が覚えているみたい。難なくクリアだ。


「こおーら男子!揃って拝むな!」


 うぇ!?も、もしかして、これって!む、胸を、私の、胸をぉ!?

 当時の私はよくわからなかったけど、FWOで初期のリーネアバター使ってた時の、パーティの野郎共と同じ反応だよね。で、でも、VRゲームじゃなくて現実だと…ふ、ふえええ。なんか、なんか、嫌あ…。

 グラウンドなのに、その場でぺたんと座り込み、両手で体全体を抱え込む、私。あ、涙が出てきた。今度は自分でもちゃんとわかったよ。わかって…ふ、ふえええええん。


「り、リーネさん!?大丈夫!?」

「…男子共、今日限りの命と思え」

「「「「「すんませんでした!」」」」」


 あ、ああいやその、ひっく、私がこんな胸してるから悪いんだし…ぐすん、年甲斐もなく、ウブな反応しちゃっただけ、だから…あれ、でも今の私、中1だよね。誕生日も来てないから…でもでも、中身は…お、おかしいな、今と昔の私が、ごっちゃになってるのかな…ふ、ふえええ…。


「よし、今死ね。この学校は今日から女子校だ」

「「「「「御慈悲を、(親衛隊)隊長!」」」」」


 た、隊長?今は私、戦争VRやってないよ?当たり前だよ?…ぐすん。


 で、でも、うん。もし、もしも元の時間軸に戻れたら、『佐藤春香』の体は現状維持としよう。ま、誠くんだって、納得してくれるよね。あ、あれ?なに私、色ボケなこと思い巡らしてるんだろ?ああそうか、元に戻ったら、真っ先に誠くんに会って、それで、『いつものリーネだよ』って言ってもらって、それでそれで…でも、でもこの現実は…う、うわあああああん!


「望み通り、慈悲をやろう。自害を許可する」

「「「「「丸刈りは勘弁して下さい!」」」」」



 ぐすん、ぐすん…。


「り、リーネさん、リーネさん!もう、泣かないで!」

「きょ、今日の給食で、私の卵焼きあげるから!」

「リーネさんの好きなシチューもあげるよ!」

「あ、ありがとう…。こ、こんな、こんな私のために…」


 ああもう、私、完全に泣き虫になっちゃったよ。中学生だって、ここまでぐずぐず泣かないよね。

 でも、クラスのみんな、優しいなあ。当時はこんな反応なんてしなかったから、こんな風にしてくれるなんて、思いもしなかった。…やっぱり、そうだったんだ。何が、縁がなかった、だ。何が、避けられていた、だ。他の人に関わろうとしなかった、私のせいだったんだ。全部、私の責任だったんだ。

 誠くんや美樹、美里や健人くんに会えなくなったのは悲しいけど、もしかすると、私にやり直せってことなのかもしれない。もし、もし運命の神様がいて、その神様が何かしたのだとしたら。


「はい、国語の授業を始めます。…あら?男子はみんな、椅子の上で正座?」

「こいつら、リーネさんを泣かしました!体育でやらしい目付きをして!」

「なんですって!?お昼に緊急職員会議を開きます!放課後は覚悟しなさい!」

「「「「「思し召しのままに!」」」」」


 ん?職員会議?なに?なんか不正行為でもあったの?ずずー。



 そんなこんなで、放課後。給食でシチューが山盛りになったり、理科の時間にうっかり何か合成しちゃったりしたけど、なんとか無事に?終了。うう、明日以降もうまくやれるかなあ…。


「り、リーネさん、一緒に、か、帰らない?」

「ふぇ!?え、え、え…い、いい、けど…」


 う、うわ、うわああ!一緒に帰ろうって、一緒に帰ろうって誘われた!こんなの、美里に電器店に誘われた時以来だよ!あ、や、『以来』っていうのは変かな?でもでも、当時のリーネとしてはこんな風に誘われなかったし、佐藤春香の時だって、結局あの後、美里の連絡漏れで…連絡、漏れで…。


