EX-65 AF「まだまだこれからだ。いろんなことがね」(後編)
繰り返します。悲報:IF回ではありません。IF回じゃないんですよ…。
誠くんの部屋。
わー、男の子の部屋に入るのって初めてだー。あの頃の実くんはなぜか入れてくれなかったし、鈴木家は健人くんの部屋があってなきが如しだし(理由は省略)。
へー、はー、ふーん。良かったー、最後にいい思い出が…さめざめ。
「お、落ち着いた?落ち着いてないような気もするけど…」
「え、あ、うん。ごめんなさい、いきなり泣き出して」
「いやその、愛がおかしなこと言って…いや、そもそも僕が頼りなくて…」
ちっ…!
「違うよ!誠くんは頼りなくなんかないよ!」
あの『荒くれ者』が現れた時、誠くんは私を守ってくれようとした。普通の中学生なら、私を置いて逃げ出したって誰も文句は言わないくらいなのに。
「だ、だからね、いつでも言っていいんだよ?誠くんが嫌なら、『彼女のフリ』なんてやめるから!『オフィス』への勧誘は、それとは別だし。ああ、それだって、誠くんが嫌になったら…」
「い…嫌なわけないだろ!」
「…ふえっ!?」
ま、誠くんが声を荒げて叫んだ!?
「あっ…ご、ごめん。で、でも、ちゃんと言うから!僕は、嫌じゃないから!」
「誠、くん…」
「その、他の奴が、妹も含めてだけど、いろんなこと言ってるけど、リーネはリーネだから!FWOの剣士で、黙々と攻略して、アバターを変更しても、それでも一心不乱に攻略して…」
え、でも青年アバターのケインも私なんだよ?あと、妾口調のハルカも。
「それでもだよ!電車で会って、ショッピングモールでいろいろあって、実はあの『佐藤春香』だって知って、それで、なんか妙に納得して…」
納得?そういえば、私が素性明かした時って、大概興奮したり恐怖に陥ったり気絶したりされるんだよね。美里にさえ、なんか貢ぐがどうとか酷いこと言われ続けたし。美樹くらいかな?そういうのあまりなかったの。店員とお客として、たびたび関わっていたからという話もあるけど。
「だから、嬉しいんだよ。リーネとこうして話せるようになってさ。僕にとっては、FWO稼働日の頃から活躍している剣士リーネと、実は錬金術師ケインでもあったリーネに、リアルで会えた。現実ではとっても素敵な笑顔をするリーネに。それだけなんだ。それが嬉しいんだ」
ああ…。誠くんは、『私』を見ている。なんかおかしな噂で飾られている『佐藤春香』でも『リーネ・フェルンベル』でもなくて。また、涙が出そう。さっきとは別の理由で。
「…だから、はっきり言うよ。僕はまだまだ子供で、ちゃんとしたことはできないけど…」
…
「僕と、お付き合いして下さい。『フリ』じゃない、彼女になって下さい」
…
……
………
ここで気絶しなかった私を、みんな褒め称えてほしい。アバター同時接続とか、『現界』能力とかでじゃなくてさ。
そして、気絶せずに、
「…うん!」
ちゃんと、答えることができたことを。
「おっめでとー!お兄ちゃん、リーネさん!」
「め、愛!?ドアを突然開けるな!ていうか、どこから聞いてた!?」
「最初から!」
「あははは…」
うん、ずっと愛ちゃんがドアの向こうで聞き耳立てていたことに気づいていたのは黙っていよう、そうしよう。
◇
FWO第一エリア『リーネ総合オフィス』。
いつもの面子に、『門番』アバターの誠くんもいる。
「というわけで、誠くんと正式にお付き合いすることになりました!」
「おめでとー!」
「「「「はあ…」」」」
なぜ、美樹しか喜んでくれないの。ていうか、何そのため息のような返事は。まあいいや、どうでも!
「あと、誠くん…ううん、『セイ』くんには、『オフィス』で受付見習いを兼任してもらうことにしました!お給料は出せないけど、オフィスで出すケイン特製料理はいくらでも食べてね!」
「その、よろしく、お願いします」
「私の仕事取られた!?」
「渡辺 凛には『現界』能力の精度向上に努めてもらう。キリキリ働いて」
「なんで私にはその口調のままなのー!?」
アンタに素の私で接したら大変なことになるでしょ。でもでも、誠くんに無愛想なロールプレイは嫌だし!嫌だし!
