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EX-56 AF「このフレーズを、このメロディを、受け継ぐ者」

EX-55の続きです。

「三階は…カラオケくらいかなあ。あとは、喫茶店と輪投げが重複しているだけだから」

「なんか、人気ね。喫茶店と輪投げ」

「喫茶店はともかく、輪投げは学校の倉庫に大量に余ってるみたいだから…」


 なぜに。


「いらっしゃいませー!カラオケ店へようこそ!」

「何が歌えますか?」

「おすすめは、これとこれとこれですね!」


 …ヤバい、全然知らない。そりゃあ、仕事で歌うくらいだから歌唱力には自信があるけど。シングル収録時はVRで自主特訓もしたからね!私にしか使えないやり方だけど!

 いずれにしても、知らない歌ばかりだ。これだからアラフォー世代は…いや、違うだろ、佐藤春香として何も興味がなかっただけだろうが!反省。


「あ、これ…」

「ああ、ごめんなさい。それ、初期バージョンしか音源がなくて。合わせて歌うの、難しいんですよね」

「でも、これしか歌えないから…。お願いできる?」

「じゃあ、流しますね。マイクどうぞ!」

「あ、マイクは要らないかな。ない方が歌いやすいから」

「え?」


 だってほら、もともとクルーズ船の甲板で歌ったから―――



Hotk, laxu kik Puk's hao uuwa

Tfjasthushf lkojtsas, lkisjthoofls Khaj'apc

Setwt lxuk shalkf kirom tlwitlr

Luxykn, oshom fam kukrpfaq yiqwu nprulkn



 ああ、こうしてオリジナルをフルで歌うのはひさしぶりだなあ。特に、多言語版をアバター同時接続で歌ってからは―――



Ofrutf iqacls oxnupuy, ruckqif qkuct

Fbalk sylok wpoc wat et kaptau hwo, orshpamf

Rhuwi cshihshy fashi arzusr, tyika wacft ufhlayimc

Xhayy wkiyko, tens nocf texpi prup



 でも、初めて公開した時よりは、意味がよくわかっている。だから、歌詞がもっともっと心に染みて―――



Fwusl...ifs, pconsf ncaxx aesoerloi

Fwusl...ifs, pconsf ncaxx aesoerloi

Asar cakpen pfos rtory hawnb rrikcoks

Oqulh xyalio kpan, ntcyao



 うん、忘れていない。忘れていないだけじゃない、思い出してもいるんだ。そうか、そうだよね、私は―――



Fwusl...ifs, pconsf ncaxx aesoerloi

Fwusl...ifs, pconsf ncaxx aesoerloi

Asar cakpen pfos rtory hawnb rrikcoks

Oqulh xyalio kpan, ntcyao



 ―――私は、リーネ・フェルンベル。このフレーズを、このメロディを、受け継ぐ者。


「…ふう。あ、曲の再生ありがとうございました…え?」


 …

 …

 …


 あれ、周りの人みんな、立ち尽くしている?

 どうしてかな?クルーズ船で歌った時は、やっちまったー黒歴史とは思ったけど、聞いていた人達は拍手してくれたし。今回は別に『急に歌うよ』スキル発動じゃなかったし!


「誠くん?…誠くん!」

「…はっ。え、あ、り、リーネ?」

「どうしたの?私、もう、歌い終わったけど」

「あ、ああ…いやその、さすが本物、だなあと…」


 本物?歌に本物も偽物もないと思うけど。

 あと、認識阻害は継続しているから、『私=佐藤春香』とはみんな思わないよ?最初から知ってる誠くん以外は。


「圧倒された…すごかった…」

「よ、よくわからないけど、喜んでもらえたかな?」

「も、もちろん!ここでこの歌を聞けるとは思わなかったよ」


 そっか。歌った甲斐があったよ!


