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EX-52 SS「実くんとケンカしてしまった」

すみません、過去回ではありません(またかよ)。しかも、AFじゃなくてSS。ただし、かなり重要な回となりました。この物語の、根本に関わるものとなってしまったというか。

春香「あ、そう!じゃあ、好きにしたら!?」

田中「ええ、そうしますよ。もともと、リーネが口を出すことじゃ…」

春香「…大っ嫌い!」

高橋「ううう、リーネと実さんの方が、なんか夫婦喧嘩っぽい…」

春香「それはないから」

高橋「だってー、『大っ嫌い!』って言うところの直前の溜めがもう、そんな感じだったよ?」

春香「なにそれ」



春香「いやあ、私も反省してるよ?美樹のことでちょっと煽りすぎたかなあって」

美里「なんて言ったのよ。あたしが尋ねることじゃないかもだけど」

春香「『今日、美樹とホテルで食事なんだー。え?部屋なんて取ってないよ?何考えてんの、実くん?これだから、ヘタレな残念イケメンは。あーあ、美樹がかわいそう』って」

美里「リーネ、田中さんのこと嫌いでしょ」

春香「好きか嫌いかって言ったら、そりゃあ好きよ?魂の幼馴染だし。でも、あんなに嫌そうな顔しなくたって…」

美里「ああごめん、正確に言うわ。リーネ、田中さんのヘタレなところが嫌いなんでしょ?」

春香「そうよ!美里もわかってるじゃない!」

美里「でも、その原因は昔のリーネだって聞いたけど。フラれた以外にも、いろいろと」

春香「…そうだけど」

美里「そんなリーネにヘタレだのなんだの言われたら、そりゃあ田中さんだって嫌な顔するわよ」

春香「だって、ヘタレだし」

美里「リーネも頑固よね…」



美里「そもそも、なんでリーネってバレてから、そんなに詰め寄るのよ?」

春香「いや、私もね?当時ちゃんと言えなかったことを、こう、あらためてはっきりとね?」

美里「当時はなんで言えなかったの?」

春香「いっつもいっつも、女の子に囲まれていたから!」

美里「ヤキモチはしなかったの?」

春香「それ以前の話よ!見かけるたびに周囲に女の子が何人もいるのよ?私が物心つく前から。典型的なハーレム主人公だったよ!」

美里「…ねえ、それ、田中さんの『現界』能力だったんじゃない?モテモテとかの」

春香「その疑惑大いにあり。平行世界でも似たようなものを感じた。神社は残ってたし」

美里「で、それがリーネの『現界』能力で相殺されたんじゃないの?フッた時」

春香「ああ、うん、たぶん。いやー、あの後、裏からフォローするの大変だったわー」

美里「で、リーネのはオリジナルで強力だから、まだ残ってるんじゃない?ヘタレ『現界』」

春香「…(ぽん)」

美里「気が付かなかったんかい」



田中「…なんですか、私は好きにしていいんじゃないんですか。大っ嫌いじゃないんですか」

春香「いやあの、ごめんなさい。その、言い過ぎたから」

田中「…そういうところは、変わりませんね。普通、そこまですぐ謝ってきませんよ」

春香「そんなもの?」

田中「そんなものです。大人になっても、頑固な人は頑固なままです」

春香「三つ子の魂百まで、か…」

田中「それ、リーネはよく言いますよね。まあ、当然かもしれませんが」

春香「それでね、(かくかくしかじか)」

田中「ヘタレ『現界』…いや、そもそもモテモテ『現界』すらどうだったか」

春香「自覚なかったの!?あんなにモテていて!」

田中「それをリーネが言いますか!?あなただってモテまくっていたでしょ!?」

春香「私がそれ知ったの、最近だよ!渡辺 凛と入れ替わってからだよ!?」

田中「なお悪いでしょ!?」



健人「なにやってんすか、リーネ先輩」

春香「…反省しています。でも、今度こそ実くん、口聞いてくれなくなって」

健人「はあ…。そういえば、先輩が田中さんフッた時って、俺のと似てたって」

春香「ああいやその…はい」

健人「俺も思い出すの心苦しいけど…ええと、『見た目そういう雰囲気』でキレたんだっけ?」

春香「…そうよ」

健人「俺の場合は、『俗世間に関わらないミステリアスな雰囲気』ってことだったんだけど」

春香「…あの頃は、ずっとアバター同時接続による攻略とスローライフの研究をしていたから」

健人「記憶がなくても研究一筋だったんすねえ。まあ、今となってはよくわかりますが」

春香「え、えっと、じゃあ、実くんの場合は?」

健人「それはさすがに俺には…えっと、先輩はなんでキレたんですか?」

春香「…お子様扱いされたと思って」

健人「いや、それはないでしょ?『見た目』って言ってるんだから」

春香「だから、それを最近知ったんだって。なにあれ、犯罪よね?」

健人「俺に言われても…」