「…!ご、ごめんなさい!な、なんか今日のリーネさん、このまま帰したくないなあって、思って、それで…。や、やだあたし、何言ってるんだろ!だ、だから、嫌なら…」

「う、ううん、嫌じゃない、嫌じゃないよ!一緒に帰りましょ!」


 いやっふー、友達との下校イベントだー!嬉しいなあ。嬉しいよう。


「あ、隊…いや、抜け駆けなんてずるい!私も私も!」

「あら、もちろんわたくしも一緒に帰りますわ!」

「ちょっと、プチお嬢様はお迎えの車があるんじゃ」

「無視ですわ!」

「あ、俺も俺も」

「あんたら男子は放課後草むしりの刑でしょうが!」


 よ、よくわからないけど、なんかすごい人数になったような。この人数で帰り道歩いたら他の人に迷惑だよね?


 ピロロロロロ


「あ、ご、ごめんなさい!携帯端末に通話が…。はい、リーネです。…はい…はい…え、それは大変…はい、私は構いません…はい、では、明日よろしくお願いします…いえ、御家庭を優先して下さい。私は明日も大丈夫ですから…はい、はい。それでは、失礼します」


 ピッ


「…ごめんなさい!今日、来ていただいているお手伝いさんのお子さんが、急に病気になっちゃったみたいで。それで、今日の夕食、自分で作ることになったから…スーパーの買い出しも必要で…だ、だから、その…」

「そ、そう、それなら、しかたないかな」

「り、リーネさんが謝ることないよ!」

「そうそう!明日一緒に帰りましょ!ね!」


 残念だよ。残念だけど…残念だ。


「本当に、ごめんなさい。そ、それじゃあ…」


 千載一遇のチャンスを逃した私は、とぼとぼと帰っていく。明日、本当に一緒に下校してくれるといいなあ…。


「ねえ、プチお嬢様、あんたんとこのメイドとか派遣できないの?」

「わたくし、携帯端末は持ってませんの」

「んだよ、使えねえな、プチお嬢様」

「アンタはさっさと草むしり!」



 スーパーで、クリームシチューの食材を買い込み、帰路につく。今日はベーコンが特売だった。美味しいシチューが作れそうだ。


「Tfjasthushf lkojtsas, lkisjthoofls Khaj'apc…」


 確かこの頃は、まだこの歌を教えてもらってなかったはずだ。おじい様の、妹さんに。クリームシチューは、小学生の頃に教えてもらっている。

 ああ、そうか。再来年あたりに、おじい様が火星公社に赴任するんだ。その直前、来年の初め頃から、おじい様が『渡辺家』で過ごすんだ。その途中でまた一緒にあの国に行って、民謡を教えてくれる。だから―――


「…その歌は、初めて聞いたな。どこの国の言葉なんだ?」


 後ろからかけられたその声に、はっと振り向く。


「実、くん…?」

「リーネ、今日は自炊か?」


 あらー、若い頃の実くんだ!いやいや、懐かしい。まあ、最近アルバムデータで見てはいるんだけど。


「うん。お手伝いさんが急用で帰ったから。あと、これは親戚の人に教えてもらった歌だよ」

「そうか。なら、俺は知らないか」


 うん。今の私も、知らないはずなんだけどね。


 …そうだ。


「…家に、寄ってく?二人分くらいの夕食なら作れるよ」

「クリームシチューか?」

「そ。どうする?」

「そうだな…そうするよ。今日は学食がやってなくて、昼抜きなんだ」

「え?もしかして、実くんの家でも食べるつもりなの?」

「ダメか?」

「ダメじゃないよ。すごいなあって、思っただけ」


 クスクスと笑う、私。

 そういえば、美樹の手料理もたくさん食べてたよね。でも、いかにも幸せ太りって感じはしなかった。今も昔も『大食い』だったんだなあ。


「…!あ、そ、それ、俺が持つよ」

「ん、ありがと」


 おや?こんな反応の実くんは初めてかも。なんだなんだ、どうした。

 …あ、そういえば私、笑っていた。誠くんや、未来?の実くんにしたような。…え、もしかして、『素敵な笑顔』って思ってくれた!?そ、そうなら、嬉しいけど…でも、それならちゃんと口にしてほしいかな。うん。


