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EX-50 AF「私のいないパラレルワールドに転移した」(2/3)

 一週間後。


春香ちゃん(・・・・・)、すごい!もう、レベル50なの!?」

「このヘッドセットを使えば、簡単」

「でも、私には使えないのよね…残念」


 そう、しょんぼりする『田中 美樹』さん。こちらの世界の美樹である。

 ‎え?一週間でどうやってこんなに話すようになったかって?それはもちろん、私と彼女の友情パワーである!…と言いたいところだが、さすがに違う。

 ‎いやね、彼女となんとか仲良くなって、その『田中 美樹』って名前のあれやこれやを詳しく確認したいと思ったのよ。でも、この世界の人間ですらない私がどうやって?ダメじゃんとorzしていた時、突然ひらめいた!


「でも、春香ちゃんって、そのヘッドセットがなくてもすごいのよね…」

「『アドベント・ハーツ』は、小型モーションキャプチャシステムとの相性が鍵」

「理屈はわかるんだけど、いざ、やろうとするとねえ」


 向こうの私と美樹はどうやって出会い、どうやって仲良くなった?出会いは、今回と同じである。電器店の店員とお客。では、仲良くなったきっかけは?そう、他ならぬFWOである。しかし、こちらにはFWOどころかVRすらまともに存在しない。

 ‎なら、こちらでVRの代わりに発展しているのは?ARである。代わりに発展しているのだから、ゲームにも応用されているに違いない。流行りのARゲームなら、こちらの美樹も絶対ハマっている!ということで『おすすめのARゲームはなんですか?』と尋ねたら、


『「アドベント・ハーツ」を知らないの!?面白いよ!あ、私、「ミッキー」って名前でこの店の近くに魚屋店舗を出してるよ!』


 という感じで、いきなりタメ口で熱く語られた。『お、おかしいな、いきなりこんなに話したくなるなんて』って言ってたけど。なんだ、やっぱり美樹との友情パワーはこちらでも健在じゃないか!いえーい!


 ‎ちなみに、『アドベント・ハーツ』は携帯端末経由で拡張オブジェクトを認識し、かつ、そのオブジェクトに生身のプレイヤーがアクションをかける仕組みである。フルダイブ装置の代わりに、携帯端末の感覚同調機能と小型リアルタイムモーションキャプチャシステムがインタフェースだ。

 ‎で、やることはFWOとあまり変わらない。運営の用意する魔物と戦ったり、薬品調合してポーション作ったり、素材を調理してアイテムにしたり。こちらの美樹の魚屋店舗は、魚類素材を取引して手に入れ、調理して刺し身アイテムなどにする。こうしてできた食料アイテムは、魔物討伐時の回復薬として機能する。


「春香ちゃんは『剣一筋』よね。魔物の討伐と加工を剣でまとめて一緒にやって、一気に経験値とコインを稼いじゃうなんて!」

「ARゲームで、攻略とスローライフの、両方を手に入れたかった」

「そっかー。剣でちまちま食料アイテム作るのもスローライフだよね!」


 なにしろ『アバター』の概念がないから、複数同時接続もなにもない。ただし、携帯端末そのものにHS-01から『接続』することはできるから、効率の良いインタフェース入出力は可能だ。

 ‎向こうの世界で身につけたアバタースキルを、直接ARシステムに入出力する。ある程度は現実世界を通す必要があるが、携帯端末オンリーよりも極めて多くの活動ができることになる。

 ‎とはいえ、現実世界が舞台がゆえに、拡張オブジェクトの配置は限定的だし、エリアも狭い。時間加速は当然ないし、『コアワールド』に基づく広大な世界とは比べるべくもない。プレイヤーも、活発な地域では多いが、地方は…という感じである。これでは、全人類対象の社会インフラへの発展は望めない。あくまで、ゲーム限定だろう。


「いずれにしても、毎日夕方の2~3時間程度でこれは凄いよ!掲示板で既に有名人だよ!」

「そ、そうですか。でも、私がこの国にいるのは、1か月ほどの予定ですから」

「惜しいなあ…。あーあ、このARゲームが場所に関係なく楽しめたらなあ」

「それ、VRになってしまいませんか?」


 私の設定は、普段は別の国に住んでいて、今は母親の母国の日本を訪ねてしばらく滞在しているというものである。鈴木のお爺様に協力してもらって素性をぶちまけても良かったんだけど、この世界では普通の電器店店員である美樹には刺激が強すぎるかもしれないということで、このようにした。すぐに戻るのは確かだしね。



