EX-57 AF「休んで下さい。いいですね、リーネ?」
『春香のひとり旅』編プロローグ、ですかね。最近更新頻度が高かったこともあって、このシリーズは不定期にだらだらと更新する予定です。つまり、書き溜めがないっていう。
「攻略、完了!」
篠原あかねとしての私が、ビルの屋上で拳を握る。周囲には、死屍累々(だから手刀で気絶させただけだよ!)のSOE『悠久ガーデン』の諜報員達。政府関係者に陰に陽に接触し、『認識阻害』に近いAR技術を用いて操ろうとしていた連中だ。
『ミラージュ』が、あの美樹拉致事件で現実に戻した後に使おうとしていた暗示手法を追っていたら、たどり着いた次第だ。地方支部だが、ここから『悠久ガーデン』全体の摘発も芋づる式に始まるだろう。
「いやあ、大学の定期試験期間に重なったからどうなることかと思ったけど、やればできるもんだ。うん」
佐藤春香としては他にも記者会見をいくつか開く必要があったし、リーネ・フェルンベルとしても各国首脳との個別VR会談がいくつかあった。ああ、あと、喫茶店もね。試験期間中ってことで喫茶店は休もうかなと思ったんだけど、特に難しい科目はなかったし、シチュー作り置きを何度もするのはマスターに悪いなあと、結局給仕した。あ、『オフィス』は、渡辺 凛にキリキリ働いてもらったよ?
まあ、いつものFWOでの攻略とスローライフも継続できたし、全く問題はなかったよ。ただ、第一エリアの花屋で、中身が愛ちゃんの店員アバターにまた迫られたのは参った。彼氏はどうしたのよ、彼氏は。
「別れました!ハルカお姉さまやリーネさんとお話している方が楽しいですから!」
そうですか。
◇
FWO第一エリア『リーネ総合オフィス』。
「今度の三連休、休んで下さい」
「え、でも…」
「休んで下さい。いいですね、リーネ?」
「…はい」
あーあ、実くんと私の関係、すっかり逆転しちゃったよ。田中さん&佐藤春香の時もそんなことはなかったのに。
まあ、美樹にも積極的になってるようだし、『田中 実ヘタレ返上』という、私のもともとの目的は達成されたんだよね、結果的に。私との関係までこうなるとは思わなかったけど。
「『オフィス』は、私も三連休の間に手伝いますから」
「あ、あたしも実さんと一緒に手伝うよ!」
「いいの?FWOプロモーションとVR研は?」
「有給休暇を消化するよ!」
まあ、代表職にも有休はあるか。
「あ、そうそう。喫茶店もお休みね。あたしからマスターに言っておくから」
「え、でも…」
「あたしが代理で入るわ。その分の手当はもらうけど」
なるほど、美里としてはデート代を稼ぎたいわけか。
「あとさ、連休中はヘッドセットも外したら?リーネ先輩、HS-01付けてたら、必ず何か細々と仕事するだろ?」
「えー!?」
「そんな、携帯端末買ってもらったばかりで夢中になってる子供みたいな反応するなよ。いい年なんだから。特に、中身はさ」
健人くんまで、私に強い態度で…!?ていうか最近、なんかっつーと『中身アラフォー』を関係者にダシにされている気がする。くそう、私がリーネ・フェルンベルってこと、明かさなきゃ良かったよ!
「あ、私もずっとここで働き詰めだから、一緒に三連休とって春香ちゃんと世界征服プランを」
だーかーらー、渡辺 凛はキリキリ働けっつってんだろ!あ、これまでになく脳内で口が悪くなった。えっと、声として漏れてないよね?
「御両親のお世話も、たまにはしなくたっていいでしょ?あ、実さん、御両親をウチのマンションに呼ばない?」
「いいですね。その場でFWOにフルダイブして、一緒にルート探索するのもいいかもしれません」
えー、いいなあ。
「リーネ?」
「声が漏れた…。あ、そーだ。私から誠くん誘って、お出かけしようかな」
「「「「「却下」」」」」
こないだの文化祭の後の誠くんの疲労具合は相当なものだったらしい。だから私が回復スキルで…え、そういう話じゃない?とにかく時間を置け?なんだよー。
でも、なぜ渡辺 凛まで却下?
「春香ちゃんに先越されたくないから!」
え、や、やだなあ。誠くんって、まだ中2だよ?そ、そんな、結婚だなんて…結婚だなんて!
「誰も結婚とか言ってないのに…」
「リーネがここまで入れ込むとは…彼もなかなか侮れませんね」
「現実でも一度顔合わせたことあるけど、ほんっとーに普通の奴なんだけどなあ」
「普通だから、ってことなのでしょうかね。彼も、リーネをあまり特別扱いしませんし」
ん?実くんと健人くんが黄昏れてきた。え、なに、今から小舅始めるの?やだー、私と彼、まだそんな関係じゃないよー?えへへへ。
「キリがないから、それは横に捨てておくとして」
「捨てるなんて酷いよ、美里!」
「はいはい。とりあえず、旅行でも行ってきたら?『認識阻害』は使うとして」
旅行かあ。
そういえば、『仕事』でしか旅行らしい旅行してないよね。昔『放浪』したのはVRサイトめぐりだったし。今の両親が現実世界で旅行しないっていうのもあったけど。
「じゃあ、決まりね。あ、FWO会員証は置いていくこと。ショッピングモールの件、それで苦労したんでしょ?」
「そうだけど…まあいっか、普通のクレジットカードはあるし」
「国内?国外?それとも、月や火星?あ、お爺様に頼んで、木星の衛星イオとかどう?」
「火星なら私が案内するよ!」
「火星だけは避けるから」
「ぶー」
アンタにおじい様とのプライベートな会話を聞かれたくないからだよ!
「国内にするよ。行ったことないところが結構あるし」
「リーネの…この場合は『佐藤春香』ですかね、三連休に仕事をしないことは、こちらで告知しておきますよ」
「FWO内と各国主要メディアと…あ、今日の夕方のTVニュースでも流しておかない?」
「それがいいですね。今すぐ世界中のTV局に通達しましょう」
…私の休暇は何事なんだ。それともあれかな、他に話題がないほど最近平和なのかな。SOEも目立ったのは攻略が完了したし。TV番組って結局ほとんど観てないからよくわからないんだよね。まあ、いっか。
というわけで、この私、佐藤春香は二泊三日のひとり旅をすることになったのである。さてさて、どうなることやら。
活動報告にも書きましたが、この『エキストラ』のスピンオフ作品を書きました。本編ではなく、『エキストラ』のスピンオフ。我ながら何やってんだ。
『アドベント・ハーツ・クロニクル ~ARで生産職?~』
https://ncode.syosetu.com/n7242ej/
パラレルワールドの田中光希くん(ただし高校3年)が主人公です。春香は登場しません。会話の中にはちらっと出てきますが。