 …口にしてほしい、か。

 そうだよね、私もちゃんと口にしないと。


「実くんは…モテるよね。今日はなんでひとりなの?」

「ぶほっ。…なんだ、どうしたんだ、いきなり」

「だって、いっつもキレイな女の子達と一緒にいるじゃない」

「いや、いつもというわけでは…。まあ、さっきまでカラオケだったが」

「ほら、やっぱり」


 また、クスクスと笑う私。うん、別に、実くんが女の子達に囲まれていることが嫌なわけじゃない。カッコいいってことだからね!ただ、私もその中のひとり、ってのにはなりたくないなあ。ハーレム要員は願い下げだ。独占欲がどうとか以前の話だよ。


「今日は、よく話すんだな」

「…ちょっと、学校で楽しいことがあってね。おかしい?」

「いや。その方が…素敵だよ」


 …!


「え、あ、や、その、そんな、そんなこと…!?」

「…なんだ、照れてるのか?」

「て、照れるよ!そんなこと、急に言われたら!」

「そうか…。リーネは、そうなのか…」


 何かを、言い淀んでいるような、そんな、実くん。

 …もしかして、回避しちゃったのかな。『見た目そういう雰囲気』って、セリフ。

 実くん、私は『高嶺の花』なんかじゃないよ。誰にでも手が届く、ううん、私が、誰とでも仲良くしたがっている、ただのお子様だよ。もちろん、誰とでもほいほいお付き合いするような女じゃないけど。


「なあ、リーネ。もし、良かったらなんだけど…」

「何?」

「その、俺と…」


 …え!?今、ここで、この時間軸で、あの告白なの!?

 え、え、え、どうしようどうしよう!?えっとえっと、うん、『しばらく考えさせて』にしよう!キープってわけじゃないけど、ないけど!


「…俺の大学の文化祭に、参加してくれないか?」

「…へ?」

「頼む!チケットがたくさん余ってるんだ!リーネ、そういうのあんまり好きじゃないと思っていたから…」


 …

 ……

 ………


 orz


「え、ど、どうした、リーネ!?嫌なら、別に…」

「…う、ううん、嫌じゃ、ないよ。行くよ。いつ?」

「次の次の週末だが…」

「ああ、うん、空いてる。だから、行くよ」


 いやあ…自意識過剰まっしぐら、だったなあ。いやいやでもでも、前の記憶持ってたらしかたないでしょ、これは。


「そうか…。じゃ、じゃあ、これ」

「ん。チケットまだあるよね?私のクラスメートにも配るよ」

「い、いや!一枚!一枚しか残ってなかった!だからリーネ、当日はふたりで行こう!」


 ふたりで…。

 …ああっ!


「み、実くん、もしかして、これ…で、デートの、お誘い、なの?」

「…いや、その…」

「…違うの?」


 …


「…そ、そうだよ!デートに、誘ってるんだよ!」

「そっか…。嬉しい、かな」

「…!そ、そうか!そうか…!」


 んふふふ。

 ごめんね、美樹。実くん、私が取っちゃうよ。でも、しかたないよね。変わっちゃったんだもん、過去が。

 ごめんね、誠くん。出会えなくなっちゃって。でも、この時間軸でも、私は私だよ。それを教えてくれた誠くんには、感謝している。


「ねえ、実くん。次の週末は空いてるの?」

「あ、ああ」

「じゃあ、お買い物に付き合ってくれる?新しい服がほしいの。デートに着ていく服だよ!」

「…もちろん!俺が車を出すよ!」

「ありがと。よろしくね!」


 だから、私は幸せになるよ。昔の、ううん、別の時間軸の未来の、実くんに言われたように。できれば、今の実くんと。そして、クラスメートを含む、みんなと―――

まさしく蛇足のおまけ。


リーネ「実くん、危ない!車が突っ込んでくる!」

田中実「う、うわああああ!」

リーネ「自我を(略)思い描く!【連鎖発動(イニシエート)】プロテクトシールド!」

田中実「た、助かった…。でも、リーネ、君は一体…」

 〜数年後〜

大観衆「リーネ陛下、ばんざーい!」

大観衆「地球帝国初代皇帝、ばんざーい!」

田中実「リーネ、俺はどこまでもついていくよ」

リーネ「またこのパターンかい」

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