 そうして、こちらの美樹と仲良くなって2週間ほど経ったある日。


「美樹さん(・・)、今日はいつ頃まで魚屋営業を?」

「あー、今日は旦那が普通に帰宅するから、仕事終わって一時間くらいかな?」

「…!だ、旦那さん、ですか?お仕事、普段は忙しいんですか?」


 ようやく、家庭の事情に踏み込めた!


「ああ、うん、『アドベント・ハーツ』の運営に関わっていてね。といっても、技術スタッフじゃなくて営業なんだけど」

「そ、そうですか」

「言い出しっぺの法則っていうの?もともと旦那が企画立案したから、結構あちこちに関わってるみたい。まあ、有名になるほどじゃないけど。有名なのは社長さんだね!」


 どうやら、『アドベント・ハーツ』が向こうの世界のFWOに相当するのは間違いないようだ。やはり『なるようになっている』のかな。


「そうだ!今日、ウチに来ない?春香ちゃん、ホテルでひとり暮らしで遅くまで外出できるんでしょ?リアルお刺身ごちそうしちゃうよ!」

「えっと…はい、あの、お邪魔でなければ」

「お邪魔なんかじゃないよ!春香ちゃん、かわいいし凄いし、旦那も子供達もきっと喜ぶよ!」


 子供達!?え、子供いるの?


「うん、今年11歳の息子と9歳の娘。息子は最近、生意気になっちゃってさー。春香ちゃん、『アドベント・ハーツ』で叩きのめしてやって!」


 …はい?美樹さんや、あなた今、20代後半だよね?


「…えっと、高校在学中に、その、息子ができちゃって…」


 おうふ。

 10年前に実くんが結婚した相手は、他ならぬ美樹だった。

 しかも、女子高生の美樹とデキ婚だよ!なにそれ、犯罪だよ!あれ?結婚年齢的にはいいのか?いいのか。でも、なんかうらやましい!


「え、春香ちゃん、今いくつ?」


 あ、そういえばちゃんと言ってなかった。どうしよっかな。…正直に言うか、肉体年齢を。


「19歳!?…ごめん、中1くらいかと思ってた。私と、10歳も離れてないのかあ」

「…向こうの大学課程で休みに入ったから、それで」

「そ、そう。19歳かあ…娘が出来た頃ね」


 なにこのNTR感。ああいや違う、敗北感だ。どっちもなんか悲しいけど!



 会社や電器店、ホテルがある地域から、車で数十分の郊外。

 普通の一軒家に到着。ああいや、立派なお宅だよ?


「えへ、35年ローン」

「35年!?」


 私なら、安い賃貸アパートに住み続けてお金貯めてからだなあ。ああでも、早くに子供がふたりもできたらアパートとかじゃ厳しいか。ふむう。


「子供達がある程度大きくなってから共働きなんだ。通信制でAR関係の勉強していたからね。なんとか今の電器店で職を見つけたよ!」


 ふむふむ、こちらはこちらで相応の人生を歩んできたようだ。当たり前か。


「ただいまー」

「おかえりー。…その子は?」


 …その『子』かあ。かあ。…まだまだか。


「私は、佐藤春香(さとうはるか)。お母さんの、お友達。あなたは?」

「僕は、田中光希(みつき)、小5!君は何年生?」

「…」

「こら!春香ちゃんは大学生よ?」

「大学生!?うそ!?」

「…」

「ねー、生意気でしょ?ごめんねー、背丈ばっか伸びて頭お子ちゃまなんだから」


 …


「お姉ちゃん、わたしは美乃(みの)。今年、小3」

「そ、そう。よろしくね、美乃ちゃん」


 うん、美乃ちゃん、かわいい。かわいいよ。

 …いや、光希くんもカッコかわいいよ?生意気、いいじゃないか!…だから、私はショタコンじゃないって。

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