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EX-64 AF「まだまだこれからだ。いろんなことがね」(前編)

前後編です。念のために言っておきます。悲報:IF回ではありません。IF回では…。

 市内某所の一軒家。うん、パラレルワールドの田中家や旅行先のニール一家と同じ感じ。


(まこと)くん、カニ持ってきたよ!」

「わざわざ家まで…ありがとう、リーネ」

「ううん、車だから、大変じゃなかったし!」


 連休明けの平日の夕方、旅行先で買ったお土産のカニを持って、誠くんの家を訪ねた。なお、住所は昨日のうちにFWOで聞いた。


「わ、ホントにリーネさんだ!ねえねえ、上がって上がって!」

「おい、(めぐみ)!リーネに失礼だろ!」

「いいじゃない、今日はお父さんもお母さんも早く帰ってくるし、ご飯食べてってもらおうよ!」

「「えっ…」」


 え、え、誠くんの御両親と、一緒に食事!?な、なんだろ、なんか緊張するかも!


「こないだ会ってるし、別にいーじゃん。ほら、とにかく上がって!」

「えっと…それじゃ、お邪魔します…」

「あ、や、狭いところだけど…」

「そんなことない!そんなことないよ!立派なおうちだよ!」

「ま、まあ、父さん、30年ローンって言ってたし…」

「そ、そう…」

「うん…」

「…」


 なんか、気まずい。なぜに。


「え、えっと、とりあえずカニを運ぶね。冷蔵庫、案内してくれる?」

「ああ、こっちだよ」


 台所にやってきて、冷蔵庫の冷凍室にカニを入れる。

 その後、そのままリビングに通される。


「リーネさん、粗茶です!」

「愛、それコーヒーだろ」

「ぶっぶー、粗茶はお客様に対する謙譲語だよ!」

「いや、紅茶やコーヒーには使わないはず」

「あれ?」


 クスクス。


「あ、ごめん、騒がしくしちゃって」

「ううん、仲が良くてうらやましいなあって」

「リーネは兄弟は…いなかったか、そういえば」

「あたしも『佐藤春香』情報で知ってるよ!」


 あの旅行先でも見た番組か…。いや、他の国にも似たような番組あったっけ。なんだろうなあ、あれ。私はもう芸能活動やめたし、総裁職の予定は未定なのに。


「あれ?じゃあ、あたし『春香さん』って呼ぶべきなのかな?『リーネ嬢』は愛称なんでしょ?」

「ううん、リーネのままでいいよ。親しい人達からは『リーネ』って呼ばれているから。ああ、もちろん両親は別だね」

「アバター名で呼び合うなんてカッコいいですね!」

「そ、そうかな」


 ということにしておこう。誠くんには私と渡辺 凛の関係は伝えたけど、愛ちゃんにはまだちょっと…という感じだ。誠くんの場合にしても、自我認証システムを逆に利用した結果だしね。


「そういえばこないだ、美里さんと健人さんに会ったよ」

「ああ、そういえばそんなこと言ってたっけ。なんだったの?」

「あ、いや、その…」

「文化祭の時のことで相談に乗ってもらいました!」

「え?」


 やはりというか、私が帰ってから、随分騒ぎになったようだ。曰く『アレは誰なのか』と。うん、まあ、認識阻害かけたままやらかしちゃったらそうなるか。


「お二人曰く、お兄ちゃんの彼女以上でも以下でもないよと言い続けるしかないってことでした!」

「その、ごめん。なんか、そうしないと、収まりがつかなくなったというか」

「でもでも!リーネさんもそれでいいんでしょ?」

「え、えっと…まあ、誠くんさえ良ければ、だけど」


 ひゃー、まだまだ誠くんの彼女のフリが続けられるよ!えへへへ、嬉しいなあ。嬉しいよー。


「っていうか、ホントの彼女に…は、無理か。あーあ、リーネさんがあの(・・)『佐藤春香』でさえなければなあ」

「お前、さっきからほんっとーにリーネに失礼だな!」

「なに言ってんの。今のお兄ちゃんなんて、『佐藤春香』どころか『リーネ嬢』としても釣り合わないでしょ!」


 えー?そんなことないよ?そんなことないと思うよ、私は!


「うぐっ。い、いや、その、釣り合うとか釣り合わないとか、それがリーネにだな…」

「リーネさん、お兄ちゃんを『オフィス』に勧誘してるんですよね。お二人にそのことも聞きました!」

「う、うん。年齢的な問題もあって、まだ先になるんだけど」


 単独でいろんな『契約』ができるのが18歳からだからね。あと4年かな。


「よし!お兄ちゃん、まだ4年あるよ!リーネさんがせっかくお兄ちゃんをキープしてくれるっていうんだから、男磨きなさい!」


 きっ…!


「き、キープって!愛ちゃん、それはさすがに誠くんに失礼だよ!」

「り、リーネさん!?」

「誠くんだって、これからいろんな娘と出会って、お付き合いしていくことになると思うよ!だから、だから…」


 だから、私のことなんか(・・・)…いつだって…


「リーネ!?あ、ちょ、そんな、あ」

「ご、ごめんなさい、リーネさん!だから、泣かないで!」


 …泣く?

 ああうん、涙が出ているね。おかしいなあ、私って、誰かに指摘されないと、泣いていることに気づかないのかな。あははは。

 えっと、でもなんで涙が出るのかな。そうだそうだ、誠くんが他の娘と楽しく過ごしていて、そんでもって、私のことなんかどうでもよくなって…見向きも…


「わああああああ!」

「リーネさあああん!」

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