EX-6 AF「日本で現地捜査、ですか?」(後編)※
※少し残酷描写があります。
[<捕まっちゃったね…>]
「そうだな…」
俺とリンは、殺風景な部屋の中で、そうつぶやいた。
電車で一気に街中まで移動して油断してしまったのだろうか、助けてくれたお礼にとリンに何か奢ろうとして、タクシーを拾ったのが運の尽きだった。
「タクシーにまで扮するなんて、いったいどれだけの規模が潜入しているんだ…!」
「そりゃあ、成功報酬が凄まじいからな。ワシもやってきたというわけだ」
「!?お前までこの国に来ていただと…!?」
携帯端末で資料を見るまでもない。パリ支局内では誰もが知る、マフィアのボス。そいつが、何人もの部下を引き連れて姿を現す。そこまでして…!
「さて、その携帯端末を渡してもらおうか?もちろん、パスコードもな」
「…そうか!俺に成りすますために…!」
「そういうことだ。拒否するなら…わかっているな?」
[ひっ…!?]
リンの頭に拳銃を突きつける、部下のひとり。
「渡すし教える!だから、リンは開放しろ!」
「ほう?素直だな」
「何をしたところで俺を始末するんだろ!?それにこれだけの規模だ、俺がパスコードを教えなくとも時間をかけて解読しちまう!」
「ふん、まあ、数日はかかるな。時間は惜しい」
「なら、その子が助かるだけマシだ!」
くそっ…。
こんなにあっさり、あっさりと終わってしまうのか、俺の人生…!!
くやしさのあまり、携帯端末を強く握りしめる。
と、その時、携帯端末の画面が表示される。
<安心して、テオドール・クロイゼルさん>
そう、文章だけが浮かび上がる。
はっと、彼女の、リンの顔を見る。
「そして、ありがとう」
そう、はっきりと口にしたリンの姿は、リンではなかった。
携帯端末の表示が更に続いて―――
◇
私は、リーネ・フリューゲル。
この世の全ての魔を、攻略する。
◇
頭に突きつけられた拳銃を、つかむ。
このタイプの銃は、この場所を押さえつけると、引き金を引くことができない。
男がたじろぐ。すかさず足を払って床に押さえつける。みぞおちに拳を一発。
まずは、ひとり。
「ば、バカな、お前は、お前が、なぜここに―――!?」
何かを叫んでいる男は、とりあえず無視。
次は、あの獲物を持った男に近づく。それを抜く前に背中に回り込み、男の背中全体に衝撃を与える。ふたり。
「っ!?かまわん、撃て!撃て撃て撃て!」
パンッ!
パンパンッ!パンッ!
遅い。
何がって?弾丸が、だ。
現実とは、こんなに緩やかに時間が進むものなのか?
キン、キンキン、カン!
「そんな、刀で…!?っ、撃て撃て!」
ざしゅっ
しゅばっ
「ぎゃあああああ!痛ええええ!?」
「血が!?血がああああ!」
そりゃあ、手や足を切ったら痛いだろう。血も出る。現実だから。
銃を突きつけ、引き金を引くほどだ、それくらい覚悟していたのでは?手首や指を、切り落としたわけでもあるまい。
「あ…ああ…」
最後に残った男、口で指示を出していただけの、今は、壁を背にうろたえている男に。
しゅっ
私は、刀を突き刺す。
「…」
気絶した、か。
頭の上の壁に、突き刺しただけなのだが。
これで、終わりか。
あの時も、そうだった。
現実は、いつもあっけない。
あっけなく、傷つき、倒れる。
ここは、攻略しがいがない―――
◇
あっという間に終わった、マフィアとの戦い。圧倒的なまでの戦闘力をもつ彼女は、
「佐藤、春香。君が、あの…」
今や、人類なら知らない者はいない、神にも等しい能力をもつとまで言われる、人知を超えた存在。
その片鱗を、この目で確かに垣間見た、俺は、
「ごめんなさい、だましていて」
俺は、しかし、
「でも、もう一度言わせて下さい。ありがとう、ございました」
しかし、そんな女の子に、謝罪されていた。少し、はにかんだような笑顔で。
◇
「なるほどな。最初から、我々は利用されていたのか」
「ソル・インダストリーズのセキュリティは常に万全です。そこにつけこむスキがあるとすれば」
「トロイの木馬、か」
味方として組織内部に潜入し、罠をしかける。その味方が警察関係者の偽装となれば、効果は大きい。
「我が支局にもマフィアの内通者がいたよ。全く、世も末だな」
「それだけ、得られるものが大きいということでしょう。ですが!」
俺は、手に持っていたそれを、ライナス支局長の前で高く掲げた。
「そんな奴らの野望は永遠に果たされません!彼女が、佐藤春香が、いる限り!」
「まあ、もともと彼女が『現界』した技術でもあるしな」
「俺、彼女に弟子入りしたんです!彼女のようになれなくとも、常に万全の備えで、捜査官としての役割を果たすために!」
日本で買ってきた、HS-01。比較的安価であるにも関わらず、どのVRヘッドセットよりも通信容量が大きい。これなら、国境を越えてFWO日本サーバにアクセスしても、ほとんど遅延が発生しないという。
「まあ、がんばりたまえ。しかし、次の仕事も早速明日からだぞ?教えを請うのは、しばらく後ではないのか?」
「FWOの時間加速は10倍ですから、徹夜で数十時間は鍛えられます!どうせ、移動中の飛行機では寝るだけですし」
「そうか…。いや、今度の航路の飛行機な、VRローカルサーバが試験導入されているそうだ。片道だけでも、数日分の高級リゾートを楽しめるというのに…」
「え」