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EX-58 AF「温泉でなくとも、広いお風呂は気持ちいいだろうから」※

※は保険です。祝、作品シリーズ初・お風呂シーン!(『保険』という言葉を噛み締めて下さい)

 海岸に沿って延びる道路に、車を走らせる。


「天気が良くてよかったよ。いい、ドライブ日和だ…」


 いろいろ考えて、あまり綿密な計画を立てずに、海際のいくつかの町や村を巡ることにした。少しだけ、ドアの窓ガラスを空けてみる。んー、いい風。

 車に備え付けのラジオをかけてみる。イマドキ珍しい、地元のAM局だ。偶然ではあるが、割と雰囲気に合った音楽番組が流れてくる。


「時速数十キロ出しといてアレだけど、これもスローライフだよね…」


 ゆったりちまちまレベル1の魔法陣アイテムを作るのもいいけどね。


「あ、キレイな浜辺…。今日は、この辺で宿を取ろうかな」


 そして、ぴちぴちちゃぷちゃぷするのだ。


「旅館発見。部屋が空いているといいなあ」


 なにしろ連休だ。高い部屋になっても、取れるだけでありがたい。



 旅館の駐車場に車を停め、玄関から入ってフロントに向かう。


「あの、予約がないんですけど、部屋、空いてますか?」

「…!」

「あの…?」


 ん?なんか、フロントの人が固まった。あれ?『認識阻害』かけてるんだけどな。


「…あ、ご、ごめんなさい。…おひとりさま、ですか?」

「ええ。とりあえず、一泊できればいいんですけど」

「えっと…はい、空いています。もともと三人部屋ですので高くなりますけど」

「良かった…。では、その部屋をお願いします」


 チェックインのため、宿泊者カードに名前とかを書く。

 全て『佐藤春香』として正直に書くが、カード自体に認識阻害をかける。『ただの佐藤春香』という感じで。私自身には既にかけてあるし、もともと同姓同名が多いので、これでいいだろう。


「あ、携帯端末がなかった…。ここの『本人への緊急連絡先』は空欄でいいですか?この旅館からあまり遠くには出かけないと思いますし」


 最近は、高性能ヘッドセットHS-01が携帯端末の機能も兼ねていた(正確には、ネットワーク経由でVRサーバにアクセスして端末機能と同等のサービスを利用していた)ので、ここ最近ずっと使わず自宅に置きっぱなしにしていたからだ。でも、今はHS-01もない。要するに、両親と同じ状態なのだ。ていうか、すごいな、ウチの両親。


「あ…あ…」

「…どうかしましたか?」

「ダメよ、自殺なんて!あなたまだ中学生なんだから、失恋くらいで人生に絶望しちゃダメよ!」


 …


 絶句、というのは、こういう時に使うんだろうな。どう反応すればいいんだよ、これ。



「大変、失礼いたしました…」

「いえ…」

「その、以前、未遂の方が宿泊されたことがありまして…。近くに、崖もありますし…」


 いや、だからって、中学生と間違えた上に…ああいや、これはしかたないか、わかってるよ。ぐっすん。えっと、そんなに失恋したような女性に見えましたか?この、私が。

 あ、ちなみに、運転免許証(認識阻害付き)で年齢確認いたしましたです。フロントからは駐車場が見えないんだよねえ。


「その…あまりにおキレイでしたので…。そういう方ほど、失恋のショックが大きいと聞きますし」


 そんなものなの?失恋するほどの恋愛経験ないからわからないよ!っていうか、その事実の方がショックだよ!いやまあ、キレイと言われて悪い気はしていないけど。ああ、最近の私、こういう言葉に弱いな。なんだろ、これ。


 などという、なんとも言えない雰囲気で会話をしながら、部屋に通される。普通はフロントで鍵を渡されるだけなんだけど、誤解したお詫びということで、対応したフロントの人が直接案内してくれた。どんなお詫びだ。


「窓からの眺めがいいですね!」

「はい。当旅館自体が、浜辺を一望できるよう建てられましたから」


 なるほど。今日はこのまま部屋から海を眺めるだけにしようかな。ぴちぴちちゃぷちゃぷは明日の朝にしよう、そうしよう。


「ただ、そのせいで、源泉からお湯を引っ張ってこれないため、当旅館の大浴場は温泉ではなく、普通の湯沸かし式ですが…」

「そ、そうですか…」


 正直だな。

 そういえば、以前、温泉でもないのに温泉と偽っていた旅館が摘発されたっけ。世知辛い…。



 窓からひとしきり海を眺めた後、部屋にあった浴衣に着替えて、大浴場に向かう。温泉でなくとも、広いお風呂は気持ちいいだろうからね。温泉でなくとも!