「彼の御両親にはなんて言ったの?」
「『認識阻害』解除して、全部話したよ。カニ食べながら」
カニを交えながらゆったり話すことで、御両親の気絶を回避したのだ。うむ。
「まあ、女子大生とお付き合い、ってだけじゃ心配だろうしねえ」
「『佐藤春香』の名の下に、プラトニックなお付き合いを宣言したわけだね!」
「私は独裁者じゃないっての。あー、まあ、世間一般的には『喫茶店でお手伝いしている中学生のリーネ』と、ってことにするけど。しばらくは、ね」
『リーネ嬢』とやらが年増…19歳の女子大生、ということは、これまでそんなに広めていなかった。TVの取材でも。だから、『休日だけお手伝いしているマスターの親戚の中学生』と設定変更したのだ。もともと裏では『佐藤春香』として素性をはっきりさせた上での雇用関係だったしね。
「しかし、誠くん…ああいえ、セイくん、これから大変ですね」
「えっと、がんばります!」
「仕事はともかく、リーネとのお付き合いがね…」
「それは…リーネが喜んでくれるなら、僕も嬉しいし、だから…問題ないと思います!」
ひゃ、ひゃああああ。カッコいい、カッコいいよ、誠くん!きゃー!
「(ひそひそ)砂、吐きそう…」
「(ひそひそ)あの子もすごいよね。リーネのあの存在感に気圧されないんだから」
「(ひそひそ)先輩、FWOとかで有名になる前から、どうにも近づき難い感じなのに」
「(ひそひそ)前のリーネもそうでしたよ。『現界』能力のこともありますし、魂のレベルでそうだと思います」
「(ひそひそ)ってことはさ、あの子にも何かあるんじゃない?」
「(ひそひそ)稼働日から第一エリアでずっと門番として見ていたらしいから、もしかすると」
ん?またコソコソ話?言いたいことがあったらちゃんといいなさい!誠くんのように!
あ、でも、そっか。あの神社の伝説のこと、誠くんにだけは話してもいいかなあ。誠くんなら変わらず私に接してくれると思うよ。『リーネはリーネだ』って。えへ、えへへへ、えへへへへへ。
「春香ちゃん、顔が気持ち悪いよ」
「だから、渡辺 凛はキリキリ働け!」
「ひぃっ!?」
おっと、しまった。でも、働けよ。
「ねえ、ところで御両親には?」
「ん?だから、カニ食べながら」
「そうじゃなくて、『佐藤春香』の御両親」
「あ」
わ、忘れてたー!?
ああいや、お母さんはたぶん大丈夫だと思う。問題はお父さんだな。やたら私に男は要らないと言っていたくらいだから、『認識阻害』が凄いことになっていると思う。
え、もしかして、誠くんを自宅アパートにつれてっても『僕がリーネの彼氏?そんなはずは。あれ、どうして僕はここに』とかになっちゃう!?ああああ、どうしよう!
「とりあえず、『リーネ』の御両親に先に紹介するとか。あと、火星公社総裁にも」
「そうですね。渡辺 凛としてはかなり残念だったようですから。安心しますよ」
「まあ、中身アラフォーのお相手が中学生ってのに安心するかはわからないけど」
「「「確かに」」」
「みんな酷いよ!?」
まあ、まだまだこれからだ。いろんなことがね。
少しずつ、進めていこう。みんなと、誠くんと。
そして、もちろん(?)エキストラ最終話でもないという。この作品、一応恋愛ジャンルではありませんので。とはいえ、あの春香に彼氏ってねえ…。
作者の溜飲を下げるためのIF。
「誠くん、カニ持ってきたよ!」
「わざわざ家まで…ありがとう、リーネ」
「じゃあ、またね!」
「あれ?リーネさんもう帰っちゃったの?」
〜数年後〜
「リーネ閣下、結婚の御予定は…」
「聞かないで。あと、閣下って呼ぶな」