EX-7 AF「でも、このダンジョンの地図は僕達が作って…」(前編)
話の流れは先の前後編と同じですが、VRMMOあり〼。
『で、でも、このダンジョンの地図は僕達が作って…』
『情報を独占する気かよ!俺達が知らねえなんておかしいだろ!』
『そうよ。この辺で活動してるなら知ってるでしょ?あたしらパーティが何者か』
『泣く子も黙る「暗黒龍虎」様がリーダーのパーティだ!さっさと地図データよこせよ!』
うん、あまりにダサいアバター名に失神しかけたよ。
ここは、魚屋本店。ミリーとビリーくんとで、大型スクリーンで残念な3人組パーティの残念な言動をリアルタイム視聴している。第43エリアのダンジョン前での光景だ。
ちなみに、ミッキー高橋さんや『上司』な田中さんはおらず、別のプレイヤーが代行して料理している。あのふたりは新婚旅行中。ようやくだよ、ホント。披露宴会場の全機器を同時制御した甲斐があったってもんだ。
それはともかく、こういうパーティ、FWOにはいないと思ってたんだけどなー。まあ、参加プレイヤー数が膨大になれば、いろんなのが入ってくるか。
「プレイヤー数というより、エリア数じゃない?このダンジョンのエリア、第1エリア付近でも最前線でもないし」
「ああ、エリア単位で有名になって、それで幅を利かせてる奴らな」
「全体メッセージは、リーネパーティがほぼ独占してるしね。リーネやケインに何かする輩は、FWO稼働後数週間で駆逐されたし」
ああ、なつかしいね。両親がFWOを始めた頃だ。『レッドドラゴン』の事件以降、現実世界を含めて変なのはいなくなったと思っていたのだけど。
でも、ただでさえ多かったエリアが更に増え、オーナー制度によって多種多様なエリアが増えてくると、FWOの中に別のVRゲームがいくつも形成されたかのような様相となった。こうなると、あちこちでスローライフするケインでも情報をカバーしきれない。
「オーナーによって独自の情報交換の場まで作れるようになってから、こういうのが増えてきたみたいだな」
「公式掲示板でもちらほら話題になっているけど、ここのような中堅エリアは独立性が高いからね」
「閉鎖的になっちまって、逆に有名エリアの情報も入りにくくなるよな。先輩のことは当然知っていても、アバター同時接続してこうして見ているなんて、夢にも思っちゃいないだろうさ」
ふたりとも、そういう分析能力をエリア運営や『ソル・インダストリーズ』のために活かせないの?まあ、私の次に古参ってこともあって、FWOの事情通となっているだけかもだけど。
しかしそうか、私が掲示板をほとんど見てなかったというのもあるのか。どうすればいいかなあ。
って、いやいや待て。私はFWOではあくまで一介のプレイヤーだ。今でも【運営No.00】の権限があるといっても、あくまで緊急対策用だ。不正侵入とかならともかく、プレイヤー同士のもめごとにその権限を発揮するわけにはいかない。
「でも、その権限でこうやって見てるんだよね?」
「汎用アバターの目を通したものを、表示しているだけ」
「春香がアバターいくつも作れるのは【運営No.00】の権限じゃない」
それはそうだけど。
「プレイヤーのひとりから『仲間を助けて』って相談されたから…」
「違うでしょ。『助けて下さい、春香様!』って直訴されたんでしょ」
「私は御老公じゃない」
運営でもないのにそんなこと言われるあたりがそっくりだ。
「ゴロウコウ?なにそれ?」
「えっ…」
いや、あれって確か、私が小さい頃まで特番とかが続いていたはず…うあああ、『前世』の話だああああ!そもそも私、今はTVほとんど観てないじゃん!
「と、とにかく、印籠…運営権限を振りかざしてやめさせても、また似たようなパーティが出てくるかもしれない。それに、こういう問題の調整は、エリアオーナーに任せるべき」
「でも、今はエリアオーナーだってプレイヤー同士のもめごとに介入する権限がないんでしょ?」
まあ、だから、
『だから今回は、私がなんとかするよ!』
今、映像を送ってきているアバター、『リン』の出番だ。いやあ、偽名にピッタリだね、この名前!
◇
「おい、いつまでも渡さねえと…わかってるよな?」
「俺たちゃ、ここのエリアオーナーにも顔が効くぜ?ダンジョンに不正アクセスしたって通報するかもよ?」
「そうね。リーダーのあたしがちょっとメッセージ送れば、すぐ飛んでくるわよ。この場でスクショ撮られて、永久追放って流れね」
あんたが『暗黒龍虎』かよ!てっきり、渡辺…いや、今はそんなことどうでもいい。
「い、イヤだ!このデータは、斥候のあいつが何度もデスペナくらってまで手に入れたんだ。お前らみたいなのに簡単に渡せるか!」
うむ、その心意気やよし!
って、偉そうだな、私。鈴木のお爺様なら似合いそうだけど。
「ねえ、スクリーンショット撮られただけでなんで永久追放なの?」
「…何?あなた」
「私はリン!ねえ、なんで?」
「なんでって…証拠を…」
「証拠?なんの証拠?ねえねえ」
嘘八百だよね。オーナーに顔が効くだの追放だの。
意図はともかく、好奇心いっぱいに話しかけて、あれこれ世話を焼くのが『リン』のロールプレイだ。誰かさんもこれくらい素直な感じだったら…いや、あれで素直なのか?
「うるさいわね、邪魔しないでよ!」
ひょいっと。
無造作になぎ払われた剣なんかに切られたりしないよ。ていうか、それ当たってたらPKになるよね?
「くっ…!ちょこまかと!」
「リーダー、こんな初心者プレイヤーは俺が…何!?」
ナイフを2本、盾使いの首スレスレに突きつける。
「油断大敵だよ!レベル1のナイフ使いでも、これくらいのことはできるよ!」
これは、本当だ。まあ、多少はプレイヤースキルが入っているけど。多少は。
「こんな人達放っておいて、行こ!」
「え、あ、ちょっ!」
必死に地図データを守っていた重騎士プレイヤーを引っ張って、私はダンジョンの中に入っていく。
◇
「ねえ、なんであんな奴らさっさとやっつけなかったの?『この世の全ての魔を』って」
「ケインとしても瞬殺できそうだよな、『安寧なるスローライフを』って」
うわあ、このふたりにその言葉をマネされるとすんごく腹立つ!なんでだろ。
「『リン』は、そういうキャラじゃない」
「ロールプレイ厨ねー」
「ロールプレイ厨だなー」
そうだよ。文句あるか。ていうか、私ってことがバレたら意味ないじゃん。