春香「…実くん?」

田中「…」

春香「勝手に喋るね。実くんは、告白した頃の私がどんな『雰囲気』だと思ってたの?」

田中「…あの時のですか。リーネって、案外執念深いんですね」

春香「…そうだと、思う。あんなこと言われたから、今でも実くんに、厳しく当たるんだと思う」

田中「本当に、リーネにはかなわないですね…。普通『執念深い』と言われたら、またケンカ別れするところですが。まあ、そうですね、『深窓の令嬢』でしょうか」

春香「…は?」

田中「あの頃のリーネ、神社の行事を粛々とこなしていましたし、真面目で誠実で、俗世間に関わるようなタイプではなかったですし…」

春香「いや、その、実くん以外、話しかけてもあんまり反応なかったし…。その実くんも、遠慮がちだったし…」

田中「鶏と卵、なんでしょうかね。簡単に言えば『高嶺の花』だったんですよ、リーネは」

春香「えええ…」

田中「あと、それは『佐藤春香さん』としてのあなたも同じでしょう?少なくとも、高校までは」

春香「…健人くんから、聞きました。はい」



田中「まあ、今のあなたは、かなり積極的な性格ですけどね。大学時代ですか?」

春香「うん、研究活動や貢献事業とかやってたら、楽しくって。でもこれ、ワーカホリックってやつだよね。プライベートが充実してたかっていうと…」

田中「その頃の成果が、今の仮想世界技術の時代を到来させたと思うと、複雑ですけどね」

春香「複雑?」

田中「リーネ、あなたは今、幸せですか?」

春香「…!」

田中「私、言いましたよね。美樹さんのことを話した時、『あなたも幸せになって下さい』って」

春香「…もう、かなり前のことのように思えるね。まだ、一年も経ってないよ」

田中「そうですね。その時の答えはなんでしたっけ、『FWOで攻略とスローライフを同時に楽しめているから幸せ』でしたか」

春香「うん」

田中「あなたにとっての『攻略とスローライフ』は、もしかすると、大学時代の延長かもしれませんね」

春香「…そうなのかな。だとしたら、『攻略とスローライフ』は、私にとっての幸せではないのかな」

田中「ああいえ、大学時代が幸せじゃなかったわけではないのでしょう?ただ、働き過ぎだったというだけで」

春香「…つまり?」

田中「つまりですね、私達人類は、ワーカホリックで幸せを感じるリーネによって、幸せになっているってことです。ね、複雑でしょ?」

春香「…うん、まあ。それは、美樹にも似たようなことを言われたことがある。最近、美里もそれを気にするようになったし」



田中「リーネ、少し休みませんか?別に、私達夫婦の関係にそこまで責任を感じて『働く』必要はないと思いますよ?」

春香「働く…」

田中「他の仕事もですよ。組織化して仕事を移譲したと思ったら、また仕事を見つけてくる。人類全体にも責任を感じてるってことですよね、渡辺 凛のことで」

春香「…実くんも、気づいてたんだ」

田中「リーネが『リーネ』であることを明かした人はだいたい気づいていると思いますよ?」

春香「そうなの?あ、もしかして」

田中「はい、リーネの御両親からメッセージが届きました。あと、渡辺 凛と御両親…春香さんの御両親に明かさないのは、その逆。明かさないことが『責任』だと思ってるのでしょう?」

春香「…あの人達は、私が守るから」

田中「…春香さんの働き過ぎで最も幸せなのは、あの人達なのかもしれませんね」

春香「いや、渡辺 凛はもっと働くべき」

田中「そうですね」



田中「それで?私の『ヘタレ』疑惑は解消されたのでしょうか?」

春香「訂正するよ。『ヘタレだった』にしておく」

田中「…否定はしません。『佐藤春香さん』によって、かなり鍛えられたと思いますから。今ちょっと弱気なのは、その『佐藤春香さん』が『リーネ』であると明かしたからかもしれません」

春香「ちょっと?」

田中「…かなり弱気、に訂正しますよ。そうやって、リーネが突っ込んでくるから、私も意固地になっちゃうんですから」

春香「そっか…ごめんね、実くん」


田中「…今の、その『素敵な笑顔』を、あの告白の時に見たかった気がしますよ」


春香「…!な、なななな、なに、言ってるの!?なに、言ってるかなあ!?そ、そんなこと言って、浮気?浮気なの!?美樹に言っちゃうよ!?離婚の危機だよ!?ダメよダメダメ!」


田中「…本当に、人生にIFってないんですねえ…」


春香「ダメダメ、絶対にダメなんだから!」

というわけで(?)、たぶんここまでを第4シーズンとする予定です。ちなみに、まだまだ続けますよ?『チョロインと化した春香リーネの明日はどっちだ?』って登場人物に書くと思います、たぶん。

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