「あれ、結構人がいる…」


 まだ夕暮れ時だからほとんど人がいないと思ったら、脱衣所の時点で既に結構な人数がいた。カゴの使われ方から、混んでるというほどでもなさそうだから別にいいんだけど。

 うっ、女子大生らしきグループがいる。しかもなんというか、ばいんばいんなナイスバディな人達ばかりっていうね。…近づかずに、隅っこのカゴを使って手早く脱ごう。比較対象にされるのは、まあ、美里や美樹とのソレもあって、もう諦めてるんだけどね。知人じゃないから、私は良くて中学生に見られるだろうし。でもね、圧倒されるんですよ、ええ。何人もいると、特に。うう…。


 タオルを持って、浴場に入る。


「わあ…!」


 窓ガラスから見える、水平線に沈む夕日。これはいい!思わず声が漏れちゃったよ!

 そっか、これを目当てにしていた人が多かったのか。でも、フロントの人は何も言わなかったよね?旅館側も知らない穴場シーンなのかな?口コミのネットサイトとかで。


「ふう…」


 体を洗い、とりあえず一番大きい浴槽に向かい、湯船につかる。

 沈む夕日を見ながらゆったりゆらゆら。極楽極楽。

 なんか年寄りっぽいな。私はまだ若いよ!この場合に限っては、中身もね!


「あら、お嬢ちゃん、ひとり?」

「は、はい」

「お父さんと来たの?」

「えっと…はい」


 近くで湯船につかっていたおばさまに声をかけられる。いろいろ面倒なので、お子様モードでいこう。旅館の他の場所で出会ったら、その時はその時だ。うん、なんかヘタレだな、今の私。湯船のせいかな。


「まあ、そうなの。私はね、夫と息子ふたりで…」


 う、話が長くなりそう。


「あら、そろそろ出ないと。じゃあ、他の場所で会ったら、よろしくね」

「はい…」


 のぼせる前に終わって良かった。

 私も一度湯船から上がり、体を洗うところでぬるめのお湯をかぶる。ふう。


「もう一度だけつかって、それから上がろう…」


 夕日はすっかり沈んでいた。でも、まだ少し水平線のあたりに光がある。

 たそがれ、か。いや、逢魔が時かな?この世の全ての魔は攻略しなければならない。リーネの名にかけて。おい、こんなところで厨二はやめろよ、私。


 浴場を出て、脱衣所に戻る。ごしごし…。よし、さっさと浴衣を着て、部屋に戻ろう。

 あ、ドライヤーも櫛も脱衣所備え付けのがあるんだ。ちゃんと髪を乾かして、櫛できちんととかしていこう。


 ブォー

 わさわさ

 がー


 …よし。じゃあ、あらためて櫛で…。


「あ、時間だ」

「そうね、みんなで観ましょ」


 あれ?脱衣所の他の人達、いきなりTVがあるところに集まった。なんだろ?


『では、本日の「佐藤春香」さんの情報です。先日、FWOプロモーションを経由して発表がありましたように、現在、春香様…失礼、佐藤さんは休暇中とのことで…」


 …

 ……

 ………


 orz


「え、本当に休暇なの?」

「そういえば、さっきFWOにログインしたら、ケイン様も見かけなかったわね」

「旅行って言ってたよね。またパリ?それとも、月面都市かしら」

「こないだみたいに、どこかの国の大統領公邸に招待されたのかな」

「中東あたりの王宮かもね。彼女、アラビア語が得意って聞いたし」


 …

 ……

 ………


 さっさと、部屋に戻ろう。髪とかすのは部屋でいいよね、うん。

EX-57にも書きましたが、ここでもスピンオフ作品紹介。


『アドベント・ハーツ・クロニクル ~ARで生産職?~』

https://ncode.syosetu.com/n7242ej/

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