「…なにこれ…なにこれ…」

「ものすごかったことだけはわかる…わかるけど…わからない…」

「拍手をするのさえ雰囲気ぶち壊しだよ…でも、なぜ…?」


 周囲の人達が再起動を始めたけど、なんか変だな。もしかして、認識阻害が変な方向に効いちゃったかな?シングルでしか聴いたことがないと『佐藤春香の歌』で固定されちゃうから、混乱するかもしれない。まずったかな。後で実くんに相談してみよう。


 その後、まだ固まったままだった店の子を強制起動させ、誠くんに歌ってもらった。

 うん、個性があって良かったと思うよ。まる。



「リーネさん、すごいすごいすごい!二階まで届いてましたよ、透き通った歌声が!」

「え、そうだったの?ちょっと、恥ずかしいかな」

「そんなことないですよ!ね、お兄ちゃん?」

「ああ…ああ!」


 まあ、気に入ってもらえてよかったよ。外まで響いて騒音扱いされたらヘコむしね。


「(ひそひそ)愛ちゃん、リーネさんって、本当に何者なの…?」

「(ひそひそ)ううう…言いたい、言いたいけど、言えない…言っても伝わらない…ぐぐぐ」

「(ひそひそ)愛ちゃん…?」


 また何か認識阻害で苦悩している模様の愛ちゃん。がまんしてねー。


「一通り、回ったね。いい時間だし、帰ろうと思うんだけど」

「あ、ああ、来てくれて嬉しかったよ。ありがとう、リーネ」


 …『嬉しかった』?今、誠くん、『嬉しかった』って言ったよね!?

 きゃー!そんな言葉、ケインの自作自演でしか言われたことないよ!

 嬉しく思ってくれて、私も嬉しいよ!


「ここは、お兄ちゃんが家まで…無理か、まだ文化祭続くし、後片付けもあるし」


 家まで?みんな、私の家知ってるの?両親の『認識阻害』の影響はすっごいよ?


「じゃあ、私は帰るね。今日はありがとう。楽しかったよ!」

「…!あ、ああ。じゃ、じゃあ、また」

「…はー、お兄ちゃんの言ってたのは、これかあ…」


 さて、帰りましょ、愛ちゃん、和美ちゃん。5分後には駅前でお別れだけど。



 FWOの『オフィス』で事後報告。

 『一緒に行きたかった一緒に行きたかった一緒に行きたかった』とのたうち回ってる美里と美樹はとりあえず放置しておく。そんなに中学の文化祭に行きたかったのか。いや、美里はともかく、美樹が行くと、誠くんの知人友人というよりは…げふんげふん。

 ちなみに、渡辺 凛は受付で寝こけている。来客の予定もないし、まあいいか。


「それはまた…誠くんという子も、大変な目に会いますねえ」

「なに、実くん、中身アラフォーな私は迷惑だったってこと?」

「なぜすぐにそんな自虐的な…。私は『大変な目に会う』と言ったんです。『大変な目に会った』ではなく」


 ?何を言ってるのか、わからない。


「だってリーネ先輩、いくら『認識阻害』をかけていたとしても、その子の知り合い…彼女のフリをしていたんだろ?周囲にさ」

「そうよ?それが何?」

「その事実は残るってことだよ。やきそばを食べた先輩、出展を見学した先輩、喫茶店で飲み食いした先輩、そして、『あの歌』を歌った先輩。その先輩の彼氏がその子だって、事実が」


 ああ、うん、そうだね。フリなのが残念だけど、それが何か?


「(ひそひそ)ダメだ先輩、やっぱりわかってない」

「(ひそひそ)いじめられなければいいですけどねえ、その子」

「(ひそひそ)いや、俺の経験上、いじめられるというよりは、問い詰められると思う。ずっとずっと」

「(ひそひそ)そういえば昔、リーネと話をしたってだけで、どんな話をしたか根掘り葉掘り問い詰められるってことがありましたねえ」

「(ひそひそ)昔の先輩はそうなのか。俺達の高校の場合、最初から不可侵条約があって…」


 ひそひそ話やめい。なーんか、私の周囲はそういうの多いなあ。悪口じゃないよね?


「これから、門番の彼を慰めに行きますか…」

「そうですね、かなり疲弊してると思うし…」


 そうなの?回復スキル使おうか?FWOでもリアルでも!

という感じで、文化祭編終了です。こういう形の続き物もいいかなあと。

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